《AHP一対比較法》

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【えーえいちぴーいっついひかくほう (method of paired comparison) 】

 一対比較法は, 比較判断のために用いられる評定法の1つである. その具体的な方法は, 判断の対象となる選択肢が複数存在する場合に, 2つずつ組み合わせ, 比較判断を行うことをリーグ戦の形式で繰り返し, 対象の順位を決定する. 一対比較法は, 多肢選択法, 評定尺度法(たとえば, 5段階評価, 7段階評価など), 数値分配法(対象に数値を与えて評定する場合に, 数値の合計を一定にしておく方法)などの他の評定法にくらべ, 被験者にとって判断が容易であり(他の方法に較べ低年齢でも可能である), 再現性(時間をおいて同じ設問に答えさせた場合に結果にずれが生じないこと)が高く, 細かい差に対する識別力が大きいという長所を持つ. しかし, あくまでも相対的な判断であり, 多数の判断を集計した場合に問題があり, 場合によっては推移律を満たすことのできない場合があるという短所も持つ. 主としてこの長所のため, 一対比較法は, 厳密性を必要とする心理学的な実験では, 非常に多く用いられている.

 尺度には, 様々な分類があるが, 一般的には, 名義尺度, 順序尺度, 間隔尺度, 比率尺度の4つに分類される [1]. 名義尺度は, 対応性がわかるもので, 頻度のカウント, 属性相関を求めることができる. たとえば野球選手の背番号などである. 順序尺度は, 順序関係を示すもので, 中央値, パーセンタイル, 順位相関を求めることができる. たとえば, 人気企業ランキングなどである. 間隔尺度は, 測定単位を持ち, 差が測れるもので, 平均, 標準偏差, 積率, 相関を計算できる. たとえば偏差値や気温などである. 比率尺度は, 測定単位と絶対原点を持ち, 比が測れるもので, 幾何平均, 変動係数, ロジットなどが計算できる. たとえば, お金やユークリッド距離などである. 一対比較法を用いて得られるものは, 対象の順位であるので, 順序尺度である.

 AHPにおいては, 対象が好みなどの個人の心理的な感覚を扱う場合に, 順序尺度である一対比較法を用いて得られた結果を間隔尺度として扱うことがある. 通常は, 順序尺度は, 間隔尺度に変換することはできないので, 心理量は正規分布に従うという比較判断の法則を前提として, モデルを構成し, それにあてはめることによって間隔尺度に変換する操作を行っている. しかし, 個々の具体的な事例(たとえば車の色の好み)が比較判断の法則を満たすという保証はなく, 実験による証明がない限り, 安易に順序尺度を間隔尺度に変換することを認めることには問題がある.

 好みなどの個人の心理的な感覚は, 目に見える測定器があるわけではないので恣意的な解釈に陥る可能性が高いので, その測定には, 特に再現性の確保に注意を払う必要がある. そもそも, 好みに心理量という量的な概念を当てはめてもいいのかという疑問すら存在する. 好みは相対的な問題であり, 比較対象があれば, どちらが好ましいかは把握できるが, それぞれに絶対的な基準を前提とした量的な把握は困難ではないかという立場をとる研究者も多い.

 したがって, AHPで一対比較法を用いる場合で, 特に好みなどの個人の心理的な感覚を対象とする場合には, 順序尺度を間隔尺度に変換するという便宜的な操作を行っているという自覚を持ち, その結果の取り扱いには, 十分な注意が必要であると思われる.



参考文献

[1] 松丸正延編著, 『経営戦略と経済性のための数学・統計学』, 宣協社, 1998.