《拡張型AHP》
【かくちょうがたえーえいちぴー (Extended AHP) 】
AHPにおいて, 一対比較値を区間表現として, 区間値やファジィ数に拡張したものとして,
区間AHP (interval AHP), ファジィAHP (Fuzzy AHP)がある.
一対比較値を区間表現を用いて拡張したAHPは, 区間の表現方法の違いで, 一般に2つに分けることができる.文献 [1, 2, 6] などでは, 一対比較の評価を単なる範囲で示しており「区間AHP」と呼ばれている.それに対し, 文献 [3, 4] などでは, 一対比較の評価をファジィ数で示していることから「ファジィAHP」と呼ばれている.
AHPでは, 意思決定者に対して, 「要素$i$は要素$j$に比べてどのくらい重要ですか」というように一対比較を行なってもらった結果を数値化し, 一対比較値$a_{ij}$が設定される.区間AHPやファジィAHPでは, この一対比較の際に, 意思決定者のあいまいな判断を取り入れ, 一対比較値$a_{ij}$が区間値$[l_{ij},u_{ij}]$やファジィ数で表現される.区間AHPでは, 一対比較行列$ \mbox{\boldmath $A$}$は次のように表現される.
\mbox{\boldmath $A$}=\left[
\begin{array}{ccccc}
{[l_{11},u_{11}]} & \cdots & [l_{1j},u_{1j}] & \cdots & [l_{1n},u_{1n}] \\
\vdots & \ddots & \vdots & & \vdots \\
{[l_{i1},u_{i1}]} & \cdots & [l_{ij},u_{ij}] & \cdots & [l_{in},u_{in}] \\
\vdots & & \vdots & \ddots & \vdots \\
{[l_{n1},u_{n1}]} & \cdots & [l_{nj},u_{nj}] & \cdots & [l_{nn},u_{nn}]
\end{array}
\right]
この区間AHPをグループAHPに適用した方法が, 文献[7, 8] にあるので参照されたい.このグループAHPでは, 区間表現をあいまいな判断として利用するのではなく, 「容易に抵抗なく受け入れられる範囲(主張区間)」や, 「全メンバの意見を取り込んだ区間値(グループ一対比較値)」というように利用している点に特徴があると言える.
ファジィAHPでは, 一対比較値$a_{ij}$がファジィ数となり, メンバーシップ関数を様々な形で設定できることもあり, 様々な表記がされている.詳しい記述は, 文献 [3, 4] などを参照してほしい.
区間AHPやファジィAHPにおける重要度算出法について示す.一対比較値を区間値に拡張した区間AHPにおいて, 重要度を算出する方法は様々存在するが, 求める重要度が区間値であるか, 1つの値であるかで, 大きく2つに分けることができる.重要度を区間値として算出する方法として,幾何平均による算出方法 [5],数理モデルによる算出方法 [1, 2],シミュレーションによる算出方法 [6]などがあり,重要度を1つの値として算出する方法として, 区間値の中で整合度 (C.I.)を最小にする一対比較値から重要度を算出するCIミニマム法 [7, 8] がある.詳しい内容は, それぞれの文献などを参考にしてほしい.なお, CIミニマム法は文献 [7, 8] ではグループAHPにおいて提案されているが, 個人が行なう区間AHPにおいてもそのまま適用可能である.CIミニマム法は, 以下のモデルを解くことによって, 重要度を算出する.
\begin{array}{lll}
\mbox{min.} & \multicolumn{2}{l}{\displaystyle{\frac{\lambda-n}{n-1}},} \\
\mbox{s. t.} & \displaystyle{ \sum_{j=1}^{n} x_{ij}w_{j} = \lambda w_{i}} & (i=1,
\ldots ,n),\\
& x_{ij}x_{ji} = 1& (i,j=1, \ldots ,n),\\ & \displaystyle{ \sum_{i=1}^{n} w_{i} = 1, } & \\ & w_{i} > 0& (i=1, \ldots ,n),\\ & l_{ij} \le x_{ij} \le u_{ij}& (i,j=1, \ldots ,n).\\
\end{array}
制約条件の第1式は固有方程式の条件, 第2式は一対比較要素に関する逆数対称性の条件,第3式は重要度の正規化の条件, 第4式は重要度の正値条件, 第5式は一対比較値に関する区間の条件である.また, 目的関数は整合度C.I.である.なお, 固有方程式の条件において, ペロン・フロベニウスの定理 (Perron-Frobenius' theorem)から重要度が正値であるという条件のみで, $\lambda$が最大固有値$\lambda_{\rm max}$であることが保証されている.
また, 一対比較値をファジィ数に拡張したファジィAHPにおいて, 重要度を算出する方法は, 通常の幾何平均法などの重要度算出法をもとに, ファジィ数の演算方式に従って, 重要度を算出しているのが一般的である. 詳しい内容は, 文献 [3, 4] などを参考にしてほしい.
参考文献
[1] A. Arbel, "0Approximate Articulation of Preference and Priority Derivation," European Journal of Operational Research, 43 (1989), 317-326.
[2] A. Arbel and L. G. Vargas, "The Analytic Hierarchy Process with Interval Judgements," in Multiple Criteria Decision Making, A. Goicoechea, L. Duckstein and S. Zionts, eds., Springer-Verlag, 1992, 61-70.
[3] J. J. Buckley, "Fuzzy Hierarchical Analysis," Fuzzy Sets and Systems, 17 (1985), 233-247.
[4] 川井宏哉, 稲積宏誠, 伊藤益敏, 「ファジィAHPにおける整合度 (C.I.)に関する研究」, 『日本オペレーションズ・リサーチ学会1992年春季研究発表会アブストラクト集』, 68-69, 1992.
[5] 小沢知裕, 山口俊和, 福川忠昭, 「区間AHPを用いるDEAの改良型領域限定法」, 『オペレーションズ・リサーチ』, 38 (1993), 471-476.
[6] T. L. Saaty and L. G. Vargas, "Uncertainty and Rank Order in the Analytic Hierarchy Process," European Journal of Operational Research, 32 (1987), 107-117.
[7] 山田善靖, 杉山学, 八卷直一, 「合意形成モデルを用いたグループAHP」, Journal of the Operations Research Society of Japan, 40 (1997), 236-244.
[8] 八卷直一, 山田善靖, 杉山学, 「非線形計画法の人事問題でのグループAHP法への適用」, Proceedings of the Eighth RAMP Symposium, 182-185, 1996.