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'''【けいえいもでる (management model) 】'''
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 [[経営モデル]]は, 企業の諸活動をモデル化したものである. 企業活動のモデル化に当たっては, 企業活動を外部的にとらえてモデル化する[[企業モデル]]と, 企業活動を内部的にとらえて, [[経営計画]]を策定するうえで想定する企業活動をモデル化して構築する[[経営計画モデル]]とがある. 経営計画には, 短期と長期のものがあるが, 短期計画に属する予算編成をベースにした[[予算編成モデル]]として構築される場合もある. こうしたモデルは, 予想される環境変化への計画の適応性を事前に評価したり, 策定した計画が環境変化に適応していたか否かを事後的に評価するといった[[計画評価]]にも用いられる.  
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 人間は限られた認知能力や処理能力しかないので, 組織の大規模化に伴い, 経営者は権限を委譲し, 分権化を行わざるを得なくなる. また大規模化しすぎると, 規模の利益が生じなくなる. それ故, 経営者は分権化に伴う調整の困難さや, コストを考慮に入れながら, どのタイプの組織構造を前提とした分権化を行うかを決定することになる. 大規模化に伴う分権化は, 全ての[[組織体]] (organization) に見られる. 分権化を行う理由として, (1)経営者の業務処理負担の軽減, (2)意思決定の適時性と迅速性, (3)業務の区分による計画と統制の容易性, (4)下位管理者や従業員の育成と動機づけ効果, 等が挙げられる. ただ分権化により調整問題が多くなり, しかもセクショナリズムに陥りやすいので, これを防ぐためには, 「決定面での分権化と統制面での集権化」が必要になる.  
  
 経営モデルは, 経営情報システムの展開に伴って発展してきた. 経営情報システムは, EDPS (electronic data processing system) に始まり, MIS (management information system) から DSS (decision support system) へと展開した. また一方では SIS  (strategic information system) へと発展していき, 今日 ERP (enterprise resource planning) という方向に発展してきている. そこで以下では, この発展と結び付けて経営モデルを説明することにする.  
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 近年の新しい動向については後述するが, 分権化の方式として, 職能別分権化と[[事業部制]] (divisionalization) がある. 前者は, 購買, 生産, 販売等の職能別に専門化した部門を責任単位として, 分権化を行う方式である. 後者は, 企業組織を製品別, 地域別あるいは得意先別に編成された事業部を利益責任単位(投資責任単位であることもある)とした分権管理組織である. この方式は連邦制分権化ともよばれ, これは各州が独立していながら, 連邦政府に統合されている状態によく似ていることによっている. 事業部は生産, 販売, 管理等の職能を統合し, 大幅な権限が委譲されている自主的な経営単位である. 事業部制は企業が多角化戦略を採り, 製品や市場が多様化している時, また環境が不確実である場合に有用である.  
  
(1) EDPS (electronic data processing system)
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 どちらの分権化方式が採用されたとしても, 部門や事業部の行動が全体的な最適化を導くように, [[分権管理]] (decentralized control) されなければならない. そのための1つの手段として, 社内振替価格}{社内振替価格}(intra-company transfer price)の利用がある. 職能別の各部門は本来, 原価責任か収益責任のどちらかしか持っていないが, 部門間取引を社内振替価格で評価することにより, 両方の責任を持つ利益責任単位として運営できる. これにより, 職能別部門が事業部の特徴を備えることになるので, この分権化方式を職能別事業部制ということもある. この場合の社内振替価格として競争市価によることもあるが, 原価プラス適正利潤によることが多い. しかしこの方法では, 生産部門の努力の如何にかかわらず一定の利益を保証することになるので, 努力の程度を反映しないことになる. これに対し, 事業部間取引では社内振替価格は競争市価によって決定されることが多く, 通常, 条件がよければ外部からの購入を許す忌避宣言権も認められている. これによって企業内に, 市場の価格メカニズムが導入されることになる. 競争市価を用いることによって, もし事業部の製品原価が競争市価より高ければ, 改善の必要性があると判断できる.  
 
 1960年代半ばに, 当時としては小型化されたコンピュータが IBM360 として発売された. このコンピュータを皮切りに, 企業に事務処理を自動化するためのシステムとしてコンピュータが普及していった, これがEDPSである.  
 
  
 EDPSの意義は, 手計算の事務処理をコンピュータに代替させることであった. 非常に煩雑だった給与計算や経理処理などをコンピュータに代替させ, 事務処理と報告書の作成とを自動的に行うことで, 事務の合理化を図ることにあった. この意味では, 現在でもEDPSの意義は十分あると考えられる. EDPSは, 少なくとも当時は汎用コンピュータであった. また, 事務処理というねらいからデータは過去のものに限られている. EDPSは基幹系の代替支援であり, 経営計画の立案に有用な経営モデルの構築ではなかった.  
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 分権管理の第2番目の手段は, 業績評価法を工夫することである. 職能別部門の業績評価では, 原価責任, 収益責任が果たされているかどうかを見るために, 原価額や収益額で評価される. 社内振替価格が設定され, 利益責任を持つ場合には, 利益額で評価される. [[事業部業績評価]] (divisional performance evaluation) は, 事業部を拡張あるいは縮小すべきかどうかのために行われる場合と, 事業部が全社的観点から望ましい活動を行ったかどうかの評価のために行われる. 前者の場合は正確なコスト・ビヘイビアーを反映した評価であること, 後者の場合は管理可能性を考慮した, 公平な原価配分による評価であることが重要である. ただ後者の場合, 管理可能性のみを重視した評価は, 自部門の業績の向上のみにとらわれることになり易く, あえて管理可能性に基づかない評価基準を設定することもある. 特に, 本社費配賦後の利益によって業績評価が行われる場合には, 公平な配賦が重要となる. しかしながら配賦基準としてどれを選ぶかによって, 事業部の行動が変わるので, 本社は[[本社費配賦]] (allocation of corporate expenses) を政策的に利用する場合もある. 事業部の権限が大きく投資責任を持っている場合には, 使用資本についても責任を持っているので, (事業部利益÷事業部資本)によって算定される事業部資本利益率で評価されることが多い. これに対し, 事業部が利益責任だけを負っている場合には, 事業部利益で評価される. ただ利益や利益率による評価だけでは, アフター・サービスの費用や, 社員の教育訓練費を削減したり, 利益率を増やすために必要な投資を押さえる等の行動に結びつきやすい. それ故, 近年では, 財務的な指標, 顧客関係の指標, 社内ビジネス・プロセスの指標, 革新と学習の指標をバランスよく達成することが将来的に重要であると認識されるにつれ, 多元的な尺度による評価の必要性が主張されている.  
  
(2)MIS (management information system)
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 分権管理の第3番目の手段は, 社内金利制度や社内資本金制度の利用である. ただ, これらの制度を利用している企業はあまり多くない. 社内金利制度は, 各事業部の社内借入金に対して, 社内金利を賦課する制度である. 社内資本金制度は, 事業部に社内資本金を割り当てることにより, 資本金の運用まで責任を負わせる方式である. また社内資本金を与える代価として, 社内配当金を納付させるようにしている. これらの制度を利用している事業部は投資責任を持っているので, 資本利益率を用いた評価が可能となる.  
 
 1960年代後半, EDPSで構築したシステムを単に事務処理に利用するだけでは無駄であり, 経営情報としての利用ができると考えられた. すなわち, いろいろな事務処理システムならびに業務処理システムを構築していき, これらを総合することで, 経営管理者の意思決定を代替できるはずであると考えられた. MISの登場である.  
 
  
 MISのねらいは, 経営管理者の問題を把握し, この問題を解決するためのモデルを構築し, 最適化を図っていくことにあった. たとえば, 予算編成モデルや経営計画モデルはこのタイプの経営モデルとして構築された. また, コンピュータ・ベースの計画評価の考え方も登場した. MISによって経営管理者の意思決定を全て代替できると考えられたからである. 経営管理者の意思決定には, 人間の判断に依存する部分があることを認識されていなかったからである. ここに, MISの失敗があったと考えられている.  
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 数理モデルを用いた分権管理についての研究もある. 例えば, 本社が事業部の制約条件を知らないとして, 両者の間でどのような情報交換を行えば全社的最適が達成されるかについて, ダンツィヒ・ウォルフ(D. B. Dantzig, P. Wolfe)の分解原理やコルナイ・リップタック(J. Kornai, TH. Liptak)の解法を利用した研究がある. これらの研究は理想的な状況における情報交換を考察することによって問題を整理し, 検討を通じて改善の糸口を見いだすことに役立つ.  
  
(3)DSS (decision support system)
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 近年, 事業部制以上に分権化の利点を追求するために, [[カンパニー制]] (company system) や持株会社制を導入する企業がある. カンパニー制は社外分社型のものを意味する場合もあるが, 一般的には社内分社制度の一形態である. もちろんそれに類似した制度も多くある. 各カンパニーは独立会社のように運営され, カンパニーのトップは全ての役員や従業員の人事権も持っている. 各カンパニーは利益のほかに資金も管理し, 社内資本金や社内金利も計上している. 巨額な設備投資の実行権限も認められている. 利益があれば社内配当し, 残額は社内留保される. また損失が生じても填補されないという特徴を持っている.  
 
 MISでは, 全ての経営問題がモデル構築できると考えられていた. また, 汎用コンピュータを前提として過去のデータを利用したモデル構築がなされた. その結果, 経営管理者の迅速な意思決定に応えたモデル構築ができず, また経営管理者がシミュレーションをしながら問題解決することができなかった. 経営管理者は, MISの下では, いくらコンピュータを用いても構造化できない問題は解決できなかったのである. ここに, 経営管理者がパソコンやワークステーションを前に, 意思決定支援するための情報システム構築をすべきであるというDSSが登場した.  
 
  
 DSSでは, コンピュータは経営管理者の代替物ではなく, 意思決定支援するものであると考えられるようになった. また, コンピュータが意思決定を支援できるのは, 半構造的な問題に対してであり, そこでは対話型のシステムがより効果的であるとされてきた. したがって, 経営計画モデルとしては, 特定の問題解決を支援するモデル構築がなされた.
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 持株会社制は, カンパニーが完全な独立性を持っていないのに対して, 完全な法的独立性を持った子会社や関連会社をつくり, 本社を持株会社とする方式である. 持株会社には事業持株会社もあるが, 1997年11月に純粋持株会社が解禁され, この方式を用いて完全な[[分社化]] (company split-up) を図る企業も現れている. 子会社や関連会社間の取引は, 全て対外取引となる. この方式では, M $\&$ A (merger $\&$ acquisition)によるグループ再編が容易になり, 経営の機動性が増すが, 会社間の資源配分の柔軟性や資金・人材の融通性が低下することになる. また, 持株会社化に伴う資産の譲渡課税や登録免許税がかさむという欠点もある. 連結納税制度も持株会社化に影響を与える要因である.
 
 
(4)SIS (strategic information system)
 
 
 DSSが意思決定支援に対して有用性であるにもかかわらず, 1980年代になるとDSSは次第に姿を消していった. 経営管理者自らが, その要求に応えたモデル構築をするほど情報システムに費やす時間もなければ, 容易に構築できるソフトもなかったからである.他にも理由はいくつか考えられるが,最も大きな理由は, DSSでは戦略的情報システムを構築できなかった点であろう.
 
 
 
 すなわち, 飛行機の座席予約システムを構築することで他の航空機会社から顧客を奪っていったというアメリカン航空の例に代表されるように, 顧客サービスのシステム構築が, 戦略的に重要な情報の武器となったからである. またPOSデータを売上集計だけでなく店舗管理に利用したり, 生産計画へと結びつけたり, さらにはPOSデータから顧客ニーズをつかみ商品開発に用いる企業もある. このように販売, 生産, 開発を統合した情報システムを構築することは, 戦略的に有効であると考えられるようになった. ここに戦略的情報システム(SIS)が求められる理由がある. 今日でも, SISの重要性は変わってはいない.
 
 
 
(5)ERP (enterprise resource planning)
 
 
 SISは, 汎用コンピュータによる情報システムを前提にしていたため, ソフトウェアの構築に相当の金額を費やしていた. 1990年代になると, クライアント・サーバー(c/s)型の統合パッケージ・ソフト, すなわちERPによる情報システムの構築が行われるようになってきた. たとえば, R/3やOracleといったアプリケーションによる標準的経営モデルの利用である. パッケージ・ソフトが利用できるということは, ソフトの金額を大幅に削減できる. この利点がある反面, 業務をパッケージ・ソフトに合わせたり, コンサルティングによる業務分析を必要とする点などがERP普及の足枷となっている. SISやERPは経営計画のモデルではないが, 環境変化が激しい状況においては, 現状を把握するものとして戦略的に利用されるとともに業務改善にも用いられている.
 

2007年7月10日 (火) 11:15時点における版

【ぶんけんかんり (decentralized control) 】

 人間は限られた認知能力や処理能力しかないので, 組織の大規模化に伴い, 経営者は権限を委譲し, 分権化を行わざるを得なくなる. また大規模化しすぎると, 規模の利益が生じなくなる. それ故, 経営者は分権化に伴う調整の困難さや, コストを考慮に入れながら, どのタイプの組織構造を前提とした分権化を行うかを決定することになる. 大規模化に伴う分権化は, 全ての組織体 (organization) に見られる. 分権化を行う理由として, (1)経営者の業務処理負担の軽減, (2)意思決定の適時性と迅速性, (3)業務の区分による計画と統制の容易性, (4)下位管理者や従業員の育成と動機づけ効果, 等が挙げられる. ただ分権化により調整問題が多くなり, しかもセクショナリズムに陥りやすいので, これを防ぐためには, 「決定面での分権化と統制面での集権化」が必要になる.

 近年の新しい動向については後述するが, 分権化の方式として, 職能別分権化と事業部制 (divisionalization) がある. 前者は, 購買, 生産, 販売等の職能別に専門化した部門を責任単位として, 分権化を行う方式である. 後者は, 企業組織を製品別, 地域別あるいは得意先別に編成された事業部を利益責任単位(投資責任単位であることもある)とした分権管理組織である. この方式は連邦制分権化ともよばれ, これは各州が独立していながら, 連邦政府に統合されている状態によく似ていることによっている. 事業部は生産, 販売, 管理等の職能を統合し, 大幅な権限が委譲されている自主的な経営単位である. 事業部制は企業が多角化戦略を採り, 製品や市場が多様化している時, また環境が不確実である場合に有用である.

 どちらの分権化方式が採用されたとしても, 部門や事業部の行動が全体的な最適化を導くように, 分権管理 (decentralized control) されなければならない. そのための1つの手段として, 社内振替価格}{社内振替価格}(intra-company transfer price)の利用がある. 職能別の各部門は本来, 原価責任か収益責任のどちらかしか持っていないが, 部門間取引を社内振替価格で評価することにより, 両方の責任を持つ利益責任単位として運営できる. これにより, 職能別部門が事業部の特徴を備えることになるので, この分権化方式を職能別事業部制ということもある. この場合の社内振替価格として競争市価によることもあるが, 原価プラス適正利潤によることが多い. しかしこの方法では, 生産部門の努力の如何にかかわらず一定の利益を保証することになるので, 努力の程度を反映しないことになる. これに対し, 事業部間取引では社内振替価格は競争市価によって決定されることが多く, 通常, 条件がよければ外部からの購入を許す忌避宣言権も認められている. これによって企業内に, 市場の価格メカニズムが導入されることになる. 競争市価を用いることによって, もし事業部の製品原価が競争市価より高ければ, 改善の必要性があると判断できる.

 分権管理の第2番目の手段は, 業績評価法を工夫することである. 職能別部門の業績評価では, 原価責任, 収益責任が果たされているかどうかを見るために, 原価額や収益額で評価される. 社内振替価格が設定され, 利益責任を持つ場合には, 利益額で評価される. 事業部業績評価 (divisional performance evaluation) は, 事業部を拡張あるいは縮小すべきかどうかのために行われる場合と, 事業部が全社的観点から望ましい活動を行ったかどうかの評価のために行われる. 前者の場合は正確なコスト・ビヘイビアーを反映した評価であること, 後者の場合は管理可能性を考慮した, 公平な原価配分による評価であることが重要である. ただ後者の場合, 管理可能性のみを重視した評価は, 自部門の業績の向上のみにとらわれることになり易く, あえて管理可能性に基づかない評価基準を設定することもある. 特に, 本社費配賦後の利益によって業績評価が行われる場合には, 公平な配賦が重要となる. しかしながら配賦基準としてどれを選ぶかによって, 事業部の行動が変わるので, 本社は本社費配賦 (allocation of corporate expenses) を政策的に利用する場合もある. 事業部の権限が大きく投資責任を持っている場合には, 使用資本についても責任を持っているので, (事業部利益÷事業部資本)によって算定される事業部資本利益率で評価されることが多い. これに対し, 事業部が利益責任だけを負っている場合には, 事業部利益で評価される. ただ利益や利益率による評価だけでは, アフター・サービスの費用や, 社員の教育訓練費を削減したり, 利益率を増やすために必要な投資を押さえる等の行動に結びつきやすい. それ故, 近年では, 財務的な指標, 顧客関係の指標, 社内ビジネス・プロセスの指標, 革新と学習の指標をバランスよく達成することが将来的に重要であると認識されるにつれ, 多元的な尺度による評価の必要性が主張されている.

 分権管理の第3番目の手段は, 社内金利制度や社内資本金制度の利用である. ただ, これらの制度を利用している企業はあまり多くない. 社内金利制度は, 各事業部の社内借入金に対して, 社内金利を賦課する制度である. 社内資本金制度は, 事業部に社内資本金を割り当てることにより, 資本金の運用まで責任を負わせる方式である. また社内資本金を与える代価として, 社内配当金を納付させるようにしている. これらの制度を利用している事業部は投資責任を持っているので, 資本利益率を用いた評価が可能となる.

 数理モデルを用いた分権管理についての研究もある. 例えば, 本社が事業部の制約条件を知らないとして, 両者の間でどのような情報交換を行えば全社的最適が達成されるかについて, ダンツィヒ・ウォルフ(D. B. Dantzig, P. Wolfe)の分解原理やコルナイ・リップタック(J. Kornai, TH. Liptak)の解法を利用した研究がある. これらの研究は理想的な状況における情報交換を考察することによって問題を整理し, 検討を通じて改善の糸口を見いだすことに役立つ.

 近年, 事業部制以上に分権化の利点を追求するために, カンパニー制 (company system) や持株会社制を導入する企業がある. カンパニー制は社外分社型のものを意味する場合もあるが, 一般的には社内分社制度の一形態である. もちろんそれに類似した制度も多くある. 各カンパニーは独立会社のように運営され, カンパニーのトップは全ての役員や従業員の人事権も持っている. 各カンパニーは利益のほかに資金も管理し, 社内資本金や社内金利も計上している. 巨額な設備投資の実行権限も認められている. 利益があれば社内配当し, 残額は社内留保される. また損失が生じても填補されないという特徴を持っている.

 持株会社制は, カンパニーが完全な独立性を持っていないのに対して, 完全な法的独立性を持った子会社や関連会社をつくり, 本社を持株会社とする方式である. 持株会社には事業持株会社もあるが, 1997年11月に純粋持株会社が解禁され, この方式を用いて完全な分社化 (company split-up) を図る企業も現れている. 子会社や関連会社間の取引は, 全て対外取引となる. この方式では, M $\&$ A (merger $\&$ acquisition)によるグループ再編が容易になり, 経営の機動性が増すが, 会社間の資源配分の柔軟性や資金・人材の融通性が低下することになる. また, 持株会社化に伴う資産の譲渡課税や登録免許税がかさむという欠点もある. 連結納税制度も持株会社化に影響を与える要因である.