「経営意思決定」の版間の差分
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+ | 経営管理ないし組織における問題解決を指す. 意思決定には, 一連の段階があり, 認識段階, 洞察段階, 予測段階, 評価段階, 選択段階, 実施段階からなる. その分類には, 定型的, 非定型的意思決定, ないし戦略的, 管理的, 業務的意思決定がある. 不確実で, 曖昧な状況の下では, 満足化による意思決定となり, 意味決定の重要性が増す. 最近は, コンピュータの高度利用により, 意思決定支援システムやグループウエアなどを活用した意思決定も盛んである. | ||
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+ | 経営管理ないし組織における[[問題解決]]をさす. 企業や組織における長期計画や合併などについてのトップ経営者層の判断や決定だけでなく, 日常的な業務活動における判断や選択を含む. これらの意思決定については, その考慮する期間の長さ, 影響を受ける関係者の数, 左右される金額の多寡を問わず, 意思決定としての共通性があり, 一連の段階がある. この段階は, 種々提案されているが, 一例を示すと, 認識段階, 洞察段階, 予測段階, 評価段階, 選択段階, 実施段階からなる. これらの段階は, サイモン[7]による[[意思決定過程]]の分析を, 松田[6]が展開したものとなっている. | ||
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+ | 意思決定の諸段階における特徴とそこで有用と考えられる方法を例示する. | ||
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+ | 認識段階は, 企業や組織内外で生起している状況の認識にもとづいて, 目的ないし問題を設定する段階であり, 情報のフィルタリングや圧縮が行われる. この段階では, 経営分析・財務分析や損益分岐点分析などの会計的方法, 標本調査法などの統計的手法, 認知科学的知見, データマイニングなどの活用が考えられる. | ||
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+ | 洞察段階は, 洞察にもとづき代替案を探索し, 形成する段階であり, 種々の発想法, システムチャート, リレーショナル・データベースなどの活用が考えられる. | ||
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+ | 予測段階は, 代替案にもとづき, その結果を予測する段階である. この段階では, 時系列データの統計的解析, 需要曲線・供給曲線などの活用が考えられるが, 予測対象への理解と知識にもとづいて, 予測の妥当性を吟味する必要がある. | ||
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+ | 評価段階は, 予測結果を選好尺度にもとづき評価する段階である. この段階では, 不確実性下の選択におけるペイオフマトリックス, ミニマックス戦略などのゲーム理論, 経済性工学による多時点収支, 多変量解析による評価のモデル化, [[エキスパートシステム]]などの活用が考えられる. | ||
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+ | 選択段階は, 評価結果にもとづき代替案の選択する段階であり, オペレーションズリサーチないし経営科学のモデルや手法の多くを活用することができる. | ||
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+ | ここで, 目的関数が明示され, 代替案が有限で確定しており, 予測が完全で, 計算能力が完備している場合には, 最適化を図ることが可能である. しかし, これらの要件を欠く限定合理性下では, [[満足化]]による選択となる. 満足化は, サイモン[7]によって提唱された概念であり, 要求水準を越えた代替案を選択するという現実的な選択を意味する. | ||
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+ | 実施段階は, 選択した代替案の実施と実施結果の評価を行う段階である. この段階では, 組織の行動理論やプロジェクトマネジメントの知見, PERTやGERTなどの手法の活用が考えられる. [[実施理論]]は, 経営科学における理論とその実践とのギャップを充足するため, 組織的有効性を高める実態的, 理論的, 方策的検討を行っている. | ||
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+ | 実際の意思決定は, このように各段階を截然と区分けできる性質のものではなく, 各段階の入り組んだ複雑な過程となっている. 経営における意思決定は, 定型的意思決定と非定型的意思決定とに分類することができる. 定型的な意思決定はもとより, 非定型的な意思決定においても, コンピュータの高度利用が図られている. その例として, [[意思決定支援システム]](DSS), [[エキスパートシステム]], エージェント技術などの開発があり, 集団的意思決定については, グループウエアやコンピュータ支援協調システム(Computer Supported Cooperative Work)などの開発が進められている. さらに, 企業の意思決定は, 戦略的決定, 管理的決定, 業務的決定のように階層的に分類することもできる. | ||
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+ | 企業における意思決定の実態調査にもとづいて, サイアートとマーチ[2]は, 問題の部分問題への分解や逐次的な問題の処理であるコンフリクトの準解決, 情報の短期的なフィードバックによる意思決定や, 競争者や供給者との談合協定によってなされる不確実性の回避, 問題の兆候の近傍での探索が優先されるなどの問題中心的探索, 経験による目標・注目ルール・探索ルールでの適応である組織学習などについて仮説を設定し, モデル化およびシミュレーションを行っている. このアプローチは, コンピュテーショナル組織論として, カーリーら[1]によって, 展開されている. | ||
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+ | 企業や組織における意思決定過程は, マーチ[3]によれば, 合理的決定のモデルに基づいて捉えるのか, ルールに基づく行為と捉えるのかによって, 以下のように, 着目点が異なる. それぞれ, 選択を基盤とするのか, ルールを基盤とするのか, 明確化や一貫性に基づくのか, 曖昧さや非一貫性に基づくのか, 意思決定を道具的活動と捉えるか, 解釈的活動と捉えるか, 意思決定の成果は, 自律的な行為者の成果なのか, 相互作用のなされる生態系でのシステム的特性の成果なのかという対比となる. ルールに基づく行為の立場では, 意味決定が重要となり, 意思決定の生態系が追究されることとなる. | ||
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+ | 曖昧さの下での組織の意思決定について, マーチとオルセン[5]は, ゴミ箱モデルを提案している. ごみ箱モデルの過程では, 選択の機会・問題・解・意思決定者は, 外生的で, 偶然に出会う. 問題と解は, 選択の機会で結びつけられるが, これは, 問題と解が目的-手段関係にあるためではなく, 時間的な近接性があることによる. この時間的な近接性がある限りにおいて, ほとんど全ての解は, ほとんど全ての問題と結びつけられる. この条件は, それらが, 同時に存在するということであるが, 問題と解の一時的なプールは, 社会的組織的構造によって, 制約を受けている. | ||
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+ | [1] K. M. Carley and M. J. Prietula, ''Computational Organization Theory'', Lawrence Erlbaum Associates, Inc., 1994. | ||
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+ | [2] R. M. Cyert and J. G. March, ''A Behavioral Theory of the Firm'', Englewood Cliffs, 1963. | ||
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+ | [3] J. G. March, Understanding How Decisions Happen in Organizations, in Z. Shapira (ed.), ''Organizational Decision Making'', Cambridge University Press, 1997, pp. 9-32. | ||
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+ | [4] J. G. March and H. A. Simon, ''Organizations'', John Wiley and Sons, Inc., 1958, Blackwell Publishers, 2nd ed., 1993. 土屋守章訳, 『オーガニゼーションズ』, ダイヤモンド社, 1977. | ||
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+ | [5] J. G. March and J. P. Olsen, Ambiguity and Choice in Organizations, Universitetsforlaget, 1976. 遠田雄志, アリソン・ユング訳, 『組織におけるあいまいさと決定』, 有斐閣, 1986. | ||
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+ | [6] 松田武彦, 『計画と情報』, 日本放送出版会, 1969. | ||
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+ | [7] H. A. Simon, The Science of the Artificial (3rd ed.), The MIT Press, 1996. 稲葉元吉, 吉原英樹訳, 『システムの科学』, パーソナルメディア, 1999. | ||
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+ | [[category:経営・経済性工学|けいえいいしけってい]] |
2008年4月2日 (水) 15:30時点における最新版
【けいえいいしけってい (managerial decision making)】
概要
経営管理ないし組織における問題解決を指す. 意思決定には, 一連の段階があり, 認識段階, 洞察段階, 予測段階, 評価段階, 選択段階, 実施段階からなる. その分類には, 定型的, 非定型的意思決定, ないし戦略的, 管理的, 業務的意思決定がある. 不確実で, 曖昧な状況の下では, 満足化による意思決定となり, 意味決定の重要性が増す. 最近は, コンピュータの高度利用により, 意思決定支援システムやグループウエアなどを活用した意思決定も盛んである.
詳説
経営管理ないし組織における問題解決をさす. 企業や組織における長期計画や合併などについてのトップ経営者層の判断や決定だけでなく, 日常的な業務活動における判断や選択を含む. これらの意思決定については, その考慮する期間の長さ, 影響を受ける関係者の数, 左右される金額の多寡を問わず, 意思決定としての共通性があり, 一連の段階がある. この段階は, 種々提案されているが, 一例を示すと, 認識段階, 洞察段階, 予測段階, 評価段階, 選択段階, 実施段階からなる. これらの段階は, サイモン[7]による意思決定過程の分析を, 松田[6]が展開したものとなっている.
意思決定の諸段階
意思決定の諸段階における特徴とそこで有用と考えられる方法を例示する.
認識段階は, 企業や組織内外で生起している状況の認識にもとづいて, 目的ないし問題を設定する段階であり, 情報のフィルタリングや圧縮が行われる. この段階では, 経営分析・財務分析や損益分岐点分析などの会計的方法, 標本調査法などの統計的手法, 認知科学的知見, データマイニングなどの活用が考えられる.
洞察段階は, 洞察にもとづき代替案を探索し, 形成する段階であり, 種々の発想法, システムチャート, リレーショナル・データベースなどの活用が考えられる.
予測段階は, 代替案にもとづき, その結果を予測する段階である. この段階では, 時系列データの統計的解析, 需要曲線・供給曲線などの活用が考えられるが, 予測対象への理解と知識にもとづいて, 予測の妥当性を吟味する必要がある.
評価段階は, 予測結果を選好尺度にもとづき評価する段階である. この段階では, 不確実性下の選択におけるペイオフマトリックス, ミニマックス戦略などのゲーム理論, 経済性工学による多時点収支, 多変量解析による評価のモデル化, エキスパートシステムなどの活用が考えられる.
選択段階は, 評価結果にもとづき代替案の選択する段階であり, オペレーションズリサーチないし経営科学のモデルや手法の多くを活用することができる.
ここで, 目的関数が明示され, 代替案が有限で確定しており, 予測が完全で, 計算能力が完備している場合には, 最適化を図ることが可能である. しかし, これらの要件を欠く限定合理性下では, 満足化による選択となる. 満足化は, サイモン[7]によって提唱された概念であり, 要求水準を越えた代替案を選択するという現実的な選択を意味する.
実施段階は, 選択した代替案の実施と実施結果の評価を行う段階である. この段階では, 組織の行動理論やプロジェクトマネジメントの知見, PERTやGERTなどの手法の活用が考えられる. 実施理論は, 経営科学における理論とその実践とのギャップを充足するため, 組織的有効性を高める実態的, 理論的, 方策的検討を行っている.
実際の意思決定は, このように各段階を截然と区分けできる性質のものではなく, 各段階の入り組んだ複雑な過程となっている. 経営における意思決定は, 定型的意思決定と非定型的意思決定とに分類することができる. 定型的な意思決定はもとより, 非定型的な意思決定においても, コンピュータの高度利用が図られている. その例として, 意思決定支援システム(DSS), エキスパートシステム, エージェント技術などの開発があり, 集団的意思決定については, グループウエアやコンピュータ支援協調システム(Computer Supported Cooperative Work)などの開発が進められている. さらに, 企業の意思決定は, 戦略的決定, 管理的決定, 業務的決定のように階層的に分類することもできる.
組織的意思決定
企業における意思決定の実態調査にもとづいて, サイアートとマーチ[2]は, 問題の部分問題への分解や逐次的な問題の処理であるコンフリクトの準解決, 情報の短期的なフィードバックによる意思決定や, 競争者や供給者との談合協定によってなされる不確実性の回避, 問題の兆候の近傍での探索が優先されるなどの問題中心的探索, 経験による目標・注目ルール・探索ルールでの適応である組織学習などについて仮説を設定し, モデル化およびシミュレーションを行っている. このアプローチは, コンピュテーショナル組織論として, カーリーら[1]によって, 展開されている.
企業や組織における意思決定過程は, マーチ[3]によれば, 合理的決定のモデルに基づいて捉えるのか, ルールに基づく行為と捉えるのかによって, 以下のように, 着目点が異なる. それぞれ, 選択を基盤とするのか, ルールを基盤とするのか, 明確化や一貫性に基づくのか, 曖昧さや非一貫性に基づくのか, 意思決定を道具的活動と捉えるか, 解釈的活動と捉えるか, 意思決定の成果は, 自律的な行為者の成果なのか, 相互作用のなされる生態系でのシステム的特性の成果なのかという対比となる. ルールに基づく行為の立場では, 意味決定が重要となり, 意思決定の生態系が追究されることとなる.
曖昧さの下での組織の意思決定について, マーチとオルセン[5]は, ゴミ箱モデルを提案している. ごみ箱モデルの過程では, 選択の機会・問題・解・意思決定者は, 外生的で, 偶然に出会う. 問題と解は, 選択の機会で結びつけられるが, これは, 問題と解が目的-手段関係にあるためではなく, 時間的な近接性があることによる. この時間的な近接性がある限りにおいて, ほとんど全ての解は, ほとんど全ての問題と結びつけられる. この条件は, それらが, 同時に存在するということであるが, 問題と解の一時的なプールは, 社会的組織的構造によって, 制約を受けている.
参考文献
[1] K. M. Carley and M. J. Prietula, Computational Organization Theory, Lawrence Erlbaum Associates, Inc., 1994.
[2] R. M. Cyert and J. G. March, A Behavioral Theory of the Firm, Englewood Cliffs, 1963.
[3] J. G. March, Understanding How Decisions Happen in Organizations, in Z. Shapira (ed.), Organizational Decision Making, Cambridge University Press, 1997, pp. 9-32.
[4] J. G. March and H. A. Simon, Organizations, John Wiley and Sons, Inc., 1958, Blackwell Publishers, 2nd ed., 1993. 土屋守章訳, 『オーガニゼーションズ』, ダイヤモンド社, 1977.
[5] J. G. March and J. P. Olsen, Ambiguity and Choice in Organizations, Universitetsforlaget, 1976. 遠田雄志, アリソン・ユング訳, 『組織におけるあいまいさと決定』, 有斐閣, 1986.
[6] 松田武彦, 『計画と情報』, 日本放送出版会, 1969.
[7] H. A. Simon, The Science of the Artificial (3rd ed.), The MIT Press, 1996. 稲葉元吉, 吉原英樹訳, 『システムの科学』, パーソナルメディア, 1999.