《DEA(包絡分析法)》

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【でぃーいーえー (ほうらくぶんせきほう) (DEA(data envelopment analysis) 】

 事業体などの意思決定主体 (Decision Making Unit : 略してDMU}{DMU}と呼ばれる) の効率性を相対的に評価する手法として, 包絡分析法(Data Envelopment Analysis:略称DEA)は1978年にアメリカのテキサス大学のCharnes,Cooper and Rhodes [1] によって提案された. 支出と収入の比である収支率は経営効率性を見るための一つの尺度であり, 支出は収入を産み出すための入力, 収入はその結果としての出力とみるとき, 収入/支出(収支率の逆数)が大きい程, 効率が良いと言える. しかし, 入力や出力の数が増え, しかもそれらが必ずしも金額で計量できない場合には効率をどのように評価するか, 適切な尺度を考えなければならない. また, すべての項目が金額で測れるとしても例えば入力個々の出力に与える影響は異なっており, 単純に(出力の和)/(入力の和)で効率を測ることは適切でないことも多い. そのような場合に仮想的出力として出力の加重和をとり, 仮想的入力として入力の加重和をとってそれらの比で比較することが考えられる. 加重和を取るときに用いるウェイトに説得力を持たせる必要がある. DEAでは評価対象DMUにとって最も有利になるようにウェイトを決めることにしている. しかし, その最も有利になるウェイトを用いても他のDMUよりも仮想的出力/仮想的入力の値が小さければ, そのDMUは効率的でないといわれても仕方がない. このような考え方に基づいて分数計画問題CCR-IR (Charnes, Cooper and Rhodes'Input-oriented Ratio form)モデルおよびそれを線形計画問題に変換したCCRモデル [$CCR_P$ (主問題primal), $CCR_D$ (双対問題dual)モデル]が提案された [1]. Farrellは効率的な生産関数を「入力の組合せが与えられたときに完全に効率的な企業であれば達成するであろう出力」と定義した [2]. その考え方から得られる効率性得点をFarrellは技術的効率性と呼んだ [2]が, それはCCRモデルから得られる効率性得点と一致し, 効率性得点はファレルの効率尺度とも呼ばれる.

 $n$個の事業体(DMU)に関する$m$個の入力データ   \begin{math} X=(x_{ij})\in \mathbf{\mathrm{R}}^{m\times n} \end{math} と$s$個の出力データ \begin{math} Y=(y_{ij})\in \mathbf{\mathrm{R}}^{s\times n} \end{math}

をもとに着目DMU $J$(=1,2,...,$n$)の効率性を測定する$CCR_P$-I(入力指向)モデルは次のように定式化される(このほかの定式化についてはCCRモデル}{CCRモデル}を参照).

【$CCR_P$-I:入力指向】


\begin{eqnarray*} \mbox{min.} && \theta_{\mit{J}} \\ \mbox{s. t. } &&

  \theta_{J}x_{iJ}-\sum_{j=1}^{n} \lambda_{j}x_{ij} \geq 0 \ (i=1, 2,\ldots ,m),\\

&& y_{rJ}-\sum_{j=1}^{n} \lambda_{j}y_{rj} \leq 0 \ (r=1, 2, \ldots ,s), \\ && \lambda_{j} \geq 0 \ (j=1, 2, \ldots ,n). \end{eqnarray*}


 このモデルは入力に着目しており, DMU $J$ の入力が他と比べて大きく \begin{math} \tilde{x}_{ij}=\theta_{J}x_{ij} \; (\theta_{J}\leq 1) \end{math} に縮小したいとすると, 制約条件で規定される生産可能集合( \begin{math} \tilde{x}_{i}\geq \sum_{j=1}^{n} \lambda_{j}x_{ij} \end{math} と \begin{math} \tilde{y}_{r}\leq \sum_{j=1}^{n} \lambda_{j}y_{rj} \end{math} を満たす \begin{math} (\tilde{\bf x}, \tilde{\bf y}) \end{math}

の集合)内でどこまで$\theta_J$を小さくできるかということを考えている.

 しかし, 包絡分析法で用いられる入力変数や出力変数の中にはDMUが努力しても改善できないものがある. そのようなDMU自身で制御できない変数を制御不能変数}{制御不能変数}と呼び, それに対して努力により改善可能な変数を制御可能変数}{制御可能変数}と呼ぶ. 制御不能変数が存在する場合には入力, 出力変数に関する制御可能変数番号の集合を$X^C$, $Y^C$とし, 制御不能変数番号の集合を$X^{NC}$, $Y^{NC}$とすると, $CCR_P$-Iモデルは次のように修正される.

【制御不能変数を考慮するモデル】


\begin{eqnarray*} \mbox{min.} && \theta_{\mit{J}} \\ \mbox{ s. t. } &&

    \theta_{J}x_{iJ}-\sum_{j=1}^{n} \lambda_{j}x_{ij} \geq 0 \  (i\in X^{C}), \\

&& y_{rJ}-\sum_{j=1}^{n} \lambda_{j}y_{rj} \leq 0 \ (r\in Y^{C}), \\ && x_{iJ}\geq \sum_{j=1}^{n} \lambda_{j}x_{ij} \ (i\in X^{NC}), \\ && y_{rJ}\leq \sum_{j=1}^{n} \lambda_{j}y_{rj} \ (r\in Y^{NC}), \\ && \lambda_{j} \geq 0 \; (j=1, 2, \ldots ,n). \end{eqnarray*}


 $CCR_P$-Iモデルにおける解で$\lambda_j$が正となるDMU$j$はDMU $J$にとって見本とすべきDMUの集合であり, DMU $J$の参照集合と呼ばれる. DMU $J$の参照集合の活動の張る凸集合をDMU $J$に関する効率的フロンティアと呼ぶ. $CCR_P$-Iモデルの制約は$\theta_{J}x_{iJ}$, $y_{rJ}$が効率的フロンティアに包みこまれることを意味し, これがData Envelopment Analysis(包絡分析法)の由来となっている(すなわち, [3]では$CCR_P$-Iモデルを主問題と捕らえている[$CCR_P$-I の下付きの$P$]). またすべてのDMUの効率的フロンティアで形成される包絡面に包みこまれた領域が生産可能領域である. (包絡面全体を効率的フロンティアということもある. )

 DEAのモデルとしてはいろいろな拡張が試みられている. たとえば, 規模の収穫に着目したり, カテゴリ変数に対処できるモデル, コストを考慮したモデル, 仮想的入力・出力のウェイトに制約を付ける領域限定法, 時系列変化を扱うためのウィンドー分析などが提案されている [4, 5].



参考文献

[1] A. Charnes, W. W. Cooper and E. Rhodes, "Measuring Efficiency of Decision Making Units," European Journal of Operational Research, 2 (1978), 429-444.

[2] M. J. Farrell, "The Measurement of Productive Efficiency," Journal of the Royal Statistical Society, 120 (1957), 253-281.

[3] A. Charnes, W. W. Cooper, A. Y. Lewin and L. M. Seiford, Data Envelopment Analysis, Theory, Methodology and Applications, Kluwer Academic Publishers, 1994. 刀根薫, 上田徹 監訳, 『経営効率評価ハンドブック』, 朝倉書店, 2000.

[4] 刀根薫, 『経営効率性の測定と改善―包絡分析法DEAによる』, 日科技連, 1993.

[5] W. W. Cooper, L. M. Seiford and K. Tone, Data Envelopment Analysis, A Comprehensive Text with Models, Applications, References and DEA-Solver Software, Kluwer Academic Publishers, 1999.