経営分析

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【けいえいぶんせき (business analysis)】

概要

経営分析は, 事業活動のインプット(投入経営資源), プロセス, アウトプット(産出結果)に関する物量・金額データを収集・整理・分解・比較検討して, 組織体(企業)の状態や活動効率を知り, 次の活動のよりよい計画と部門等の業績評価の情報を得ることである. 使用データは財務諸表等の会計数値が多いが, 製品構成比などの物量数値, 他社や業界の数値もある. 経営分析の中心は財務諸表分析であるが, 広義の経営分析には倒産分析, 合併効果分析等も含まれる.

詳説

 経営分析の対象経営分析は企業の経営成果と財政状態を対象として行うことが多いが, 経営とは各種の組織体を運営することであるから, 経営分析の対象も実質的には各種の法人組織であり企業に限定されるものではない.

 経営分析の主体: 経営分析を行う主体は, 顕在的および潜在的投資家(株主あるいは出資者, 債権者), 経営者, 取引業者, 労働組合, 求職者, 同業他社(競争相手), 税務当局, マスコミ等のいわゆる利害関係者(stakeholder)である. 当然, 各主体が関心を持つ分析対象組織体の側面もしくはその重点は必ずしも同じではない. 例えば投資家は収益性と安全性に, 取引業者は支払い能力(流動性)に, 求職者は成長性に重点的に関心を持つかもしれないし, 経営者は収益性や成長性, 資本の効率などあらゆる面に関心を持つ. これらの主体のうち, 経営者は組織体の内部者であるが, 他の主体は外部者であり, 内部者と外部者とでは利用できるデータに大きな差があるので, 分析できる深さが異なる.

 分析対象の多面性: 狭義の経営分析は, 対象組織体を財務諸表で表される側面から分析する財務諸表分析 (financial statement analysis) を指すが, 本来の経営分析とは, 経営評価の多面性を考慮して組織体の効率や有効性を絶対的・相対的に評価するため, 事業活動に用いる経営資源と活動の結果およびプロセスに介在する要因に関するデータを組合わせて複数の経営評価指標の値を求め, これらを総合する経営の総合評価を行うことである. 広義の経営分析には倒産分析合併効果分析が含まれる.

 経営資源とは, 人・もの・金・情報・エネルギ・時間・スペース等事業活動に投入される物的・非物的要素の総称である. 経営資源と活動の結果とを総合した評価指標の本質は, 組織の状態をも含む包括的で多面的な顕在力と潜在力を表示することである. この多面的な状態や力を表すものの一つにGeneral Electric社の8つの経営結果領域(8 key result areas:8KRA)がある.

 次に8KRAの各項目とその代理指標の例を示す. (1)採算性(profitability):次項の財務諸表分析参照. (2)市場地位(market position):市場占有率 (売上高によるものと売上数量によるものとがある). (3)生産性(productivity):一人当り売上高(あるいは利益), 売り場面積当り粗利益, 一人当たり付加価値(労働生産性). (4)製品の先進性(product leadership):取り扱い製品の品種に占める業界初の品種の割合(品種の数によるものと金額によるものとがある). (5)従業員態度(employee attitude):欠勤率, 離職率, 一人当り業務改善提案件数. (6)人材開発度(personnel development):管理職の平均後継候補者数. (7)社会責任遂行度(social responsibility):対売上高環境管理・地域貢献費用率. (8)長・短期計画の均衡(balance between short- and long-term planning):長期計画の有無とその具体性および短期計画とのリンクの程度を順序尺度で評価した値.

 財務諸表分析: 上記8KRAの(1)採算性の原語はprofitabilityであり, これは収益性と訳されることが多いが, 経営分析には収益性だけでなく他の幾つかの財務的側面の分析も含まれる. それらは財務諸表の数値を扱うことから「財務諸表分析」と呼ばれる. その方法には, 大別して実数分析法と比率分析法とがある.

 実数分析法は, 損益計算書や貸借対照表の対前年度増減を求めて比較損益計算書と比較貸借対照表をつくり, 利益の増減の原因や財政状態の推移を調べるものである.

 比率分析法には, 構成比率法, 指数法(趨勢法), 関係比率法がある. 構成比率法は, 損益計算書や貸借対照表の各項目の金額を売上高や総資産を100とする構成比率で表し, 前年度や他社の構成比率と比較する方法であり, 指数法は複数年度の財務諸表の各項目の値を当該項目のある(基準)年度の値を100とする指数で表し, その推移を観察して経営成績や財政状態の変化の傾向をつかむ方法である. 関係比率法は, 財務諸表の2つ以上の関連する項目を用いて各種の比率を計算し, この値をその比率の基準値や標準値, あるいは他社の値と比較することにより, 各種の財務的側面の適切性を判断するものである. これらの方法は適宜併用される.

 財務的側面の主なものとして収益性, 安全性, 成長性, 資産・資本の効率の4つがある. 各側面の判断に用いられる比率には次のようなものがある.

 収益性: 収益性を表す指標として最も良く用いられるのは, 資本利益率(=利益/資本)と売上高利益率(=利益/売上)である. 前者は利益として営業利益や経常利益, 税引前当期純利益, 税引後当期純利益などを, 資本として(使用)総資本や経営資本(=総資本-有価証券-その他の流動資産-投資-繰延資産), 自己資本を, また後者は利益として上記の各種利益のいずれを用いるかによって, それぞれいくつもの比率に分かれる. 例えば, 総資本純利益率=当期純利益/総資本, 経営資本利益率=営業利益/経営資本, 売上高純利益率=当期純利益/純売上高 などが用いられる.

さらに, 企業収益率=(当期純利益+資本調達費用)/総資本や超過利益率=自己資本利益率-自己資本コスト率もある(各種資本は期首と期末の平均を用いる).

 この他に損益分岐点の低さを表す 安全余裕度=1-(損益分岐点操業度/現在の操業度), 非比率指標である 残余利益=税引前当期純利益-自己資本コスト も収益性指標の一つとして用いられる.

 安全性: 安全性には短期の支払能力を表す流動性と長期の支払能力を表す長期安全性とがある.

 流動性の比率には, 流動比率=流動資産/流動負債, 当座比率(酸性試験比率)=当座資産/流動負債, 運転資本比率=(流動資産-流動負債)/流動負債 などが用いられる. 長期安全性の比率には, 固定費率=固定資産(簿価)/自己資本(特定引当金を含む), 固定長期適合率=固定資産(簿価)/(自己資本(特定引当金を含む)+固定負債), 自己資本比率=自己資本/総資本 などが用いられる.

 成長性: 成長性が本来意味するものは未来の成長可能性であるが, 未来のことは不確実性が伴うので, 過去の成長実績で代用する. 成長を総資本や自己資本等のストックで測る指標と売上高や経常利益等のフローで測る指標とがある. 例えば, ストックの指標として 総資本成長率=(当期総資本-前期総資本)/前期総資本や, フローの指標として 売上高成長率=(当期売上高-前期売上高)/前期売上高 などが用いられる.

資産・資本の効率: 資産(棚卸資産, 売掛金等)や資本(総資本, 自己資本等)の回転率は, 資産や資本の大きさを売上高や売上原価を物差しとして測ったもので, 値が大きいほど効率が良い. 回転期間は回転率を日数に換算したもので, 短いほど効率が良い. 例えば, 総資本回転率=売上高/総資本, 総資本回転期間(日)=365/総資本回転率=総資本/一日平均売上高 などが用いられる. なお回転率は, 利益率との間に 総資本利益率=売上高利益率×総資本回転率 の関係がある.