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− | AHPの重要度ベクトルの導出法には, 固有ベクトル法と幾何平均法(対数最小2乗法)があるが, 対数最小二乗法の考えを大規模な問題に適用した手法が大規模AHPである. AHPでは, 一人の評価者が同一階層の評価項目(代替案)間を全一対比較する必要がある. しかし, 評価項目(代替案)の項目数$n$が多くなるにつれて, 莫大な労力と時間が必要となる. そこで大規模AHPでは次のような評価方法を提案している. | + | AHPの重要度ベクトルの導出法には, 固有ベクトル法と幾何平均法(対数最小2乗法)があるが, 対数最小二乗法の考えを大規模な問題に適用した手法が大規模AHPである. AHPでは, 一人の評価者が同一階層の評価項目(代替案)間を全一対比較する必要がある. しかし, 評価項目(代替案)の項目数$<math>n\, </math>$が多くなるにつれて, 莫大な労力と時間が必要となる. そこで大規模AHPでは次のような評価方法を提案している. |
− | + | '''「各評価者が相対評価できる評価項目(代替案)間のみに一対比較を行い, 一対比較による相対評価を行わない評価項目(代替案)間を許す. 相対評価された評価項目(代替案)間には一対比較値を割り当てる. 」''' | |
− | 大規模AHPでは, 一対比較ネットワークという考えを導入する. 一対比較ネットワークは, 次のように与える. 評価者は$L$人とし, このとき第$l$評価者が一対比較した評価項目(代替案)対の集合を, | + | 大規模AHPでは, 一対比較ネットワークという考えを導入する. 一対比較ネットワークは, 次のように与える. 評価者は$<math>L\, </math>$人とし, このとき第$<math>l\, </math>$評価者が一対比較した評価項目(代替案)対の集合を, |
− | + | <math>K_l=\{(i,j)|\, </math>代替案$<math>i,j(1 \le i<j \le n)\, </math>$は第$<math>l\, </math>$評価者によって一対比較された. <math>}\\, </math> | |
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+ | とする. 第$<math>l\, </math>$評価者が評価項目(代替案)$<math>i\, </math>$に対して, 評価項目(代替案)$<math>j\, </math>$を一対比較した場合, その一対比較値を$<math>a^l_{ij}\, </math>$とする. いずれかの評価者によって一対比較された評価項目(代替案)対の集合$<math>K\, </math>$は, $<math>K=\cup^L_{l=1}K_l\, </math>$であり, また, いずれの評価者からも一対比較されなかった評価項目(代替案)対の集合$<math>\bar{K}\, </math>$は, | ||
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− | + | <math>\bar{K}=\{(i,j)|1 \le i<j \le n\}\backslash K \]\, </math> | |
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− | + | である. $<math>\bar{K}\ne \phi\, </math>$であれば, 一対比較されなかった評価項目(代替案)の組が存在し, 逆も成り立つ. 大規模AHPでは各評価者が一対比較しない評価項目(代替案)間の存在も許すので, $<math>\bar{K}\ne \phi\, </math>$となる場合もありえる. ここで, ノードの集合を$<math>V=\{1,\ldots,n\}\, </math>$, エッジの集合を$<math>E\, </math>$としたグラフ$<math>G=(V,E)\, </math>$を一対比較ネットワークと定義する. | |
− | + | 第$<math>l_1\, </math>$評価者と第$<math>l_2(\ne l_1)\, </math>$評価者が重複して評価項目(代替案)$<math>i,j(i<j)\, </math>$を一対比較したならば, ネットワーク$<math>G\, </math>$で点$<math>i\, </math>$と点$<math>j\, </math>$を結ぶエッジは2本以上存在する. 従って一対比較ネットワーク$<math>G\, </math>$のエッジの数は, $<math>|E|=\sum^L_{l=1}|K_l|\geq |K|\, </math>$である. $<math>|K|<|E|\, </math>$であれば, ある評価項目(代替案)の組に対して重複評価が存在し, 逆も成り立つ. 一対比較ネットワーク$<math>G\, </math>$において, 任意のノードは全てのノードと直接または間接的に連結されている必要がある. | |
+ | 一対比較ネットワーク$<math>G\, </math>$において, エッジでノードが結ばれている関係を示す行列を, 接続行列(Connection Matrix)として$<math>C \in R^{n \times |E|}\, </math>$, 接続行列の列に割り当てられたエッジのならびに沿って, 各評価者の一対比較値を対数変換した値$<math>\tilde{a}^l_{ij}\, </math>$を並べたベクトルを, カットベクトル(Cut Vector)として$<math>\mbox{\boldmath$p$}$\, </math>とする. | ||
− | + | 大規模AHPでのウェイトベクトルの導出は, 誤差モデルを用いて, ウェイトベクトル$<math>\mbox{\boldmath$w$}\, </math>$をを対数変換した$<math>\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}\, </math>$推定することにより求められる. すなわち, | |
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+ | <math>\min \| C^{\top} \tilde{\mbox{\boldmath$w$}} - \mbox{\boldmath$p$} \|^2 =\min \sum_{l=1}^{L} \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n (\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}_i-\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}_j-\tilde{a}^l_{ij})^2\]\, </math> | ||
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− | + | を満足する$<math>\mbox{\boldmath$w$}\, </math>$を求める. いま<math>$\| \cdot \|\, </math>$を$<math>L_{2}\, </math>$ノルム(ユークリッドノルム)$<math>\| \cdot \|_2\, </math>$とすると, $<math>\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}\, </math>$は正規方程式の解として, 以下のように与えられる. | |
− | + | <math>CC^{\top}\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}=C\mbox{\boldmath$p$}\]\, </math> | |
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− | で与えられる. このとき$\mbox{\boldmath$e$}$は全ての要素が$1$のベクトル, $\alpha$は$\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}$を対数逆変換した$\mbox{\boldmath$w$}$の総和が$1$となるような実数である. | + | |
+ | しかし, 接続行列$<math>C\, </math>$のランクは$<math>r(C)=n-1\, </math>$であり, $<math>\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}\, </math>$の解は一意に決定されない. そこで一般化逆行列を用いて, | ||
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+ | <math>\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}=(CC^{\top}+\mbox{\boldmath$e$}\mbox{\boldmath$e$}^{\top})^{-1}C\mbox{\boldmath$p$}+\frac{\tilde{\alpha}}{n}\mbox{\boldmath$e$}\]\, </math> | ||
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+ | で与えられる. このとき<math>$\mbox{\boldmath$e$}\, </math>$は全ての要素が$<math>1\, </math>$のベクトル, $<math>\alpha\, </math>$は$<math>\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}\, </math>$を対数逆変換した$<math>\mbox{\boldmath$w$}\, </math>$の総和が$1$となるような実数である. | ||
2007年7月12日 (木) 21:49時点における版
【だいきぼAHP (large scale AHP) 】
大規模AHP (Large scale AHP)[1]とは, 複数の評価者を想定したAHPのモデルである. 通常のAHPとの違いは, 多数の代替案, 複数の評価者および欠落データを許している点である. つまり, 各評価者は多数の代替案に対し一対比較するのではなく, 相対評価できる代替案のみ一対比較するものである. AHPでは一人の評価者が全一対比較するため, 評価項目(代替案)の数を$$とすると, 一対比較の回数は$$回となり, 評価項目(代替案)の数が増加すると, 一対比較の回数が爆発的に増加する. 例えば, 評価項目が1階層で, 5個の評価項目の場合, $$回の一対比較を行う. さらに, 代替案が10個ある場合各評価項目に対し$$回の一対比較を行う必要がある. 合計すると, 235回の一対比較する必要がある. これは, かなり困難な作業である. 大規模AHPは, 複数の評価者が評価を行うことと欠落データを許すことにより, 1人の評価者が行う一対比較する作業を軽減することができる.
AHPの重要度ベクトルの導出法には, 固有ベクトル法と幾何平均法(対数最小2乗法)があるが, 対数最小二乗法の考えを大規模な問題に適用した手法が大規模AHPである. AHPでは, 一人の評価者が同一階層の評価項目(代替案)間を全一対比較する必要がある. しかし, 評価項目(代替案)の項目数$$が多くなるにつれて, 莫大な労力と時間が必要となる. そこで大規模AHPでは次のような評価方法を提案している.
「各評価者が相対評価できる評価項目(代替案)間のみに一対比較を行い, 一対比較による相対評価を行わない評価項目(代替案)間を許す. 相対評価された評価項目(代替案)間には一対比較値を割り当てる. 」
大規模AHPでは, 一対比較ネットワークという考えを導入する. 一対比較ネットワークは, 次のように与える. 評価者は$$人とし, このとき第$$評価者が一対比較した評価項目(代替案)対の集合を,
代替案$$は第$$評価者によって一対比較された. 構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle }\\, }
とする. 第$$評価者が評価項目(代替案)$$に対して, 評価項目(代替案)$$を一対比較した場合, その一対比較値を$$とする. いずれかの評価者によって一対比較された評価項目(代替案)対の集合$$は, $$であり, また, いずれの評価者からも一対比較されなかった評価項目(代替案)対の集合$$は,
構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \bar{K}=\{(i,j)|1 \le i<j \le n\}\backslash K \]\, }
である. $$であれば, 一対比較されなかった評価項目(代替案)の組が存在し, 逆も成り立つ. 大規模AHPでは各評価者が一対比較しない評価項目(代替案)間の存在も許すので, $$となる場合もありえる. ここで, ノードの集合を$$, エッジの集合を$$としたグラフ$$を一対比較ネットワークと定義する.
第$$評価者と第$$評価者が重複して評価項目(代替案)$$を一対比較したならば, ネットワーク$$で点$$と点$$を結ぶエッジは2本以上存在する. 従って一対比較ネットワーク$$のエッジの数は, $$である. $$であれば, ある評価項目(代替案)の組に対して重複評価が存在し, 逆も成り立つ. 一対比較ネットワーク$$において, 任意のノードは全てのノードと直接または間接的に連結されている必要がある.
一対比較ネットワーク$$において, エッジでノードが結ばれている関係を示す行列を, 接続行列(Connection Matrix)として$$, 接続行列の列に割り当てられたエッジのならびに沿って, 各評価者の一対比較値を対数変換した値$$を並べたベクトルを, カットベクトル(Cut Vector)として$構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \mbox{\boldmath$p$}$\, } とする.
大規模AHPでのウェイトベクトルの導出は, 誤差モデルを用いて, ウェイトベクトル$構文解析に失敗 (MathML、ただし動作しない場合はSVGかPNGで代替(最新ブラウザーや補助ツールに推奨): サーバー「https://en.wikipedia.org/api/rest_v1/」から無効な応答 ("Math extension cannot connect to Restbase."):): {\displaystyle \mbox{\boldmath$w$}\, } $をを対数変換した$構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \tilde{\mbox{\boldmath$w$}}\, } $推定することにより求められる. すなわち,
構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \min \| C^{\top} \tilde{\mbox{\boldmath$w$}} - \mbox{\boldmath$p$} \|^2 =\min \sum_{l=1}^{L} \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n (\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}_i-\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}_j-\tilde{a}^l_{ij})^2\]\, }
を満足する$構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \mbox{\boldmath$w$}\, }
$を求める. いま$を$$ノルム(ユークリッドノルム)$$とすると, $構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \tilde{\mbox{\boldmath$w$}}\, }
$は正規方程式の解として, 以下のように与えられる.
構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle CC^{\top}\tilde{\mbox{\boldmath$w$}}=C\mbox{\boldmath$p$}\]\, }
しかし, 接続行列$$のランクは$$であり, $構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \tilde{\mbox{\boldmath$w$}}\, }
$の解は一意に決定されない. そこで一般化逆行列を用いて,
構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \tilde{\mbox{\boldmath$w$}}=(CC^{\top}+\mbox{\boldmath$e$}\mbox{\boldmath$e$}^{\top})^{-1}C\mbox{\boldmath$p$}+\frac{\tilde{\alpha}}{n}\mbox{\boldmath$e$}\]\, }
で与えられる. このとき構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle $\mbox{\boldmath$e$}\, }
$は全ての要素が$$のベクトル, $$は$構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \tilde{\mbox{\boldmath$w$}}\, }
$を対数逆変換した$構文解析に失敗 (構文エラー): {\displaystyle \mbox{\boldmath$w$}\, }
$の総和が$1$となるような実数である.
参考文献
[1]} 八卷直一, 関谷和之, 「複数の評価者を想定した大規模なAHPの提案と人事評価への適用」, 『日本オペレーションズリサーチ学会論文誌』, 1999, 405-420.