《APS》

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【えーぴーえす (advanced planning and scheduling) 】

 高度情報化時代における多品種少量生産, 受注生産に適合した生産管理方式である.資材計画と生産設備の利用計画を同期的に作成し, 精度の高い納期を見積ったうえ, 納期を厳守するという前提のもとで様々な不確実性に対処して, それらの計画を更新し続けるところに特徴がある[1]. また, APSは顧客とメーカー, メーカーとサプライアー間での情報共有を通してそれらのプレイアーの協調を実現するサプライチェーン・マネジメント(SCM)の手段として期待されている. 以下において, どのような背景のもとでAPSの概念が構築され, いかなる論理構造を持っているかについて述べる.

 従来の生産管理方式の代表的なものは, 1970年代に米国で普及したMRP(Material Requirements Planning)であり, 当初はMPS(基準生産計画), つまり, タイムバケットと呼ばれる時間軸上の各区間に示された製品別の生産予定量を製造するために必要な半製品や部品がいつどれだけ必要であるかを計算し, それらの資材を製造する部門や販売する部門に指示するという資材所要量計画システムを意味していた.この計画システムは製造現場の能力と無関係に作成され, 基準生産計画の内容によっては特定の資材を生産する部門の作業負荷が生産能力を超過することが生じた.そのため, 作業負荷と生産能力を比べて計画の実現可能性を調べ, 作業負荷が生産能力を大幅に超える場合は基準生産計画の内容を変更する機能が追加された[2].

 いま述べたように, ウォータホール型のMRPは閉ループを持ったシステムに改良され, 後者はMRPⅡあるいはManufacturing Resource Planning と呼ばれている. しかし, この制御は自動的に処理するにはあまりにも複雑であって, 満足のいく解が求められる保証はない. また, 受注生産化が進むとともに多品種少量生産の時代に変わり, 見込み生産が一般的であった時代に開発されたMRPは解決が難しい問題に対面している[3].これは米国ではスケジュール過敏症と呼ばれており, 受注オーダの内容, つまり, 基準生産計画が作成後に変更され, それに応じるために立案済みの資材計画や製造設備の利用計画を修正する結果, 販売・製造・購買の現場で生産性の低下, 労働意欲の低減, 費用の増加, 顧客サービスの低下が生じるというものである.この問題の対応策については多くの研究が行われているものの決定的な方策が見つけられていない. 効果的な方法としては, 現在計画中および実施中のオーダの中で早く投入されたもののいくつか(the first n orders)の処理が予定されている期間を凍結するという方策(MRP freezing)が用いられるが, 製品在庫やロットサイジング・ルールなど他の要因も関連していて, どのような場合に何をするべきかはまだ解明されていない.

 資材計画を作成した後に製造設備の利用計画を作成するという処理手続きは, MRPの構造的な問題点であるといえる.この論理構造は当時のコンピュータの処理能力の不足を補うためにもたらされたものであろう. 資材計画を立案するときにBOM(Bill of Material)と呼ばれる製品構成を示したデータを用いる. MRPの計算対象になる製品は他の製品と共通した半製品や部品から構成されるため, 製品別にそれらの構成品つまり資材の所要量を計算するのは不都合である.構成品の在庫がある場合に在庫量が必要量から差し引かれて下位の構成品の必要量が求められるので, 製品別に構成品の必要量を計算すると, 取り上げる製品の順序によって構成品の必要量が異なるという結果が生じる.したがって, MRPでは共通の構成品を有するすべての製品を同時に考慮して, 製品から(一般には上位の構成品から)見て一段階下の構成品の必要量を繰り返し計算するという方法が用いられる. 資材計画と生産設備の利用計画を同期的に立案しようとすれば, いま述べたBOMのデータベースと構成品の生産に必要な作業, 作業順序, 作業の所要時間, 作業に必要な製造設備を示す生産情報のデータベースを交互に検索する必要が生じ, 計算時間は膨大なものとなり, MRPは生産管理の問題解決に役立たなかったに違いない. TOCの提唱者であるGoldrattは コンピュータの性能が飛躍的に向上した時代において, 生産情報から切り離されたBOMを利用し続けることの損失を指摘している[4].

 MRPに対する潜在的な批判は日本の産業界ではもともと存在した. その一つはMRPが開発される以前から利用されていた製番方式が日本ではその後も引き続いて用いられたという事実である. 製番方式では顧客オーダごとに製造番号が割り当てられ, その顧客オーダに係わる製造オーダにその番号が付けられて進捗管理が実施される. つまり, すべての生産オーダやその生産オーダに基づいて製造された仕掛品は顧客オーダに引き当てられる. 生産が始まった後に顧客が注文量を削減した場合は該当量の仕掛品は引き当てから外され, 別の顧客オーダへの引き当てを待つことになる. MRPの開発理由に, このような宙に浮いた仕掛品が利用されずに無駄になることを避けられるというものがあったが, 情報化が進んだ時代であれば, 宙に浮いた仕掛品の仕様とその量のデータを入力さえすれば済むことであり, むしろその情報を積極的に製品設計に利用すればリードタイムの短縮や仕掛り在庫の削減ができる. 注文にもとづいて生産する場合でも, MRPは生産オーダや仕掛品がどの顧客オーダのためのものであるかを識別せずに行う管理方式である. 製番方式は受注生産, 多品種少量生産を行っている規模があまり大きくない事業所に適しており, そのような事業所が多い日本の産業に向いていたといえる. 他の一つは, 日本には生産座席予約方式と呼ばれている受注時に製造設備の利用計画を作り, それに基づいて納期見積りを行う生産方式がある. これはCIM(Computer Integrated Manufacturing)が導入され, 進むべき方向としてその概念が形成された製販統合型CIMの成果として生まれたものである. 生産座席予約方式は納期見積りの方法とデータが顧客に公表され, 顧客とメーカーの協調のもとに納期が決定され, 決定した納期は守られるという先進的な試みが1990年代の前半にすでに見られている.

 APSの概念が日本において発展した背景はいまのべたようにもともと類似した概念が存在し, それが最新の情報技術と結びついたからに他ならない. さらに, 現代的な管理技術の代表であるSCMにも適合している. 顧客を重視し, 顧客とメーカーが協調して納期を見積もる. 見積もった納期を厳守する. そのために, 資材計画と設備の利用計画(多くは詳細な生産スケジュール)を同期的に作成する. また, 生産オーダや仕掛品は常に顧客オーダに引き当てられる. 顧客オーダの変更に対しては計画段階において極力対応する. そのために, 資材の引き当てや生産スケジュールの修正を随時実行する. 具体的な技術として, BOMと生産情報を直結したM-BOM, 最新の納期見積りとスケジューリングの方式, モジュールとその在庫管理方式などの利用. これらの一連の行為はAPSの論理構造を示している. わが国では, APSは受注に基づいて加工・組立てを行っている中小規模の事業所を中心にして普及しつつある. さらに, 世界に先駆けてPSLXによるAPS記述言語の標準化が進められている[5].



参考文献

[1] 黒田充,「APSの論理構造 ―MRPからの離脱―」, オペレーションズ・リサーチ, 49(2004), 563-568.

[2] V. Sridharan and R. Lawrence LaForge, 「資材計画: MRPからMRPⅡとERPへ」, P.M.Swamidas編(黒田充, 門田安弘, 森戸晋監訳), 生産管理大事典, 朝倉書店, 233-236, 2004.

[3] R. Lawrence LaForge, S.N. Kadipasaogle and V. Sridharan, 「スケジュールの安定性」, P.M.Swamidas編(黒田充, 門田安弘, 森戸晋監訳), 生産管理大事典, 朝倉書店, 290-293, 2004.

[4] E. M. Goldratt, The Haystack Syndrome, North River Press, Inc., 1990.

[5] 西岡靖之, 「APS」, 日本プラントメンテナンス協会, 2001.