《エネルギー・環境政策》

提供: ORWiki
ナビゲーションに移動 検索に移動

【えねるぎー・かんきょうせいさく (energy-environmental policy)】

エネルギー・環境政策(energy-environmental policy)の検討は, まず資源の有限性に関して始められた. 本格的なエネルギー長期シナリオ解析の最初の例は, 1950年代初期に米国原子力委員会がP. パトナムに委嘱したエネルギーの将来予測であると思われる. パトナムの検討は当時から100年先の2050年までを対象としていた. このシナリオ解析での人口想定は低めであったが, エネルギー需要想定は世界全体としては現在から見てもほぼ妥当である. しかしパトナムの検討では, 当時のコンピュータの未発達もあり, モデルは用いられていない. シミュレーションモデルの原型らしきものが現れはじめたのは, 1960年代に入ってから, これも米国原子力委員会により高速増殖炉など新型原子炉開発計画の検討のために, 核燃料サイクルのフローを基本構造としたモデルを利用したのが最初であろう. 核燃料サイクル, 特にプルトニウムの生産と利用を介して, 異時点間に相互制約が生じ, 現在の原子力技術の選択が数十年先の技術選択に影響する. このような原子力特有の技術構造に加えて, 原子力では政府予算による開発が行われていたために, モデルを用いた計画評価が盛んに行われた. 核燃料サイクルをベースとして原子力技術政策を解析するモデルとしては, 我が国でも電力中央研究所で開発したFCOM等がある.  一方, 1972年に公表されたローマクラブの「成長の限界」では, システムダイナミックス手法によるモデルを用いて, このままの経路をたどれば, 資源, 食糧あるいは汚染のいずれかの限界によって, 人類の成長は今後100年のうちに崩壊する恐れの強いことを描き出し, 世の中に衝撃を与えた. ローマクラブは20年後の1992年にも「限界を超えて」を出版し, ここでもWorld-3という同様のモデルを活用している. ローマクラブのモデル解析については, 乱暴な集約化をしており, データベースも不十分で恣意的な解析だ等と批判も多い. しかし, 複雑に入り込んだ構造を持つグローバルな資源・環境問題にモデルを適用して, 未来を数量的に描き出したという歴史的意義は認めるべきであろう. このように, エネルギー・環境領域での政策研究へのモデルの適用は, 原子力のように長期的な計画を必要とする一国の特定のエネルギー技術評価と, 地球規模の資源・環境制約など大きなシステム構造を表現したグローバルな解析という対照的な分野から始まった. なお, 技術評価を目的とする前者のモデルには最適化手法, 基本システム構造の特性解析を目的とする後者ではシミュレーション手法が採用されており, これらも, エネルギー・環境モデルの作成手法として, その後の展開の出発点となっている. 一般的に最適化手法を適用すると, 少ない入力条件でモデル解析が行えるが, 結果の現実的妥当性を保証するための制約式の選択にモデル作成者の力量が問われることになる. 一方, シミュレーション手法では, モデル作成者の意図する結果を数量的に示すことが比較的容易になるが, そのためには大量の入力条件の設定・調整が必要になることが多い. 1973年の第一次石油危機を契機として, エネルギー政策検討の為, 特に米国を中心として数多くのエネルギーモデルが開発された. 1970年代のエネルギーモデルの基本型は2つある. 一つは燃料などエネルギーシステム内の物量の流れを基本構造とするタイプで主として工学系の研究者によって作成されており, 一般にプロセスモデルと呼ばれている. プロセスモデルでは, 具体的な技術の一つ一つの選択を積み上げて, 費用最小化などの指標に基づいて結果を得るので, ボトムアップ型とも呼ばれる. もう一つのタイプは価格メカニズムによる市場におけるエネルギーの選択を基本構造とするもので, マクロ計量経済モデル, 一般均衡モデルなど主として経済学者によって作成されている. 価格メカニズムを基本とするモデルでは, 経済的条件によって, 個々の技術を特定せず集計量としてエネルギーの量と種類が選択されるので, トップダウン型と呼ばれることが多い. また, スタンフォード大学のA.S.マンが開発したETA-MACROは, 技術的な詳細を記述するプロセスモデルとエネルギー経済モデルを連結したものとして注目される. このようなエネルギー部門と経済全体との相互作用の解析は, 重要な研究分野として発展した. なお, 1970年代末頃までのわが国におけるエネルギーモデル開発状況は総合研究開発機構(NIRA)の報告書[1]にまとめられている. 1980年代になって石油価格が下がり, エネルギー危機の時代が去ると, エネルギーモデル研究も一旦は下火となった. しかし, 1980年代後半から地球温暖化問題が世界的規模で注目を集め始めるとともに, モデルを用いるエネルギーシステム解析は環境政策を取り込んで再び活性化してきた. 二酸化炭素政策評価を主目的として開発されたエネルギー環境モデルとしてはEdmonds-Reillyモデルが先べんをつけた. 二酸化炭素問題を扱うモデルの多くは対象とする時間範囲が極めて長い. ほとんどのモデルは21世紀半ばあるいはもっと長期を解析対象としている. また, 地域毎に異なる資源や技術, 社会経済条件の反映も重要であり, 対策のための技術開発や炭素税などの制度についても適切に表現しなければならない. この分野では数多くのモデルが開発されており, その様子は, IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告からうかがうことが出来る. 最近の地球温暖化対策のモデル解析で注目されるのは, 統合評価モデルである. 統合評価モデルのもっとも重要な特徴は, 温暖化による損害コストを評価関数に取り込み, 対策コストとの総計を指標として最適な対応を選ぶことである. この場合, 通常のモデル解析では与件とされる二酸化炭素の制御目標(排出量あるいは大気中濃度など)それ自体が内生的に決定される. もちろん, 損害コストの推計には, 炭素循環, 二酸化炭素濃度と気温上昇の関係, 地域毎の気温上昇による人間社会および生態系への影響, 海面上昇の大きさとそれによる損害等々, 多くの局面について大きな不確実性が伴うことを忘れてはならない. 以上のようにエネルギー・環境政策分野ではモデル解析が大きな役割を果たしてきた. ただし, モデルにはそれぞれ開発目的があり, 目的から離れた問題にも適用できるような一般性は乏しい. よく使われている著名なモデルであっても, 単にそのまま利用したのでは, 適用する問題のタイプによっては全く無力になることに十分注意すべきである. なお, 以上のようなエネルギー・環境政策に関するモデル開発の動向については文献[2]に簡潔にまとめられている.


参考文献

[1] NIRA OUTPUT, 『エネルギーモデル開発の現状とその機能, NRO-53-3』, 総合研究開発機構, June, 1979.

[2] 山地憲治, 「エネルギー・環境政策におけるシミュレーションモデルの役割」, 電気学会論文誌C, Vol.118-C, No.10, 1399-1402, 1998.