《総合的品質管理》

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【そうごうてきひんしつかんり (Total Quality Management, Total Quality Control) 】

 品質管理とは, 買手の要求に合った品質の品物またはサービスを経済的に作り出すための手段の体系である [1]. 品質管理を効果的に実施するためには, 市場の調査, 研究・開発, 製品の企画, 設計, 生産準備, 購買・外注, 製造, 検査, 販売およびアフターサービスならびに財務, 人事, 教育など企業活動の全段階にわたり, 経営者を始め管理者, 監督者, 作業者など企業の全員の参加と協力が必要である. このようにして実施される品質管理を総合的品質管理 (Total Quality Management) または全社的品質管理 (Company-wide Quality Management) という.

 従来, 日本で行ってきた総合的品質管理はTQC (Total Quality Control) と称してきたが, 英語のcontrolはもともと基準と対照するという意味であり, 基準, 計画を設定する行為は含まれていない. TQCでは経営活動全般を扱うので, 日本でいう品質管理の意味を正しく伝えるにはQuality Managementと呼ぶべきであることが明らかになってきた. 既に欧米では, 日本での総合的品質管理をTQMと呼ぶのが一般的となった. また, 日本でTQCを推進する母体である(財)日本科学技術連盟が, 1996年にTQCからTQMへと呼称変更を宣言した. したがって, 最近では総合的品質管理をTQM(Total Quality Management)と呼ぶのが一般的である. 通常はTQCとTQMは同義語ととらえてよいが, TQMへの呼称変更にともない活動の枠組みを拡大する動きもある.

 経営科学・管理技術の方法論としてのTQMは, おおよそフィロソフィー, コア・マネジメントシステム, QC手法, 運用技術の4つから構成される.

 フィロソフィーとは, 品質管理を進める上での根底にある考え方で, 品質の意味の浸透, 全員参加, 改善, 後工程はお客様, 管理のサイクル (PDCAサイクル), プロセス管理, 事実に基づく管理, 人間性尊重などである. 品質という言葉は, 製品品質だけを指すのではなく, 仕事の質, 経営の質をも意味することが浸透しており, そのためにあらゆる業務の改善に品質管理が貢献するとの理解が得られてきた. また, 経験や勘だけに頼るのではなく, 科学的分析に基づいて問題解決を図ること, すなわち事実に基づく管理が強調されている. そのために, QC七つ道具, 実験計画法, 回帰分析, 多変量解析などの統計的方法や抜取検査, サンプリングなど統計理論に基づいた様々な技法が多用される. このことを強調するために, 戦後発展した品質管理を統計的品質管理 (Statistical Quality Control) と呼ぶことがある.

 コア・マネジメントシステムは, 品質を重視した経営を行い, 先のフィロソフィーを具現化するために活用される経営管理の仕組みである. 特に, 日常管理, 方針管理, 機能別管理は, その根幹をなす3本柱である. また, 品質を達成するための中核の仕組みとして品質保証システムがある. これには, 品質を保証するための体系, 組織とともに, 品質改善活動, 重要品質問題管理システム, 品質情報の活用などの具体的な活動が含まれる. さらに, 狭義の品質(製品・サービスの品質)のみならず, 原価, 量, 納期, 安全など製品・サービスに関わる広範な特性も管理の対象とし, 原価管理, 量・納期管理などの経営要素管理もTQMにおけるコア・マネジメントシステムの要素である.

 QC手法は, 問題解決, 課題達成において用いられる様々な技法である. 先に述べた統計手法はもちろん, 問題解決の方法論であるQCストーリー, 言語データを扱うための新QC七つ道具, 商品企画のための商品企画七つ道具, 戦略立案のための戦略立案七つ道具, 品質展開と品質表, FMEA, FTAを含む信頼性技法などが含まれる. この他にもOR, IE, VE/VAなどの技法もQC手法の仲間として活用することが多い.

 運用技術は, TQMを推進する上での様々な工夫である. TQM推進室のような組織の構築とともに, 提案制度, QCサークル, トップ診断, TQM診断, QCチームなど運動論として展開するための種々の制度がある. 中でもQCサークルは, 日本的TQMの発展のために多大な貢献があった. 品質管理の考え方の教育, 全員参加への意識づけに大きく寄与してきた. QCサークルは, ボランタリな活動が基本である. しかし, 近年は価値観の変化や労働条件の変化にともないボランタリで行うことが難しくなっており, TQMにおける位置づけも転機にきている.

 日本的TQMが発展してきたことには様々な理由があるが, 中でもデミング賞の果たした役割は大きかった. デミング賞は, 日本に対して品質管理の指導を行ったW.E.Deming博士の業績と友情を長く記念し, 日本の品質管理の一層の発展を図るために制定された賞である [2]. この賞に挑戦する企業が, TQMに取り組む過程を通じて, これまで述べたさまざまな経営管理システムや技法を生み出してきた. それが結果として日本の品質管理の水準を押し上げることになっている.

 1980年代にはデミング賞に挑戦する企業が非常に増えたが, バブル崩壊後, 1990年頃になって日本の企業の品質に対する意識が若干弱くなった感があった. これに対し, 再び品質に対する意識を呼び起こしたのがISO9000シリーズによる品質システム審査登録制度である. ISO9000シリーズは, 1987年に制定された品質管理および品質保証のためのシステムに関する一連の国際規格の総称である.

 ISO9000シリーズは, 作成当初は審査登録制度に使用することは意図されていなかった. 1980年代前半からEU(EC)の経済統合が議論されるようになり, 統一の一環としてCEマーク(Certificate of Europe)というEC域内での統一的な製品認証制度が整備されることになった. その制度の一部にISO9001, 9002, 9003に基づく第三者機関による品質システム審査登録制度が含まれていた. CEマークは, ヨーロッパで製品を販売するための強制力を持つ制度であったので, 品質システムの審査登録という新しい制度の整備がイギリスを中心に欧州各国で拡大し, 定着することとなった. そして, 次第に全世界へと広まっていったのである.

 日本での審査登録制度は, 1993年に開始された. 民間の審査登録機関が, 申請企業の審査および登録を行い, この審査登録機関の適格性を民間の認定機関が認定する. 日本では(財)日本適合性認定協会(略称JAB)が唯一の認定機関である. この制度は, 現在50カ国以上で制度化されており, 審査結果をお互いに認め合う各国認定機関同士の相互認証も進められつつある.

 ISO9000シリーズで規定されている品質システムの要求事項は, TQMのレベルよりはかなり低いminimum requirementである. しかし, 欧米的な品質保証の考え方を導入したという点で日本の企業に与えたインパクトは大きい. 日本的TQMとISO9000シリーズとの融合をどのように図っていくかが今後の課題になっている.



参考文献

[1] 日本工業規格JIS Z 8101-1981, 『品質管理用語』, 日本規格協会, 1981.

[2] 三浦新他編集, 『TQC用語辞典』, 日本規格協会, 1985.