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'''【こうきょうせいさく (public policy) 】'''
 
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=== 概要 ===
 
公共部門における意思決定が公共政策となる. どのような政策が望ましいかという問題は関連する多くの集団の価値観, 利害関係も異なるため, 非常に難しい問題となる. 政策決定に際しては, 集団の評価基準も住民の便益, 効用, 行政の効率, 政策の効率, 公平性, 平等性など様々なものが考えられ, いろいろな制約が加わることも多い. どのような意思決定が最も合理的かつ最適かといった問題は非常に重要である.
 
公共部門における意思決定が公共政策となる. どのような政策が望ましいかという問題は関連する多くの集団の価値観, 利害関係も異なるため, 非常に難しい問題となる. 政策決定に際しては, 集団の評価基準も住民の便益, 効用, 行政の効率, 政策の効率, 公平性, 平等性など様々なものが考えられ, いろいろな制約が加わることも多い. どのような意思決定が最も合理的かつ最適かといった問題は非常に重要である.
  
詳しくは[[《公共政策OR-I》|基礎編:公共政策OR-I]],[[《公共政策OR-II》|基礎編:公共政策OR-II]]を参照.
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=== 詳説 ===
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 OR理論の応用については, その発生からの流れとして, 軍事部門から企業における経営を中心とする民間部門, そして公共部門へという大きな流れがある. 公共部門における政策分析の道具としてのOR理論, 手法の応用はかなり長い歴史を有しており, ORの誕生あるいはそれ以前からすでに存在していたといってもよいであろう. 民間部門における意思決定では利潤の最大化, 効率の最大化, あるいは費用の最小化などが一般的であるのに対して, 公共部門における意思決定は一般国民, あるいは公務員, 官僚による行政機関, あるいはまた国民の代表者である政治家からなる立法機関等によって行われるという点が大きな違いである. 公共部門における意思決定は[[公共政策]]として表現される. どのようにして政策を決定すればよいか, あるいはどのような政策が望ましいかという問題は関連する多くの集団の価値観, 利害関係も異なるため, 非常に難しい問題となることが多い. したがってそれぞれの集団の評価基準も住民の便益, 効用, 行政の効率, 政策の効率, 公平性, 平等性など実にさまざまなものが考えられる. また政策決定に際しては, 状況によっていろいろな制約が加わることが多い. このような中で意思決定をどのように行えばよいか, あるいはどのような意思決定が最も合理的かつ最適かといった問題は非常に重要である. 政策の決定, 作成, 実施, 評価の諸過程において, 統計, OR, システム分析, 情報科学等の理論, 手法に基づいてデータ, モデルを用いて種々の分析を行うことを一般に[[政策分析]]と呼ぶ. [[政策評価]]は政策を定量的に評価, 分析するという意味で政策分析の一分野である. 公共部門におけるOR理論の応用は種々の公共政策の決定過程で現れることが多く, 最適政策の決定が必要とされる. 代表的な分野としては, 交通・輸送, 施設配置, 政治・行政, 裁判・犯罪, 漁業・農業・森林, 環境・エネルギー, 医療などをはじめとして実に多くの分野が考えられる.
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 交通・輸送部門では, 初期の代表的な研究としてニューヨーク交通局が実施した橋やトンネルの交通量, スタッフ配置などに関する待ち行列理論を用いたものがある. その後も交通・輸送のネットワークにおける非常に多種にわたる数多くの問題が最適化手法あるいはシミュレーション手法によって解かれている([[交通政策]]). 交通問題としては, かなり古い歴史を有する鉄道, 航空機, 自動車等に関する交通需要予測, 新設あるいは増設道路に関するプロジェクト選択などが主要な問題として解決が図られている. 輸送問題に対しては, あらゆる物資, 情報, 人員等の最適輸送を求める問題が解かれている.
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 [[公共施設配置問題]]はORの分野において古い歴史を有しているが, 多くの場合, それに伴って人員, 物資, 資源などを最適配分するという問題も生じるために資源配分問題と同時に解かれることが多く, より一般的に配置配分問題と呼ばれ, 長い年月にわたって多くの研究者の関心の的となっている. 公共的な施設の最適配置を考える場合, 評価基準として何を設定すればよいかは重要な問題となる.
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 原子力発電プラント, 有害廃棄物あるいは放射性廃棄物の処理施設, 危険廃棄物貯蔵施設などの有害施設の最適配置を決定する[[危険施設配置問題]]も公共政策分析としてOR理論, 手法が盛んに用いられてきている. このような問題に適用されるモデル分析手法として, いくつかのリスク緩和策の中で何が有効かを決定するために社会便益総額を最大化するものを効用関数を用いて求める最適化モデルがある. 有害施設, 危険施設の配置問題は立地案の住民による受け入れ可能性, 費用, 補償, 便益, リスク等の関連する多くの要因を考慮しなければならないということから多属性効用モデルの適用もなされている.
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 [[裁判研究のOR]]あるいは犯罪の分野における数学的な分析は1960年代に米国において犯罪件数が増大したのに伴って行われ, 司法裁判システムの運用に関する問題が大統領委員会のもとでも詳細に検討され, この分野におけるORの将来の研究の方向付けが示された. 犯罪者に関する研究は1970年代から80年代にかけてかなり積極的に行われ, 待ち行列理論を中心とする確率モデルに基づく犯罪者行動の分析, そして警察, 検察, 矯正機関等の運用管理にOR手法を用いることが活発に行われ, 信頼性理論あるいは確率理論が犯罪常習者の行動タイプの分析に用いられた. 個人が犯罪を犯す確率をポアソン過程のパラメータとして一定期間内の犯罪率, 逮捕率等を説明したのは画期的なアプローチであった. 1980年代には, 犯罪者の年齢, 発生地域, 再犯率などと警察官のパトロール活動との関係を確率モデルを用いて統計的に分析した成果が数多く得られた. また死刑の効果についての統計的な分析に関する議論も長期にわたって活発に行われた.
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 環境・エネルギーの分野における応用が活発に行われるようになったのは1970年代初頭にForrester, Meadowsらがローマクラブとして人口の拡大, 天然資源の浪費が続けば破滅的な結果に至るということをシミュレーションモデル(システムダイナミックス)を用いて警告し, いわゆる第一次エネルギー危機が勃発した頃からである. その後米国, そしてわが国においてもエネルギーの効率的利用, 省エネルギーの促進, 硫黄酸化物, 窒素酸化物排出量の削減等による環境問題への考慮をモデルに導入した分析が非常に数多くなされた. その後は枯渇性資源の有効利用, 化石燃料の大量消費による二酸化炭素排出量削減等を考慮したモデル([[資源管理モデル]])が開発され, 国連による地球温暖化防止条約締結のための政策資料提供や世界資源研究所等による分析が行われている.
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 [[医療政策]]の分野におけるORの応用としては, 1970年代に緊急医療システムの効率性の改善, 血液銀行の管理問題, 保健サービス計画と運用問題等へのOR手法の応用などが活発に行われた. 疾病検査と調査にモデルを用いることも一般化しているが, 医療における意思決定は主としてOR理論と手法の応用によって可能となったといえよう.
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 [[保健ケア]]実施問題の分析にORの手法を適用することは非常に時宜を得た課題である. 保健ケアシステムの設計と立案の問題は主として国あるいは地方政府のレベルで発生する. 保健ケアサービスの地域化はシステム立案の重要な構成要因である. 地域化によってサービスの配分はより効率的となり, 保健ケアシステムの費用あるいは質も改善される. 保健ケア管理においてORモデルを実行するには, 管理情報システム(MIS)が必要とされる. 医療の意思決定とモデルに基づく支援システムを組み合わせると, MISは意思決定の感度, 患者に対するケアの質, 生産性等を改善する可能性を持っている. 管理とケア実施に関するいろいろなレベルの機関が意思決定を作成し, 支援するために, 統計学, OR, 管理科学, エキスパートシステム等の手法を用いたモデルが構築されている. [[病院管理]], 運営に関する決定としては, 給与会計システム, 予算の立案分析, 入院と退院と転院(ADT)のシステム, 外科とリハビリ室のスケジュール, 看護婦の配置とスケジュール, 外来患者のスケジュールと予約システム, 購入と在庫管理と維持管理, 管理部門の人事システム, 患者の医療管理, [[医療政策]]などが含まれる. 人的資源の管理は保健ケア組織の主要業務である. 人件費は通常運営費の大半を占めているので, この分野は将来より一層重要になっていくであろう.
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 スポーツの問題に対するOR/MSの応用([[スポーツのOR]])は50年代からで, 線形計画法や期待効用分析, 動的計画法, 制御理論, 組合せ理論, ゲーム理論などのOR/MS技法の理論的進歩を反映している. 初期における応用例の多くは野球であった. 様々なスポーツに関わるスケジューリングやルールづくり, トーナメントの組立て, あるいは公平性の問題が70年代から研究された. スポーツに対するOR/MSの関心は70年代半ばにピークを迎えた. 最近における研究の方向としては, 純粋に統計的な問題, ミクロ経済的側面, 交渉問題(野球における調停), スポーツに関するビジネス的な意思決定, マーケティングの問題, コーチング技術, ギャンブルに関連することなどがある. 将来の研究の方向としては, 新たなルール変更, 新たなトーナメント方式, いくつかの国で広まる新たなスポーツ等によってもたらされる問題への取り組みなどであろう.
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 政府が資産を購入したり政府の権利を譲渡したりするのに[[競売]]を利用することがある. 広範囲にわたる競売の数学モデルが提起され, 競合システムを設計する場合にこれらを用いる方法の分析が行われている. 交渉や公示価格などの一般的な移転方法としての競売や競争[[入札]]という経済的競争は公共部門においては特に興味のあるものであって, 売り手と買い手, あるいは所有者と購入者のように, 彼らの目標の間に十分な信頼や一致が存在しないかもしれないような状況においても適用可能で, 公平さあるいは偏見の回避といった必要性をも満たす方法である. 競売と競争入札の形式的な本質は, ORの研究者を含む分析家にとって大変興味深いものである. これらの分野には, 州や連邦の石油賃借権, 連邦の石炭賃借権, 連邦の木材伐採権の販売, 財務省証券の販売, 電力会社のコジェネレーション業者や他の業者からの電力購入, 軍や他の政府の調達, 道路建設, 宇宙ステーションや規制されたパイプラインにおける容量の配分などが含まれる.
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 リスクには事故, 災害, 病気, など多くのものがある. リスクを軽減するという公共の目標を達成し, 不必要なコストを削減するためには, リスクを予測し, 管理する組織的なアプローチが必要とされる. 各種リスクに対して, 推計を行うこと, 事故の原因を決定すること, 安全性の基準を設けること, 費用効果分析あるいはリスク便益分析を行うことなどが必要となる. このような手続きは[[リスク管理]]と呼ばれている. 事象樹木と原因樹木による原因究明分析, あるいは最小費用で目標の実現を図ろうとする費用効果分析, あるいはまた基準や技術によって解決を図ろうというアプローチ[1]などがある. OR理論と手法の適用の将来性について, 災害, 危機管理といった分野は注目に値する.
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[1] S. Gass and R. Sisson, ''A Guide to Models in Governmental Planning and Operations,'' Sauger Books, Potomac, MD, 1975.
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[2] S. M. Pollock, M. H. Rothkopf and ''A. Barnett, Operations Research and the Public Sector,'' in ''Handbooks in Operations Research and Management Science,'' North-Holland, Amsterdam, Netherland, 1994. (大山達雄監修翻訳, 『公共政策ORハンドブック』, 朝倉書店, 741pp., 1998.)
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[3] 大山達雄, 『最適化モデル分析』, 日科技連出版, 372pp., 1993.
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[4] P. B. Mirchandani and R. L. Francis (eds.), ''Discrete Location Theory,'' John Wiley and Sons, New York, 1990.
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[5] J. Current, H. Min and D. Schilling, ''Multiobjective Analysis of Facility Location Decisions,'' MIT Press, Cambridge, MA, 1990.
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[6] M. Crew and P. Kleindorfer, ''The Economics of Public Utility Regulation'', MIT Press, Cambridge, MA, 1986.
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[7] G. F. List, P. B. Mirchandani, M. A. Turnquist and K. G. Zografos, "Modeling and Analysis for Hazardous Materials Transportation : Risk Analysis, Routing/Scheduling and Facility Location," ''Transportation Sciences,'' '''25''' (1991), 100-114.
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[8] R. Tarling, "Statistical Applications in Criminology," ''Statistician,'' '''35''' (1986), 369-388.
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[9] R. Engelbrecht-Wiggins, M. Shubik and R. M. Stark(eds.), ''Auctions, Bidding and Contracting : Uses and Theory,'' New York University Press, New York, 1983.
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[10] M. H. Rothkopf, "On Auctions with Withdrawable Winning Bids," ''Marketing Sciences,'' '''10''' (1991), 40-57.
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[11] M. H. Rothkopf, "Equilibrium Linear Bidding Strategies," ''Operations Research,'' '''28''' (1980), 576-583.
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[12] F. Pezzella, R. Bonanno and B. Nicoletti, "A System Approach to the Optimal Health-care Districting," ''European Journal of Operational Research,'' '''8''' (1981), 139-146.
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[13] S. P. Ladany and R. E. Machol (eds.), ''Optimal Strategies in Sports,'' North-Holland, Amsterdam, 1977.
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[14] R. E. Machol, S. P. Landany and D. G. Morrison (eds.), ''Management Science in Sports ,'' North-Holland, Amsterdam, 1976.
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[15] B. L. Golden and E. A. Wasil, "Ranking Outstanding Sports Records," ''Interfaces,'' '''17''' (1987), 32-42.
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[16] B. Fischhoff, S. Lichetenstein, P. Slovic, S. L. Derby and R. L. Keeney, ''Acceptable Risk,'' Cambridge University Press, New York, 1981.
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[17] P. Slovic, "Perception of Risk," ''Science,'' '''236''' (1987), 280-286.
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[18] J. Linnerooth-Bayer and B. Wihlstrom, "Applications of Probabilistic Risk Assessments : the Selection of Appropriate Tools," ''Risk Analysis,'' '''11''' (1991), 249-254.
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[[category:公共システム|こうきょうせいさくおーあーるに]]
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2008年4月2日 (水) 18:51時点における版

【こうきょうせいさく (public policy) 】

概要

公共部門における意思決定が公共政策となる. どのような政策が望ましいかという問題は関連する多くの集団の価値観, 利害関係も異なるため, 非常に難しい問題となる. 政策決定に際しては, 集団の評価基準も住民の便益, 効用, 行政の効率, 政策の効率, 公平性, 平等性など様々なものが考えられ, いろいろな制約が加わることも多い. どのような意思決定が最も合理的かつ最適かといった問題は非常に重要である.

詳説

 OR理論の応用については, その発生からの流れとして, 軍事部門から企業における経営を中心とする民間部門, そして公共部門へという大きな流れがある. 公共部門における政策分析の道具としてのOR理論, 手法の応用はかなり長い歴史を有しており, ORの誕生あるいはそれ以前からすでに存在していたといってもよいであろう. 民間部門における意思決定では利潤の最大化, 効率の最大化, あるいは費用の最小化などが一般的であるのに対して, 公共部門における意思決定は一般国民, あるいは公務員, 官僚による行政機関, あるいはまた国民の代表者である政治家からなる立法機関等によって行われるという点が大きな違いである. 公共部門における意思決定は公共政策として表現される. どのようにして政策を決定すればよいか, あるいはどのような政策が望ましいかという問題は関連する多くの集団の価値観, 利害関係も異なるため, 非常に難しい問題となることが多い. したがってそれぞれの集団の評価基準も住民の便益, 効用, 行政の効率, 政策の効率, 公平性, 平等性など実にさまざまなものが考えられる. また政策決定に際しては, 状況によっていろいろな制約が加わることが多い. このような中で意思決定をどのように行えばよいか, あるいはどのような意思決定が最も合理的かつ最適かといった問題は非常に重要である. 政策の決定, 作成, 実施, 評価の諸過程において, 統計, OR, システム分析, 情報科学等の理論, 手法に基づいてデータ, モデルを用いて種々の分析を行うことを一般に政策分析と呼ぶ. 政策評価は政策を定量的に評価, 分析するという意味で政策分析の一分野である. 公共部門におけるOR理論の応用は種々の公共政策の決定過程で現れることが多く, 最適政策の決定が必要とされる. 代表的な分野としては, 交通・輸送, 施設配置, 政治・行政, 裁判・犯罪, 漁業・農業・森林, 環境・エネルギー, 医療などをはじめとして実に多くの分野が考えられる.

 交通・輸送部門では, 初期の代表的な研究としてニューヨーク交通局が実施した橋やトンネルの交通量, スタッフ配置などに関する待ち行列理論を用いたものがある. その後も交通・輸送のネットワークにおける非常に多種にわたる数多くの問題が最適化手法あるいはシミュレーション手法によって解かれている(交通政策). 交通問題としては, かなり古い歴史を有する鉄道, 航空機, 自動車等に関する交通需要予測, 新設あるいは増設道路に関するプロジェクト選択などが主要な問題として解決が図られている. 輸送問題に対しては, あらゆる物資, 情報, 人員等の最適輸送を求める問題が解かれている.

 公共施設配置問題はORの分野において古い歴史を有しているが, 多くの場合, それに伴って人員, 物資, 資源などを最適配分するという問題も生じるために資源配分問題と同時に解かれることが多く, より一般的に配置配分問題と呼ばれ, 長い年月にわたって多くの研究者の関心の的となっている. 公共的な施設の最適配置を考える場合, 評価基準として何を設定すればよいかは重要な問題となる.

 原子力発電プラント, 有害廃棄物あるいは放射性廃棄物の処理施設, 危険廃棄物貯蔵施設などの有害施設の最適配置を決定する危険施設配置問題も公共政策分析としてOR理論, 手法が盛んに用いられてきている. このような問題に適用されるモデル分析手法として, いくつかのリスク緩和策の中で何が有効かを決定するために社会便益総額を最大化するものを効用関数を用いて求める最適化モデルがある. 有害施設, 危険施設の配置問題は立地案の住民による受け入れ可能性, 費用, 補償, 便益, リスク等の関連する多くの要因を考慮しなければならないということから多属性効用モデルの適用もなされている.

 裁判研究のORあるいは犯罪の分野における数学的な分析は1960年代に米国において犯罪件数が増大したのに伴って行われ, 司法裁判システムの運用に関する問題が大統領委員会のもとでも詳細に検討され, この分野におけるORの将来の研究の方向付けが示された. 犯罪者に関する研究は1970年代から80年代にかけてかなり積極的に行われ, 待ち行列理論を中心とする確率モデルに基づく犯罪者行動の分析, そして警察, 検察, 矯正機関等の運用管理にOR手法を用いることが活発に行われ, 信頼性理論あるいは確率理論が犯罪常習者の行動タイプの分析に用いられた. 個人が犯罪を犯す確率をポアソン過程のパラメータとして一定期間内の犯罪率, 逮捕率等を説明したのは画期的なアプローチであった. 1980年代には, 犯罪者の年齢, 発生地域, 再犯率などと警察官のパトロール活動との関係を確率モデルを用いて統計的に分析した成果が数多く得られた. また死刑の効果についての統計的な分析に関する議論も長期にわたって活発に行われた.

 環境・エネルギーの分野における応用が活発に行われるようになったのは1970年代初頭にForrester, Meadowsらがローマクラブとして人口の拡大, 天然資源の浪費が続けば破滅的な結果に至るということをシミュレーションモデル(システムダイナミックス)を用いて警告し, いわゆる第一次エネルギー危機が勃発した頃からである. その後米国, そしてわが国においてもエネルギーの効率的利用, 省エネルギーの促進, 硫黄酸化物, 窒素酸化物排出量の削減等による環境問題への考慮をモデルに導入した分析が非常に数多くなされた. その後は枯渇性資源の有効利用, 化石燃料の大量消費による二酸化炭素排出量削減等を考慮したモデル(資源管理モデル)が開発され, 国連による地球温暖化防止条約締結のための政策資料提供や世界資源研究所等による分析が行われている.


 医療政策の分野におけるORの応用としては, 1970年代に緊急医療システムの効率性の改善, 血液銀行の管理問題, 保健サービス計画と運用問題等へのOR手法の応用などが活発に行われた. 疾病検査と調査にモデルを用いることも一般化しているが, 医療における意思決定は主としてOR理論と手法の応用によって可能となったといえよう.

 保健ケア実施問題の分析にORの手法を適用することは非常に時宜を得た課題である. 保健ケアシステムの設計と立案の問題は主として国あるいは地方政府のレベルで発生する. 保健ケアサービスの地域化はシステム立案の重要な構成要因である. 地域化によってサービスの配分はより効率的となり, 保健ケアシステムの費用あるいは質も改善される. 保健ケア管理においてORモデルを実行するには, 管理情報システム(MIS)が必要とされる. 医療の意思決定とモデルに基づく支援システムを組み合わせると, MISは意思決定の感度, 患者に対するケアの質, 生産性等を改善する可能性を持っている. 管理とケア実施に関するいろいろなレベルの機関が意思決定を作成し, 支援するために, 統計学, OR, 管理科学, エキスパートシステム等の手法を用いたモデルが構築されている. 病院管理, 運営に関する決定としては, 給与会計システム, 予算の立案分析, 入院と退院と転院(ADT)のシステム, 外科とリハビリ室のスケジュール, 看護婦の配置とスケジュール, 外来患者のスケジュールと予約システム, 購入と在庫管理と維持管理, 管理部門の人事システム, 患者の医療管理, 医療政策などが含まれる. 人的資源の管理は保健ケア組織の主要業務である. 人件費は通常運営費の大半を占めているので, この分野は将来より一層重要になっていくであろう.

 スポーツの問題に対するOR/MSの応用(スポーツのOR)は50年代からで, 線形計画法や期待効用分析, 動的計画法, 制御理論, 組合せ理論, ゲーム理論などのOR/MS技法の理論的進歩を反映している. 初期における応用例の多くは野球であった. 様々なスポーツに関わるスケジューリングやルールづくり, トーナメントの組立て, あるいは公平性の問題が70年代から研究された. スポーツに対するOR/MSの関心は70年代半ばにピークを迎えた. 最近における研究の方向としては, 純粋に統計的な問題, ミクロ経済的側面, 交渉問題(野球における調停), スポーツに関するビジネス的な意思決定, マーケティングの問題, コーチング技術, ギャンブルに関連することなどがある. 将来の研究の方向としては, 新たなルール変更, 新たなトーナメント方式, いくつかの国で広まる新たなスポーツ等によってもたらされる問題への取り組みなどであろう.

 政府が資産を購入したり政府の権利を譲渡したりするのに競売を利用することがある. 広範囲にわたる競売の数学モデルが提起され, 競合システムを設計する場合にこれらを用いる方法の分析が行われている. 交渉や公示価格などの一般的な移転方法としての競売や競争入札という経済的競争は公共部門においては特に興味のあるものであって, 売り手と買い手, あるいは所有者と購入者のように, 彼らの目標の間に十分な信頼や一致が存在しないかもしれないような状況においても適用可能で, 公平さあるいは偏見の回避といった必要性をも満たす方法である. 競売と競争入札の形式的な本質は, ORの研究者を含む分析家にとって大変興味深いものである. これらの分野には, 州や連邦の石油賃借権, 連邦の石炭賃借権, 連邦の木材伐採権の販売, 財務省証券の販売, 電力会社のコジェネレーション業者や他の業者からの電力購入, 軍や他の政府の調達, 道路建設, 宇宙ステーションや規制されたパイプラインにおける容量の配分などが含まれる.

 リスクには事故, 災害, 病気, など多くのものがある. リスクを軽減するという公共の目標を達成し, 不必要なコストを削減するためには, リスクを予測し, 管理する組織的なアプローチが必要とされる. 各種リスクに対して, 推計を行うこと, 事故の原因を決定すること, 安全性の基準を設けること, 費用効果分析あるいはリスク便益分析を行うことなどが必要となる. このような手続きはリスク管理と呼ばれている. 事象樹木と原因樹木による原因究明分析, あるいは最小費用で目標の実現を図ろうとする費用効果分析, あるいはまた基準や技術によって解決を図ろうというアプローチ[1]などがある. OR理論と手法の適用の将来性について, 災害, 危機管理といった分野は注目に値する.



参考文献

[1] S. Gass and R. Sisson, A Guide to Models in Governmental Planning and Operations, Sauger Books, Potomac, MD, 1975.

[2] S. M. Pollock, M. H. Rothkopf and A. Barnett, Operations Research and the Public Sector, in Handbooks in Operations Research and Management Science, North-Holland, Amsterdam, Netherland, 1994. (大山達雄監修翻訳, 『公共政策ORハンドブック』, 朝倉書店, 741pp., 1998.)

[3] 大山達雄, 『最適化モデル分析』, 日科技連出版, 372pp., 1993.

[4] P. B. Mirchandani and R. L. Francis (eds.), Discrete Location Theory, John Wiley and Sons, New York, 1990.

[5] J. Current, H. Min and D. Schilling, Multiobjective Analysis of Facility Location Decisions, MIT Press, Cambridge, MA, 1990.

[6] M. Crew and P. Kleindorfer, The Economics of Public Utility Regulation, MIT Press, Cambridge, MA, 1986.

[7] G. F. List, P. B. Mirchandani, M. A. Turnquist and K. G. Zografos, "Modeling and Analysis for Hazardous Materials Transportation : Risk Analysis, Routing/Scheduling and Facility Location," Transportation Sciences, 25 (1991), 100-114.

[8] R. Tarling, "Statistical Applications in Criminology," Statistician, 35 (1986), 369-388.


[9] R. Engelbrecht-Wiggins, M. Shubik and R. M. Stark(eds.), Auctions, Bidding and Contracting : Uses and Theory, New York University Press, New York, 1983.

[10] M. H. Rothkopf, "On Auctions with Withdrawable Winning Bids," Marketing Sciences, 10 (1991), 40-57.

[11] M. H. Rothkopf, "Equilibrium Linear Bidding Strategies," Operations Research, 28 (1980), 576-583.

[12] F. Pezzella, R. Bonanno and B. Nicoletti, "A System Approach to the Optimal Health-care Districting," European Journal of Operational Research, 8 (1981), 139-146.

[13] S. P. Ladany and R. E. Machol (eds.), Optimal Strategies in Sports, North-Holland, Amsterdam, 1977.

[14] R. E. Machol, S. P. Landany and D. G. Morrison (eds.), Management Science in Sports , North-Holland, Amsterdam, 1976.

[15] B. L. Golden and E. A. Wasil, "Ranking Outstanding Sports Records," Interfaces, 17 (1987), 32-42.

[16] B. Fischhoff, S. Lichetenstein, P. Slovic, S. L. Derby and R. L. Keeney, Acceptable Risk, Cambridge University Press, New York, 1981.

[17] P. Slovic, "Perception of Risk," Science, 236 (1987), 280-286.

[18] J. Linnerooth-Bayer and B. Wihlstrom, "Applications of Probabilistic Risk Assessments : the Selection of Appropriate Tools," Risk Analysis, 11 (1991), 249-254.