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'''ぐんじもでる (military model)'''
 
'''ぐんじもでる (military model)'''
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=== 概要 ===
  
 
軍事計画の立案には, 究極の合理性を追求しながらも, 実験を行って確かめることが許されないので, つとめて科学的分析評価が求められる. このため, 従来よりシミュレーションが活用されてきたが, 使用目的によりモデルの性格を区分すれば次の3種類である. 分析用(兵力構成の検討や機種選定に使用), 訓練・演習用(部隊の練度維持のため, 部隊訓練・演習を効率的に支援), および研究開発・取得用(新兵器の研究開発や生産のために使用).
 
軍事計画の立案には, 究極の合理性を追求しながらも, 実験を行って確かめることが許されないので, つとめて科学的分析評価が求められる. このため, 従来よりシミュレーションが活用されてきたが, 使用目的によりモデルの性格を区分すれば次の3種類である. 分析用(兵力構成の検討や機種選定に使用), 訓練・演習用(部隊の練度維持のため, 部隊訓練・演習を効率的に支援), および研究開発・取得用(新兵器の研究開発や生産のために使用).
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=== 詳説 ===
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[全般] 
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 [[軍事モデル]]とは文字通り軍事活動に必要な事項についてモデル化すること(したもの)であり, 単にモデルの対象が軍事的なモノや事柄となっているだけのことである.
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 軍事活動といえば戦争映画によく映し出される戦闘場面を想像しがちだが, 実際には戦闘場面以外にも幅広い分野が含まれている. ちょっと例示するだけでも, 気象, 偵察等の情報の獲得, 物品の調達, 補給, 輸送, 道路や橋の建設, 航空機等の整備, 医療, 衛生, 教育, その他組織運営上の管理的な事項など, とにかく範囲は広大であり, それぞれの活動分野において必要とする専門的な教育や訓練を経て人材が養成される.
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 軍事組織の特色は, 次の3点に集約され, それぞれ, 1)「目的達成」がなにより関心事であり, 2)その行動原理は「合理性の追求」であり, 3)能力を発揮するための「機能的集団」であるといえる. 逆に, 組織を編成する観点から言えば, 目的を達成するためには何が必要なのかという根本的な必要性から出発して, 所要機能をできるだけ構造的に分割して最小限のまとまりのある単一機能をもつ組織を構築して行くというプロセスに従うことになる.
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 例えば, 我が国の領空を守るための「防空」を考えれば, これを達成するには領空の「警戒監視」機能と「要撃機能」が必要であり, 「警戒監視」は地上に配備される「レーダー基地」や空飛ぶ「早期警戒機」や「警戒管制機」のほか, これらが機能しなくなった場合に備えた「代替監視機能」と「自動管制機能」等を含み, 後者の「要撃機能」には「戦闘機部隊」や「ミサイル部隊」が含まれる. (図参照)
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\begin{table}[h]\label{C-D-06+boukuu} \begin{center} \begin{tabular}{cccc} \cline{4-4} & & \multicolumn{1}{c|}{} & 監視管制機能\\ \cline{4-4} & & \multicolumn{1}{c|}{レーダー監視}& 整備補給機能\\ \cline{3-3} \cline{4-4} & \multicolumn{1}{c|}{} & \multicolumn{1}{c|}{} & 基地業務機能\\ \cline{4-4} & \multicolumn{1}{c|}{警戒監視} & 代替監視 & 移動警戒機能\\ \cline{2-2} \cline{3-3} \cline{4-4} \multicolumn{1}{c|}{} & \multicolumn{1}{c|}{} & 自動管制 & 防空管制機能\\ \cline{3-3} \cline{4-4} \multicolumn{1}{c|}{}&&&\\ \cline{4-4} \multicolumn{1}{c|}{防空}& & \multicolumn{1}{c|}{} &飛行機能\\ \cline{1-1} \cline{4-4} \multicolumn{1}{c|}{}& & \multicolumn{1}{c|}{戦闘機部隊} & 整備補給機能\\ \cline{3-3} \cline{4-4} \multicolumn{1}{c|}{} & \multicolumn{1}{c|}{} & \multicolumn{1}{c|}{} & 基地業務機能\\ \cline{4-4} \multicolumn{1}{c|}{} & \multicolumn{1}{c|}{要撃} & & \\ \cline{2-2} \cline{4-4} & \multicolumn{1}{c|}{} & \multicolumn{1}{c|}{} & 射撃機能\\ \cline{4-4} & \multicolumn{1}{c|}{} & \multicolumn{1}{c|}{高射部隊}& 整備補給機能\\ \cline{3-3} \cline{4-4} & & \multicolumn{1}{c|}{} & 指揮運用機能\\ \cline{4-4}
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\end{tabular} \end{center} \end{table}
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 このように特定の機能を発揮するあるまとまりを形づくることにより, 組織を構成していくので, 機能的に欠落のないしかも自己完結性を備えた部隊が編成できる.
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[モデルの解像度]
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 当然ながら, 使用目的に応じたモデルが準備, 作成されるべきで, 例えば, あるモノを観察するにしても, その対象が, 星座等の観測・バードウオッチング・細字印刷された資料の精査・細胞観察であれば, それぞれ天体望遠鏡・双眼鏡・虫眼鏡・顕微鏡などをその用途に応じて使い分けるのと同じアナロジーで理解されよう. 戦闘行動を取り扱うモデルにも適切な解像度があって, 例として, 米軍において区分されている様子を掲げると表のとおりになる.
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表1: 解像度によるモデルの区分<br>
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 上位のモデルになるほど, 取り扱う範囲が広くなり, 従ってモデルの集約度が高く, 言い換えればマクロ性の度合いが高くなっていく. 逆に, 最下位のモデルは兵器の構成品を忠実に表現されており, 現実的性が高いので, 抽象度は低いと言える. 通常は, 下位のモデルの結果(出力)を一段高いレベルのモデルの入力データとして使うことが多く, これにより順次抽象度が高くなって行くようにモデル体系が構築されていることが理解され, しばしば三角形のピラミッド図形を描いてこの関係が説明される.
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[戦闘モデル内の主要事項]
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 戦闘を記述するモデルにおいては, 規模の大小を問わず, 発見・識別・要撃・撃破というフェーズを経過し, 極端に言えば, この繰り返しを累積することにより, 戦闘推移が計算される. 対潜水艦戦では, ソナー等を用いた目標発見が重要であり, 探索モデルが考案されている. 空中をレーダー捜索する場合には, レーダー方程式に従いある程度の距離に近づけば反射される信号レベルが大きくなり, 目標が発見されることになる. 目標発見以降においては, 環境条件や目標攻撃能力に応じて兵器が命中する確率が計算され目標が撃破されることとなる. こうして, 全体的な戦闘損耗量が見積もられ, マクロ的計算には[[ランチェスターの方程式]]が使用される.
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[米国防省モデル&シミュレーション基本計画]
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 本計画は1995年に国防省が作成し, 1999年に改訂されている. 何と言っても軍事モデルとその周辺技術は米国が最先端レベルにあり, 米国における動向を把握しておくことが, この分野における将来の基本的方向性を考える場合には必須であると言われている. 実際に, 本計画は強力な指導力をもってトップダウンに実施されているところであり, もしこれに従わないで独自の方向に進もうとした場合には, 国防省がモデル維持に必要な予算を認めないということを宣言しているので, 国防省に関係なく独自に費用が手当できない限り活動資金が得られなくなり, ひいては消滅してしまうことになってしまう. これまでのところ, 若干の計画遅延はあるものの, 本計画のとおりに進んでいるといえる. 本計画に含まれている内容には大きく6つの目的があり, それらは, 次のとおりである.
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:1.共通の技術基盤の開発―相互運用性, HLA, 任務空間の概念モデル, データ標準
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:2.自然環境のモデル化―地形, 海洋, 大気圏, 宇宙
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:3.兵器や装備品のモデル化―兵器の性能や特性
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:4.人間行動のモデル化―個々の人間, 組織やグループ
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:5.開発者や利用者の必要を満たすための基盤の確立―推進役, VV&A, リポジトリ, 通信, 調整センター
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:6.得られた便益の共有―影響の数量化, 教育, 再利用
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 本計画は, 米軍のモデルに影響するだけでなく, 「仮想現実」に関する技術分野や, 複数モデルをネットワークを介して連接し, あたかも1つのシミュレーションのように活用することなどの新技術分野に代表されるように, 軍以外の政府機関, 学界, 産業界全てに亘って大きな変化をもたらすことが予想されているところである.
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[[category:公共システム|ぐんじもでる]]

2008年4月2日 (水) 16:36時点における最新版

ぐんじもでる (military model)

概要

軍事計画の立案には, 究極の合理性を追求しながらも, 実験を行って確かめることが許されないので, つとめて科学的分析評価が求められる. このため, 従来よりシミュレーションが活用されてきたが, 使用目的によりモデルの性格を区分すれば次の3種類である. 分析用(兵力構成の検討や機種選定に使用), 訓練・演習用(部隊の練度維持のため, 部隊訓練・演習を効率的に支援), および研究開発・取得用(新兵器の研究開発や生産のために使用).

詳説

[全般]

 軍事モデルとは文字通り軍事活動に必要な事項についてモデル化すること(したもの)であり, 単にモデルの対象が軍事的なモノや事柄となっているだけのことである.

 軍事活動といえば戦争映画によく映し出される戦闘場面を想像しがちだが, 実際には戦闘場面以外にも幅広い分野が含まれている. ちょっと例示するだけでも, 気象, 偵察等の情報の獲得, 物品の調達, 補給, 輸送, 道路や橋の建設, 航空機等の整備, 医療, 衛生, 教育, その他組織運営上の管理的な事項など, とにかく範囲は広大であり, それぞれの活動分野において必要とする専門的な教育や訓練を経て人材が養成される.

 軍事組織の特色は, 次の3点に集約され, それぞれ, 1)「目的達成」がなにより関心事であり, 2)その行動原理は「合理性の追求」であり, 3)能力を発揮するための「機能的集団」であるといえる. 逆に, 組織を編成する観点から言えば, 目的を達成するためには何が必要なのかという根本的な必要性から出発して, 所要機能をできるだけ構造的に分割して最小限のまとまりのある単一機能をもつ組織を構築して行くというプロセスに従うことになる.

 例えば, 我が国の領空を守るための「防空」を考えれば, これを達成するには領空の「警戒監視」機能と「要撃機能」が必要であり, 「警戒監視」は地上に配備される「レーダー基地」や空飛ぶ「早期警戒機」や「警戒管制機」のほか, これらが機能しなくなった場合に備えた「代替監視機能」と「自動管制機能」等を含み, 後者の「要撃機能」には「戦闘機部隊」や「ミサイル部隊」が含まれる. (図参照)


Sk-0206-c-d-06-1.png


 このように特定の機能を発揮するあるまとまりを形づくることにより, 組織を構成していくので, 機能的に欠落のないしかも自己完結性を備えた部隊が編成できる.

[モデルの解像度]

 当然ながら, 使用目的に応じたモデルが準備, 作成されるべきで, 例えば, あるモノを観察するにしても, その対象が, 星座等の観測・バードウオッチング・細字印刷された資料の精査・細胞観察であれば, それぞれ天体望遠鏡・双眼鏡・虫眼鏡・顕微鏡などをその用途に応じて使い分けるのと同じアナロジーで理解されよう. 戦闘行動を取り扱うモデルにも適切な解像度があって, 例として, 米軍において区分されている様子を掲げると表のとおりになる.


表1: 解像度によるモデルの区分


モデル区分 取扱い対象 目的 適用問題(典型的)
1 統合作戦レベル 戦域レベル Campaign 兵力組成の検討
2 陸上・海上・航空作戦 戦闘レベル Battle 作戦所要量の検討
3 兵器システム 交戦レベル Engagement 兵器有効性の検討
4 システム構成品 機能レベル Engineering 機能分割の妥当性



 上位のモデルになるほど, 取り扱う範囲が広くなり, 従ってモデルの集約度が高く, 言い換えればマクロ性の度合いが高くなっていく. 逆に, 最下位のモデルは兵器の構成品を忠実に表現されており, 現実的性が高いので, 抽象度は低いと言える. 通常は, 下位のモデルの結果(出力)を一段高いレベルのモデルの入力データとして使うことが多く, これにより順次抽象度が高くなって行くようにモデル体系が構築されていることが理解され, しばしば三角形のピラミッド図形を描いてこの関係が説明される.

[戦闘モデル内の主要事項]

 戦闘を記述するモデルにおいては, 規模の大小を問わず, 発見・識別・要撃・撃破というフェーズを経過し, 極端に言えば, この繰り返しを累積することにより, 戦闘推移が計算される. 対潜水艦戦では, ソナー等を用いた目標発見が重要であり, 探索モデルが考案されている. 空中をレーダー捜索する場合には, レーダー方程式に従いある程度の距離に近づけば反射される信号レベルが大きくなり, 目標が発見されることになる. 目標発見以降においては, 環境条件や目標攻撃能力に応じて兵器が命中する確率が計算され目標が撃破されることとなる. こうして, 全体的な戦闘損耗量が見積もられ, マクロ的計算にはランチェスターの方程式が使用される.

[米国防省モデル&シミュレーション基本計画]

 本計画は1995年に国防省が作成し, 1999年に改訂されている. 何と言っても軍事モデルとその周辺技術は米国が最先端レベルにあり, 米国における動向を把握しておくことが, この分野における将来の基本的方向性を考える場合には必須であると言われている. 実際に, 本計画は強力な指導力をもってトップダウンに実施されているところであり, もしこれに従わないで独自の方向に進もうとした場合には, 国防省がモデル維持に必要な予算を認めないということを宣言しているので, 国防省に関係なく独自に費用が手当できない限り活動資金が得られなくなり, ひいては消滅してしまうことになってしまう. これまでのところ, 若干の計画遅延はあるものの, 本計画のとおりに進んでいるといえる. 本計画に含まれている内容には大きく6つの目的があり, それらは, 次のとおりである.

1.共通の技術基盤の開発―相互運用性, HLA, 任務空間の概念モデル, データ標準
2.自然環境のモデル化―地形, 海洋, 大気圏, 宇宙
3.兵器や装備品のモデル化―兵器の性能や特性
4.人間行動のモデル化―個々の人間, 組織やグループ
5.開発者や利用者の必要を満たすための基盤の確立―推進役, VV&A, リポジトリ, 通信, 調整センター
6.得られた便益の共有―影響の数量化, 教育, 再利用

 本計画は, 米軍のモデルに影響するだけでなく, 「仮想現実」に関する技術分野や, 複数モデルをネットワークを介して連接し, あたかも1つのシミュレーションのように活用することなどの新技術分野に代表されるように, 軍以外の政府機関, 学界, 産業界全てに亘って大きな変化をもたらすことが予想されているところである.