「地理情報システム」の版間の差分
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'''【ちりじょうほうしすてむ (geographic information system)】''' | '''【ちりじょうほうしすてむ (geographic information system)】''' | ||
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+ | 地理情報システムは, 地理的な要因に社会的・経済的な要因が複合された現象を研究し分析する際に用いる技術であり, コンピュータ内で地理的な位置関係をあつかう基となる電子地図, 問題ごとに関連するデータベース, 地理的に広がったデータ相互の関係に基づいて解析を行うソフトウェアからなるシステム技術である. 電子地図と結びついた質の良いデータベース管理システムとしての役割, 計画作業に用いる意思決定支援システムとしての役割がある. | ||
+ | === 詳説 === | ||
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+ | 地理情報システムは, 地理的(空間的)に広がった対象に関わる問題を研究したり分析したりする際に用いる技術であり, 地球の表面上で社会生活を営んでいる我々にとって適用分野は非常に広い. 地理情報システムは, コンピュータ内で地理的な位置関係をあつかう基となる電子地図, 問題ごとに関連するデータベース, 地理的に広がったデータ相互の関係に基づいて解析を行うソフトウェアからなるシステム技術である. また, そのような技術を対象とした学問分野を空間情報科学という. | ||
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+ | 地理情報システムで扱うデータは空間データと呼ばれ, 地理的な位置や範囲を表すデータと対象の特徴を表すデータ(属性)との組として表される. 電子地図は空間データの代表的な例である. そのほかに以下のように非常に広い範囲の分野に例を見ることができる. | ||
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+ | 空間データの例 | ||
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+ | :* 自然地理的対象 地形, 地質, 河川, 植生 | ||
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+ | :* 社会基盤 道路, 鉄道, 上下水道・電気・ガス配管の設備 | ||
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+ | :* 経済社会活動 人口, 産業, 交通等の統計データ | ||
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+ | :* 行政 各種行政データ, 公共施設 | ||
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+ | また, 上記のような空間データを用いた地理情報システムの適用分野としては次のものがあげられる. | ||
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+ | 地理情報システムの適用分野 | ||
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+ | :* 社会資本の管理 上下水道, 道路, ガス, 電力, 通信などの網的設備の維持管理 | ||
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+ | :* 自治体の地域サービス 救急活動, 福祉サービス | ||
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+ | ::- 緊急車両の配置計画, 税金の計算, 高齢者のいる家庭の把握, 地籍管理 | ||
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+ | :* 鉱物資源探索 | ||
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+ | :* 民間企業の活動 ロジスティックス, エリアマーケッティング, 施設配置 | ||
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+ | ::- 競合他社と自社の他店舗および消費者の需要を考慮に入れた出店計画 | ||
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+ | :* 都市計画, 地域計画 | ||
− | + | ::- 周辺住民の反対があるゴミ処理施設の位置決定 | |
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+ | ::- 原子力発電所の建設計画 | ||
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+ | 空間データはその名の通り空間的な広がりを持つので, 十分な分析を行おうとすると必然的に大規模になる. また, それぞれのデータベースを作成し維持管理する主体は異なるのが普通である. 一方, 分析にあたっては, 異なる主題に関する複数のデータベース相互の関係を調べることが重要であるため, 分散型のシステムとなり, その技術的な課題をかかえることになる. すなわち, 標準化, 地図を含む大量の情報の高速な通信, データベースの更新, である. とくに, 位置情報を媒介として異なるデータベースを関連づけることが必須であるので, 位置に関する指標の標準化が非常に重要である. これに対しては, 日本全体の共通的な電子地図を整備する動き(空間情報基盤整備)が計画されている. | ||
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+ | 空間データ特有の課題として次の点があげられる. 対象の持つ空間的な情報は, 建物の場所を表す点の位置(緯度経度)のような情報, 道路のように交差点間をつなぐ道路といった点と線との接続関係や, 行政区界のように境界に囲まれた面といった線分と面との接続関係の情報がある. 前者の点の絶対位置, 距離, 角度, 面積といった情報を計量情報, 後者の点, 線, 面の接続関係に関する情報を位相情報という. 計量情報に関しては, 必ず誤差が含まれているものであり, 異なるデータベースにある同一の地物は正確には重ならないことを前提として, それぞれのデータベースで実現されている測定精度を把握していなければいけない. 位相情報に関しては, 紙に描いた地図が最終成果物であれば目で見てつながっていればよいので接続関係は重要視されないが, 空間的な分析を行うには位相情報が不可欠である. すなわち, 空間データに関する検索, 指定された条件に合う位置の特定, データ集合間の関係を探るための各種の幾何学的な演算は, 位相情報がなければ行うことができない. また, 道路間の接続関係が分からなくては道路網のネットワーク解析はできない. | ||
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+ | 現在扱われている空間データは2次元のデータが多いが, 地下街路や地上の構造物を含めた3次元空間, 時系列を取り入れた4次元空間を扱う必要性が指摘されている | ||
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+ | 地理情報システムで扱われる問題の特徴は, 空間的な要因に社会的・経済的な要因が複合された現象を扱うこととである. まず第一に地理情報システムに期待されるのは, 電子地図と結びついた質の良いデータベース管理システムとしての役割である. その機能は, 電子地図と結びつけられた地理的な指標を使って複数のデータベースを関連付け, | ||
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+ | :* 様々な情報(と地図)を組み合わせて表示すること, | ||
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+ | :* 空間的な検索を行うこと, | ||
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+ | :* 結果を理解しやすく整理して表示し, インタラクティブな作業を可能とすること | ||
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+ | がある. これには, データベースにある計量情報と位相情報を用い, 計算幾何学で発展させられた演算アルゴリズムを適用することによって可能となる. 既存の施設をよりよく維持管理すること, 自治体や企業の日常的な作業を効率的に運用することはこの範疇に入る. | ||
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+ | さらに進んで, 計画作業に用いる意志決定支援システムとしての役割がある. これには, 問題が持っている特徴の抽出を行い, 表形式の表現では分からないデータ間の空間的な関係を見いだすといった分析的な作業がある. そして, それに基づいて解析モデルを作り, モデルを使った最適化や, 整備されたデータに基づいた代替案の評価に関する支援を行う. とくに地理情報システムという観点でみると, それを用いるメリットは, 空間情報を扱ってそれらの間の複雑な関係を見いだすことが可能になること, 理解しやすい図的な表示が得られることがある. | ||
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+ | しかし, 例にあげたゴミ処理場や原子力発電所のように, これらの多くの問題は地理的および時間的な広がりならびに社会的な合意形成という問題を含んでおり, 数理計画問題として定式化する以前の本質的に難しい問題を抱えている.これに対して, 関連する様々な分野からの総合的なアプローチが積極的になされている. | ||
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+ | '''参考文献''' | ||
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+ | [1] 伊理正夫, 「新世紀における空間データ基盤の役割」, 『電子情報通信学会誌』, '''81''' (1999), 694-703. | ||
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+ | [2] 岡部篤行, 「空間情報科学の展開」, 『電子情報通信学会誌』, '''81''' (1999), 704-710. | ||
− | + | [[category:都市システム|ちりじょうほうしすてむ]] |
2008年4月2日 (水) 16:51時点における最新版
【ちりじょうほうしすてむ (geographic information system)】
概要
地理情報システムは, 地理的な要因に社会的・経済的な要因が複合された現象を研究し分析する際に用いる技術であり, コンピュータ内で地理的な位置関係をあつかう基となる電子地図, 問題ごとに関連するデータベース, 地理的に広がったデータ相互の関係に基づいて解析を行うソフトウェアからなるシステム技術である. 電子地図と結びついた質の良いデータベース管理システムとしての役割, 計画作業に用いる意思決定支援システムとしての役割がある.
詳説
地理情報システムは, 地理的(空間的)に広がった対象に関わる問題を研究したり分析したりする際に用いる技術であり, 地球の表面上で社会生活を営んでいる我々にとって適用分野は非常に広い. 地理情報システムは, コンピュータ内で地理的な位置関係をあつかう基となる電子地図, 問題ごとに関連するデータベース, 地理的に広がったデータ相互の関係に基づいて解析を行うソフトウェアからなるシステム技術である. また, そのような技術を対象とした学問分野を空間情報科学という.
地理情報システムで扱うデータは空間データと呼ばれ, 地理的な位置や範囲を表すデータと対象の特徴を表すデータ(属性)との組として表される. 電子地図は空間データの代表的な例である. そのほかに以下のように非常に広い範囲の分野に例を見ることができる.
空間データの例
- 自然地理的対象 地形, 地質, 河川, 植生
- 社会基盤 道路, 鉄道, 上下水道・電気・ガス配管の設備
- 経済社会活動 人口, 産業, 交通等の統計データ
- 行政 各種行政データ, 公共施設
- 企業 ロジスティックス, マーケティング, 営業に関するデータ
また, 上記のような空間データを用いた地理情報システムの適用分野としては次のものがあげられる.
地理情報システムの適用分野
- 社会資本の管理 上下水道, 道路, ガス, 電力, 通信などの網的設備の維持管理
- 自治体の地域サービス 救急活動, 福祉サービス
- - 緊急車両の配置計画, 税金の計算, 高齢者のいる家庭の把握, 地籍管理
- 鉱物資源探索
- 民間企業の活動 ロジスティックス, エリアマーケッティング, 施設配置
- - 競合他社と自社の他店舗および消費者の需要を考慮に入れた出店計画
- 都市計画, 地域計画
- - 周辺住民の反対があるゴミ処理施設の位置決定
- - 原子力発電所の建設計画
空間データはその名の通り空間的な広がりを持つので, 十分な分析を行おうとすると必然的に大規模になる. また, それぞれのデータベースを作成し維持管理する主体は異なるのが普通である. 一方, 分析にあたっては, 異なる主題に関する複数のデータベース相互の関係を調べることが重要であるため, 分散型のシステムとなり, その技術的な課題をかかえることになる. すなわち, 標準化, 地図を含む大量の情報の高速な通信, データベースの更新, である. とくに, 位置情報を媒介として異なるデータベースを関連づけることが必須であるので, 位置に関する指標の標準化が非常に重要である. これに対しては, 日本全体の共通的な電子地図を整備する動き(空間情報基盤整備)が計画されている.
空間データ特有の課題として次の点があげられる. 対象の持つ空間的な情報は, 建物の場所を表す点の位置(緯度経度)のような情報, 道路のように交差点間をつなぐ道路といった点と線との接続関係や, 行政区界のように境界に囲まれた面といった線分と面との接続関係の情報がある. 前者の点の絶対位置, 距離, 角度, 面積といった情報を計量情報, 後者の点, 線, 面の接続関係に関する情報を位相情報という. 計量情報に関しては, 必ず誤差が含まれているものであり, 異なるデータベースにある同一の地物は正確には重ならないことを前提として, それぞれのデータベースで実現されている測定精度を把握していなければいけない. 位相情報に関しては, 紙に描いた地図が最終成果物であれば目で見てつながっていればよいので接続関係は重要視されないが, 空間的な分析を行うには位相情報が不可欠である. すなわち, 空間データに関する検索, 指定された条件に合う位置の特定, データ集合間の関係を探るための各種の幾何学的な演算は, 位相情報がなければ行うことができない. また, 道路間の接続関係が分からなくては道路網のネットワーク解析はできない.
現在扱われている空間データは2次元のデータが多いが, 地下街路や地上の構造物を含めた3次元空間, 時系列を取り入れた4次元空間を扱う必要性が指摘されている
地理情報システムで扱われる問題の特徴は, 空間的な要因に社会的・経済的な要因が複合された現象を扱うこととである. まず第一に地理情報システムに期待されるのは, 電子地図と結びついた質の良いデータベース管理システムとしての役割である. その機能は, 電子地図と結びつけられた地理的な指標を使って複数のデータベースを関連付け,
- 様々な情報(と地図)を組み合わせて表示すること,
- 空間的な検索を行うこと,
- 指定された条件に合う位置の特定をおこなうこと
- 結果を理解しやすく整理して表示し, インタラクティブな作業を可能とすること
がある. これには, データベースにある計量情報と位相情報を用い, 計算幾何学で発展させられた演算アルゴリズムを適用することによって可能となる. 既存の施設をよりよく維持管理すること, 自治体や企業の日常的な作業を効率的に運用することはこの範疇に入る.
さらに進んで, 計画作業に用いる意志決定支援システムとしての役割がある. これには, 問題が持っている特徴の抽出を行い, 表形式の表現では分からないデータ間の空間的な関係を見いだすといった分析的な作業がある. そして, それに基づいて解析モデルを作り, モデルを使った最適化や, 整備されたデータに基づいた代替案の評価に関する支援を行う. とくに地理情報システムという観点でみると, それを用いるメリットは, 空間情報を扱ってそれらの間の複雑な関係を見いだすことが可能になること, 理解しやすい図的な表示が得られることがある.
しかし, 例にあげたゴミ処理場や原子力発電所のように, これらの多くの問題は地理的および時間的な広がりならびに社会的な合意形成という問題を含んでおり, 数理計画問題として定式化する以前の本質的に難しい問題を抱えている.これに対して, 関連する様々な分野からの総合的なアプローチが積極的になされている.
参考文献
[1] 伊理正夫, 「新世紀における空間データ基盤の役割」, 『電子情報通信学会誌』, 81 (1999), 694-703.
[2] 岡部篤行, 「空間情報科学の展開」, 『電子情報通信学会誌』, 81 (1999), 704-710.