《選挙制度》

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【せんきょせいど (election system)】

 民主主義に基く現代市民社会において, われわれの代表を選ぶのが選挙で, その選挙のやり方を定めるのが選挙制度である. 代表を選ぶという行為は古代ローマあるいはギリシャの時代から存在しており, そのやり方を定める選挙制度も非常に古い歴史を有している. 選挙制度はいろいろな基準にしたがって分類することができる. 第1の基準として, 何人の代表を選ぶのか, あるいは投票の基盤すなわち選挙区がどれだけの大きさを有するかを用いると, 大まかにいって, 選ばれる代表者数が1人の場合を小選挙区制, 3, 4, 5人程度の場合を中選挙区制, それ以上の場合を大選挙区制の3種類に分類することができる. 準は代表者の決定方法であって, 相対的な多数を得た者が当選する単純多数制, 過半数あるいは有権者の一定割合を越えて絶対的な多数を得た者が当選する絶対多数制がある. また獲得した票数に比例した数の議席を得る比例代表制もある. 第3の基準として, 投票の仕方を用いると, 投票者が1名のみを投票する単記式と複数名を記入する連記式があり, そして後者については選ばれる代表者数あるいは議席数に等しい人数分を記入する完全連記式とそれより少ない人数分を記入する制限連記式がある. また投票者が自分の選好順序を明示できる, すなわち第1番目は誰, 第2番目は誰, というように各投票者が望ましいと思う候補者の選好順序を記入する方式は移譲式と呼ばれる.

 わが国の衆議院の選挙制度は1994(平成6)年以来小選挙区比例代表並立制である. それ以前は1選挙区あたり定数が3から5の中選挙区制であった. 参議院は1人区と2人区の小選挙区制と比例代表制を組み合わせたものである. いずれも単記制で比例代表制以外の部分は単純多数制である. 諸外国における選挙制度は, いずれも各国の歴史と文化に基づくものであるが, たとえば小選挙区制を採用しているのは米国, イギリス, インド, カナダ, フランス, オーストラリアなどである. この中でフランスの投票制度は特徴があり, 第1回の投票で過半数を得た者は当選となるが, 過半数を得た者がいない場合, 再度選挙を行うという2回投票制を採用している. なお世界的に見て, 1選挙区あたり定数が3から5の中選挙区制を採用していた国はわが国くらいできわめて稀であるといえる. 一方, 比例代表制を採用しているのはドイツ, イタリア, ベルギー, オランダ, スイス, オーストリア, スエーデン, デンマーク, ノルウェーなどである.

 小選挙区制に基づく全国規模の選挙において2大政党が争う場合, これらの政党の獲得する議席数は両党の選挙の得票率の3乗に比例するというのが3乗法則である. この法則はイギリスの統計学者によってイギリスとドイツの選挙結果を分析して実証的に示された. すなわち得票率が低い政党は獲得議席シェアが非常に小さくなり, 第1政党に極めて有利になるという法則である. たとえば第1政党と第2政党の得票率が7対3の場合, 獲得議席数のシェアは9対1以上になるということである. 選挙制度を決定する場合, たとえば小選挙区制に基づく選挙区をどのように策定するかという問題は政治家にとって重大な問題である. 米国マサチューセッツ州知事のゲリー(Gerry)が自分の政党に有利な選挙区を作ろうとして奇妙な形の選挙区を策定したのがサラマンダー(salamander, 火の中に住むといわれるトカゲ)に似ていることから, このような線引きをゲリマンダー (Gerrymander)と呼ぶことになった. 各行政区の人口の分布に合わせて公平に選挙区を策定するにはどうすればよいかという問題は一般に選挙区割問題と呼ばれる. 整数計画法等に基づく数理モデルを定式化することによってこのような問題を解こうとする試みも以前から行われているが, 現在までのところ, 完全な解決は得られていない. どのような選挙制度を採用するのが有権者の民意を最もよく反映し, またすべての有権者にとって最も公平かつ公正な選挙制度であるかを決定する問題に対しても, 最適化問題として定式化することによって数理計画モデルを解こうという試みもかなり長い間にわたってなされている. しかしながらこの問題に対しても, 現在までのところ, 完全な解決は得られていない.


参考文献

[1] 西平重喜, 『比例代表制』, 中公新書, 1981.

[2] 小林良彰, 『選挙制度』, 丸善ライブラリー, 1994.

[3] W.F. Lucas(ed.), Modules in Applied Mathematics, Springer-Verlag, 1983.