「《生産管理》」の版間の差分
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− | JIT(just-in-time)は, 必要な物を, 必要な時に, 必要なだけ生産する理念であり, この理念を実現すべく創案された生産方式がトヨタ生産方式である. 1973年のオイルショック時に脚光を浴びて登場して以来, 現在ではJIT生産方式, かんばん方式, Pull方式として全世界に広く知られている. その特徴は, 1)多種少量生産システムに適合した後工程引き取り, 後補充生産方式;2)自律分散型生産システム;3)改善による「徹底的なムダの排除」の「仕組み」と改善提案活動;4)多能工化;の4点であるが, | + | JIT(just-in-time)は, 必要な物を, 必要な時に, 必要なだけ生産する理念であり, この理念を実現すべく創案された生産方式がトヨタ生産方式である. 1973年のオイルショック時に脚光を浴びて登場して以来, 現在ではJIT生産方式, かんばん方式, Pull方式として全世界に広く知られている. その特徴は, 1)多種少量生産システムに適合した後工程引き取り, 後補充生産方式;2)自律分散型生産システム;3)改善による「徹底的なムダの排除」の「仕組み」と改善提案活動;4)多能工化;の4点であるが, 詳細は[[JIT生産システム]]を参照されたい. |
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ERP(enterprise resource planning)は, 企業全体の経営資源を計画的に活用し, 最大のパーフォマンスを達成することを目指した全社統合業務システムであり, 1992年におけるSAP社のR/3の発表に始まる. ERPは, 生産・販売管理, 会計, 人事管理を含めた基幹業務を包括的にカバーした大福帳型データベースを介して, 企業内の部門をまたがる基幹業務のデータを処理し, 財務諸表に反映させる実行系のシステムである. R/3以外にはOracle社のOCA, SSA社のBPCS等が代表的なものである. 一方SCM(supply chain management)は, 全体最適を目指すTOCの流れを受け, 部品供給, 製造, 配送, 販売の関連企業が一体となって, 顧客を中心とした部品調達・生産・配送計画を作成する計画系のシステムである. i2 Technologies社のRHYTHM, Manugistics社のManugistics5等が代表的なものである. 当初ERPはSCM関連の計画機能に欠けていたため, SCMソフトが急激に売上を伸ばしたが, 近年ERPベンダーも自社開発あるいはSCMベンダーとの共同開発により急速にSCM機能を充実させている. SCM の紹介が [5] に, 最近の研究が [6, 7] にまとめられている. | ERP(enterprise resource planning)は, 企業全体の経営資源を計画的に活用し, 最大のパーフォマンスを達成することを目指した全社統合業務システムであり, 1992年におけるSAP社のR/3の発表に始まる. ERPは, 生産・販売管理, 会計, 人事管理を含めた基幹業務を包括的にカバーした大福帳型データベースを介して, 企業内の部門をまたがる基幹業務のデータを処理し, 財務諸表に反映させる実行系のシステムである. R/3以外にはOracle社のOCA, SSA社のBPCS等が代表的なものである. 一方SCM(supply chain management)は, 全体最適を目指すTOCの流れを受け, 部品供給, 製造, 配送, 販売の関連企業が一体となって, 顧客を中心とした部品調達・生産・配送計画を作成する計画系のシステムである. i2 Technologies社のRHYTHM, Manugistics社のManugistics5等が代表的なものである. 当初ERPはSCM関連の計画機能に欠けていたため, SCMソフトが急激に売上を伸ばしたが, 近年ERPベンダーも自社開発あるいはSCMベンダーとの共同開発により急速にSCM機能を充実させている. SCM の紹介が [5] に, 最近の研究が [6, 7] にまとめられている. | ||
− | 上記以外にも, 納期回答を迫られる「在庫補充生産方式」に対しては, 顧客との対応で生産スケジュールを予約する生産座席システム [8] が有力であり, 「個別生産方式」に対しては, プロジェクト管理における[[PERT]]・[[CPM]]手法が適切である. さらに近年, 家電業界を中心に, 製品寿命の短命化と多品種少量生産化に対応し, 生産ラインのコンベアを撤去して多能工が製品を手渡して生産するセル生産方式が普及している. 詳細は[[ | + | 上記以外にも, 納期回答を迫られる「在庫補充生産方式」に対しては, 顧客との対応で生産スケジュールを予約する生産座席システム [8] が有力であり, 「個別生産方式」に対しては, プロジェクト管理における[[PERT]]・[[CPM]]手法が適切である. さらに近年, 家電業界を中心に, 製品寿命の短命化と多品種少量生産化に対応し, 生産ラインのコンベアを撤去して多能工が製品を手渡して生産するセル生産方式が普及している. 詳細は[[JIT生産システム]]を参照されたい. |
2007年8月8日 (水) 03:33時点における最新版
【せいさんかんり (production management) 】
生産システムは, その対象とする製品の需要形態により, 個別に注文を受けて生産を行う「個別受注生産」と継続的な注文により生産を行う「継続受注生産」及び需要予測等の見込みに基づいて生産する「見込み生産」の3種に大別される. さらに, これら製品を生産する生産方式により, 「個別生産方式」, 「在庫補充生産方式」, 「ライン生産方式」等に類別される. ここで, 「個別生産方式」とは, 高度な生産技術を持つ作業者がフレキシブルな設備を用いて, 個別受注生産のような個々に異なる製品を生産する方式である. 「在庫補充生産方式」とは, 継続的な注文あるいは見込みによる納期要求に対応し, 生産リードタイムを短縮するために部品や中間品の在庫を持ち, その在庫をもとに顧客の仕様にあわせた製品を生産し, 使用された部品や中間品の在庫を補充する生産方式である. 「ライン生産方式」とは, 類似仕様の製品の製品寿命が長く, 生産量が多いときに, 専用のラインを設置してそれら製品群を切り替えあるいは混流して生産する方式である [1].
生産システムの目的は, 品質(quality)の良い製品を, コスト(cost)を安く, 顧客の納期(delivery)に間に合うように生産することであり, QCDと呼ばれている. このQCDを達成するように生産システムを管理するのが生産管理方式であり, 上述の様々な需要形態, 生産方式に対応した種々の生産管理方式が創案・導入されてきた. 以下にその代表的なものを説明する.
1) 製番管理方式
わが国製造業における伝統的生産管理方式であり, 主として個別生産方式で使われる製品中心管理方式である. 仕様の同じ製品を1ロットとして製造番号(製番と呼ばれる)をつけ, 必要な資材の手配, 工程計画, 進度管理, 納期管理, 原価管理等の一貫した管理をこの製番により行う方式である. 異なる製番を持つ製品間に共通部品があっても別部品として管理するため, 品切れ, 過剰在庫が起こりやすく, 督促作業のための間接人員が必要になる. さらに, 標準化が困難なため改善が進みにくい欠点を持つが, その簡便さのために依然として使われている.
2) MRP
MRP(material requirements planning:資材所要量計画)は, 1960年代から米国で開発されてきた生産管理方式であり, 対象となる品目を独立需要品目(最終製品や補修部品等, その需要が他の品目とは独立に,販売や業務計画などに基づいて決められる品目)と従属需要品目(原材料,購入部品,内製品等, その需要が独立需要品目に対する需要から計算できる品目)に区分する. そして, 生産活動の全てをタイムバケット(time bucket)と呼ばれる, 1週間あるいは1日といった連続した時間区間に対して計画し, そのタイムバケット内に行われるように管理する. したがって, MRPではまず, 独立需要品目に対する各タイムバケットで生産すべき数量を与える基準生産計画(master productionschedule)を作成する. また, 各独立需要品目を1単位生産するのに必要となる部品や構成品を示す部品表(bill of material, BOM, B/M)を準備する. 部品表には, 各部品の必要数だけを示すサマリー表と各部品の構成関係をも示すストラクチャー表があり, 各部品の生産・納入に要するリードタイムやロットサイズも示されている. MRPでは, 基準生産計画と部品表に基づいて, 各タイムバケットで必要となる部品量を計算し, 各品目の使用可能在庫量からその発注・生産指示を決定する. しかしMRPは, 各工程が無限の生産・供給能力を持つと仮定しており,その実行可能性を保証するために, 生産の諸資源を長期的な観点から計画する資源所要量計画(resourcerequirements planning)と, 短期的な観点から生産能力を計画・手配する能力所要量計画の機能がつけ加えられ, 総合的な生産管理システム(closed-loopMRP)に発展した. さらに会計, 財務機能が追加され, 生産・販売管理と統合化されたMRPは, MRP II(manufacturing resourceplanning:製造資源計画)と呼ばれている. MRPの理論的側面が [2] に紹介されている.
3) JIT
JIT(just-in-time)は, 必要な物を, 必要な時に, 必要なだけ生産する理念であり, この理念を実現すべく創案された生産方式がトヨタ生産方式である. 1973年のオイルショック時に脚光を浴びて登場して以来, 現在ではJIT生産方式, かんばん方式, Pull方式として全世界に広く知られている. その特徴は, 1)多種少量生産システムに適合した後工程引き取り, 後補充生産方式;2)自律分散型生産システム;3)改善による「徹底的なムダの排除」の「仕組み」と改善提案活動;4)多能工化;の4点であるが, 詳細はJIT生産システムを参照されたい.
4) TOC
TOC(theory of constraints:制約条件の理論)は, 1970年代後半から開発されてきた生産スケジューリングソフトOPT (optimized production technology)を経て, イスラエルの物理学者Goldratt博士によって育て上げられた手法である. OPTは, 固有の評価指標であるスループット(=売上げ-資材費)の向上とリードタイムの短縮, 最適在庫水準の維持等の目標を達成するための最善策を, ボトルネック工程に着目して計画するソフトである. OPTでは具体的な最適化手法は公表されていなかったが, TOCで明らかにされたボトルネック工程を最大限に活用するスケジューリング手法が, DBR(drum, buffer, rope)である. ここで, ドラムはボトルネック工程の生産に全工程が同期すること,バッファはボトルネック工程が仕掛品不足で止まらないように在庫を持つこと,ロープは先頭工程が進みすぎないようにボトルネック工程の生産に同期して原材料を投入することを意味している.TOCはOPTの考え方を発展させた, システムの目的達成を阻害する制約条件(ボトルネック工程等)を発見し, システムを改善する手法である[3]. TOCの改善手法により生産能力に余裕が生まれ, 市場が制約条件になった時, 市場を拡大するための改善手法として思考プロセス(thinking process)が開発されている. OPTとTOCの関係は [4] に述べられている.
ERP(enterprise resource planning)は, 企業全体の経営資源を計画的に活用し, 最大のパーフォマンスを達成することを目指した全社統合業務システムであり, 1992年におけるSAP社のR/3の発表に始まる. ERPは, 生産・販売管理, 会計, 人事管理を含めた基幹業務を包括的にカバーした大福帳型データベースを介して, 企業内の部門をまたがる基幹業務のデータを処理し, 財務諸表に反映させる実行系のシステムである. R/3以外にはOracle社のOCA, SSA社のBPCS等が代表的なものである. 一方SCM(supply chain management)は, 全体最適を目指すTOCの流れを受け, 部品供給, 製造, 配送, 販売の関連企業が一体となって, 顧客を中心とした部品調達・生産・配送計画を作成する計画系のシステムである. i2 Technologies社のRHYTHM, Manugistics社のManugistics5等が代表的なものである. 当初ERPはSCM関連の計画機能に欠けていたため, SCMソフトが急激に売上を伸ばしたが, 近年ERPベンダーも自社開発あるいはSCMベンダーとの共同開発により急速にSCM機能を充実させている. SCM の紹介が [5] に, 最近の研究が [6, 7] にまとめられている.
上記以外にも, 納期回答を迫られる「在庫補充生産方式」に対しては, 顧客との対応で生産スケジュールを予約する生産座席システム [8] が有力であり, 「個別生産方式」に対しては, プロジェクト管理におけるPERT・CPM手法が適切である. さらに近年, 家電業界を中心に, 製品寿命の短命化と多品種少量生産化に対応し, 生産ラインのコンベアを撤去して多能工が製品を手渡して生産するセル生産方式が普及している. 詳細はJIT生産システムを参照されたい.
参考文献
[1] 村松林太郎, 『新版 生産管理の基礎』, 国元書房, 1979.
[2] K. R. Baker, "Requirements Planning," in Logistics of Production and Inventory, S. C. Graves, A. H. G. Rinnoy Kan and P. H. Zipkin, eds. North-Holland, 571-627, 1993.
[3] 稲垣公夫, 『TOC革命』, 日本能率協会マネジメントセンター, 1997.
[4] M. S. Spencer and J. F. Cox, "Optimum Production Technology (OPT) and the Theory of Constraints (TOC): Analysis and Genealogy," International Journal of Production Research, 33 (1995), 1495-1504.
[5] 土谷哲雄編, 「特集 サプライチェーンマネジメント」, 『オペレーションズ・リサーチ』, 44 (1999), 280-303.
[6] S. Tayur, R. Ganeshan and M. Magazine ed., Quantitative Model for Supply Chain Management, Kluwer Academic Publishers, 1999.
[7] A.G. de Kok and S.C. Graves ed., Supply Chain Management : Design, Coordination and Operation, Elsevier, 2003.
[8] T. Tamura, S. Fujita and K. Kuga, "The Concept and Practice of the Production Seat System," Managerial and Decision Economics, 18 (1997), 101-112.