《離散型シミュレーションの統計的側面》

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【りさんがたしみゅれーしょんのとうけいてきそくめん (statistical aspects of discrete-event simulation) 】

 シミュレーションは一種の実験であるから, 計画の段階から実験結果の解析まで, ふつうの意味での実験の場合に使われる種々の統計的手法を使って, 効率良く実験を行って, 正しい推測をすることが大切である. まず計画段階では, 実験計画法の諸概念や手法, 例えば多数の要因が関係するシステムのシミュレーションに対しては, 要因実験の考え方などを利用することができる. また, 確率的変動のあるシステムに対しては, 確率分布を適切に選ぶことが重要である. この場合, 1) 天下りに正規分布や指数分布などの簡単な分布を選ぶ, 2)データ(経験分布)に適当と思われる理論分布を当てはめる, 3)経験分布をそのまま, あるいは補間して用いる, などの方法が考えられる. 2)の場合には, カイ2乗分布などを使った適合度の検定が用いられ, 当てはめのためのソフトウェアも流通している.

 実験によって得られたデータには誤差が含まれているのがふつうであるから, そのことを前提にして結論を導き出す必要がある. データが同一の分布からの独立なサンプル(i.i.d.)と見なせる場合には, 平均値と標準偏差を計算して, 初等的な方法で統計的推測(区間推定)を行えばよい. しかし, 待ち行列長の時間変化に対応する時系列データなどの場合には, 推測はずっと複雑になる. まず, 定常状態に関する推論を行いたいのであれば, 過渡状態がどこで終了したかを判定する必要がある. もっとも素朴なのはデータをプロットして, 目で見て判定することであるが, 種々の客観的な判定方法も提案されている.

 定常状態のデータが取り出せたとしても, これら(待ち行列長の時系列)は互いに独立ではないので, その相関構造も推測して解析する必要がある. そのために使われる手法としては, 時系列解析の分野でよく知られているスペクトル分析, 自己回帰, 自己回帰移動平均法などのほかに, シミュレーションの分野向けに提案されたバッチ平均法や再生点法などがある.

 多峰性の関数の最大値を求める場合のように, 数理計画法などの手法ではうまく解が求め難い場合には, シミュレーションによる最適化手法が使われる. 出発点をランダムに選んで数理計画法による最適化を行うという操作を何度も繰り返す方法や, 1次元の探索方向をランダムに選んで, その方向での極大値を探すという操作を繰り返す方法などは, ランダム探索法と呼ばれる. また, 焼きなまし法(シミュレーテドアニーリング法)は, 関数値の減少する方向にも小さな確率で探索を行うことによって, 極大値にとらわれずに大域的最大値に到達することをめざす. キーファー・ウォルフォビッツ(Kiefer-Wolfowitz)の確率的近似法は, 関数値に誤差が含まれる場合に関数値の期待値の最大値を求める手法である.



参考文献

[1] P. Bratley, B. L. Fox and L. E. Schrage, A Guide to Simulation, 2nd ed., Springer, 1987.

[2] G. Fishman, Monte Carlo-Concepts, Algorithms, and Applications, Springer, 1996.

[3] A. M. Law and W. D. Kelton, Simulation Modeling and Analysis, 2nd ed., McGraw-Hill, 1991.

[4] B. D. Ripley, Stochastic Simulation, John Wiley & Sons, 1987.