「ファジィランダム変数」の版間の差分
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+ | 不確実性(randomness)を含むデータは一般に確率変数(random variable)で表すことができるが,現実には確率的現象を正確に観測できなかったり,確率変数の実現値を確定値ではなく「確率0.3でおおよそ100ぐらい,確率0.7でおおよそ200ぐらい」という形で与えることもある.また,ある母集団の年齢を表す場合に,「おおよそ20歳」や「若い」というようなあいまいなデータで表現されているときには,この母集団の年齢の期待値(expectation)は従来の統計学の枠組みでは計算できない. | ||
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+ | ファジィランダム変数(fuzzy random variable)は,このようなあいまい性(fuzziness)と不確実性を同時に含むデータを数学的に表現したり,統計的に処理する際に基礎となる数学的概念であり,ファジィ確率変数,ランダムファジィ集合(random fuzzy set)とも呼ばれる.確率変数が確率空間(probability space)における標本空間(sample space)から実数値への可測写像(measurable map)であるのに対して,ファジィランダム変数は標本空間からファジィ集合(fuzzy set)への可測写像として定義される.すなわち,直感的に言えば,確率変数の実現値をファジィ集合に拡張した概念とみなすことができる. | ||
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+ | ファジィランダム変数は1978年にKawakernaakにより最初に導入され,元の確率変数のあいまいな観測の結果得られる値として多値論理(multivalued logic)に基づいて定義された[5].その後,PuriとRalescuはランダム集合(random set)を拡張した概念としてファジィランダム変数を定義し,数学的基礎を構築した[7].ファジィランダム変数の値域がコンパクトファジィ集合である場合には,Kwakernaakの定義とPuri-Ralescuの定義は同値であるため,特に応用において重要となるファジィ数(fuzzy number)を値域とするファジィランダム変数においては2つの定義は一致する. | ||
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+ | 1980年代以降,ファジィランダム変数の期待値や分散(variance)などの定義を初めとして,大数の法則(law of large numbers)や中心極限定理(central limit theorem),ルベーグの収束定理(Lebesgue dominated convergence theorem),エルゴード定理(ergodic theorem)などに関する数多くの理論的な研究が行われてきている. | ||
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+ | ファジィランダム変数のORへの応用研究についても線形計画問題(linear programming problem)[3],在庫管理問題(inventory model),スケジューリング問題(scheduling problem),最小木問題(minimum spanning tree problem),最適停止問題(optimal stopping problem),オプション理論(option theory),ベイズネットワーク(Bayesian network)など,様々な領域で近年急速に広がっており,ファジィOR[2]の一分野としても今後益々発展していくものと予想される. | ||
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+ | [1] M.A. Gil, M. Lopez-Diaz and D.A. Ralescu, Overview on the development of fuzzy random variables, ''Fuzzy Sets and Systems'','''157''' (2006), 2546-2557. | ||
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+ | [2] 片桐英樹,石井博昭,「ファジィランダムモデル」,『ファジィOR(石井博昭,坂和正敏,岩本誠一編)』, 朝倉書店, 2001, 189-206. | ||
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+ | [3] 片桐英樹,坂和正敏,石井博昭,ファジィーランダム変数係数を含む線形計画問題に対する可能性測度と必然性測度を用いた確率計画モデルに基づく意思決定,『電子情報通信学会論文誌 A』, '''J86-A''' (2003), 655-662. | ||
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+ | [4] R. Kruse and K. D. Meyer, ''Statistics with Vague Data'', D. Riedel Publishing Company, 1987. | ||
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+ | [5] H. Kwakernaak, Fuzzy random variable-1, ''Information Sciences'', '''15''' (1978) 1-29. | ||
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+ | [6] 小倉幸雄他,「特集:確率ファジィ解析とその周辺」,『日本ファジィ学会誌』, '''10''' (1998) 1012-1062. | ||
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+ | [7] M. L. Puri and D. A. Ralescu, Fuzzy random variables, ''Journal of Mathematical Analysis and Applications'', '''14''' (1986) 409-422. | ||
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2008年3月23日 (日) 17:55時点における最新版
【 ふぁじぃらんだむへんすう (fuzzy random variable) 】
概要
確率変数の実現値をファジィ集合に拡張した概念で, 1978年にKawakernaakにより導入された. 例えば, 「確率0.3でおおよそ100ぐらい,確率0.7でおおよそ200ぐらい」というように, あいまい性を伴う確率的現象を数学的に表現することができる.
詳説
不確実性(randomness)を含むデータは一般に確率変数(random variable)で表すことができるが,現実には確率的現象を正確に観測できなかったり,確率変数の実現値を確定値ではなく「確率0.3でおおよそ100ぐらい,確率0.7でおおよそ200ぐらい」という形で与えることもある.また,ある母集団の年齢を表す場合に,「おおよそ20歳」や「若い」というようなあいまいなデータで表現されているときには,この母集団の年齢の期待値(expectation)は従来の統計学の枠組みでは計算できない.
ファジィランダム変数(fuzzy random variable)は,このようなあいまい性(fuzziness)と不確実性を同時に含むデータを数学的に表現したり,統計的に処理する際に基礎となる数学的概念であり,ファジィ確率変数,ランダムファジィ集合(random fuzzy set)とも呼ばれる.確率変数が確率空間(probability space)における標本空間(sample space)から実数値への可測写像(measurable map)であるのに対して,ファジィランダム変数は標本空間からファジィ集合(fuzzy set)への可測写像として定義される.すなわち,直感的に言えば,確率変数の実現値をファジィ集合に拡張した概念とみなすことができる.
ファジィランダム変数は1978年にKawakernaakにより最初に導入され,元の確率変数のあいまいな観測の結果得られる値として多値論理(multivalued logic)に基づいて定義された[5].その後,PuriとRalescuはランダム集合(random set)を拡張した概念としてファジィランダム変数を定義し,数学的基礎を構築した[7].ファジィランダム変数の値域がコンパクトファジィ集合である場合には,Kwakernaakの定義とPuri-Ralescuの定義は同値であるため,特に応用において重要となるファジィ数(fuzzy number)を値域とするファジィランダム変数においては2つの定義は一致する.
1980年代以降,ファジィランダム変数の期待値や分散(variance)などの定義を初めとして,大数の法則(law of large numbers)や中心極限定理(central limit theorem),ルベーグの収束定理(Lebesgue dominated convergence theorem),エルゴード定理(ergodic theorem)などに関する数多くの理論的な研究が行われてきている.
ファジィランダム変数のORへの応用研究についても線形計画問題(linear programming problem)[3],在庫管理問題(inventory model),スケジューリング問題(scheduling problem),最小木問題(minimum spanning tree problem),最適停止問題(optimal stopping problem),オプション理論(option theory),ベイズネットワーク(Bayesian network)など,様々な領域で近年急速に広がっており,ファジィOR[2]の一分野としても今後益々発展していくものと予想される.
参考文献
[1] M.A. Gil, M. Lopez-Diaz and D.A. Ralescu, Overview on the development of fuzzy random variables, Fuzzy Sets and Systems,157 (2006), 2546-2557.
[2] 片桐英樹,石井博昭,「ファジィランダムモデル」,『ファジィOR(石井博昭,坂和正敏,岩本誠一編)』, 朝倉書店, 2001, 189-206.
[3] 片桐英樹,坂和正敏,石井博昭,ファジィーランダム変数係数を含む線形計画問題に対する可能性測度と必然性測度を用いた確率計画モデルに基づく意思決定,『電子情報通信学会論文誌 A』, J86-A (2003), 655-662.
[4] R. Kruse and K. D. Meyer, Statistics with Vague Data, D. Riedel Publishing Company, 1987.
[5] H. Kwakernaak, Fuzzy random variable-1, Information Sciences, 15 (1978) 1-29.
[6] 小倉幸雄他,「特集:確率ファジィ解析とその周辺」,『日本ファジィ学会誌』, 10 (1998) 1012-1062.
[7] M. L. Puri and D. A. Ralescu, Fuzzy random variables, Journal of Mathematical Analysis and Applications, 14 (1986) 409-422.