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一般に, [[企業価値評価]]のためのアプローチは3つのタイプに大別できる. | 一般に, [[企業価値評価]]のためのアプローチは3つのタイプに大別できる. | ||
− | 第1のアプローチは, 企業あるいは企業が所有する資産が生み出す将来の[[フリーキャッシュフロー]]を, そのリスクを反映する割引率で現在価値に割り引くことによって, 企業価値あるいは企業資産の価値を推計する方法である. | + | 第1のアプローチは, 企業あるいは企業が所有する資産が生み出す将来の[[フリーキャッシュフロー]]を, そのリスクを反映する割引率で現在価値に割り引くことによって, 企業価値あるいは企業資産の価値を推計する方法である. この割引キャッシュフロー法には2通りの方法がある. 1つは, 株主資本に対する期待キャッシュフロー(営業費用, 税金, 利息および元本を支払った後の残余キャッシュフロー)を推計し, それを株主資本コスト(株主の要求する最低限のリターン)で割り引くことにより, 株主資本の価値を推計する方法である. 配当割引モデルはこの方法の1つと見なすことができる. もう1つは, 株主に加え債権者などの財務請求権者を含む企業全体の期待フリーキャッシュフローに基づいて企業価値を推計する方法である. この方法は, 負債の利用などによって生じる価値の推計方法の違いから2通りに分けられる. 1つは[[加重平均資本コスト]](WACC)法で, 企業全体の期待フリーキャッシュフローを, [[資本構成]]を考慮した加重平均資本コストで割り引くことによって, 企業価値を推計する方法である. この方法では, 負債の利用などによって生じる価値は分母の資本コストで調整される. もう1つが, 全額株主資本である場合に生み出される価値と負債の利用などによって生じる価値を分離して推計し, それらを加えることによって企業価値を求める[[APV法|修正現在価値(APV)法]]である. APV法の場合には, 前者が株主資本コストで割り引かれ, 後者が無危険利子率で割り引かれることに注意しなければならない. |
第2のアプローチは, 利益, フリーキャッシュフロー, 純資産簿価および収益などの変数と資産価値との関係を表す乗数を用いて, 資産価値を相対的に評価する乗数法である. このアプローチの代表的な例として, 株価収益率(PER), 株価フリーキャッシュフロー比率(PCFR), 純資産倍率(PBR)などの乗数の産業平均を用いて企業価値を推計する方法が挙げられる. この場合には, 評価対象になっている企業とその産業に属する他の企業とが比較可能であり, 市場がこれらの企業を平均的に適切に評価していることが前提になっている. こうした前提条件が満たされている限り, このアプローチを用いると比較的簡単に企業および資産価値を推計することができる. 逆に, 比較可能性が確保されていないときや, 市場が類似の属性を持つ企業を過大評価あるいは過小評価しているときには, 誤った推計をしてしまう. | 第2のアプローチは, 利益, フリーキャッシュフロー, 純資産簿価および収益などの変数と資産価値との関係を表す乗数を用いて, 資産価値を相対的に評価する乗数法である. このアプローチの代表的な例として, 株価収益率(PER), 株価フリーキャッシュフロー比率(PCFR), 純資産倍率(PBR)などの乗数の産業平均を用いて企業価値を推計する方法が挙げられる. この場合には, 評価対象になっている企業とその産業に属する他の企業とが比較可能であり, 市場がこれらの企業を平均的に適切に評価していることが前提になっている. こうした前提条件が満たされている限り, このアプローチを用いると比較的簡単に企業および資産価値を推計することができる. 逆に, 比較可能性が確保されていないときや, 市場が類似の属性を持つ企業を過大評価あるいは過小評価しているときには, 誤った推計をしてしまう. |
2007年7月19日 (木) 14:12時点における版
【きぎょうかちひょうか (valuation) 】
企業や市場では, さまざまな金融資産や実物資産が取引されており, その取引に関して取引をするかしないか, 取引を行うとすればどういう条件で, どういうタイミングでするか, また既に取引を行っているとすれば取引を継続するかしないか, 条件を変更するかなどの意思決定が行われる. それらの取引において優れた意思決定を行う前提条件となるのが, 資産価値およびその決定要因を知ることである. 特に株式や債券の取引, 企業自体あるいは企業資産の取引などでは, 企業価値およびその決定要因に焦点があてられる.
一般に, 企業価値評価のためのアプローチは3つのタイプに大別できる.
第1のアプローチは, 企業あるいは企業が所有する資産が生み出す将来のフリーキャッシュフローを, そのリスクを反映する割引率で現在価値に割り引くことによって, 企業価値あるいは企業資産の価値を推計する方法である. この割引キャッシュフロー法には2通りの方法がある. 1つは, 株主資本に対する期待キャッシュフロー(営業費用, 税金, 利息および元本を支払った後の残余キャッシュフロー)を推計し, それを株主資本コスト(株主の要求する最低限のリターン)で割り引くことにより, 株主資本の価値を推計する方法である. 配当割引モデルはこの方法の1つと見なすことができる. もう1つは, 株主に加え債権者などの財務請求権者を含む企業全体の期待フリーキャッシュフローに基づいて企業価値を推計する方法である. この方法は, 負債の利用などによって生じる価値の推計方法の違いから2通りに分けられる. 1つは加重平均資本コスト(WACC)法で, 企業全体の期待フリーキャッシュフローを, 資本構成を考慮した加重平均資本コストで割り引くことによって, 企業価値を推計する方法である. この方法では, 負債の利用などによって生じる価値は分母の資本コストで調整される. もう1つが, 全額株主資本である場合に生み出される価値と負債の利用などによって生じる価値を分離して推計し, それらを加えることによって企業価値を求める修正現在価値(APV)法である. APV法の場合には, 前者が株主資本コストで割り引かれ, 後者が無危険利子率で割り引かれることに注意しなければならない.
第2のアプローチは, 利益, フリーキャッシュフロー, 純資産簿価および収益などの変数と資産価値との関係を表す乗数を用いて, 資産価値を相対的に評価する乗数法である. このアプローチの代表的な例として, 株価収益率(PER), 株価フリーキャッシュフロー比率(PCFR), 純資産倍率(PBR)などの乗数の産業平均を用いて企業価値を推計する方法が挙げられる. この場合には, 評価対象になっている企業とその産業に属する他の企業とが比較可能であり, 市場がこれらの企業を平均的に適切に評価していることが前提になっている. こうした前提条件が満たされている限り, このアプローチを用いると比較的簡単に企業および資産価値を推計することができる. 逆に, 比較可能性が確保されていないときや, 市場が類似の属性を持つ企業を過大評価あるいは過小評価しているときには, 誤った推計をしてしまう.
第3のアプローチは, オプションとしての特性を持つ資産に対して, オプション評価モデルを用いてその価値を推計するアプローチである. オプションとしての特性を持つ資産は, 金融オプションやワラントなどの証券だけではない. たとえば株式は, 負債の額面価額を行使価格とし, 負債の返済期限を満期とする, 企業価値に対するコールオプションと見なすことができる. また特許権は製品に対するコールオプションとして分析することができる. このほか, 投資プロジェクトの評価においては, プロジェクトの延期, 規模の拡張や縮小, 一時停止や再開, 中止などの柔軟性をアメリカン・オプションとみなし, その実行をオプションの行使と捉えて, その価値を評価するアプローチが提案されている. オプションは, 原資産の現在価値およびその分散, 行使価格, 満期および無危険利子率という変数の関数として評価される. そのため, これらの変数の値がわかれば, 二項モデルやBlack \& Scholesの公式を利用して, 資産価値を推計できる. しかし, 市場で取り引きされていない資産に対するオプションに, このアプローチを適用することには限界があり, 推計しても誤差が大きくなると考えられる.
参考文献
[1] A. Damodaran, Applied Corporate Finance, John Wiley & Sons, 1999.
[2] T. Copeland, T. Koller and J. Murin, Valuation, John Wiley & Sons,1996.伊藤邦雄 訳 『企業評価と戦略経営』, 日本経済新聞社, 1993.
[3] D. R. Emery and J. D. Finnerty, Corporate Financial Management, Prentice-Hall, 1997.
[4] L. Trigerorgis, Real Options, The MIT Press, 1996.
[5] 古川浩一, 蜂谷豊彦, 中里宗敬, 今井潤一, 『基礎からのコーポレートファイナンス』, 中央経済社, 1999.
[6] 古川浩一, 『財務管理』, 放送大学教育振興会, 1996.
[7] 諸井勝之助, 『経営財務講義(第2版)』, 東京大学出版会, 1989.
[8] 津村英文, 若杉敬明, 榊原茂樹, 青山護, 『証券投資論』, 日本経済新聞社, 1991.