【ほぜんせい (maintainability)】
概要
アイテムが故障または劣化したとき, それを見つけ修復し, 正常に維持できる能力を表す. JIS Z8115により, 「アイテムの保全が与えられた条件において, 規定の期間に終了できる性質」と定められている. 故障が発生してから行う保全を事後保全, 故障を未然に防止するために行う保全を予防保全, 使用中の動作状態を監視してその状態に応じて行う保全を状態監視保全という. さらに, 保全設計・保全方針・保全員を保全性の3要素と呼ぶ.
詳説
アイテムが故障したとき, 修理, 取替え, または予備アイテムに切り換えたり, さらに, 故障または劣化しているアイテムを見つけ出すための点検 (inspection) など, アイテムの信頼性維持のために行われる方法を保全という. JIS によって保全性 (maintainability) とは「アイテムの保全が与えられた条件において, 規定の期間に終了できる性質」と定義されている.
保全を効果的に実施し, 保全性を向上させるためには, (i) 保全性設計, (ii) 保全方針, (iii) 保全要因が重要であり, これを{保全性の3要素}という. (i) では, 故障検出と診断, 修復が容易な設計, (ii) では, 保全用資材の供給, 保全用マニュアルの整備と標準化, 保全用工具と施設の整備化などの実施, (iii) では, 保全技術者の技術向上のための教育や訓練が必要である.
保全は事後保全 (corrective maintenance, CM) と予防保全 (preventive maintenance, PM) に分類される. CM とは, 故障が発生した後に行う保全をいい, 取替え, 修理, 予備品への切換えなどが実施される. PM は, JIS では「アイテムの使用中での故障を未然に防止し, アイテムを使用可能状態に維持するために計画的に行う保全」と定義されている. さらに, PM は故障時間や分布, パターンなどの知識のもとに実施する{時間計画保全}と対象のアイテムの状態を監視または定期的に点検し, 問題があるときのみ保全を実施する状態監視保全に分類できる. また, CM と PM をバランスよく組合せ, 生産性と経済性を高める保全方式を生産保全 (productive maintenance) ともよぶ.
保全性を定量的に表すための尺度として, 保全度 (maintainability) が使われ, JIS では「アイテムの保全が与えられた条件において, 規定の期間内に終了する確率」と定義されている. いま, アイテムの修復時間または保全時間を とすれば, を保全度関数, を保全度密度関数, を修復率という. さらに, の平均を平均保全時間といい, 修理系アイテムでは, MTTR (mean time to repair)とよぶ. に適合する確率分布として, 正規分布, 指数分布, ガンマ分布, 対数正規分布などが用いられ, とくに, 対数正規分布は左右対称でなく長くすそをひいた形をしているので, 修理時間の分布に非常に適合していることが知られている.
アベイラビリティ (availability)とは, アイテムがある特定の時点に機能を維持している確率を表わし, 日本では, 可(稼)動率ともよばれている. JIS では「修理系が規定の時点で機能を維持している確率, またはある期間中に機能を維持する時間の割合」と定義されている. アイテムが時刻 に機能している確率 を瞬間アベイラビリティ, を平均アベイラビリティ, を定常アベイラビリティ, を区間アベイラビリティとよぶ.
さらに, 保全に要する時間 の選びかたによって, 定常アベイラビリティは次の3つに分類される. (i) 事後保全時間を単に MTTR と考え, を固有アベイラビリティ (inherent availability), (ii) 事後保全と予防保全を用いて, を達成アベイラビリティ, MTBM (mean time between maintenances) を平均保全間隔時間とする. (iii) 全ての動作不可能時間を使って, を運用アベイラビリティ (operational availability), は平均動作可能時間, は平均動作不可能時間を表す.
アイテムの信頼度関数を (平均 ), 保全度関数を (平均 ) としたとき, 定常アベイラビリティは となる. とくに, の指数分布に従うとき,
瞬間アベイラビリティは
平均アベイラビリティはとなり, 明らかに, である. さらに区間アベイラビリティはとなる.
参考文献
[1] R. E. Barlow and F. Proschan, Mathematical Theory of Reliability}, SIAM, Philadelphia, PA, 1996.
[2] 塩見弘, 『信頼性・保全性の考え方と進め方』, 技術評論社, 1979.
[3] 塩見弘, 『信頼性工学入門』, 丸善, 1982.
[4] 三根久, 河合一, 『信頼性・保全性の数理』, 朝倉書店, 1982.
[5] 真壁肇編, 『信頼性工学入門』, 日本規格協会, 1985.
[6] 信頼性管理便覧編集委員会編, 『品質保証のための信頼性管理便覧』, 日本規格協会, 1985.