《ゲーム理論》

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【げーむりろん (game theory) 】

1 ゲーム理論とは

 ゲーム理論 (game theory) は, 複数意思決定主体の存在する状況における決定理論であり, フォンノイマン (J. von Neumann) とモルゲンシュテルン (O. Morgenstern) による大著"Theory of Games and Economic Behavior"([17])をその出発点とする. 複数の主体が存在するから, 主体間で利害の対立がある場合もあるし, 利害を共にする場合もある. このような状況において, 各意思決定主体はどのような行動をとるか, ないしは, とるべきかを数理的に分析することがゲーム理論の目的である. ゲーム理論では, 意思決定主体をプレイヤー (player), 各プレイヤーが持つ行動の計画を戦略 (strategy), プレイヤーがそれぞれの戦略をとった時に, 各プレイヤーが得られるもの, ないしは, それに対する評価値を利得 (payoff) と呼ぶ.

 ゲーム理論は, 想定するプレイヤーの行動様式の違いによって, 非協力ゲーム理論, 協力ゲーム理論の2つに分かれて発展してきている. 非協力ゲーム理論は, プレイヤー間の話し合いはなく各プレイヤーがそれぞれ独立に戦略を決定する状況か, ないしは, たとえ話し合いがあったとしてもその結果得られた合意に拘束力のない状況を扱う. それに対して, 協力ゲーム理論は, プレイヤー間に話し合いのあることを前提とし, 話し合いの結果得られた合意に拘束力がある状況を扱う. 非協力ゲーム理論の扱うゲームを非協力ゲーム, 協力ゲーム理論の扱うゲームを協力ゲームと呼ぶ.

2 非協力ゲーム理論

 非協力ゲームは, 各プレイヤーの戦略と利得を用いて表現する戦略形ゲームと, プレイヤーの意思決定を時間の流れと共にゲームの木を用いて詳しく表現する展開形ゲームに分かれる.

 非協力ゲーム理論における主要な解は, ナッシュ (J. F. Nash) によって与えられたナッシュ均衡である. ナッシュ均衡とは, 各プレイヤーの戦略が他のプレイヤーの戦略の組に対する最適反応戦略になっているような戦略の組である. 戦略形ゲームにおいて, もともとの戦略が有限個である場合には, それらを確率混合して用いる混合戦略まで考えれば, ナッシュ均衡は必ず少なくとも1つ存在することが知られている.

 展開形ゲームは, プレイヤーの意思決定の順序, プレイヤーが意思決定の際に持っている情報などを詳細に表現できるものである. また, 展開形ゲームを考えると, ナッシュ均衡のうちのいくつかはその合理性に問題のあることが明らかになる. そのため, 部分ゲーム完全均衡, 逐次均衡, 完全均衡などのナッシュ均衡の精緻化が展開形ゲームにおいて提唱されてきている.

3 協力ゲーム理論

 協力ゲームは, プレイヤーが2人の場合と3人以上の場合では, 状況が大きく異なり, それぞれ別々に理論が発達してきている.

 2人の協力ゲームでは, プレイヤーが話し合いの結果, 協力して行動するかどうか, また, 協力した場合には, その結果得られる利得をどのように分配するかの交渉が, 問題になる. 従って, 2人の協力ゲームを2人交渉問題と呼ぶこともある. 2人協力ゲームの主たる解もナッシュによって与えられたもので, ナッシュ解ないしはナッシュ交渉解と呼ばれている.

 3人以上の協力ゲームになると, 単に全員が協力するかどうかだけでなく, 部分的な協力関係を考える必要が生じ, 分析が難しくなる. 3人以上の協力ゲームは, 一般に人協力ゲームと呼ばれる. フォンノイマンとモルゲンシュテルンは, 人協力ゲームにおいて, 協力関係を結んだプレイヤーのグループを提携と呼び, 提携それぞれに対して, それが獲得できる利得を与える関数を特性関数と呼んだ. 特性関数による人協力ゲームの表現を提携形ゲームないしは特性関数形ゲームという. 提携形ゲームにおいては, プレイヤー間の利得分配の基準をどのように与えるかによって, 安定集合, コア, 交渉集合, カーネル, , シャープレイ値など, 様々な解が提案されてきている.

4 ゲーム理論の応用

 ゲーム理論がこれまで最大の貢献をなした分野は経済学であろう. 最初は, 交換市場や生産市場の競争均衡のコアによる新たな特徴付けなど, 協力ゲームの応用が中心であった. ついで, 産業組織論などにおいて企業競争の非協力ゲーム理論による分析が進み, 1980年代に入って爆発的な勢いで情報経済学をはじめ, ミクロ経済学の様々な分野に非協力ゲーム理論が浸透していった. いまでは, 経済学だけでなく, 政治学, 社会学などにおいてもゲーム理論は大きな貢献をなすものとなっている. これらの貢献に基づき, 1994年にはナッシュ,ハルサーニ(J.C.Harsanyi), ゼルテン(R.Selten)の3名, 2005年にはオーマン(R.J.Aumann), シェリング(T.C.Schelling)の2名のゲーム理論研究者がノーベル経済学賞を授与されている.

 ORにおいても, 第2次世界大戦の軍事研究に始まり, 企業など組織における意思決定, 社会的, 公共的意思決定など, 非協力ゲーム, 協力ゲームが用いられているところは多い. 最も多い適用例は, 費用分担, 便益分配などの計画問題に対するものであろう. また, 投票による意思決定システムの協力ゲーム, 非協力ゲームによる分析もよく行われている.

5 最近のゲーム理論の発展

 最近のゲーム理論の発展で最も重要なものは, プレイヤーの限定合理性をとりこんだ研究であろう. ナッシュ均衡と部分ゲーム完全均衡などその精緻化は, プレイヤーの合理性を追求した結果得られた解であったが, これらの解が, 必ずしもわれわれが現実に経験する結果を導かないことが, 様々なゲーム的状況の分析から明らかになってきた.

 そこで出てきたのが, プレイヤーは必ずしも完全には合理的ではないとする限定合理性の考え方である. 限定合理性に対する1つのアプローチが, 進化ゲーム理論と学習であり, これらの理論によって, 社会における慣習, 制度などの形成過程が明らかにされるのではないかと期待されている.

 いま1つの重要なアプローチが, 実際に人間を使った実験によるゲーム理論の再検証である. 様々なゲームにおける実験が行われており, われわれ人間は, ゲーム理論の解が導く行動を必ずしもとらない場合もありうることが明らかにされ, 実験結果を基に, 新たな理論の構築が模索されている.

6 ゲーム理論の文献

 ゲーム理論の最近の一般的なテキストとしては, 和書では, [3], [8], [10], [12], [15], [16], 洋書では, [2], [4], [9], [13], [14], また, ゲーム理論のさまざまな分野への応用をまとめたものとして [1], [5], [6], [7], [11]がある.



参考文献

[1] A. Dixit and B. Nalebuff, Thinking Strategically, N.W.Norton, 1991. 菅野隆, 嶋津祐一, 『戦略的思考とは何か』, TBSブリタニカ, 1991.

[2] D. Fudenberg and J. Tirole, Game Theory, MIT Press, 1991.

[3] 船木由喜彦, 『エコノミックゲームセオリー』, サイエンス社, 2001.

[4] R.Gibbons, Game Theory for Applied Economists, Princeton University Press, 1992. 福岡正夫, 須田伸一, 『経済学のためのゲーム理論入門』, 創文社, 1995.

[5] 今井晴雄, 岡田章, 『ゲーム理論の新展開』, 勁草書房, 2002.

[6] 今井晴雄, 岡田章, 『ゲーム理論の応用』, 勁草書房, 2005.

[7] 梶井厚志, 松井彰彦, 『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』, 日本評論社, 2000.

[8] 武藤滋夫, 『ゲーム理論入門』, 日本経済新聞社, 2001.

[9] R.B.Myerson, Game Theory, Harvard University Press, 1991.

[10] 中山幹夫, 『はじめてのゲーム理論』, 有斐閣, 1997.

[11] 中山幹夫, 武藤滋夫, 船木由喜彦, 『ゲーム理論で解く』, 有斐閣, 2000.

[12] 岡田 章, 『ゲーム理論』, 有斐閣, 1996.

[13] M.J.Osborne and A.Rubinstein, A Course in Game Theory, MIT Press, 1994.

[14] G.Owen, Game Theory, 3rd ed., Academic Press, 1996.

[15] 佐々木宏夫, 『入門ゲーム理論』, 日本評論社, 2003.

[16] 鈴木光男, 『新ゲーム理論』, 勁草書房, 1994.

[17] J.vonNeumann and O.Morgenstern, Theory of Games and Economic Behavior, 3rd ed., Princeton University Press, 1953.