ODの調査

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【おーでぃーのちょうさ (survey on OD (origin-destination))】

概要

起点 (origin) から終点 (destination) に向けたヒト・モノ・情報などの流量を実測すること. その結果を行列形式で表したものはOD表と呼ばれる. 空間相互作用モデルのパラメータ推定はODの調査に基づいて行われる. 交通計画におけるPT (パーソン・トリップ) 調査はゾーン間ODの調査であり, これに基づき将来の交通需要を予測するための古典的な方法に4段階推定法がある. 空間相互作用モデルの記述精度は, OD調査におけるゾーン設定に大きく依存する.

詳説

ODの調査とは, Origin(起点)からDestination(終点)に向けたヒト・モノ・情報などの流量を計測することである. 起終点調査ともいう. その結果を行列形式で表したものはOD表(または起終点表)と呼ばれる. このデータは, いわば「(1)どんなヒト・モノ・情報が (2)いつ (3)何の目的で (4)どこからどこへ (5)どんな交通手段で (6)どれだけ流れたか」を記述するものである. したがって先ず「どこ」 という空間的な枠組みが設定されて初めてその調査を行うことができる. この枠組みは, 集めるべきデータの種類によって異なっている. 交通量調査においてはゾーン, 鉄道ODの場合は昇降駅, 電話の場合はMA(メッセージ・エリア), 店舗への客の移動の場合は例えば市町村というゾーンから店舗という一点へ, といった次第である. こうした枠組みの設定(ゾーニング) がデータの質や調査コストに大きな影響を与えることは言うまでもない. ただし, この影響に関しては未だ一般的・明示的な研究結果が得られてはいないようである.

 多くの場合, 都市の様々な施設は何らかの形でそれを訪れた人々にサービスを与えることを目的としている. したがってODの調査に基づいて 「我が施設にはどの辺りからどの位の客が来てくれるか」 は施設の存在意義に関わる重要な情報である. また, 交通施設の目標が人やモノの円滑な輸送や都市の活性化にあるならば, 現実の交通量を観察することによって将来の整備水準を模索したり, 設備投資の効果を交通量から算定したり, といった努力をすべきであることは言うまでもないだろう.

 ODデータの調査対象は実に様々である:都市交通一般, 鉄道, 通勤・通学・就学, 買い物, 建築物内流動, 集客(デパート・テーマパーク・万博等), マネー(の国際的流動), 文化(の伝播). これらのODデータの中には公的機関の統計データとして整備・公開されているものもあれば, 問題の所有者の分析目的に応じてアドホックに調査を行うべきものもある.

 特に交通流動統計には, 純流動統計と総流動統計の別がある. 純流動統計は移動主体の出発地から目的地への移動が完結するまでを1トリップ単位として計上する. 総流動統計は, 各交通機関毎の出発点から目的点への移動を1トリップ単位として計上するものである. したがって, 移動主体に着目したODの分析を行うためには, 純流動統計の方が適していると考えられる. 後述するODデータのうち, パーソントリップ調査・全国貨物流動調査・物資流動調査の結果は純流動統計である.

 公的な交通ODデータを列挙しておこう:


  • パーソントリップ調査のODデータ:地方中核都市以上の規模の都市で居住者の流動を把握するために行われる調査をパーソントリップ調査という (原則として10年毎に行われる). 家庭訪問調査・コードンライン調査・宿泊者調査・スクリーンライン調査に基づいて, 目的別・手段別・主体別のゾーン間ODが推定される. 調査結果は印刷物ならびに磁気媒体で公表されている.
  • 大都市交通センサス:3大都市圏(東京・京阪神・名古屋)の公共交通機関の利用実態を5年毎に調査するもの. 運輸経済研究センターより「大都市交通センサス報告書」 として公表されている.
  • 全国貨物流動調査:業種・規模・都道府県別に無作為に抽出した約7万の事業所を対象にして, 出荷量・出荷先・利用交通機関などの調査を5年毎に行うもの.
  • 物資流動調査:3大都市圏に加え, 道央・仙台・広島・北部九州を対象として, 事業所系・貨物系・物資拠点系の物資流動の様子を調査したもの.
  • 道路交通センサス:乗用車と貨物車を対象として, 発着地・目的等を5年毎に調査するもの. 建設省地方建設局より「交通情勢調査報告書」として公表されている.
  • 港湾調査:全国の港湾を対象とした調査. 運輸省大臣官房情報管理部より 「港湾統計」として公表される.
  • 航空輸送統計調査:国内外の旅客・貨物航空について, 輸送人数や輸送量等を調査するもの. 運輸省大臣官房情報管理部より「航空輸送統計年報」として公表される.
  • 航空旅客動態調査:調査対象日の利用者について, その個人属性・移動属性を調査したもの(2年毎). 運輸省航空局より「航空旅客動態調査報告書」として公表される.


 交通機関に特化しないODデータで, OR的分析に役立ちそうなものも多い. 例えば人口移動に関しては, 住民基本台帳人口移動報告年報(総務庁統計局)や国勢調査報告(総務庁統計局)がある. 就学移動に関しては学校基本調査報告書(文部省)がある. 郵便フローに関してはあて地別引受郵便物数調査集計表 (郵便局経営企画室) というものが存在する.

 ODデータによるOR的な分析で重要なものに, 様々な空間相互作用モデル (spatial interaction model) の適用がある. そのうち交通計画学の分野での古典的な方法に4段階推定法があるが, これは (1)ゾーンの発生・集中量, (2)分布交通量, (3)分担交通量, (4)配分交通量, という順番で将来ODならびに道路交通量を予測するものである. 現況を上手く再現するモデルを特定した上で, 将来の人口・経済の予測と交通網整備の計画を織り込んで, 計画時点における交通需要の予測を行う方法である.

 OD調査の方法としては, 個人や事業所を対象にしたアンケートが主流である (もとより抜き取り調査だから, OD表は推定結果である). 電話等の情報流の場合は, 交換機やコンピュータのログからODデータを作成・推定する, という方法がとられる. アドホックな調査法は様々である. 例えば店舗の集客に関しては, 店舗が発行するサービスカードやクレジットカードがODデータ作成の有効な情報源となるだろう. テーマパーク等への集客に関して最も手間のかからない(大まかな)調査法に, 駐車場でナンバープレートを調べるという方法もある. 建物内のエレベータのODを重量センサーによる観測に基づいて推定する方法も存在する.



参考文献

[1] 土木学会編, 『土木工学ハンドブックII』, 技報堂出版, 1989.

[2] 石川義孝, 『空間相互作用モデル -その系譜と体系-』, 地人書房, 1988.

[3] 土木学会編, 『土木用語大辞典』, 技報堂出版, 1999.