「《大規模AHP》」の版間の差分
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− | [[大規模AHP]] (Large scale AHP)[1]とは, 複数の評価者を想定したAHPのモデルである. 通常のAHPとの違いは, 多数の代替案, 複数の評価者および欠落データを許している点である. つまり, 各評価者は多数の代替案に対し一対比較するのではなく, 相対評価できる代替案のみ一対比較するものである. AHPでは一人の評価者が全一対比較するため, 評価項目(代替案)の数を | + | [[大規模AHP]] (Large scale AHP)[1]とは, 複数の評価者を想定したAHPのモデルである. 通常のAHPとの違いは, 多数の代替案, 複数の評価者および欠落データを許している点である. つまり, 各評価者は多数の代替案に対し一対比較するのではなく, 相対評価できる代替案のみ一対比較するものである. AHPでは一人の評価者が全一対比較するため, 評価項目(代替案)の数を<math>n\, </math>とすると, 一対比較の回数は<math>n(n-1)/2\, </math>回となり, 評価項目(代替案)の数が増加すると, 一対比較の回数が爆発的に増加する. 例えば, 評価項目が1階層で, 5個の評価項目の場合, <math>5 \times (5-1)/2=10\, </math>回の一対比較を行う. さらに, 代替案が10個ある場合各評価項目に対し<math>10 \times (10-1)/2=45\, </math>回の一対比較を行う必要がある. 合計すると, 235回の一対比較する必要がある. これは, かなり困難な作業である. 大規模AHPは, 複数の評価者が評価を行うことと欠落データを許すことにより, 1人の評価者が行う一対比較する作業を軽減することができる. |
− | AHPの重要度ベクトルの導出法には, 固有ベクトル法と幾何平均法(対数最小2乗法)があるが, 対数最小二乗法の考えを大規模な問題に適用した手法が大規模AHPである. AHPでは, 一人の評価者が同一階層の評価項目(代替案)間を全一対比較する必要がある. しかし, 評価項目(代替案)の項目数 | + | AHPの重要度ベクトルの導出法には, 固有ベクトル法と幾何平均法(対数最小2乗法)があるが, 対数最小二乗法の考えを大規模な問題に適用した手法が大規模AHPである. AHPでは, 一人の評価者が同一階層の評価項目(代替案)間を全一対比較する必要がある. しかし, 評価項目(代替案)の項目数<math>n\, </math>が多くなるにつれて, 莫大な労力と時間が必要となる. そこで大規模AHPでは次のような評価方法を提案している. |
'''「各評価者が相対評価できる評価項目(代替案)間のみに一対比較を行い, 一対比較による相対評価を行わない評価項目(代替案)間を許す. 相対評価された評価項目(代替案)間には一対比較値を割り当てる. 」''' | '''「各評価者が相対評価できる評価項目(代替案)間のみに一対比較を行い, 一対比較による相対評価を行わない評価項目(代替案)間を許す. 相対評価された評価項目(代替案)間には一対比較値を割り当てる. 」''' | ||
− | 大規模AHPでは, 一対比較ネットワークという考えを導入する. 一対比較ネットワークは, 次のように与える. 評価者は | + | 大規模AHPでは, 一対比較ネットワークという考えを導入する. 一対比較ネットワークは, 次のように与える. 評価者は<math>L\, </math>人とし, このとき第<math>l\, </math>評価者が一対比較した評価項目(代替案)対の集合を, |
− | <math>K_l=\{(i,j)|\, </math>代替案 | + | <center><math>K_l=\{(i,j)|\, </math>代替案<math>i,j(1 \le i<j \le n)\, </math>は第<math>l\, </math>評価者によって一対比較された. <math>\} \, </math></center> |
− | とする. 第 | + | とする. 第<math>l\, </math>評価者が評価項目(代替案)<math>i\, </math>に対して, 評価項目(代替案)<math>j\, </math>を一対比較した場合, その一対比較値を<math>a^l_{ij}\, </math>とする. いずれかの評価者によって一対比較された評価項目(代替案)対の集合<math>K\, </math>は, <math>K=\cup^L_{l=1}K_l\, </math>であり, また, いずれの評価者からも一対比較されなかった評価項目(代替案)対の集合<math>\bar{K}\, </math>は, |
− | <math>\bar{K}=\{(i,j)|1 \le i<j \le n\}\backslash K | + | <center><math>\bar{K}=\{(i,j)|1 \le i<j \le n\}\backslash K \, </math></center> |
− | である. | + | である. <math>\bar{K}\ne \phi\, </math>であれば, 一対比較されなかった評価項目(代替案)の組が存在し, 逆も成り立つ. 大規模AHPでは各評価者が一対比較しない評価項目(代替案)間の存在も許すので, <math>\bar{K}\ne \phi\, </math>となる場合もありえる. ここで, ノードの集合を<math>V=\{1,\ldots,n\}\, </math>, エッジの集合を<math>E\, </math>としたグラフ<math>G=(V,E)\, </math>を一対比較ネットワークと定義する. |
− | 第 | + | 第<math>l_1\, </math>評価者と第<math>l_2(\ne l_1)\, </math>評価者が重複して評価項目(代替案)<math>i,j(i<j)\, </math>を一対比較したならば, ネットワーク<math>G\, </math>で点<math>i\, </math>と点<math>j\, </math>を結ぶエッジは2本以上存在する. 従って一対比較ネットワーク<math>G\, </math>のエッジの数は, <math>\textstyle |E|=\sum^L_{l=1}|K_l|\geq |K|\, </math>である. <math>|K|<|E|\, </math>であれば, ある評価項目(代替案)の組に対して重複評価が存在し, 逆も成り立つ. 一対比較ネットワーク<math>G\, </math>において, 任意のノードは全てのノードと直接または間接的に連結されている必要がある. |
− | 一対比較ネットワーク | + | 一対比較ネットワーク<math>G\, </math>において, エッジでノードが結ばれている関係を示す行列を, 接続行列(Connection Matrix)として<math>C \in R^{n \times |E|}\, </math>, 接続行列の列に割り当てられたエッジのならびに沿って, 各評価者の一対比較値を対数変換した値<math>\tilde{a}^l_{ij}\, </math>を並べたベクトルを, カットベクトル(Cut Vector)として<math>\boldsymbol{p}\, </math>とする. |
− | 大規模AHPでのウェイトベクトルの導出は, 誤差モデルを用いて, ウェイトベクトル | + | 大規模AHPでのウェイトベクトルの導出は, 誤差モデルを用いて, ウェイトベクトル<math>\boldsymbol{w}\, </math>をを対数変換した<math>\tilde{\boldsymbol{w}}\, </math>推定することにより求められる. すなわち, |
− | <math>\min \| C^{\top} \tilde{\ | + | <center><math>\min \| C^{\top} \tilde{\boldsymbol{w}} - \boldsymbol{p} \|^2 =\min \sum_{l=1}^{L} \sum_{i=1}^n \sum_{j=1}^n (\tilde{\boldsymbol{w}}_i-\tilde{\boldsymbol{w}}_j-\tilde{a}^l_{ij})^2 \, </math></center> |
− | を満足する | + | を満足する<math>\boldsymbol{w}\, </math>を求める. いま<math>\| \cdot \|\, </math>を<math>L_{2}\, </math>ノルム(ユークリッドノルム)<math>\| \cdot \|_2\, </math>とすると, <math>\tilde{\boldsymbol{w}}\, </math>は正規方程式の解として, 以下のように与えられる. |
− | <math>CC^{\top}\tilde{\ | + | <center><math>CC^{\top}\tilde{\boldsymbol{w}}=C\boldsymbol{p} \, </math></center> |
− | しかし, 接続行列 | + | しかし, 接続行列<math>C\, </math>のランクは<math>r(C)=n-1\, </math>であり, <math>\tilde{\boldsymbol{w}}\, </math>の解は一意に決定されない. そこで一般化逆行列を用いて, |
− | <math>\tilde{\ | + | <center><math>\tilde{\boldsymbol{w}}=(CC^{\top}+\boldsymbol{e}\boldsymbol{e}^{\top})^{-1}C\boldsymbol{p}+\frac{\tilde{\alpha}}{n}\boldsymbol{e} \, </math></center> |
− | で与えられる. このとき<math> | + | で与えられる. このとき<math>\boldsymbol{e}\, </math>は全ての要素が<math>1\, </math>のベクトル, <math>\alpha\, </math>は<math>\tilde{\boldsymbol{w}} \, </math>を対数逆変換した<math>\boldsymbol{w}\, </math>の総和が1となるような実数である. |
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− | [1] | + | [1] 八卷直一, 関谷和之, 「複数の評価者を想定した大規模なAHPの提案と人事評価への適用」, 『日本オペレーションズリサーチ学会論文誌』, 1999, 405-420. |
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+ | [[category:AHP(階層的意思決定法)|だいきぼえいえいちぴー]] |
2007年8月7日 (火) 17:08時点における最新版
【だいきぼAHP (large scale AHP) 】
大規模AHP (Large scale AHP)[1]とは, 複数の評価者を想定したAHPのモデルである. 通常のAHPとの違いは, 多数の代替案, 複数の評価者および欠落データを許している点である. つまり, 各評価者は多数の代替案に対し一対比較するのではなく, 相対評価できる代替案のみ一対比較するものである. AHPでは一人の評価者が全一対比較するため, 評価項目(代替案)の数をとすると, 一対比較の回数は回となり, 評価項目(代替案)の数が増加すると, 一対比較の回数が爆発的に増加する. 例えば, 評価項目が1階層で, 5個の評価項目の場合, 回の一対比較を行う. さらに, 代替案が10個ある場合各評価項目に対し回の一対比較を行う必要がある. 合計すると, 235回の一対比較する必要がある. これは, かなり困難な作業である. 大規模AHPは, 複数の評価者が評価を行うことと欠落データを許すことにより, 1人の評価者が行う一対比較する作業を軽減することができる.
AHPの重要度ベクトルの導出法には, 固有ベクトル法と幾何平均法(対数最小2乗法)があるが, 対数最小二乗法の考えを大規模な問題に適用した手法が大規模AHPである. AHPでは, 一人の評価者が同一階層の評価項目(代替案)間を全一対比較する必要がある. しかし, 評価項目(代替案)の項目数が多くなるにつれて, 莫大な労力と時間が必要となる. そこで大規模AHPでは次のような評価方法を提案している.
「各評価者が相対評価できる評価項目(代替案)間のみに一対比較を行い, 一対比較による相対評価を行わない評価項目(代替案)間を許す. 相対評価された評価項目(代替案)間には一対比較値を割り当てる. 」
大規模AHPでは, 一対比較ネットワークという考えを導入する. 一対比較ネットワークは, 次のように与える. 評価者は人とし, このとき第評価者が一対比較した評価項目(代替案)対の集合を,
とする. 第評価者が評価項目(代替案)に対して, 評価項目(代替案)を一対比較した場合, その一対比較値をとする. いずれかの評価者によって一対比較された評価項目(代替案)対の集合は, であり, また, いずれの評価者からも一対比較されなかった評価項目(代替案)対の集合は,
である. であれば, 一対比較されなかった評価項目(代替案)の組が存在し, 逆も成り立つ. 大規模AHPでは各評価者が一対比較しない評価項目(代替案)間の存在も許すので, となる場合もありえる. ここで, ノードの集合を, エッジの集合をとしたグラフを一対比較ネットワークと定義する.
第評価者と第評価者が重複して評価項目(代替案)を一対比較したならば, ネットワークで点と点を結ぶエッジは2本以上存在する. 従って一対比較ネットワークのエッジの数は, である. であれば, ある評価項目(代替案)の組に対して重複評価が存在し, 逆も成り立つ. 一対比較ネットワークにおいて, 任意のノードは全てのノードと直接または間接的に連結されている必要がある.
一対比較ネットワークにおいて, エッジでノードが結ばれている関係を示す行列を, 接続行列(Connection Matrix)として, 接続行列の列に割り当てられたエッジのならびに沿って, 各評価者の一対比較値を対数変換した値を並べたベクトルを, カットベクトル(Cut Vector)としてとする.
大規模AHPでのウェイトベクトルの導出は, 誤差モデルを用いて, ウェイトベクトルをを対数変換した推定することにより求められる. すなわち,
を満足するを求める. いまをノルム(ユークリッドノルム)とすると, は正規方程式の解として, 以下のように与えられる.
しかし, 接続行列のランクはであり, の解は一意に決定されない. そこで一般化逆行列を用いて,
で与えられる. このときは全ての要素がのベクトル, はを対数逆変換したの総和が1となるような実数である.
参考文献
[1] 八卷直一, 関谷和之, 「複数の評価者を想定した大規模なAHPの提案と人事評価への適用」, 『日本オペレーションズリサーチ学会論文誌』, 1999, 405-420.