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=== 概要 ===
  
 
生態学モデルは, 数理生態学(mathemetical ecology)における生物種個体群の時間変化をモデル化した数学モデルである. 代表的なモデルとして, ロジスティックモデル, ゴンペルツモデル, 捕食者/被食者モデルなどがあり, 需要予測やソフトウェア信頼度成長モデルなどに応用されている.
 
生態学モデルは, 数理生態学(mathemetical ecology)における生物種個体群の時間変化をモデル化した数学モデルである. 代表的なモデルとして, ロジスティックモデル, ゴンペルツモデル, 捕食者/被食者モデルなどがあり, 需要予測やソフトウェア信頼度成長モデルなどに応用されている.
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 数理生態学(Mathematical ecology) [1] における数学モデルである[[生態学モデル]]は1種の生物個体数変化を扱うモデルと複数種の個体数変化を扱うモデルに大きく分類される. まずはじめに, 1種の生物の個体数変化を記述したモデルについて述べる. 一定サイズの閉鎖された環境における個体数の成長は, 資源の不足のため制限を受け, 最終的には一定値に落ち着く. この個体数<math>N\, </math>の成長は次のようなモデルで表現される.
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\frac{\mathrm{d} N}{\mathrm{d} t} = N f(N)
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 <math>f(N)\, </math>は個体当たりの成長率で個体数<math>N\, </math>の関数である. <math>{\mathrm {d}}f(N)/{\mathrm {d}}N\, </math>は負の値をとる. これは個体数の成長に伴い, 個体数の増加に, より大きな抑制効果が働くことを表している. <math>f(N)\, </math>を決定することにより, 様々なモデルができる. ここでは, [[ロジスティックモデル]], ゴンペルツモデルのみを紹介する. その他のモデルについては, 参考文献 [2] を参照されたい.
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N=\frac{k}{2}, ~~~(t=\frac{\log m}{\lambda})
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f(N)=\lambda  \log \frac{k}{N}
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N = k \exp(-m \mathrm{e}^{-\lambda t})
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N=\frac{k}{\mathrm{e}}, ~~~(t=\frac{\log m}{\lambda})
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ロジスティック, ゴンペルツともに, 需要予測 [3] をはじめとした社会現象 [4] やソフトウェア信頼度成長モデル [5] などでも用いられ需要やソフトウェア中の潜在バグ数の推定に用いられている. パラメータ推定する方法として微分方程式を差分方程式で近似して最小2乗法を用いる方法, 最尤法を用いる方法, 厳密解から非線形推定を用いて直接求める方法などがある. 微分方程式を差分方程式で近似する際, 一般的な前進差分や中心差分ではなく, 厳密解をもつ差分方程式で近似し, パラメータを求めることにより, より正確なパラメータ推定を行う方法が提案されている [6, 7].
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 1920年代にLotkaとVolterraによって独立に提案された捕食者<math>N_2\, </math>, 被食者<math>N_1\, </math>の個体数の周期的な変動を表したモデル[1]が代表的な[[捕食者/被食者モデル]]である.
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\frac{\mathrm{d}N_1}{\mathrm{d}t}&=&N_1(a_1- b_1N_2-c_1N_1)\\
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\frac{\mathrm{d}N_2}{\mathrm{d}t}&=&N_2(-a_2+b_2N_1)
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ここで, <math>a_1, a_2, b_1, b_2, c_1\geq 0\, </math>である. パラメータ<math>a_1\, </math>は, 捕食者が存在せず, 個体数増加による餌不足が生じないときの被食者の個体当たりの増加率である. この増加率は, ロジスティックモデルと同様, 被食者<math>N_1\, </math>の増加に伴い餌不足を招き, それにより<math>c_1N_1\, </math>だけ減少することになる. ここではさらに, 捕食者が存在するため, 被食者の個体当たりの増加率は, その個体数に比例した<math>b_1N_2\, </math>だけ減少することになる. 一方, 被食者がいないときの捕食者の個体数は, 個体当たり<math>a_2\, </math>の減少率に従い減少し, 最終的に捕食者は絶滅する. 被食者が存在するとき, 捕食者の個体当たりの増加率は, 被食者に比例した<math>b_2N_1\, </math>から<math>a_2\, </math>を引いたものとなる. この微分方程式は, 陽に解を得ることは出来ないが<math>c_1=0\, </math>のとき, 保存量(時間に対して一定値をとる量)を求めることができる. その保存量<math>C\, </math>は,
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となる. <math>C\, </math>は初期点に依存して決定される. 捕食者-被食者モデルも技術革新による技術の変遷の過程を表すモデル [8] などに応用されている. さらに, 2種だけでなく一般の<math>n\, </math>種へ拡張されたモデル[8] も提案されている.
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'''参考文献'''
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[1] 南雲仁一監訳, 『数理生態学』, 産業図書, 1974.
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[2] 木元新作,『集団生物学概説』, 共立出版, 1993.
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[3] V. Mahajan, C. H. Mason and V. Srinivasan, "An Evaluation of Estimation Procedures for New Product Diffusion Models," in ''Innovation Diffusion Models of New Product Acceptance'', V. Mahajan and Y. Wind eds.,
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Ballinger Publishing, 1986.
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[4] 吉田正昭, 『情報の伝播』, 共立出版, 1971.
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[5] 山田茂,『ソフトウェア信頼性モデル-基礎と応用』, 日科技連, 1994.
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[6] 佐藤大輔, 「可積分な差分方程式を利用したGompertz曲線モデルのパラメータ推定」, 『日本オペレーションズ・リサーチ学会1998年春季研究発表会アブストラクト集』, 78-79, 1998.
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[7] 佐藤大輔, 「厳密解を持つ差分方程式によるソフトウェア信頼性モデル」, 『電子情報通信学会1999年総合大会講演論文集』, 61, 1999.
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[8] R. J. Armolavicius, P. Cologrosso and N. E. Ross, "Technology Replacement Models Based on Population Dynamics," ''International Teletraffic Congrtess 12'', Italy, 5.3.A.2.1-5.3.A.2.8, 1988.
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[[category:予測|せいたいがくもでる]]

2008年4月4日 (金) 10:57時点における最新版

【せいたいがくもでる (mathematical ecology model)】

概要

生態学モデルは, 数理生態学(mathemetical ecology)における生物種個体群の時間変化をモデル化した数学モデルである. 代表的なモデルとして, ロジスティックモデル, ゴンペルツモデル, 捕食者/被食者モデルなどがあり, 需要予測やソフトウェア信頼度成長モデルなどに応用されている.

詳説

 数理生態学(Mathematical ecology) [1] における数学モデルである生態学モデルは1種の生物個体数変化を扱うモデルと複数種の個体数変化を扱うモデルに大きく分類される. まずはじめに, 1種の生物の個体数変化を記述したモデルについて述べる. 一定サイズの閉鎖された環境における個体数の成長は, 資源の不足のため制限を受け, 最終的には一定値に落ち着く. この個体数の成長は次のようなモデルで表現される.



 は個体当たりの成長率で個体数の関数である. は負の値をとる. これは個体数の成長に伴い, 個体数の増加に, より大きな抑制効果が働くことを表している. を決定することにより, 様々なモデルができる. ここでは, ロジスティックモデル, ゴンペルツモデルのみを紹介する. その他のモデルについては, 参考文献 [2] を参照されたい.

 ロジスティックモデルは,



のときのモデルである. ここで, は飽和個体数を表す. 厳密解は次のように与えられる.



変曲点は以下のように表される.



ゴンペルツモデルは



のときのモデルである. 同じくkは飽和個体数を表し, は定数である. 厳密解は次のように与えられる.



変曲点は以下のように表される.



ロジスティック, ゴンペルツともに, 需要予測 [3] をはじめとした社会現象 [4] やソフトウェア信頼度成長モデル [5] などでも用いられ需要やソフトウェア中の潜在バグ数の推定に用いられている. パラメータ推定する方法として微分方程式を差分方程式で近似して最小2乗法を用いる方法, 最尤法を用いる方法, 厳密解から非線形推定を用いて直接求める方法などがある. 微分方程式を差分方程式で近似する際, 一般的な前進差分や中心差分ではなく, 厳密解をもつ差分方程式で近似し, パラメータを求めることにより, より正確なパラメータ推定を行う方法が提案されている [6, 7].

 1920年代にLotkaとVolterraによって独立に提案された捕食者, 被食者の個体数の周期的な変動を表したモデル[1]が代表的な捕食者/被食者モデルである.



ここで, である. パラメータは, 捕食者が存在せず, 個体数増加による餌不足が生じないときの被食者の個体当たりの増加率である. この増加率は, ロジスティックモデルと同様, 被食者の増加に伴い餌不足を招き, それによりだけ減少することになる. ここではさらに, 捕食者が存在するため, 被食者の個体当たりの増加率は, その個体数に比例しただけ減少することになる. 一方, 被食者がいないときの捕食者の個体数は, 個体当たりの減少率に従い減少し, 最終的に捕食者は絶滅する. 被食者が存在するとき, 捕食者の個体当たりの増加率は, 被食者に比例したからを引いたものとなる. この微分方程式は, 陽に解を得ることは出来ないがのとき, 保存量(時間に対して一定値をとる量)を求めることができる. その保存量は,



となる. は初期点に依存して決定される. 捕食者-被食者モデルも技術革新による技術の変遷の過程を表すモデル [8] などに応用されている. さらに, 2種だけでなく一般の種へ拡張されたモデル[8] も提案されている.



参考文献

[1] 南雲仁一監訳, 『数理生態学』, 産業図書, 1974.

[2] 木元新作,『集団生物学概説』, 共立出版, 1993.

[3] V. Mahajan, C. H. Mason and V. Srinivasan, "An Evaluation of Estimation Procedures for New Product Diffusion Models," in Innovation Diffusion Models of New Product Acceptance, V. Mahajan and Y. Wind eds., Ballinger Publishing, 1986.

[4] 吉田正昭, 『情報の伝播』, 共立出版, 1971.

[5] 山田茂,『ソフトウェア信頼性モデル-基礎と応用』, 日科技連, 1994.

[6] 佐藤大輔, 「可積分な差分方程式を利用したGompertz曲線モデルのパラメータ推定」, 『日本オペレーションズ・リサーチ学会1998年春季研究発表会アブストラクト集』, 78-79, 1998.

[7] 佐藤大輔, 「厳密解を持つ差分方程式によるソフトウェア信頼性モデル」, 『電子情報通信学会1999年総合大会講演論文集』, 61, 1999.

[8] R. J. Armolavicius, P. Cologrosso and N. E. Ross, "Technology Replacement Models Based on Population Dynamics," International Teletraffic Congrtess 12, Italy, 5.3.A.2.1-5.3.A.2.8, 1988.