「《研究開発》」の版間の差分

提供: ORWiki
ナビゲーションに移動 検索に移動
 
(3人の利用者による、間の5版が非表示)
3行目: 3行目:
 
 科学技術の革新が加速度的に進行し, グローバルに企業が競争する今日ほど, [[研究開発]] (R&D) が企業の至上命令になっている時代はない. 研究開発は大きく基礎研究と製品開発の2つに分けることが出来る. この内, 基礎研究は基礎技術についての科学的研究であり, 一方製品開発は新製品, 新生産方式や新サービスなどについての応用研究である. 競争のきびしさの増大と同時に, 産業技術の先端分野がシフトしてきた. 今日の最先端分野はバイオテクノロジーであり, 新素材であり, 情報科学の分野である. この様な分野では新しい知識を自社で独占することが難しい. 1990年代になると, 市場のグローバル化, 規制緩和政策などの結果, 巨大企業といえども多くの強力なライバル企業との競争を強いられ事業の利益率を下げてきた. そこで産業界は, 研究開発資金を長期的な基礎研究から応用研究に振り替え始めた. いかなる経営でも2つの目的がある. 1つは顧客満足であり, もう1つはROI(Return on Investment)である. 両目的に最も影響を持つ1つの要因が, 研究開発にかかわる時間である. 情報技術の発達がその傾向を加速している. 研究開発のスピードが競争に勝つための決め手になってきた. また, 時間以外の限られた資源をいかに有効に研究開発に配分するかも問題である. 近年は企業収益に直結しない地球環境問題や安全・PL問題などの企業の社会的責任を果たすための技術開発も求められている.  
 
 科学技術の革新が加速度的に進行し, グローバルに企業が競争する今日ほど, [[研究開発]] (R&D) が企業の至上命令になっている時代はない. 研究開発は大きく基礎研究と製品開発の2つに分けることが出来る. この内, 基礎研究は基礎技術についての科学的研究であり, 一方製品開発は新製品, 新生産方式や新サービスなどについての応用研究である. 競争のきびしさの増大と同時に, 産業技術の先端分野がシフトしてきた. 今日の最先端分野はバイオテクノロジーであり, 新素材であり, 情報科学の分野である. この様な分野では新しい知識を自社で独占することが難しい. 1990年代になると, 市場のグローバル化, 規制緩和政策などの結果, 巨大企業といえども多くの強力なライバル企業との競争を強いられ事業の利益率を下げてきた. そこで産業界は, 研究開発資金を長期的な基礎研究から応用研究に振り替え始めた. いかなる経営でも2つの目的がある. 1つは顧客満足であり, もう1つはROI(Return on Investment)である. 両目的に最も影響を持つ1つの要因が, 研究開発にかかわる時間である. 情報技術の発達がその傾向を加速している. 研究開発のスピードが競争に勝つための決め手になってきた. また, 時間以外の限られた資源をいかに有効に研究開発に配分するかも問題である. 近年は企業収益に直結しない地球環境問題や安全・PL問題などの企業の社会的責任を果たすための技術開発も求められている.  
  
 +
 
 
 研究開発のステージは以下の5つに分けられる. 研究開発テーマの選択, 各テーマへの経営資源の配分の決定, 研究開発の実行と進捗管理, 研究開発成果の評価, 開発成果の事業化. 研究開発テーマの選択は, 研究開発テーマにどの様に優先順位を付けるかという[[研究開発課題選択]]問題である. 各テーマへの経営資源の配分の決定は, ヒト・モノ・カネなどの経営資源をどの様に各テーマに配分するかである. 研究開発の実行と進捗管理は, 研究開発の途中で, その進み具合や問題点などをチェックして, 計画通り継続するか, 規模拡大や縮小あるいは中止などの研究の方針変更を行うかどうかを決めることである. このステージでの研究開発での不確実性, 流動性を考慮した軌道修正の手法としてPDPC(Process Decision Program Chart)法が提案されている. これは, 出発点(目標, テーマ)とゴール(到達目標)を決め, ゴールに至るための楽観的方策と予測結果をあらかじめ設定する. 一方, 悲観的結果を予測しそれへの対策を盛り込むことで, 変化への柔軟な対応を可能にする手法である. 研究開発成果の評価は, 研究開発が完了した段階で, その研究開発の成果を定量的, 定性的に評価することである. 具体的には, 次の様な指標が考えられる.  
 
 研究開発のステージは以下の5つに分けられる. 研究開発テーマの選択, 各テーマへの経営資源の配分の決定, 研究開発の実行と進捗管理, 研究開発成果の評価, 開発成果の事業化. 研究開発テーマの選択は, 研究開発テーマにどの様に優先順位を付けるかという[[研究開発課題選択]]問題である. 各テーマへの経営資源の配分の決定は, ヒト・モノ・カネなどの経営資源をどの様に各テーマに配分するかである. 研究開発の実行と進捗管理は, 研究開発の途中で, その進み具合や問題点などをチェックして, 計画通り継続するか, 規模拡大や縮小あるいは中止などの研究の方針変更を行うかどうかを決めることである. このステージでの研究開発での不確実性, 流動性を考慮した軌道修正の手法としてPDPC(Process Decision Program Chart)法が提案されている. これは, 出発点(目標, テーマ)とゴール(到達目標)を決め, ゴールに至るための楽観的方策と予測結果をあらかじめ設定する. 一方, 悲観的結果を予測しそれへの対策を盛り込むことで, 変化への柔軟な対応を可能にする手法である. 研究開発成果の評価は, 研究開発が完了した段階で, その研究開発の成果を定量的, 定性的に評価することである. 具体的には, 次の様な指標が考えられる.  
  
 +
<center>
 +
[[画像:sk-0178-c-j-14-1.png]]
 +
</center>
  
<center>[[スタイル検討#研究開発 (0178-c-j-14-1)|スタイル検討]]</center>
+
<!--
 
+
\[
 +
研究開発効率(ROI)=\frac{事業収益}{研究開発費}
 +
\]
 +
-->
  
 
 ここで, 研究開発費は, 研究開発コストの総額である. また事業収益は, 売上高, 付加価値額, 利益額, ロイヤリティ収入などである. 開発成果の事業化の決定は, 経営幹部に委ねられる. その際の評価項目としては, 次の6つが考えられる:販売対象, 価格, 販売経路, 販売予測額, 所要設備投資額, 人的資源の確保. それらの評価を助けるものとしてフィールド・テストが行われることが多い. そこでは, 次の5つの特性が調査される:経営資源, 基礎技術, 製品用途, 製品特性, 他社との競争状況. 研究開発費を効果的に使っていくためには, [[研究開発費管理]]が重要である. 研究開発費は研究員などの人件費と研究所や設備などの減価償却費, また研究材料費から構成されている. 研究開発費管理においては, 財務会計からは, 支出したときに一括して費用にする方法と, いったん繰延資産に計上して徐々に費用にしていく方法の選択がある. 一方管理会計からは, 費用を製品原価を含めて各製品のコストとして集計する方法がある. また研究開発を先行投資として, プロジェクト別の採算管理も重要である. 次に, 研究開発との関連で企業における特許戦略が重要になってきた. 特許の取得は, 自社の技術や製品の防衛といった面だけでなく, ディファクト・スタンダード作りや特許使用料収入などの面が重要である.  
 
 ここで, 研究開発費は, 研究開発コストの総額である. また事業収益は, 売上高, 付加価値額, 利益額, ロイヤリティ収入などである. 開発成果の事業化の決定は, 経営幹部に委ねられる. その際の評価項目としては, 次の6つが考えられる:販売対象, 価格, 販売経路, 販売予測額, 所要設備投資額, 人的資源の確保. それらの評価を助けるものとしてフィールド・テストが行われることが多い. そこでは, 次の5つの特性が調査される:経営資源, 基礎技術, 製品用途, 製品特性, 他社との競争状況. 研究開発費を効果的に使っていくためには, [[研究開発費管理]]が重要である. 研究開発費は研究員などの人件費と研究所や設備などの減価償却費, また研究材料費から構成されている. 研究開発費管理においては, 財務会計からは, 支出したときに一括して費用にする方法と, いったん繰延資産に計上して徐々に費用にしていく方法の選択がある. 一方管理会計からは, 費用を製品原価を含めて各製品のコストとして集計する方法がある. また研究開発を先行投資として, プロジェクト別の採算管理も重要である. 次に, 研究開発との関連で企業における特許戦略が重要になってきた. 特許の取得は, 自社の技術や製品の防衛といった面だけでなく, ディファクト・スタンダード作りや特許使用料収入などの面が重要である.  
30行目: 37行目:
  
 
[7] 徳江陞, 『実践研究開発』, 清文社, 1990.
 
[7] 徳江陞, 『実践研究開発』, 清文社, 1990.
 +
 +
[[category:企画・開発・プロジェクト・品質・ヒューマン|けんきゅうかいはつ]]

2007年8月23日 (木) 01:49時点における最新版

【けんきゅうかいはつ (R&D=Research and Development) 】

 科学技術の革新が加速度的に進行し, グローバルに企業が競争する今日ほど, 研究開発 (R&D) が企業の至上命令になっている時代はない. 研究開発は大きく基礎研究と製品開発の2つに分けることが出来る. この内, 基礎研究は基礎技術についての科学的研究であり, 一方製品開発は新製品, 新生産方式や新サービスなどについての応用研究である. 競争のきびしさの増大と同時に, 産業技術の先端分野がシフトしてきた. 今日の最先端分野はバイオテクノロジーであり, 新素材であり, 情報科学の分野である. この様な分野では新しい知識を自社で独占することが難しい. 1990年代になると, 市場のグローバル化, 規制緩和政策などの結果, 巨大企業といえども多くの強力なライバル企業との競争を強いられ事業の利益率を下げてきた. そこで産業界は, 研究開発資金を長期的な基礎研究から応用研究に振り替え始めた. いかなる経営でも2つの目的がある. 1つは顧客満足であり, もう1つはROI(Return on Investment)である. 両目的に最も影響を持つ1つの要因が, 研究開発にかかわる時間である. 情報技術の発達がその傾向を加速している. 研究開発のスピードが競争に勝つための決め手になってきた. また, 時間以外の限られた資源をいかに有効に研究開発に配分するかも問題である. 近年は企業収益に直結しない地球環境問題や安全・PL問題などの企業の社会的責任を果たすための技術開発も求められている.

   研究開発のステージは以下の5つに分けられる. 研究開発テーマの選択, 各テーマへの経営資源の配分の決定, 研究開発の実行と進捗管理, 研究開発成果の評価, 開発成果の事業化. 研究開発テーマの選択は, 研究開発テーマにどの様に優先順位を付けるかという研究開発課題選択問題である. 各テーマへの経営資源の配分の決定は, ヒト・モノ・カネなどの経営資源をどの様に各テーマに配分するかである. 研究開発の実行と進捗管理は, 研究開発の途中で, その進み具合や問題点などをチェックして, 計画通り継続するか, 規模拡大や縮小あるいは中止などの研究の方針変更を行うかどうかを決めることである. このステージでの研究開発での不確実性, 流動性を考慮した軌道修正の手法としてPDPC(Process Decision Program Chart)法が提案されている. これは, 出発点(目標, テーマ)とゴール(到達目標)を決め, ゴールに至るための楽観的方策と予測結果をあらかじめ設定する. 一方, 悲観的結果を予測しそれへの対策を盛り込むことで, 変化への柔軟な対応を可能にする手法である. 研究開発成果の評価は, 研究開発が完了した段階で, その研究開発の成果を定量的, 定性的に評価することである. 具体的には, 次の様な指標が考えられる.

Sk-0178-c-j-14-1.png


 ここで, 研究開発費は, 研究開発コストの総額である. また事業収益は, 売上高, 付加価値額, 利益額, ロイヤリティ収入などである. 開発成果の事業化の決定は, 経営幹部に委ねられる. その際の評価項目としては, 次の6つが考えられる:販売対象, 価格, 販売経路, 販売予測額, 所要設備投資額, 人的資源の確保. それらの評価を助けるものとしてフィールド・テストが行われることが多い. そこでは, 次の5つの特性が調査される:経営資源, 基礎技術, 製品用途, 製品特性, 他社との競争状況. 研究開発費を効果的に使っていくためには, 研究開発費管理が重要である. 研究開発費は研究員などの人件費と研究所や設備などの減価償却費, また研究材料費から構成されている. 研究開発費管理においては, 財務会計からは, 支出したときに一括して費用にする方法と, いったん繰延資産に計上して徐々に費用にしていく方法の選択がある. 一方管理会計からは, 費用を製品原価を含めて各製品のコストとして集計する方法がある. また研究開発を先行投資として, プロジェクト別の採算管理も重要である. 次に, 研究開発との関連で企業における特許戦略が重要になってきた. 特許の取得は, 自社の技術や製品の防衛といった面だけでなく, ディファクト・スタンダード作りや特許使用料収入などの面が重要である.



参考文献

[1] 浦川卓也, 『市場創造の研究開発マネジメント』, ダイヤモンド社, 1996.

[2] 城川俊一, 「研究開発過程のモデル化について」, 『経営行動』, 9 (1994), 9-20.

[3] D. F. Kocaoglu (ed.), Management of R&D and Engineering, North-Holland, 1992.

[4] 西山茂, 『戦略管理会計』, ダイヤモンド社, 1999.

[5] M. L. Patterson, Accelerating Innovation-Improving the Process of Product Development, Van Nostrand Reinhold, 1993.

[6] リチャード・S・ローゼンブルーム, ウィリアム・J・スペンサー, 『中央研究所の時代の終焉』, 日経BP社, 1998.

[7] 徳江陞, 『実践研究開発』, 清文社, 1990.