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各資産の期待収益とリスクとの間に存在する関係を分析する理論的枠組みを資産評価理論(Asset Pricing Theory)と呼ぶ. 資産の期待収益とリスクの理論的関係を明示的に与えることができれば, 投資家がある水準の期待収益を望むことはそれに対応したリスクを受け入れることになる. すなわち, リスクに見合う期待収益はどれ程であるかを明らかにしてくれるという意味で, 各資産の価格付けとしての評価を与える理論である. モダンポートフォリオ理論の中で紹介されたCAPMは, そのような資産評価モデルの1つである. | 各資産の期待収益とリスクとの間に存在する関係を分析する理論的枠組みを資産評価理論(Asset Pricing Theory)と呼ぶ. 資産の期待収益とリスクの理論的関係を明示的に与えることができれば, 投資家がある水準の期待収益を望むことはそれに対応したリスクを受け入れることになる. すなわち, リスクに見合う期待収益はどれ程であるかを明らかにしてくれるという意味で, 各資産の価格付けとしての評価を与える理論である. モダンポートフォリオ理論の中で紹介されたCAPMは, そのような資産評価モデルの1つである. | ||
− | CAPM とは異なる資産評価モデルとして, [[APT]] (裁定評価理論, Arbitrage Pricing Theory)がある. APT は観察可能な複数の因子(ファクター)の線形関数によって資産の収益率は説明可能と仮定し, CAPM と同様に期待収益率が満たすべき式を導出している. APT ではすべての資産の収益率は, すべての資産に共通の$k$ 個の因子と$1$ 個のその資産固有のリスク因子との和で次のように記述されると仮定する. | + | CAPM とは異なる資産評価モデルとして, [[APT]] (裁定評価理論, Arbitrage Pricing Theory)がある. APT は観察可能な複数の因子(ファクター)の線形関数によって資産の収益率は説明可能と仮定し, CAPM と同様に期待収益率が満たすべき式を導出している. APT ではすべての資産の収益率は, すべての資産に共通の$<math>k\, \, \, </math>$ 個の因子と$<math>1\, \, \, </math>$ 個のその資産固有のリスク因子との和で次のように記述されると仮定する. |
− | \begin{equation} | + | <math>\begin{equation} |
R_{i} = a_{i} + \sum_{k=1}^{K}b_{ik}\tilde{I}_{k} + \tilde{\epsilon_{i}}, ~~ | R_{i} = a_{i} + \sum_{k=1}^{K}b_{ik}\tilde{I}_{k} + \tilde{\epsilon_{i}}, ~~ | ||
i = 1,2, \ldots ,n | i = 1,2, \ldots ,n | ||
− | \end{equation} | + | \end{equation}\, \, \, </math> |
− | ここで $E[\tilde{\epsilon}_{i}] = 0, E[\tilde{\epsilon}_{i}^{2}] =\sigma_{i}^{2}, E[\tilde{I}_{k}] = \bar{I}_{k}$ とし, $E[\tilde{\epsilon_{i}} \tilde{\epsilon_{j}}] = 0, i \neq j,E[\tilde{\epsilon_{i}} (\tilde{I_{k}} - \bar{I_{k}})] = 0$ である. $E[R_{i}] = \mu_{i}$ とすれば, (1) 式より | + | ここで $<math>E[\tilde{\epsilon}_{i}] = 0, E[\tilde{\epsilon}_{i}^{2}] =\sigma_{i}^{2}, E[\tilde{I}_{k}] = \bar{I}_{k}\, \, \, </math>$ とし, $<math>E[\tilde{\epsilon_{i}} \tilde{\epsilon_{j}}] = 0, i \neq j,E[\tilde{\epsilon_{i}} (\tilde{I_{k}} - \bar{I_{k}})] = 0\, \, \, </math>$ である. $<math>E[R_{i}] = \mu_{i}\, \, \, </math>$ とすれば, (1) 式より |
− | \mu_{i} = a_{i} + \sum_{k=1}^{K}b_{ik}\bar{I_{k}} | + | <math>\mu_{i} = a_{i} + \sum_{k=1}^{K}b_{ik}\bar{I_{k}}\, \, \, </math> |
− | となる. 均衡においてAPT による資産の期待収益率が満足すべき十分条件は, 市場には十分にたくさんの種類の資産が存在し, 次の条件を満足するようなポートフォリオ$x$ が存在することである. | + | となる. 均衡においてAPT による資産の期待収益率が満足すべき十分条件は, 市場には十分にたくさんの種類の資産が存在し, 次の条件を満足するようなポートフォリオ$<math>x\, \, \, </math>$ が存在することである. |
− | \hspace{-8.5em} \sum_{i=1}^{n} x_{i} =0 | + | <math>\hspace{-8.5em} \sum_{i=1}^{n} x_{i} =0 |
\begin{equation} | \begin{equation} | ||
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\end{equation} | \end{equation} | ||
− | \hspace{-8em} \sum_{i=1}^{n} x_{i}\epsilon_{i} =0 | + | \hspace{-8em} \sum_{i=1}^{n} x_{i}\epsilon_{i} =0\, \, \, </math> |
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+ | この条件によって任意のポートフォリオ収益の分散は近似的に$0$となり, 裁定機会の無存在性よりポートフォリオ$<math>x\, \, \, </math>$の期待収益も(近似的に)$<math>0\, \, \, </math>$ とならねばならない. すなわち $<math>\sum_{i=1}^{n}x_{i}\mu_{i} = 0\, \, \, </math>$ となって, ポートフォリオと危険資産の期待収益率がつくるベクトルとは直交する. 従って, 危険資産の期待収益率は | ||
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− | + | <math>\begin{equation} | |
− | \begin{equation} | ||
\mu_{i} = \lambda_{0} + \sum_{k=1}^{K}\lambda_{k}b_{ik} | \mu_{i} = \lambda_{0} + \sum_{k=1}^{K}\lambda_{k}b_{ik} | ||
− | \end{equation} | + | \end{equation}\, \, \, </math> |
− | と表現できる. 因子がすべて$0$ であるときは危険資産は無危険に退化するので, このとき $\lambda_{0} = \gamma_{0}$ とおいて無危険資産の収益率と見なす. 任意のひとつの$k$ について$b_{ik} =1$ とおき, その他のすべての$b_{ik}$ を$0$ とすれば, $\lambda_{k} = \mu_{k} - \gamma_{0}$ を得る. 従って, (3) 式は | + | と表現できる. 因子がすべて$<math>0\, \, \, </math>$ であるときは危険資産は無危険に退化するので, このとき $<math>\lambda_{0} = \gamma_{0}\, \, \, </math>$ とおいて無危険資産の収益率と見なす. 任意のひとつの$<math>k\, \, \, </math>$ について$<math>b_{ik} =1\, \, \, </math>$ とおき, その他のすべての$<math>b_{ik}\, \, \, </math>$ を$<math>0\, \, \, </math>$ とすれば, $<math>\lambda_{k} = \mu_{k} - \gamma_{0}\, \, \, </math>$ を得る. 従って, (3) 式は |
− | \begin{equation} | + | <math>\begin{equation} |
\mu_{i} - \gamma_{0} = \sum_{k=1}^{K}b_{ik}(\mu_{k} - \gamma_{0}) | \mu_{i} - \gamma_{0} = \sum_{k=1}^{K}b_{ik}(\mu_{k} - \gamma_{0}) | ||
− | \end{equation} | + | \end{equation}\, \, \, </math> |
− | |||
− | となり, 危険資産$i$ の平均超過収益率が満足すべき式が与えられたことになる. (4) 式をAPT による資産評価式と呼ぶ. | + | となり, 危険資産$<math>i\, \, \, </math>$ の平均超過収益率が満足すべき式が与えられたことになる. (4) 式をAPT による資産評価式と呼ぶ. |
− | 平均分散モデルは期首と期末のみからなる$1$ 期(one shot) モデルであった. 危険資産$i$ の時刻$t$ での価格を$P_{i}(t)$ とし, 時間$t_0$ は半区間$[0, T]$ の要素とする. 資産$i$ の収益率が確率微分方程式 | + | 平均分散モデルは期首と期末のみからなる$<math>1\, \, \, </math>$ 期(one shot) モデルであった. 危険資産$<math>i\, \, \, </math>$ の時刻$<math>t\, \, \, </math>$ での価格を$<math>P_{i}(t)\, \, \, </math>$ とし, 時間$<math>t_0\, \, \, </math>$ は半区間$<math>[0, T]\, \, \, </math>$ の要素とする. 資産$<math>i\, \, \, </math>$ の収益率が確率微分方程式 |
− | \begin{equation} | + | <math>\begin{equation} |
\frac{{\rm d}P_{i}(t)}{P_{i}(t)} = \mu_{i}{\rm d}t + \sigma_{i}{\rm d}Z_{i} | \frac{{\rm d}P_{i}(t)}{P_{i}(t)} = \mu_{i}{\rm d}t + \sigma_{i}{\rm d}Z_{i} | ||
− | \end{equation} | + | \end{equation}\, \, \, </math> |
− | + | ||
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+ | に従って変動すると仮定する. 時刻$<math>t\, \, \, </math>$ でのポートフォリオを$<math>x(t) = (x_{1}(t), x_{2}(t), \ldots , x_{n}(t))\, \, \, </math>$ とすれば, 計画期間$<math>[0,T]\, \, \, </math>$でのポートフォリオの取引戦略を考える問題を連続時間の下でのポートフォリオ選択問題と呼ぶ. この連続時間の下での資本資産評価モデル(ICAPM, IntertemporalCapital Asset Pricing Model) がMerton [5,6] によって提唱された. また, (5) 式で与えられる資産の上で 書かれた様々な条件付請求権(オプションもその1 例) の評価理論もオプション評価モデルとして良く知られている. そのような条件付請求権の価格$<math>f\, \, \, </math>$ は時刻$<math>t\, \, \, </math>$と$<math>t\, \, \, </math>$での資産価格$<math>P_{i}(t)\, \, \, </math>$ の関数となるので, $<math>f = f(P_{i}(t),t)\, \, \, </math>$ とおく. このような資産(証券)を元の資産価格から派生したという意味で派生資産(デリバティブ, derivatives)という. 確率過程$<math>P_{i}(t)\, \, \, </math>$の関数$<math>f = f(P_{i}(t),t)\, \, \, </math>$ に様々な境界条件を課すことによって, 種々の新しい金融商品の評価理論が研究されている. (文献[1]を参照) | ||
+ | 最後に, 資産価格の確率分布(または確率過程)について何ら具体的に特定化しない場合でもポートフォリオの間で優先順位を与えることを可能にする[[確率優越]](Stochastic Dominance)について簡単に解説する. 相異なる2 つのポートフォリオ収益をそれぞれ$<math>X\, \, \, </math>$ と$<math>Y\, \, \, </math>$ で表し, その分布関数をそれぞれ$<math>F(x) = P\{ X \leq x \}, G(x) = P\{ Y \leq x \}\, \, \, </math>$とする. すべての$<math>x\, \, \, </math>$ について$<math>F(x) \leq G(x)\, \, \, </math>$ のとき $<math>X\, \, \, </math>$ は$<math>Y\, \, \, </math>$ を第一級の確率優越すると呼び, $<math>X\succ_{(1)}Y\, \, \, </math>$ と表記する. 実数値関数$<math>u(x)\, \, \, </math>$ をポートフォリオ収益の上で定義された[[効用関数]]とし, $<math>U_{1}\, \, \, </math>$ を単調な増加関数のクラスとすれば次の関係が成立する. | ||
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− | + | '''定理1''' 次の2つの命題は同値である. | |
− | + | <math>\begin{quote} | |
− | \begin{quote} | ||
\begin{enumerate} | \begin{enumerate} | ||
\renewcommand{\labelenumi}{(\roman{enumi})} | \renewcommand{\labelenumi}{(\roman{enumi})} | ||
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\item $E[u(X)] \geq E[u(Y)] ,u \in U_{1}$ | \item $E[u(X)] \geq E[u(Y)] ,u \in U_{1}$ | ||
\end{enumerate} | \end{enumerate} | ||
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+ | '''系''' $<math>X \succ_{(1)}Y\, \, \, </math>$ で $<math>F(x) \not= G(x)\, \, \, </math>$ ならば, $<math>E[X] > E[Y]\, \, \, </math>$ である. | ||
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− | {\ | + | すべての$<math>x\, \, \, </math>$ について$<math>\int_{-\infty}^{x}F(y){\rm d}y \leq \int_{-\infty}^{x}G(y){\rm d}y\, \, \, </math>$のとき$<math>X\, \, \, </math>$ は$<math>Y\, \, \, </math>$ を第二級の確率優越すると呼び, $<math>X \succ_{(2)} Y\, \, \, </math>$ と表記する. $<math>U_{2}\, \, \, </math>$ を単調増加かつ凹(上に凸)な関数のクラスとすれば, 次の性質が成立する. |
− | + | '''定理2''' 次の2つの命題は同値である. | |
− | + | <math>\begin{quote} | |
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\begin{enumerate} | \begin{enumerate} | ||
\renewcommand{\labelenumi}{(\roman{enumi})} | \renewcommand{\labelenumi}{(\roman{enumi})} | ||
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\item $E[u(X)] \geq E[u(Y)] , u \in U_{2}$ | \item $E[u(X)] \geq E[u(Y)] , u \in U_{2}$ | ||
\end{enumerate} | \end{enumerate} | ||
− | \end{quote} | + | \end{quote}\, \, \, </math> |
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+ | '''系''' $<math>X \succ_{(2)} Y\, \, \, </math>$ でかつ $<math>E[X]=E[Y]\, \, \, </math>$ ならば, $<math>{\rm var}(X) \leq {\rm var}(Y)\, \, \, </math>$が成立する. | ||
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− | {\ | + | すべての$<math>x\, \, \, </math>$ について $<math>\int_{-\infty}^{x}\int_{-\infty}^{y}F(z){\rm d}z{\rm d}y \leq\int_{-\infty}^{x}\int_{-\infty}^{y}G(z){\rm d}z{\rm d}y\, \, \, </math>$ でかつ $<math>E[X] \geq E[Y]\, \, \, </math>$のとき, X は$<math>Y\, \, \, </math>$ を第三級の確率優越すると呼び, $<math>X \succ_{(3)} Y\, \, \, </math>$ と表記する. $<math>u > 0\, \, \, </math>$ で単調増加かつ凹である効用関数のクラスを$<math>U_{3}\, \, \, </math>$ とすれば, 次の関係が成立する. |
− | {\ | ||
− | + | '''定理3''' 次の2つの命題は同値である. | |
− | + | <math>\begin{quote} | |
− | \begin{quote} | ||
\begin{enumerate} | \begin{enumerate} | ||
\item[ ]$X \succ_{(3)} Y$ | \item[ ]$X \succ_{(3)} Y$ | ||
\item[ ] $E[u(X)] \geq E[u(Y)] ,u \in U_{3}$ | \item[ ] $E[u(X)] \geq E[u(Y)] ,u \in U_{3}$ | ||
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− | \end{quote} | + | \end{quote}\, \, \, </math> |
2007年7月12日 (木) 16:51時点における版
【しさんひょうかりろん (asset pricing theory)】
各資産の期待収益とリスクとの間に存在する関係を分析する理論的枠組みを資産評価理論(Asset Pricing Theory)と呼ぶ. 資産の期待収益とリスクの理論的関係を明示的に与えることができれば, 投資家がある水準の期待収益を望むことはそれに対応したリスクを受け入れることになる. すなわち, リスクに見合う期待収益はどれ程であるかを明らかにしてくれるという意味で, 各資産の価格付けとしての評価を与える理論である. モダンポートフォリオ理論の中で紹介されたCAPMは, そのような資産評価モデルの1つである.
CAPM とは異なる資産評価モデルとして, APT (裁定評価理論, Arbitrage Pricing Theory)がある. APT は観察可能な複数の因子(ファクター)の線形関数によって資産の収益率は説明可能と仮定し, CAPM と同様に期待収益率が満たすべき式を導出している. APT ではすべての資産の収益率は, すべての資産に共通の$$ 個の因子と$$ 個のその資産固有のリスク因子との和で次のように記述されると仮定する.
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{equation}」): {\displaystyle \begin{equation} R_{i} = a_{i} + \sum_{k=1}^{K}b_{ik}\tilde{I}_{k} + \tilde{\epsilon_{i}}, ~~ i = 1,2, \ldots ,n \end{equation}\, \, \, }
ここで $$ とし, $$ である. $$ とすれば, (1) 式より
となる. 均衡においてAPT による資産の期待収益率が満足すべき十分条件は, 市場には十分にたくさんの種類の資産が存在し, 次の条件を満足するようなポートフォリオ$$ が存在することである.
構文解析に失敗 (不明な関数「\hspace」): {\displaystyle \hspace{-8.5em} \sum_{i=1}^{n} x_{i} =0 \begin{equation} \sum_{i=1}^{n}x_{i}b_{ik} = 0,~~k = 1,2, \ldots ,K \end{equation} \hspace{-8em} \sum_{i=1}^{n} x_{i}\epsilon_{i} =0\, \, \, }
この条件によって任意のポートフォリオ収益の分散は近似的に$0$となり, 裁定機会の無存在性よりポートフォリオ$$の期待収益も(近似的に)$$ とならねばならない. すなわち $$ となって, ポートフォリオと危険資産の期待収益率がつくるベクトルとは直交する. 従って, 危険資産の期待収益率は
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{equation}」): {\displaystyle \begin{equation} \mu_{i} = \lambda_{0} + \sum_{k=1}^{K}\lambda_{k}b_{ik} \end{equation}\, \, \, }
と表現できる. 因子がすべて$$ であるときは危険資産は無危険に退化するので, このとき $$ とおいて無危険資産の収益率と見なす. 任意のひとつの$$ について$$ とおき, その他のすべての$$ を$$ とすれば, $$ を得る. 従って, (3) 式は
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{equation}」): {\displaystyle \begin{equation} \mu_{i} - \gamma_{0} = \sum_{k=1}^{K}b_{ik}(\mu_{k} - \gamma_{0}) \end{equation}\, \, \, }
となり, 危険資産$$ の平均超過収益率が満足すべき式が与えられたことになる. (4) 式をAPT による資産評価式と呼ぶ.
平均分散モデルは期首と期末のみからなる$$ 期(one shot) モデルであった. 危険資産$$ の時刻$$ での価格を$$ とし, 時間$$ は半区間$$ の要素とする. 資産$$ の収益率が確率微分方程式
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{equation}」): {\displaystyle \begin{equation} \frac{{\rm d}P_{i}(t)}{P_{i}(t)} = \mu_{i}{\rm d}t + \sigma_{i}{\rm d}Z_{i} \end{equation}\, \, \, }
に従って変動すると仮定する. 時刻$$ でのポートフォリオを$$ とすれば, 計画期間$$でのポートフォリオの取引戦略を考える問題を連続時間の下でのポートフォリオ選択問題と呼ぶ. この連続時間の下での資本資産評価モデル(ICAPM, IntertemporalCapital Asset Pricing Model) がMerton [5,6] によって提唱された. また, (5) 式で与えられる資産の上で 書かれた様々な条件付請求権(オプションもその1 例) の評価理論もオプション評価モデルとして良く知られている. そのような条件付請求権の価格$$ は時刻$$と$$での資産価格$$ の関数となるので, $$ とおく. このような資産(証券)を元の資産価格から派生したという意味で派生資産(デリバティブ, derivatives)という. 確率過程$$の関数$$ に様々な境界条件を課すことによって, 種々の新しい金融商品の評価理論が研究されている. (文献[1]を参照)
最後に, 資産価格の確率分布(または確率過程)について何ら具体的に特定化しない場合でもポートフォリオの間で優先順位を与えることを可能にする確率優越(Stochastic Dominance)について簡単に解説する. 相異なる2 つのポートフォリオ収益をそれぞれ$$ と$$ で表し, その分布関数をそれぞれ$$とする. すべての$$ について$$ のとき $$ は$$ を第一級の確率優越すると呼び, $$ と表記する. 実数値関数$$ をポートフォリオ収益の上で定義された効用関数とし, $$ を単調な増加関数のクラスとすれば次の関係が成立する.
定理1 次の2つの命題は同値である.
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{quote}」): {\displaystyle \begin{quote} \begin{enumerate} \renewcommand{\labelenumi}{(\roman{enumi})} \item $X \succ_{(1)} Y$ \item $E[u(X)] \geq E[u(Y)] ,u \in U_{1}$ \end{enumerate} \end{quote}\, \, \, }
系 $$ で $$ ならば, $$ である.
すべての$$ について$$のとき$$ は$$ を第二級の確率優越すると呼び, $$ と表記する. $$ を単調増加かつ凹(上に凸)な関数のクラスとすれば, 次の性質が成立する.
定理2 次の2つの命題は同値である.
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{quote}」): {\displaystyle \begin{quote} \begin{enumerate} \renewcommand{\labelenumi}{(\roman{enumi})} \item $X \succ_{(2)} Y$ \item $E[u(X)] \geq E[u(Y)] , u \in U_{2}$ \end{enumerate} \end{quote}\, \, \, }
系 $$ でかつ $$ ならば, $$が成立する.
すべての$$ について $$ でかつ $$のとき, X は$$ を第三級の確率優越すると呼び, $$ と表記する. $$ で単調増加かつ凹である効用関数のクラスを$$ とすれば, 次の関係が成立する.
定理3 次の2つの命題は同値である.
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{quote}」): {\displaystyle \begin{quote} \begin{enumerate} \item[ ]$X \succ_{(3)} Y$ \item[ ] $E[u(X)] \geq E[u(Y)] ,u \in U_{3}$ \end{enumerate} \end{quote}\, \, \, }
分布関数のクラスに限定しているので, 平均や分散が存在しない(例えば, コーシー分布の)場合でも効用関数のクラスを特定化できれば, 確率優越の手法によって複数のポートフォリオ収益の優劣を比較することができる.
参考文献
[1] 澤木勝茂,『ファイナンスの数理』, 朝倉書店, 1994.
[2] D. T. Breeden, "An Intertemporal Asset Pricing Model with Stochastic Comsumption and Investment Opportunities," Journal of Financial Economics, 7(1979), 265-296.
[3] J. Cox, J. Ingersoll and S. Ross, "An Intertemporal General Equilibrium Model of Asset Prices," Econometrica, 53 (1985), 363-384.
[4] J. E. Ingersoll, Jr., Theory of Financial Decision Making, Totowa, NJ: Rowman and Littlefield, 1987.
[5] R. C. Merton, Continuous-Time Finance, Rev. ed., Blackwall Pub., Massachusetts, 1992.
[6] R. D. Merton, "An Intertemporal Capital Asset Pricing Model," Econometrica, 41 (1973), 867-870.