《公共政策OR-I》

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【こうきょうせいさくおーあーるいち (OR in public policy - I)】

 OR理論の応用については, その発生からの流れとして, 軍事部門から企業における経営を中心とする民間部門, そして公共部門へという大きな流れがある. 公共部門における政策分析の道具としてのOR理論, 手法の応用はかなり長い歴史を有しており, ORの誕生あるいはそれ以前からすでに存在していたといってもよいであろう. 民間部門における意思決定では利潤の最大化, 効率の最大化, あるいは費用の最小化などが一般的であるのに対して, 公共部門における意思決定は一般国民, あるいは公務員, 官僚による行政機関, あるいはまた国民の代表者である政治家からなる立法機関等によって行われるという点が大きな違いである. 公共部門における意思決定は公共政策として表現される. どのようにして政策を決定すればよいか, あるいはどのような政策が望ましいかという問題は関連する多くの集団の価値観, 利害関係も異なるため, 非常に難しい問題となることが多い. したがってそれぞれの集団の評価基準も住民の便益, 効用, 行政の効率, 政策の効率, 公平性, 平等性など実にさまざまなものが考えられる. また政策決定に際しては, 状況によっていろいろな制約が加わることが多い. このような中で意思決定をどのように行えばよいか, あるいはどのような意思決定が最も合理的かつ最適かといった問題は非常に重要である. 政策の決定, 作成, 実施, 評価の諸過程において, 統計, OR, システム分析, 情報科学等の理論, 手法に基づいてデータ, モデルを用いて種々の分析を行うことを一般に政策分析と呼ぶ. 政策評価は政策を定量的に評価, 分析するという意味で政策分析の一分野である. 公共部門におけるOR理論の応用は種々の公共政策の決定過程で現れることが多く, 最適政策の決定が必要とされる. 代表的な分野としては, 交通・輸送, 施設配置, 政治・行政, 裁判・犯罪, 漁業・農業・森林, 環境・エネルギー, 医療などをはじめとして実に多くの分野が考えられる.

 交通・輸送部門では, 初期の代表的な研究としてニューヨーク交通局が実施した橋やトンネルの交通量, スタッフ配置などに関する待ち行列理論を用いたものがある. その後も交通・輸送のネットワークにおける非常に多種にわたる数多くの問題が最適化手法あるいはシミュレーション手法によって解かれている(交通政策). 交通問題としては, かなり古い歴史を有する鉄道, 航空機, 自動車等に関する交通需要予測, 新設あるいは増設道路に関するプロジェクト選択などが主要な問題として解決が図られている. 輸送問題に対しては, あらゆる物資, 情報, 人員等の最適輸送を求める問題が解かれている.

 公共施設配置問題はORの分野において古い歴史を有しているが, 多くの場合, それに伴って人員, 物資, 資源などを最適配分するという問題も生じるために資源配分問題と同時に解かれることが多く, より一般的に配置配分問題と呼ばれ, 長い年月にわたって多くの研究者の関心の的となっている. 公共的な施設の最適配置を考える場合, 評価基準として何を設定すればよいかは重要な問題となる.

 原子力発電プラント, 有害廃棄物あるいは放射性廃棄物の処理施設, 危険廃棄物貯蔵施設などの有害施設の最適配置を決定する危険施設配置問題も公共政策分析としてOR理論, 手法が盛んに用いられてきている. このような問題に適用されるモデル分析手法として, いくつかのリスク緩和策の中で何が有効かを決定するために社会便益総額を最大化するものを効用関数を用いて求める最適化モデルがある. 有害施設, 危険施設の配置問題は立地案の住民による受け入れ可能性, 費用, 補償, 便益, リスク等の関連する多くの要因を考慮しなければならないということから多属性効用モデルの適用もなされている.

 裁判研究のORあるいは犯罪の分野における数学的な分析は1960年代に米国において犯罪件数が増大したのに伴って行われ, 司法裁判システムの運用に関する問題が大統領委員会のもとでも詳細に検討され, この分野におけるORの将来の研究の方向付けが示された. 犯罪者に関する研究は1970年代から80年代にかけてかなり積極的に行われ, 待ち行列理論を中心とする確率モデルに基づく犯罪者行動の分析, そして警察, 検察, 矯正機関等の運用管理にOR手法を用いることが活発に行われ, 信頼性理論あるいは確率理論が犯罪常習者の行動タイプの分析に用いられた. 個人が犯罪を犯す確率をポアソン過程のパラメータとして一定期間内の犯罪率, 逮捕率等を説明したのは画期的なアプローチであった. 1980年代には, 犯罪者の年齢, 発生地域, 再犯率などと警察官のパトロール活動との関係を確率モデルを用いて統計的に分析した成果が数多く得られた. また死刑の効果についての統計的な分析に関する議論も長期にわたって活発に行われた.

 環境・エネルギーの分野における応用が活発に行われるようになったのは1970年代初頭にForrester, Meadowsらがローマクラブとして人口の拡大, 天然資源の浪費が続けば破滅的な結果に至るということをシミュレーションモデル(システムダイナミックス)を用いて警告し, いわゆる第一次エネルギー危機が勃発した頃からである. その後米国, そしてわが国においてもエネルギーの効率的利用, 省エネルギーの促進, 硫黄酸化物, 窒素酸化物排出量の削減等による環境問題への考慮をモデルに導入した分析が非常に数多くなされた. その後は枯渇性資源の有効利用, 化石燃料の大量消費による二酸化炭素排出量削減等を考慮したモデル(資源管理モデル)が開発され, 国連による地球温暖化防止条約締結のための政策資料提供や世界資源研究所等による分析が行われている.


参考文献

[1] S. Gass and R. Sisson, A Guide to Models in Governmental Planning and Operations, Sauger Books, Potomac, MD, 1975.

[2] S. M. Pollock, M. H. Rothkopf and A. Barnett, Operations Research and the Public Sector, in Handbooks in Operations Research and Management Science, North-Holland, Amsterdam, Netherland, 1994. (大山達雄監修翻訳, 『公共政策ORハンドブック』, 朝倉書店, 741pp., 1998.)

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[4] P. B. Mirchandani and R. L. Francis (eds.), Discrete Location Theory, John Wiley and Sons, New York, 1990.

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[7] G. F. List, P. B. Mirchandani, M. A. Turnquist and K. G. Zografos, "Modeling and Analysis for Hazardous Materials Transportation : Risk Analysis, Routing/Scheduling and Facility Location," Transportation Sciences, 25 (1991), 100-114.

[8] R. Tarling, "Statistical Applications in Criminology," Statistician, 35 (1986), 369-388.