経営モデル

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【けいえいもでる (management model)】

概要

経営モデルは, 経営情報システムの展開に伴って発展してきた. 事務処理を手計算から代替させたEDPSに始まり, 経営情報としての利用を考えたMIS, 意思決定を支援する情報システムとしてのDSSへと展開した. 一方, 販売, 生産, 開発を統合した情報システムが, 戦略的に有効であるとして戦略的情報システムが重視された. 現在は, クライアント・サーバーシステムを前提として, パッケージソフトによる基幹業務を統合したERPの構築が提案されている.

詳説

 経営モデルは, 企業の諸活動をモデル化したものである. 企業活動のモデル化に当たっては, 企業活動を外部的にとらえてモデル化する企業モデルと, 企業活動を内部的にとらえて, 経営計画を策定するうえで想定する企業活動をモデル化して構築する経営計画モデルとがある. 経営計画には, 短期と長期のものがあるが, 短期計画に属する予算編成をベースにした予算編成モデルとして構築される場合もある. こうしたモデルは, 予想される環境変化への計画の適応性を事前に評価したり, 策定した計画が環境変化に適応していたか否かを事後的に評価するといった計画評価にも用いられる.

 経営モデルは, 経営情報システムの展開に伴って発展してきた. 経営情報システムは, EDPS (electronic data processing system) に始まり, MIS (management information system) から DSS (decision support system) へと展開した. また一方では SIS (strategic information system) へと発展していき, 今日 ERP (enterprise resource planning) という方向に発展してきている. そこで以下では, この発展と結び付けて経営モデルを説明することにする.

(1) EDPS (electronic data processing system)

 1960年代半ばに, 当時としては小型化されたコンピュータが IBM360 として発売された. このコンピュータを皮切りに, 企業に事務処理を自動化するためのシステムとしてコンピュータが普及していった, これがEDPSである.

 EDPSの意義は, 手計算の事務処理をコンピュータに代替させることであった. 非常に煩雑だった給与計算や経理処理などをコンピュータに代替させ, 事務処理と報告書の作成とを自動的に行うことで, 事務の合理化を図ることにあった. この意味では, 現在でもEDPSの意義は十分あると考えられる. EDPSは, 少なくとも当時は汎用コンピュータであった. また, 事務処理というねらいからデータは過去のものに限られている. EDPSは基幹系の代替支援であり, 経営計画の立案に有用な経営モデルの構築ではなかった.

(2)MIS (management information system)

 1960年代後半, EDPSで構築したシステムを単に事務処理に利用するだけでは無駄であり, 経営情報としての利用ができると考えられた. すなわち, いろいろな事務処理システムならびに業務処理システムを構築していき, これらを総合することで, 経営管理者の意思決定を代替できるはずであると考えられた. MISの登場である.

 MISのねらいは, 経営管理者の問題を把握し, この問題を解決するためのモデルを構築し, 最適化を図っていくことにあった. たとえば, 予算編成モデルや経営計画モデルはこのタイプの経営モデルとして構築された. また, コンピュータ・ベースの計画評価の考え方も登場した. MISによって経営管理者の意思決定を全て代替できると考えられたからである. 経営管理者の意思決定には, 人間の判断に依存する部分があることを認識されていなかったからである. ここに, MISの失敗があったと考えられている.

(3)DSS (decision support system)

 MISでは, 全ての経営問題がモデル構築できると考えられていた. また, 汎用コンピュータを前提として過去のデータを利用したモデル構築がなされた. その結果, 経営管理者の迅速な意思決定に応えたモデル構築ができず, また経営管理者がシミュレーションをしながら問題解決することができなかった. 経営管理者は, MISの下では, いくらコンピュータを用いても構造化できない問題は解決できなかったのである. ここに, 経営管理者がパソコンやワークステーションを前に, 意思決定支援するための情報システム構築をすべきであるというDSSが登場した.

 DSSでは, コンピュータは経営管理者の代替物ではなく, 意思決定支援するものであると考えられるようになった. また, コンピュータが意思決定を支援できるのは, 半構造的な問題に対してであり, そこでは対話型のシステムがより効果的であるとされてきた. したがって, 経営計画モデルとしては, 特定の問題解決を支援するモデル構築がなされた.

(4)SIS (strategic information system)

 DSSが意思決定支援に対して有用であるにもかかわらず, 1980年代になるとDSSは次第に姿を消していった. 経営管理者自らが, その要求に応えたモデル構築をするほど情報システムに費やす時間もなければ, 容易に構築できるソフトもなかったからである.他にも理由はいくつか考えられるが,最も大きな理由は, DSSでは戦略的情報システムを構築できなかった点であろう.

 すなわち, 飛行機の座席予約システムを構築することで他の航空機会社から顧客を奪っていったというアメリカン航空の例に代表されるように, 顧客サービスのシステム構築が, 戦略的に重要な情報の武器となったからである. またPOSデータを売上集計だけでなく店舗管理に利用したり, 生産計画へと結びつけたり, さらにはPOSデータから顧客ニーズをつかみ商品開発に用いる企業もある. このように販売, 生産, 開発を統合した情報システムを構築することは, 戦略的に有効であると考えられるようになった. ここに戦略的情報システム(SIS)が求められる理由がある. 今日でも, SISの重要性は変わってはいない.

(5)ERP (enterprise resource planning)

 SISは, 汎用コンピュータによる情報システムを前提にしていたため, ソフトウェアの構築に相当の金額を費やしていた. 1990年代になると, クライアント・サーバー(c/s)型の統合パッケージ・ソフト, すなわちERPによる情報システムの構築が行われるようになってきた. たとえば, R/3やOracleといったアプリケーションによる標準的経営モデルの利用である. パッケージ・ソフトが利用できるということは, ソフトの金額を大幅に削減できる. この利点がある反面, 業務をパッケージ・ソフトに合わせたり, コンサルティングによる業務分析を必要とする点などがERP普及の足枷となっている. SISやERPは経営計画のモデルではないが, 環境変化が激しい状況においては, 現状を把握するものとして戦略的に利用されるとともに業務改善にも用いられている.