「《AHPの誤差》」の版間の差分

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このはじめの考え方をもとにウェイトを推定するのが固有ベクトル法であり, 2番目のが幾何平均法である.  
 
このはじめの考え方をもとにウェイトを推定するのが固有ベクトル法であり, 2番目のが幾何平均法である.  
  
 一般に推定ウェイトを求めるために, 一対比較値$a_{ij}$と推定ウェイトから計算された再現値$w_i/w_j$を比較する. このとき, 固有ベクトル法は, $ A\boldmath{w}=\lambda_{\max} \boldmath{w} $により推定するが, これは,  
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 一般に推定ウェイトを求めるために, 一対比較値$<math>a_{ij}</math>$と推定ウェイトから計算された再現値$<math>w_i/w_j</math>$を比較する. このとき, 固有ベクトル法は, $<math>A\boldmath{w}=\lambda_{\max}\boldmath{w}</math>$により推定するが, これは,  
  
\min_{w_1\cdot w_n} \max_{i} \sum_{j=1}^n a_{ij}({w_j}/{w_i})   
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:<math>\min_{w_1\cdot w_n} \max_{i} \sum_{j=1}^n a_{ij}({w_j}/{w_i})</math>  
  
 
という最適化問題の最小解を求めているのと同じである [5].  
 
という最適化問題の最小解を求めているのと同じである [5].  
  
 一方, 幾何平均法は, $w_i=\sqrt[n]{a_{i1}\cdots a_{in}}$とウェイトを推定するが, それは, 最小2乗問題
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 一方, 幾何平均法は, $<math>w_i=\sqrt[n]{a_{i1}\cdots a_{in}}</math>$とウェイトを推定するが, それは, 最小2乗問題
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:<math>\min_{w_1\cdot w_n} \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n \left( \ln a_{ij}-\ln w_i/w_j\right)^2</math> 
  
\min_{w_1\cdot w_n} \sum_{i=1}^n\sum_{j=1}^n \left( \ln a_{ij}-\ln w_i/w_j\right)^2 
 
  
 
の最適解である.  
 
の最適解である.  
  
 これらの方法は, 比較値$a_{ij}$と推定値$w_i/w_j$との差を小さくするようにウェイトを求めているが, その考え方は違っている. 固有ベクトル法は, $\min\max$を計算していることからも分かるように, ある最大の誤差を全体で小さくするようなウェイトを推定している. つまり, どの要素の誤りも一定の大きさ以下になるような(最良近似的な) 方法となっている.  
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 これらの方法は, 比較値$<math>a_{ij}</math>$と推定値$<math>w_i/w_j</math>$との差を小さくするようにウェイトを求めているが, その考え方は違っている. 固有ベクトル法は, $<math>\min\max</math>$を計算していることからも分かるように, ある最大の誤差を全体で小さくするようなウェイトを推定している. つまり, どの要素の誤りも一定の大きさ以下になるような(最良近似的な) 方法となっている.  
  
 一方, 幾何平均法の場合は, $a_{ij}(w_j/w_i)$が対数正規分布に従うと考えて, 対数をとって誤差の最小2乗法でウェイトを推定したものである. よって, 個々の誤差がある分布に従っているという仮定をしていることになる.  
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 一方, 幾何平均法の場合は, $<math>a_{ij}(w_j/w_i)</math>$が対数正規分布に従うと考えて, 対数をとって誤差の最小2乗法でウェイトを推定したものである. よって, 個々の誤差がある分布に従っているという仮定をしていることになる.  
  
 
 モデルとの整合性を調べるために, ウェイトから計算された比較値と一対比較行列の値が, どれくらい違うのかを判定する必要がある. よく使われるサーティの整合度は, 固有ベクトル法での一対比較の整合性を示す尺度であるが, 一般にこの整合度が 0.1から0.15ならば妥当なものだと判断される, 一方, 幾何平均法の場合は統計学における線形モデルであるので, 寄与率などを計算して, そのモデルの妥当性を見ることになる.  
 
 モデルとの整合性を調べるために, ウェイトから計算された比較値と一対比較行列の値が, どれくらい違うのかを判定する必要がある. よく使われるサーティの整合度は, 固有ベクトル法での一対比較の整合性を示す尺度であるが, 一般にこの整合度が 0.1から0.15ならば妥当なものだと判断される, 一方, 幾何平均法の場合は統計学における線形モデルであるので, 寄与率などを計算して, そのモデルの妥当性を見ることになる.  

2007年7月12日 (木) 22:00時点における版

【えーえっちぴーのごさ (estimation error of AHP) 】

 AHPを使用する際に, その推定ウェイトにはある意味で誤差を含むことになる. 何を誤差としてとらえるかによって, AHPモデルの解釈の仕方(推定方法)も違ってくる. 特に, AHPは議論を繰り返しながらその比較値を検討することも特徴であるので, どのような誤差を考慮しているかを知ることは重要である.

 一般にウェイト推定には, 固有ベクトル法や幾何平均法が使用される. これらのウェイト推定法の違いは, AHPにおいて一対比較値が人によってどのように決定されているかというモデルの考え方の違いでもある. この考え方には大きく分けて2つの考え方がある.

  • 一対比較をする評価者は正しく比較し, その比較値には誤差を含んでいない.
  • 評価者は, あいまいであり比較値には不確定な変動を含んでいる.

このはじめの考え方をもとにウェイトを推定するのが固有ベクトル法であり, 2番目のが幾何平均法である.

 一般に推定ウェイトを求めるために, 一対比較値$$と推定ウェイトから計算された再現値$$を比較する. このとき, 固有ベクトル法は, $構文解析に失敗 (不明な関数「\boldmath」): {\displaystyle A\boldmath{w}=\lambda_{\max}\boldmath{w}} $により推定するが, これは,

という最適化問題の最小解を求めているのと同じである [5].

 一方, 幾何平均法は, $$とウェイトを推定するが, それは, 最小2乗問題



の最適解である.

 これらの方法は, 比較値$$と推定値$$との差を小さくするようにウェイトを求めているが, その考え方は違っている. 固有ベクトル法は, $$を計算していることからも分かるように, ある最大の誤差を全体で小さくするようなウェイトを推定している. つまり, どの要素の誤りも一定の大きさ以下になるような(最良近似的な) 方法となっている.

 一方, 幾何平均法の場合は, $$が対数正規分布に従うと考えて, 対数をとって誤差の最小2乗法でウェイトを推定したものである. よって, 個々の誤差がある分布に従っているという仮定をしていることになる.

 モデルとの整合性を調べるために, ウェイトから計算された比較値と一対比較行列の値が, どれくらい違うのかを判定する必要がある. よく使われるサーティの整合度は, 固有ベクトル法での一対比較の整合性を示す尺度であるが, 一般にこの整合度が 0.1から0.15ならば妥当なものだと判断される, 一方, 幾何平均法の場合は統計学における線形モデルであるので, 寄与率などを計算して, そのモデルの妥当性を見ることになる.

 もし, 妥当性が示せない場合は, AHPのモデルがふさわしくないか, または一対比較に想定していない値が一対比較行列に入ったと考える. AHPを意思決定の道具をして使用するには, このような値を見つけて議論の対象にすべきである. しかし, モデルが正しいものとして, ウェイトを推定する場合には「その要素を評価したときに, 評価者が考え違いをしたか対象を間違えて評価してしまっていて大きく違った」と考える. その評価値をはずれ値として取り除き, 欠損データのある場合のウェイト推定法を使用する. また, 誤差の分布を仮定する場合には, 誤差分布に対数正規分布以外を想定することにより, 調和平均法など様々なウェイト推定法を考えることもできる [8].

 これらのことから, AHPを使用する際に, どのような比較値を取り扱うべきなのかを考えて, その方法を選択することも重要な点となる.

 なお, AHPを使用して一対比較する場合, その重要度を1,3,5,7 というような整数にして比較行列を作成し, これをもとにウェイト推定をする. これに対する誤差を考慮する必要もあるが, このような感覚量を計量化する際の問題は, 心理学的な問題を含んでいるのでその数値化がよいかの判断は非常につきにくい. このような議論は, 計量心理学や統計学の分野でもなされている [4],[7].しかし, その整数化よる誤差を考慮する必要はあるので、その一対比較した値を変更してウェイトを計算してみることも重要である。その際には, 比較値を2値のみとして扱う2値AHP [2] もあるので使用して結果を比較することも可能である. また, 誤差という観点からは視点が違うが, AHPをグループで行う際に利用される比較値を区間として捉える区間AHPもある [3]. これは, 誤差を区間で表す方法と考えてよいので, 比較値に一定の許容幅を持たせて推定したい場合に応用できる.



参考文献

[1] T.L. Saaty, The Analytic Hierarchy Process, RWS Publications, (1996).

[2] K. Nishizawa, "A Consistency Improving Method in Binary AHP," Journal of Operations Research Society of Japan, 38 (1995), 21-33.

[3] 山田善靖, 杉山学, 八巻直一, 「合意形成モデルを用いたグループAHP」, Journal of Operations Research Society of Japan, 40 (1997), 236-244.

[4] 圓川隆夫, 『多変量のデータ解析』, 朝倉書店, 2000.

[5] 木下栄蔵編, 『AHPの理論と実際』, 日科技連, 2000.

[6] 刀根薫, 眞鍋龍太郎, 『AHP事例集』, 日科技連, 1990.

[7] 松原望, 『計量社会科学』, 東京大学出版, 1997.

[8] 加藤豊, 「意思決定における評価方法」, 『日本オペレーションズ・リサーチ学会誌』, 48 (2003), 253-258.