《ファジイ理論》
【ふぁじいりろん (fuzzy theory) 】
1964年L. A Zadehが通常の集合を一般化したファジイ集合 (fuzzy set) を導入したことに始まる ( [7] ). データの曖昧さや制約の厳しさの程度を表現できるもので, ORと融合して最適化等での使用に適している.
通常の集合はその帰属性が0または1の2値(属するとき1, 属さないとき0で特性関数と呼ばれる)で表されるのに対し, ファジイ集合はこれを一般化して帰属性を区間の値で表す. 完全に属するとき1, 属さないとき0という値をとる帰属度関数と呼ばれる関数で表現される. 関数値が大きいほど帰属性が高いことになる. すなわち, 全体集合(これは通常の集合)の各要素 とその帰属度関数値のペア として表記される. 人間の主観などにおけるあいまいさを定量化するために考えられたのであるが, いろいろな分野に応用されている.例えば若いという概念は年齢としてどこからが若くてどこからが若くないかがはっきりしないのでファジイ概念である. 主観により違うがを年齢とすると例えば次のような帰属度関数で表される.
これは20歳までは確実に若いといえるがそれを超えると徐々に若いと言えない度合いが増え, 50歳以上は若いとは言えないということになる. 人間の先験的知識を用いるファジイ論理 (fuzzy logic)が制御に応用され, ファジイ洗濯機などの電化製品や仙台の地下鉄などの木目細かい制御の実現に役立てられ, ファジイ制御と呼ばれている.
ORとの融合はファジイ数理計画 (特にファジイ線形計画) を除いて最近始まったばかりである. ファジイ環境下での意思決定は満足度という概念を表す帰属度関数を考えることにより, 制約条件と目的関数を同様に扱うもので, L.A.Zadehが初期の頃より考えていた. 線形不等式 を例にあげれば, 満足度を示す以下のような帰属度関数
がファジイ制約である. また目標値へどれだけ到達したかを示す満足度で表されるファジイ目標はやはり1次の目的関数を考えると,
と書かれる. これら幾つかのファジイ制約とファジイ目標の下でその最小満足度を最大にするを求めるという形式にファジイ数理計画をモデル化できる.
意思決定との関係で, ファジイ動的計画もBellman, Zadeh([1])で初期から考えられていた. ファジイと確率とは一見アナロジーがあり, 実際確率計画とファジイ数理計画との間には対比されるような概念が多く見られる. 上記のファジイ制約と機会制約条件などがその例であり, どちらも少しの制約の違反は認めるものである.実際, 可能性と確率とはよく混同されるが, 可能性は物事の生起能力に関するもので, 確率は頻度に関するものである.Zadeh は違いの例として, ある人が朝何個卵を食べるかは確率的 (統計的) であり, 何個食べることができるかは別であるとしている. 最近は, ファジイ数, ファジイ関係, あるいはファジイランダム変数なども最適化に導入され, 連続変数の最適化だけではなく, ファジイ組合せ最適化などの研究も行われている. ファジイ数 (fuzzy number) は通常の数をファジイ概念化したものであり, モデルを記述する係数の不確実性を表している. ファジイ関係はスケジューリングにおける先行関係のファジイ概念化として用いられている. また, ファジイランダム変数はいわば実現値がファジイ数であるようなもので, ファジイ要素とランダム要素が混在するモデルを考えるのに有効である. これらを総称してファジイ最適化 (fuzzy optimization) と呼んでいる. ここではファジイ理論とORの関係を中心に紹介したが, ソフトコンピューティングとも関係している. ファジイ理論は, 集合論ばかりでなく, 数学全般に広がってきており, ますますORに用いられるファジイ概念が出てくると思われる.
参考文献
[1] R. E. Bellman and L. A. Zadeh, "Decision Making in a Fuzzy Environment", Management Science, 17 (1970), 141-164.
[2] 乾口雅弘, 「多様化時代の数理計画 第5回 確率計画法 VS 可能性計画」, 『オペレーションズ・リサーチ』, 41 (1996), 641-645.
[3] H. Ishii and M. Tada, "Single Machine Scheduling Problem with Fuzzy Precedence Relation", European Journal of Operational Research, 87 (1995), 284-288.
[4] A. Kaufmann and M. M. Gupta, Introduction to Fuzzy Arithmetic* Theory and Application, Van Nostrand Reinhold, New York, 1984.
[5] 坂和正敏, 『ファジイ理論の基礎と応用』, 森北出版, 1991.
[6] 坂和正敏, 石井博昭, 西崎一郎, 『ソフト最適化』, 朝倉書店, 1995.
[7] L. A. Zadeh, "Fuzzy Sets", Information and Control, 8 (1965), 338-353.
[8] N. Watanabe, "Fuzzy Random Variables and Statistical Inferences," 『日本ファジイ学会誌』, 8 (1996), 126-135.
[9] 菅野道夫, 室伏俊明, 『ファジイ測度』, 日刊工業新聞社, 1993.