《投票理論》

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【とうひょうりろん (voting theory)】

 投票は集団の意思決定の一つの手段である. 集団が合理的な意思決定をするためには, どのような投票方法を採用すべきか, しかも矛盾がなく, 必ず結論が得られ, 不平等が生じないというような合理的な投票方法は存在するのか, という問題が投票理論の主要課題である. 個人の投票に基づく選択結果を集計する際, 各票を等価と見なした上で多数決にしたがうというのが多数決ルールであるが, 多数決ルールには投票のパラドックスと呼ばれる困難な現象が伴う. 経済学者アロー(K. J. Arrow)は合理的な投票方法を探るため, 個人の投票に基づく選択結果を集計し, 集団の意思決定をする場合の公理主義的なアプローチを提案した. すなわちアローは, 集団の合理的な意思決定のためのルールが満たすべき条件として, 以下の(i) - (v)の5条件を提起した.

(i) 普遍性条件 : 投票者のすべての選好のパターンを集計できるような決定でなければならない.

(ii) 全員一致条件 : 投票者の間に不一致がない場合, 集団の決定もそれと合致しなければならない.

(iii) 一対決定条件 : 一対の選択肢ごとの集団の決定は個々の投票者の決定のみに依存する.

(iv) 完全性条件 : すべての選択肢に対して選好順位が決定されなければならない.

(v) 推移律条件 : 任意の3つの選択肢X, Y, Zに対して, XがYより選好され, YがZより選好されるならば, XはZより選好される.

 アローは上記の(i) - (v)の5条件を満たすのは, 個人が選択肢につけた選好順位がそのまま集団の選好順位になるという独裁制以外には存在しないことを示した. これをアローの不可能性定理と呼ぶ. そこでアローは第6の条件として非独裁制を提起し, これら6つのすべてを満たす合理的な意思決定ルールが存在しないことを証明した.

 一対比較は一対の選択肢のどちらを選好するかを比較するという操作を繰り返すことによって全体の順位をつける方法である. この中でも, 多数決ルールの場合と同様に, 複数の選択対象の間に投票のパラドックスに基づく循環現象が生じる. 投票方法として最も一般的なものは多数決投票である.

 $m$個の選択対象の中から$k$($1 \leq k \leq m$)個を選ぶための投票としてのヘア投票は$k \geq 2$の場合の選挙に対して提案されたものであるが, もちろん$k = 1$ の時にも使用できる. 任意の$k$の値に対して, ヘア投票法では各投票者は1から$m$までの順位付けを行う. $k = 1$の場合, ある選択肢が投票者の過半数によって第1位に順位付けされる場合には, その選択肢が当選する. そうでない場合には, 第1順位の得票数が最小の選択肢をすべての投票者の順位付けリストから除去し, 各投票者は$m-1$個の選択肢の順位付けを得ることになる. そして除去された選択肢を第1順位に順序付けした投票者達は, 新しい第1順位の選択肢を持つことになる. このようにして得られた新たな順位付けにおいて, ある選択肢が投票者の過半数によって第1位に順位付けされる場合には, その選択肢を当選とする. もしそうでなければ, 上の手続きを繰り返し, 第1回目の手続きで残った$m-1$個の選択肢の順位付けにおいて第1順位の獲得票数が最小のものを除去し, この2回目の除去に伴って再び新たな$m-2$個の選択肢の順位付けを得る. この手続きをいずれかの選択肢が第1順位の投票の過半数を獲得するまで続ける.

 $n$個のチームがそれぞれの相手と一定回数だけ試合を行なうというリーグ戦の結果に基づいて順位をつける場合を考えてみよう. このようにすべての2つのチームの間で一方が勝ち, 負け, あるいは引き分けという形の結果が得られ, それを基に全体としての順位をつけるというのが, 一対比較による順位付けである. 最も一般的な方法は各チームの勝率に基づくものである.



参考文献

[1] W. F. Lucas(ed.), Modules in Applied Mathematics, Springer-Verlag, 1983.

[2] S. M. Pollock, M. H. Rothkopf and A. Barnett, Operations Research and the Public Sector, in Handbooks in Operations Research and Management Science, North-Holland, Amsterdam, Netherland, 1994. (大山達雄監修翻訳,『公共政策ORハンドブック』, 朝倉書店, 741pp., 1998.)