《公共政策OR-II》

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【こうきょうせいさくおーあーるに (OR in public policy - II)】

 医療政策の分野におけるORの応用としては, 1970年代に緊急医療システムの効率性の改善, 血液銀行の管理問題, 保健サービス計画と運用問題等へのOR手法の応用などが活発に行われた. 疾病検査と調査にモデルを用いることも一般化しているが, 医療における意思決定は主としてOR理論と手法の応用によって可能となったといえよう.

 保健ケア実施問題の分析にORの手法を適用することは非常に時宜を得た課題である. 保健ケアシステムの設計と立案の問題は主として国あるいは地方政府のレベルで発生する. 保健ケアサービスの地域化はシステム立案の重要な構成要因である. 地域化によってサービスの配分はより効率的となり, 保健ケアシステムの費用あるいは質も改善される. 保健ケア管理においてORモデルを実行するには, 管理情報システム(MIS)が必要とされる. 医療の意思決定とモデルに基づく支援システムを組み合わせると, MISは意思決定の感度, 患者に対するケアの質, 生産性等を改善する可能性を持っている. 管理とケア実施に関するいろいろなレベルの機関が意思決定を作成し, 支援するために, 統計学, OR, 管理科学, エキスパートシステム等の手法を用いたモデルが構築されている. 病院管理, 運営に関する決定としては, 給与会計システム, 予算の立案分析, 入院と退院と転院(ADT)のシステム, 外科とリハビリ室のスケジュール, 看護婦の配置とスケジュール, 外来患者のスケジュールと予約システム, 購入と在庫管理と維持管理, 管理部門の人事システム, 患者の医療管理, 医療政策などが含まれる. 人的資源の管理は保健ケア組織の主要業務である. 人件費は通常運営費の大半を占めているので, この分野は将来より一層重要になっていくであろう.

 スポーツの問題に対するOR/MSの応用(スポーツのOR)は50年代からで, 線形計画法や期待効用分析, 動的計画法, 制御理論, 組合せ理論, ゲーム理論などのOR/MS技法の理論的進歩を反映している. 初期における応用例の多くは野球であった. 様々なスポーツに関わるスケジューリングやルールづくり, トーナメントの組立て, あるいは公平性の問題が70年代から研究された. スポーツに対するOR/MSの関心は70年代半ばにピークを迎えた. 最近における研究の方向としては, 純粋に統計的な問題, ミクロ経済的側面, 交渉問題(野球における調停), スポーツに関するビジネス的な意思決定, マーケティングの問題, コーチング技術, ギャンブルに関連することなどがある. 将来の研究の方向としては, 新たなルール変更, 新たなトーナメント方式, いくつかの国で広まる新たなスポーツ等によってもたらされる問題への取り組みなどであろう.

 政府が資産を購入したり政府の権利を譲渡したりするのに競売を利用することがある. 広範囲にわたる競売の数学モデルが提起され, 競合システムを設計する場合にこれらを用いる方法の分析が行われている. 交渉や公示価格などの一般的な移転方法としての競売や競争入札という経済的競争は公共部門においては特に興味のあるものであって, 売り手と買い手, あるいは所有者と購入者のように, 彼らの目標の間に十分な信頼や一致が存在しないかもしれないような状況においても適用可能で, 公平さあるいは偏見の回避といった必要性をも満たす方法である. 競売と競争入札の形式的な本質は, ORの研究者を含む分析家にとって大変興味深いものである. これらの分野には, 州や連邦の石油賃借権, 連邦の石炭賃借権, 連邦の木材伐採権の販売, 財務省証券の販売, 電力会社のコジェネレーション業者や他の業者からの電力購入, 軍や他の政府の調達, 道路建設, 宇宙ステーションや規制されたパイプラインにおける容量の配分などが含まれる.

 リスクには事故, 災害, 病気, など多くのものがある. リスクを軽減するという公共の目標を達成し, 不必要なコストを削減するためには, リスクを予測し, 管理する組織的なアプローチが必要とされる. 各種リスクに対して, 推計を行うこと, 事故の原因を決定すること, 安全性の基準を設けること, 費用効果分析あるいはリスク便益分析を行うことなどが必要となる. このような手続きはリスク管理と呼ばれている. 事象樹木と原因樹木による原因究明分析, あるいは最小費用で目標の実現を図ろうとする費用効果分析, あるいはまた基準や技術によって解決を図ろうというアプローチ[1]などがある. OR理論と手法の適用の将来性について, 災害, 危機管理といった分野は注目に値する.


参考文献

[1] S. M. Pollock, M. H. Rothkopf and A. Barnett, Operations Research and the Public Sector, in Handbooks in Operations Research and Management Science, North-Holland, Amsterdam, Netherland, 1994. (大山達雄監修翻訳, 『公共政策ORハンドブック』, 朝倉書店, 741pp., 1998.)

[2] R. Engelbrecht-Wiggins, M. Shubik and R. M. Stark(eds.), Auctions, Bidding and Contracting : Uses and Theory, New York University Press, New York, 1983.

[3] M. H. Rothkopf, "On Auctions with Withdrawable Winning Bids," Marketing Sciences, 10 (1991), 40-57.

[4] M. H. Rothkopf, "Equilibrium Linear Bidding Strategies," Operations Research, 28 (1980), 576-583.

[5] F. Pezzella, R. Bonanno and B. Nicoletti, "A System Approach to the Optimal Health-care Districting," European Journal of Operational Research, 8 (1981), 139-146.

[6] S. P. Ladany and R. E. Machol (eds.), Optimal Strategies in Sports, North-Holland, Amsterdam, 1977.

[7] R. E. Machol, S. P. Landany and D. G. Morrison (eds.), Management Science in Sports , North-Holland, Amsterdam, 1976.

[8] B. L. Golden and E. A. Wasil, "Ranking Outstanding Sports Records," Interfaces, 17 (1987), 32-42.

[9] B. Fischhoff, S. Lichetenstein, P. Slovic, S. L. Derby and R. L. Keeney, Acceptable Risk, Cambridge University Press, New York, 1981.

[10] P. Slovic, "Perception of Risk," Science, 236 (1987), 280-286.

[11] J. Linnerooth-Bayer and B. Wihlstrom, "Applications of Probabilistic Risk Assessments : the Selection of Appropriate Tools," Risk Analysis, 11 (1991), 249-254.