「《経営意思決定》」の版間の差分

提供: ORWiki
ナビゲーションに移動 検索に移動
(新しいページ: ''''【ぶんけんかんり (decentralized control) 】'''  人間は限られた認知能力や処理能力しかないので, 組織の大規模化に伴い, 経営者は...')
 
1行目: 1行目:
'''【ぶんけんかんり (decentralized control) 】'''
+
'''【けいえいいしけってい (managerial decision making)】'''
  
 人間は限られた認知能力や処理能力しかないので, 組織の大規模化に伴い, 経営者は権限を委譲し, 分権化を行わざるを得なくなる. また大規模化しすぎると, 規模の利益が生じなくなる. それ故, 経営者は分権化に伴う調整の困難さや, コストを考慮に入れながら, どのタイプの組織構造を前提とした分権化を行うかを決定することになる. 大規模化に伴う分権化は, 全ての[[組織体]] (organization) に見られる. 分権化を行う理由として, (1)経営者の業務処理負担の軽減, (2)意思決定の適時性と迅速性, (3)業務の区分による計画と統制の容易性, (4)下位管理者や従業員の育成と動機づけ効果, 等が挙げられる. ただ分権化により調整問題が多くなり, しかもセクショナリズムに陥りやすいので, これを防ぐためには, 「決定面での分権化と統制面での集権化」が必要になる.  
+
 経営管理ないし組織における[[問題解決]]をさす. 企業や組織における長期計画や合併などについてのトップ経営者層の判断や決定だけでなく, 日常的な業務活動における判断や選択を含む. これらの意思決定については, その考慮する期間の長さ, 影響を受ける関係者の数, 左右される金額の多寡を問わず, 意思決定としての共通性があり, 一連の段階がある. この段階は, 種々提案されているが, 一例を示すと, 認識段階, 洞察段階, 予測段階, 評価段階, 選択段階, 実施段階からなる. これらの段階は, サイモン[7]による[[意思決定過程]]の分析を, 松田[6]が展開したものとなっている.  
  
 近年の新しい動向については後述するが, 分権化の方式として, 職能別分権化と[[事業部制]] (divisionalization) がある. 前者は, 購買, 生産, 販売等の職能別に専門化した部門を責任単位として, 分権化を行う方式である. 後者は, 企業組織を製品別, 地域別あるいは得意先別に編成された事業部を利益責任単位(投資責任単位であることもある)とした分権管理組織である. この方式は連邦制分権化ともよばれ, これは各州が独立していながら, 連邦政府に統合されている状態によく似ていることによっている. 事業部は生産, 販売, 管理等の職能を統合し, 大幅な権限が委譲されている自主的な経営単位である. 事業部制は企業が多角化戦略を採り, 製品や市場が多様化している時, また環境が不確実である場合に有用である.
+
'''意思決定の諸段階'''
  
 どちらの分権化方式が採用されたとしても, 部門や事業部の行動が全体的な最適化を導くように, [[分権管理]] (decentralized control) されなければならない. そのための1つの手段として, 社内振替価格}{社内振替価格}(intra-company transfer price)の利用がある. 職能別の各部門は本来, 原価責任か収益責任のどちらかしか持っていないが, 部門間取引を社内振替価格で評価することにより, 両方の責任を持つ利益責任単位として運営できる. これにより, 職能別部門が事業部の特徴を備えることになるので, この分権化方式を職能別事業部制ということもある. この場合の社内振替価格として競争市価によることもあるが, 原価プラス適正利潤によることが多い. しかしこの方法では, 生産部門の努力の如何にかかわらず一定の利益を保証することになるので, 努力の程度を反映しないことになる. これに対し, 事業部間取引では社内振替価格は競争市価によって決定されることが多く, 通常, 条件がよければ外部からの購入を許す忌避宣言権も認められている. これによって企業内に, 市場の価格メカニズムが導入されることになる. 競争市価を用いることによって, もし事業部の製品原価が競争市価より高ければ, 改善の必要性があると判断できる.  
+
意思決定の諸段階における特徴とそこで有用と考えられる方法を例示する.  
  
 分権管理の第2番目の手段は, 業績評価法を工夫することである. 職能別部門の業績評価では, 原価責任, 収益責任が果たされているかどうかを見るために, 原価額や収益額で評価される. 社内振替価格が設定され, 利益責任を持つ場合には, 利益額で評価される. [[事業部業績評価]] (divisional performance evaluation) は, 事業部を拡張あるいは縮小すべきかどうかのために行われる場合と, 事業部が全社的観点から望ましい活動を行ったかどうかの評価のために行われる. 前者の場合は正確なコスト・ビヘイビアーを反映した評価であること, 後者の場合は管理可能性を考慮した, 公平な原価配分による評価であることが重要である. ただ後者の場合, 管理可能性のみを重視した評価は, 自部門の業績の向上のみにとらわれることになり易く, あえて管理可能性に基づかない評価基準を設定することもある. 特に, 本社費配賦後の利益によって業績評価が行われる場合には, 公平な配賦が重要となる. しかしながら配賦基準としてどれを選ぶかによって, 事業部の行動が変わるので, 本社は[[本社費配賦]] (allocation of corporate expenses) を政策的に利用する場合もある. 事業部の権限が大きく投資責任を持っている場合には, 使用資本についても責任を持っているので, (事業部利益÷事業部資本)によって算定される事業部資本利益率で評価されることが多い. これに対し, 事業部が利益責任だけを負っている場合には, 事業部利益で評価される. ただ利益や利益率による評価だけでは, アフター・サービスの費用や, 社員の教育訓練費を削減したり, 利益率を増やすために必要な投資を押さえる等の行動に結びつきやすい. それ故, 近年では, 財務的な指標, 顧客関係の指標, 社内ビジネス・プロセスの指標, 革新と学習の指標をバランスよく達成することが将来的に重要であると認識されるにつれ, 多元的な尺度による評価の必要性が主張されている.  
+
認識段階は, 企業や組織内外で生起している状況の認識にもとづいて, 目的ないし問題を設定する段階であり, 情報のフィルタリングや圧縮が行われる. この段階では, 経営分析・財務分析や損益分岐点分析などの会計的方法, 標本調査法などの統計的手法, 認知科学的知見, データマイニングなどの活用が考えられる.  
  
 分権管理の第3番目の手段は, 社内金利制度や社内資本金制度の利用である. ただ, これらの制度を利用している企業はあまり多くない. 社内金利制度は, 各事業部の社内借入金に対して, 社内金利を賦課する制度である. 社内資本金制度は, 事業部に社内資本金を割り当てることにより, 資本金の運用まで責任を負わせる方式である. また社内資本金を与える代価として, 社内配当金を納付させるようにしている. これらの制度を利用している事業部は投資責任を持っているので, 資本利益率を用いた評価が可能となる.  
+
洞察段階は, 洞察にもとづき代替案を探索し, 形成する段階であり, 種々の発想法, システムチャート, リレーショナル・データベースなどの活用が考えられる.  
  
 数理モデルを用いた分権管理についての研究もある. 例えば, 本社が事業部の制約条件を知らないとして, 両者の間でどのような情報交換を行えば全社的最適が達成されるかについて, ダンツィヒ・ウォルフ(D. B. Dantzig, P. Wolfe)の分解原理やコルナイ・リップタック(J. Kornai, TH. Liptak)の解法を利用した研究がある. これらの研究は理想的な状況における情報交換を考察することによって問題を整理し, 検討を通じて改善の糸口を見いだすことに役立つ.  
+
予測段階は, 代替案にもとづき, その結果を予測する段階である. この段階では, 時系列データの統計的解析, 需要曲線・供給曲線などの活用が考えられるが, 予測対象への理解と知識にもとづいて, 予測の妥当性を吟味する必要がある.  
  
 近年, 事業部制以上に分権化の利点を追求するために, [[カンパニー制]] (company system) や持株会社制を導入する企業がある. カンパニー制は社外分社型のものを意味する場合もあるが, 一般的には社内分社制度の一形態である. もちろんそれに類似した制度も多くある. 各カンパニーは独立会社のように運営され, カンパニーのトップは全ての役員や従業員の人事権も持っている. 各カンパニーは利益のほかに資金も管理し, 社内資本金や社内金利も計上している. 巨額な設備投資の実行権限も認められている. 利益があれば社内配当し, 残額は社内留保される. また損失が生じても填補されないという特徴を持っている.  
+
評価段階は, 予測結果を選好尺度にもとづき評価する段階である. この段階では, 不確実性下の選択におけるペイオフマトリックス, ミニマックス戦略などのゲーム理論, 経済性工学による多時点収支, 多変量解析による評価のモデル化, [[エキスパートシステム]]などの活用が考えられる.  
  
 持株会社制は, カンパニーが完全な独立性を持っていないのに対して, 完全な法的独立性を持った子会社や関連会社をつくり, 本社を持株会社とする方式である. 持株会社には事業持株会社もあるが, 1997年11月に純粋持株会社が解禁され, この方式を用いて完全な[[分社化]] (company split-up) を図る企業も現れている. 子会社や関連会社間の取引は, 全て対外取引となる. この方式では, M $\&$ A (merger $\&$ acquisition)によるグループ再編が容易になり, 経営の機動性が増すが, 会社間の資源配分の柔軟性や資金・人材の融通性が低下することになる. また, 持株会社化に伴う資産の譲渡課税や登録免許税がかさむという欠点もある. 連結納税制度も持株会社化に影響を与える要因である.
+
選択段階は, 評価結果にもとづき代替案の選択する段階であり, オペレーションズリサーチないし経営科学のモデルや手法の多くを活用することができる.
 +
 
 +
ここで, 目的関数が明示され, 代替案が有限で確定しており, 予測が完全で, 計算能力が完備している場合には, 最適化を図ることが可能である. しかし, これらの要件を欠く限定合理性下では, [[満足化]]による選択となる. 満足化は, サイモン[7]によって提唱された概念であり, 要求水準を越えた代替案を選択するという現実的な選択を意味する.
 +
 
 +
 実施段階は, 選択した代替案の実施と実施結果の評価を行う段階である. この段階では, 組織の行動理論やプロジェクトマネジメントの知見, PERTやGERTなどの手法の活用が考えられる. [[実施理論]]は, 経営科学における理論とその実践とのギャップを充足するため, 組織的有効性を高める実態的, 理論的, 方策的検討を行っている.
 +
 
 +
 実際の意思決定は, このように各段階を截然と区分けできる性質のものではなく, 各段階の入り組んだ複雑な過程となっている. 経営における意思決定は, 定型的意思決定と非定型的意思決定とに分類することができる. 定型的な意思決定はもとより, 非定型的な意思決定においても, コンピュータの高度利用が図られている. その例として, [[意思決定支援システム]](DSS), [[エキスパートシステム]], エージェント技術などの開発があり, 集団的意思決定については, グループウエアやコンピュータ支援協調システム(Computer Supported Cooperative Work)などの開発が進められている. さらに, 企業の意思決定は, 戦略的決定, 管理的決定, 業務的決定のように階層的に分類することもできる.
 +
 
 +
'''組織的意思決定'''
 +
 
 +
 企業における意思決定の実態調査にもとづいて, サイアートとマーチ[2]は, 問題の部分問題への分解や逐次的な問題の処理であるコンフリクトの準解決, 情報の短期的なフィードバックによる意思決定や, 競争者や供給者との談合協定によってなされる不確実性の回避, 問題の兆候の近傍での探索が優先されるなどの問題中心的探索, 経験による目標・注目ルール・探索ルールでの適応である組織学習などについて仮説を設定し, モデル化およびシミュレーションを行っている. このアプローチは, コンピュテーショナル組織論として, カーリーら[1]によって, 展開されている.
 +
 
 +
 企業や組織における意思決定過程は, マーチ[3]によれば, 合理的決定のモデルに基づいて捉えるのか, ルールに基づく行為と捉えるのかによって, 以下のように, 着目点が異なる. それぞれ, 選択を基盤とするのか, ルールを基盤とするのか, 明確化や一貫性に基づくのか, 曖昧さや非一貫性に基づくのか, 意思決定を道具的活動と捉えるか, 解釈的活動と捉えるか, 意思決定の成果は, 自律的な行為者の成果なのか, 相互作用のなされる生態系でのシステム的特性の成果なのかという対比となる. ルールに基づく行為の立場では, 意味決定が重要となり, 意思決定の生態系が追究されることとなる.
 +
 
 +
 曖昧さの下での組織の意思決定について, マーチとオルセン[5]は, ゴミ箱モデルを提案している. ごみ箱モデルの過程では, 選択の機会・問題・解・意思決定者は, 外生的で, 偶然に出会う. 問題と解は, 選択の機会で結びつけられるが, これは, 問題と解が目的-手段関係にあるためではなく, 時間的な近接性があることによる. この時間的な近接性がある限りにおいて, ほとんど全ての解は, ほとんど全ての問題と結びつけられる. この条件は, それらが, 同時に存在するということであるが, 問題と解の一時的なプールは, 社会的組織的構造によって, 制約を受けている.
 +
 
 +
 
 +
 
 +
----
 +
'''参考文献'''
 +
 
 +
[1] K. M. Carley and M. J. Prietula, ''Computational Organization Theory'', Lawrence Erlbaum Associates, Inc., 1994.
 +
 
 +
[2] R. M. Cyert and J. G. March, ''A Behavioral Theory of the Firm'', Englewood Cliffs, 1963.
 +
 
 +
[3] J. G. March, Understanding How Decisions Happen in Organizations, in Z. Shapira (ed.), ''Organizational Decision Making'', Cambridge University Press, 1997, pp. 9-32.
 +
 
 +
[4] J. G. March and H. A. Simon, ''Organizations'', John Wiley and Sons, Inc., 1958, Blackwell Publishers, 2nd ed., 1993. 土屋守章訳, 『オーガニゼーションズ』, ダイヤモンド社, 1977.
 +
 
 +
[5] J. G. March and J. P. Olsen, Ambiguity and Choice in Organizations, Universitetsforlaget, 1976. 遠田雄志, アリソン・ユング訳, 『組織におけるあいまいさと決定』, 有斐閣, 1986.
 +
 
 +
[6] 松田武彦, 『計画と情報』, 日本放送出版会, 1969.
 +
 
 +
[7] H. A. Simon, The Science of the Artificial (3rd ed.), The MIT Press, 1996. 稲葉元吉, 吉原英樹訳, 『システムの科学』, パーソナルメディア, 1999.

2007年7月13日 (金) 12:07時点における版

【けいえいいしけってい (managerial decision making)】

 経営管理ないし組織における問題解決をさす. 企業や組織における長期計画や合併などについてのトップ経営者層の判断や決定だけでなく, 日常的な業務活動における判断や選択を含む. これらの意思決定については, その考慮する期間の長さ, 影響を受ける関係者の数, 左右される金額の多寡を問わず, 意思決定としての共通性があり, 一連の段階がある. この段階は, 種々提案されているが, 一例を示すと, 認識段階, 洞察段階, 予測段階, 評価段階, 選択段階, 実施段階からなる. これらの段階は, サイモン[7]による意思決定過程の分析を, 松田[6]が展開したものとなっている.

意思決定の諸段階

意思決定の諸段階における特徴とそこで有用と考えられる方法を例示する.

認識段階は, 企業や組織内外で生起している状況の認識にもとづいて, 目的ないし問題を設定する段階であり, 情報のフィルタリングや圧縮が行われる. この段階では, 経営分析・財務分析や損益分岐点分析などの会計的方法, 標本調査法などの統計的手法, 認知科学的知見, データマイニングなどの活用が考えられる.

洞察段階は, 洞察にもとづき代替案を探索し, 形成する段階であり, 種々の発想法, システムチャート, リレーショナル・データベースなどの活用が考えられる.

予測段階は, 代替案にもとづき, その結果を予測する段階である. この段階では, 時系列データの統計的解析, 需要曲線・供給曲線などの活用が考えられるが, 予測対象への理解と知識にもとづいて, 予測の妥当性を吟味する必要がある.

評価段階は, 予測結果を選好尺度にもとづき評価する段階である. この段階では, 不確実性下の選択におけるペイオフマトリックス, ミニマックス戦略などのゲーム理論, 経済性工学による多時点収支, 多変量解析による評価のモデル化, エキスパートシステムなどの活用が考えられる.

選択段階は, 評価結果にもとづき代替案の選択する段階であり, オペレーションズリサーチないし経営科学のモデルや手法の多くを活用することができる.

ここで, 目的関数が明示され, 代替案が有限で確定しており, 予測が完全で, 計算能力が完備している場合には, 最適化を図ることが可能である. しかし, これらの要件を欠く限定合理性下では, 満足化による選択となる. 満足化は, サイモン[7]によって提唱された概念であり, 要求水準を越えた代替案を選択するという現実的な選択を意味する.

 実施段階は, 選択した代替案の実施と実施結果の評価を行う段階である. この段階では, 組織の行動理論やプロジェクトマネジメントの知見, PERTやGERTなどの手法の活用が考えられる. 実施理論は, 経営科学における理論とその実践とのギャップを充足するため, 組織的有効性を高める実態的, 理論的, 方策的検討を行っている.

 実際の意思決定は, このように各段階を截然と区分けできる性質のものではなく, 各段階の入り組んだ複雑な過程となっている. 経営における意思決定は, 定型的意思決定と非定型的意思決定とに分類することができる. 定型的な意思決定はもとより, 非定型的な意思決定においても, コンピュータの高度利用が図られている. その例として, 意思決定支援システム(DSS), エキスパートシステム, エージェント技術などの開発があり, 集団的意思決定については, グループウエアやコンピュータ支援協調システム(Computer Supported Cooperative Work)などの開発が進められている. さらに, 企業の意思決定は, 戦略的決定, 管理的決定, 業務的決定のように階層的に分類することもできる.

組織的意思決定

 企業における意思決定の実態調査にもとづいて, サイアートとマーチ[2]は, 問題の部分問題への分解や逐次的な問題の処理であるコンフリクトの準解決, 情報の短期的なフィードバックによる意思決定や, 競争者や供給者との談合協定によってなされる不確実性の回避, 問題の兆候の近傍での探索が優先されるなどの問題中心的探索, 経験による目標・注目ルール・探索ルールでの適応である組織学習などについて仮説を設定し, モデル化およびシミュレーションを行っている. このアプローチは, コンピュテーショナル組織論として, カーリーら[1]によって, 展開されている.

 企業や組織における意思決定過程は, マーチ[3]によれば, 合理的決定のモデルに基づいて捉えるのか, ルールに基づく行為と捉えるのかによって, 以下のように, 着目点が異なる. それぞれ, 選択を基盤とするのか, ルールを基盤とするのか, 明確化や一貫性に基づくのか, 曖昧さや非一貫性に基づくのか, 意思決定を道具的活動と捉えるか, 解釈的活動と捉えるか, 意思決定の成果は, 自律的な行為者の成果なのか, 相互作用のなされる生態系でのシステム的特性の成果なのかという対比となる. ルールに基づく行為の立場では, 意味決定が重要となり, 意思決定の生態系が追究されることとなる.

 曖昧さの下での組織の意思決定について, マーチとオルセン[5]は, ゴミ箱モデルを提案している. ごみ箱モデルの過程では, 選択の機会・問題・解・意思決定者は, 外生的で, 偶然に出会う. 問題と解は, 選択の機会で結びつけられるが, これは, 問題と解が目的-手段関係にあるためではなく, 時間的な近接性があることによる. この時間的な近接性がある限りにおいて, ほとんど全ての解は, ほとんど全ての問題と結びつけられる. この条件は, それらが, 同時に存在するということであるが, 問題と解の一時的なプールは, 社会的組織的構造によって, 制約を受けている.



参考文献

[1] K. M. Carley and M. J. Prietula, Computational Organization Theory, Lawrence Erlbaum Associates, Inc., 1994.

[2] R. M. Cyert and J. G. March, A Behavioral Theory of the Firm, Englewood Cliffs, 1963.

[3] J. G. March, Understanding How Decisions Happen in Organizations, in Z. Shapira (ed.), Organizational Decision Making, Cambridge University Press, 1997, pp. 9-32.

[4] J. G. March and H. A. Simon, Organizations, John Wiley and Sons, Inc., 1958, Blackwell Publishers, 2nd ed., 1993. 土屋守章訳, 『オーガニゼーションズ』, ダイヤモンド社, 1977.

[5] J. G. March and J. P. Olsen, Ambiguity and Choice in Organizations, Universitetsforlaget, 1976. 遠田雄志, アリソン・ユング訳, 『組織におけるあいまいさと決定』, 有斐閣, 1986.

[6] 松田武彦, 『計画と情報』, 日本放送出版会, 1969.

[7] H. A. Simon, The Science of the Artificial (3rd ed.), The MIT Press, 1996. 稲葉元吉, 吉原英樹訳, 『システムの科学』, パーソナルメディア, 1999.