《故障データ解析》

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【こしょうでーたかいせき (failure data analysis) 】

 システム・製品などの機能が失われた状態を故障という. このときの情報を用いその原因究明を行い再発防止, さらにはより信頼性を高めるために故障データ解析 (failure data analysis) が重要となる. 故障データは大きく寿命試験 (lifetime test) に基づくデータと使用状況下でのデータとに分類される. 前者はさらに目的による分類 (例:寿命推定 (lifetime estimation) に対応する信頼性決定試験, 寿命検定 (statistical testing for lifetime) に対応する信頼性適合試験), 試験法による分類 (例:常温寿命試験, 限界試験, 加速寿命試験, 非破壊試験), 開発ステップ別の分類 (例:開発段階・試作段階・生産段階・出荷段階) 等がなされる. 後者は航空機などの巨大システムから耐久消費財まで, 対象物により入手されうる情報が異なるがその機能喪失による影響を十分に考慮し, 信頼性設計・保全性設計および安全性の作り込みに留意する事が大切である.

 故障データの解析にあたり, 要求される機能・使用目的・使われ方・環境条件・保全の方法・要求される稼働時間等の情報が不可欠であり, これらに基づき, その原因究明により再発防止を目的に行う故障解析 (質的解析) と信頼性特性値の把握とその予測 (量的解析) の両者を行うことが重要となる.

 故障データの質的解析においては, ストレス -- 故障メカニズム -- 故障モードの3者の究明が鍵を握る. ストレスに関しては環境条件 (温度・湿度・電界・応力・塩水・標高等), 使用条件 (運転時負荷・運転サイクル・限界負荷等), 使用目的, 流通経路の把握を要する. 代表的な故障メカニズムは腐食・疲労・拡散・マイレーション等がある. 故障モードとは故障状態をその現象から分類したものをいう (例:断線, 短絡, 折損, 摩耗, 特性の劣化). これらのデータベース化とその十分な活用が重要である.

 故障データの量的解析にあたっては, 得られる情報が亀裂長や発振周波数のような劣化量・特性値の場合と故障するまで時間 (寿命データ) の場合とに大きく分類される. 一般には劣化量がある閾値に達した時点が寿命データに対応する. 故障のメカニズムに基づき劣化量を解析することが原因究明と寿命予測上, 好ましい. 寿命データに関しては今日まで種々の研究がなされてきた [3] に詳しい).

 寿命データは, 使用開始から故障に至るまでの時間が観測された打ち切りの無い故障データと, 使用開始からまだ故障に至らずに中途で打ち切られたデータ (打切データ) とに大別される. 打ち切りのない故障データのみからなるデータセットを完全データ, 打切データを含むデータセットを不完全データと呼ぶ. 不完全データは, さらに定時打切データ (type I censored data:あらかじめ信頼性試験または観測を終了する時点を定め試験・観測を実施することによりえられるデータで, それまでの故障数および動作時間が確率変数となる)・定数打切データ (type II censored data:総試験片数のうちあらかじめ定められた試験片数が故障する時点で信頼性試験を終了することによりえられるデータで, それまでの各試験片の動作時間が確率変数となる)・多重打切データ (定時打切データにおいて, 異なる打切時点が複数定められている場合に生じるデータ, 例えば試験開始時点が異なるが同時に試験を終了する場合など)・ランダム打切データ(打切時点を確率変数として扱う場合. 複数の故障モードが存在し, それらのうち初めに生じたものにより故障が生ずる場合, 競合リスクモデル, そのデータを競合リスクデータと呼ぶ) とに分類される. また, 半導体などの恒温槽での試験では評価時点までに故障したか否かのみの情報が得られ, その時点までに故障が生じた場合を左側打切データ (left censored data), その時点までは正常である場合を右側打切データ (right censored data) という. これらの種々の打切データの存在が寿命データ解析を難しくし, 今日まで多くの研究がなされてきた.

 寿命分布の推定・検定においては寿命分布型を仮定しないノンパラメトリックな方法, 分布型を仮定するパラメトリックな方法に大きく分類される. また, どのような因子が寿命に影響を与えているかを検討する要因解析を目的とする種々の回帰モデル (比例ハザードモデル・ワイブル回帰モデル等) も提案されている [1]. 信頼性の分野では医学統計と異なり, 一般に指数分布・ワイブル分布・対数正規分布・極値分布などのパラメトリックな扱いが可能である. これにより推定・検定に必要なサンプル数の低減と打ち切りされた後の寿命の予測(外挿)が可能となる. ただし, 対象データを層別すべきか否か, 分布型のあてはめ等の事前解析においてはノンパラメトリックな方法および確率プロット法が有用である. 確率プロット法はデータの視覚化の点で有用である. データの打点法に際しては, メジアンランク法・平均ランク法などが提案されている [4]. 寿命予測・外挿に関しては, これまでの故障メカニズムが打切時点以降も続くか否かの検討が鍵を握る. この検討なしの予測・外挿には危険を伴う. ノンパラメトリックな方法としては Kaplan & Meier による product limit 推定法, Efron による Self-consistent 法, これらをさらに一般化した Turnbull の方法, および Nelson/阿部の累積ハザード法が有用である [4]. パラメトリックな方法としては先の分布型に基づく最尤法・モーメント法・線形推定法等種々の方法が提案されている [2]. 正規分布論と異なる点は平均や分散などの母数の推定・検定よりは信頼度やパーセント点が重要となる. 検定は尤度比検定が主流であるが, 寿命分布型に応じ種々の方法が提案されている. これらは一般に計算機による数値計算が必要となり, SAS, S-Plus, BMDP など解析ソフトが有用である(例:

http://www.wiley.com/products/subjects/mathematics~\cite [3],

http://member.nifty.ne.jp/care/caredown.htm) .

 車などの耐久消費財の場合, 市場からの寿命データは故障データのみが入手され未故障である打ちきりデータは観測されない [5]. また, 故障モードが未知な場合など不完全データの解析が困難な場合が多いが, これらは warranty data としてメーカのdatabase に蓄えられている. この結果系の database と開発・製造における種々の要因系の情報にもとづく解析が有用である.



参考文献

[1] D. R. Cox and D. Oakes, Analysis of Survival Data, Chapman and Hall, 1984.

[2] J. F. Lawless, Statistical Models and Methods for Lifetime Data, Wiley, 1982.

[3] Q. M. Meeker and L. A. Escober, Statistical Methods for Reliability Data, Wiley, 1998.

[4] 市田 嵩, 鈴木和幸, 『信頼性分布と統計』, 日科技連, 1984.

[5] 真壁 肇, 宮村鐵夫, 鈴木和幸, 『信頼性モデルの統計解析』, 共立出版, 1989.