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− | いくつかの地域あるいは地点の集合が与えられたとき, それらの中の任意の2地域あるいは2地点間の | + | いくつかの地域あるいは地点の集合が与えられたとき, それらの中の任意の2地域あるいは2地点間の"もの", たとえば物資, 人, 情報, 財の移動あるいは流れといったものを2地域間の相互作用としてモデルを用いて分析する方法が古くから数多く提起されている. これらのモデルは, 空間的に位置する2地域間の相互作用を分析するということから, 地域間相互作用モデルあるいは[[空間相互作用モデル]]と総称される. これらのなかで代表的なのが[[グラビティーモデル]]([[重力モデル]]とも呼ばれる)あるいは[[エントロピーモデル]]である. グラビティーモデルはニュートンの万有引力の法則, エントロピーモデルはエントロピー最大化法則というように, いずれも重要な物理法則に基づき, それらを理論的背景としている. このことは社会現象を説明するのに, 物理現象を説明する物理法則が適用できることを意味する. |
− | ニュートンの万有引力の法則がグラビティーモデルとして社会現象の分析に最初に応用されたのは1940年代である. 2つの都市の人口を$p_{1}$, $p_{2}$, そしてそれらの都市間の距離を$d_{12}$とするとき, これらの都市間の道路, 鉄道あるいは航空機等による人口の流動量$d_{12}$が, $K$を比例定数として, 次式で与えられることが実証的に示された. | + | ニュートンの万有引力の法則がグラビティーモデルとして社会現象の分析に最初に応用されたのは1940年代である. 2つの都市の人口を$<math>p_{1}\, </math>$, $<math>p_{2}\, </math>$, そしてそれらの都市間の距離を$<math>d_{12}\, </math>$とするとき, これらの都市間の道路, 鉄道あるいは航空機等による人口の流動量$<math>d_{12}\, </math>$が, $<math>K\, </math>$を比例定数として, 次式で与えられることが実証的に示された. |
− | f = K \frac{p_{1}p_{2}}{d_{12}^{2}} \hspace{1cm} K : \mbox{比例定数} \hspace{1cm} | + | <math>f = K \frac{p_{1}p_{2}}{d_{12}^{2}} \hspace{1cm} K : \mbox{比例定数} \hspace{1cm}\, </math> (1) |
− | (1) | ||
このような動きがその後の数学モデルによる社会事象のモデル分析あるいは意思決定といった分野における理論的, そして実証的な分析の発展にも大きな影響を及ぼしてきたということができる. | このような動きがその後の数学モデルによる社会事象のモデル分析あるいは意思決定といった分野における理論的, そして実証的な分析の発展にも大きな影響を及ぼしてきたということができる. | ||
− | $n$個の地域の集合を$N=\{1,2,..., n\}$とするとき, グラビティーモデルの一般形は以下のように書くことができる. 地域$i$から地域$j$への移動量を$f_{ij}$, 地域$i$を出発地とする移動総量を$p_{i}$, 地域$j$を到着地とする移動総量を$q_{j}$, $i$, $j$両地域間の距離を$d_{ij}$とするとき, $i$から$j$への移動量$f_{ij}$と移動総量$p_{i}$, $q_{j}$の間に次の関係が成り立つと仮定する. | + | $<math>n\, </math>$個の地域の集合を$<math>N=\{1,2,..., n\}\, </math>$とするとき, グラビティーモデルの一般形は以下のように書くことができる. 地域$<math>i\, </math>$から地域$<math>j\, </math>$への移動量を$<math>f_{ij}\, </math>$, 地域$i$を出発地とする移動総量を$<math>p_{i}\, </math>$, 地域$j$を到着地とする移動総量を$<math>q_{j}\, </math>$, $<math>i\, </math>$, $<math>j\, </math>$両地域間の距離を$<math>d_{ij}\, </math>$とするとき, $<math>i\, </math>$から$<math>j\, </math>$への移動量$<math>f_{ij}\, </math>$と移動総量$<math>p_{i}\, </math>$, $<math>q_{j}\, </math>$の間に次の関係が成り立つと仮定する. |
− | + | <math>f_{ij} = K \frac{p_{i}^{a}q_{j}^{b}}{d_{ij}^{c}} \hspace{1cm} i \in N, j \in N \hspace{1cm}\, </math> (2) | |
− | N \hspace{1cm} (2) | ||
− | 式(2)のパラメタ$ K, a, b, c $の推定は, 式の両辺の自然対数をとり | + | 式(2)のパラメタ$ <math>K, a, b, c\, </math> $の推定は, 式の両辺の自然対数をとり |
− | + | <math>f_{ij} = \log K + a \log p_{i} + b \log q_{j} - c \log d_{ij} + e_{ij}, \; \; \; e_{ij}\, </math> : 誤差項 (3) | |
− | \; \; e_{ij} : | ||
− | に基いてデータ$\{ f_{ij}, p_{i}, q_{j}, d_{ij} \}$を用いて回帰分析を行なうのが一般的である. | + | に基いてデータ$<math>\{ f_{ij}, p_{i}, q_{j}, d_{ij} \}\, </math>$を用いて回帰分析を行なうのが一般的である. |
− | エントロピーの概念は, 熱力学の分野においてあいまいさあるいは無秩序さを表すものとして用いられ, 熱力学第2法則としてすべての熱力学系においてはエントロピーは増加するものであって, しかもその平衡状態においてはエントロピー極大の状態が達成されるということを前提とする. いま$n$個の相互に排反な事象$A_{1}$, $A_{2}$,..., $A_{n}$があり, これらの事象がそれぞれ確率$p_{1}$, $p_{2}$, $\ldots$, $p_{n}$の割合で実現するものとしよう. このとき確率分布$\{$ $p_{1}$, $p_{2}$, ..., $p_{n}$$\}$のエントロピー$H$は, $N=\{1, ..., n\}$として | + | エントロピーの概念は, 熱力学の分野においてあいまいさあるいは無秩序さを表すものとして用いられ, 熱力学第2法則としてすべての熱力学系においてはエントロピーは増加するものであって, しかもその平衡状態においてはエントロピー極大の状態が達成されるということを前提とする. いま$<math>n\, </math>$個の相互に排反な事象$<math>A_{1}\, </math>$, $<math>A_{2}\, </math>$,..., $<math>A_{n}\, </math>$があり, これらの事象がそれぞれ確率$<math>p_{1}\, </math>$, $<math>p_{2}\, </math>$, $<math>\ldots\, </math>$, $<math>p_{n}\, </math>$の割合で実現するものとしよう. このとき確率分布$<math>\{\, </math>$ $<math>p_{1}\, </math>$, $<math>p_{2}\, </math>$, ..., $<math>p_{n}\, </math>$$<math>\}\, </math>$のエントロピー$<math>H\, </math>$は, $<math>N=\{1, ..., n\}\, </math>$として |
− | + | <math>H = - \sum_{i \in N}p_{i} \log p_{i}\, </math> (4) | |
− | のように与えられる. したがって一般に確率分布$\{$ $p_{1}$, $p_{2}$, ..., $p_{n}$ $\}$が未知のとき, 式(4)で与えられるエントロピー$H(p_{1}$, $p_{2}$, ..., $p_{n})$を最大にする$p_{1}$, $p_{2}$, ..., $p_{n}$は$ p_{1} = p_{2} = ... = p_{n} = 1/n $となり, すべての事象の実現確率$p_{i}$ が等しいときにエントロピーは最大となり, $H = \log n$となる. 一般の事象の実現に関しては常に何らかの情報があると考えられることから, 事象の実現確率はもはや等しくならないので, あいまいさを表すエントロピーは$H =\log n$と比較して減少することになる. たとえばコストという1つの因子を考える. すなわち互いに素な整数の比$t_{1}$, $t_{2}$, ..., $t_{n}$に対して | + | のように与えられる. したがって一般に確率分布$<math>\{\, </math>$ $<math>p_{1}\, </math>$, $<math>p_{2}\, </math>$, ..., $<math>p_{n}\, </math>$ $<math>\}\, </math>$が未知のとき, 式(4)で与えられるエントロピー$<math>H(p_{1}\, </math>$, $<math>p_{2}\, </math>$, ..., $<math>p_{n})\, </math>$を最大にする$<math>p_{1}\, </math>$, $<math>p_{2}\, </math>$, ..., $<math>p_{n}\, </math>$は$ <math>p_{1} = p_{2} = ... = p_{n} = 1/n\, </math> $となり, すべての事象の実現確率$<math>p_{i}\, </math>$ が等しいときにエントロピーは最大となり, $<math>H = \log n\, </math>$となる. 一般の事象の実現に関しては常に何らかの情報があると考えられることから, 事象の実現確率はもはや等しくならないので, あいまいさを表すエントロピーは$<math>H =\log n\, </math>$と比較して減少することになる. たとえばコストという1つの因子を考える. すなわち互いに素な整数の比$<math>t_{1}\, </math>$, $<math>t_{2}$\, </math>, ..., $<math>t_{n}\, </math>$に対して |
− | + | <math>T = \sum_{i \in N}t_{i}p_{i}\, </math> (5) | |
− | をできるだけ小さく, そして(4)で与えられるエントロピー$H(p_{1}$, $p_{2}$, ..., $p_{n})$をできるだけ大きくする$\{p_{i} | + | をできるだけ小さく, そして(4)で与えられるエントロピー$<math>H(p_{1}\, </math>$, $<math>p_{2}\, </math>$, ..., $<math>p_{n})\, </math>$をできるだけ大きくする$<math>\{p_{i} \mid i \in N\}\, </math>$を求めると, 最適解は方程式 |
− | + | <math>sum_{i \in N}x^{-t_{i}} = 1\, </math> (6) | |
− | の正根を$x_{0}$とするとき, 次式のように与えられる. | + | の正根を$<math>x_{0}\, </math>$とするとき, 次式のように与えられる. |
− | + | <math>p_{i} = x_{0}^{-t_{i}}, i \in N \; \;\, </math> (7) | |
2007年7月12日 (木) 19:26時点における版
【ちいきかんそうごさようもでる (inter-region interaction model)】
いくつかの地域あるいは地点の集合が与えられたとき, それらの中の任意の2地域あるいは2地点間の"もの", たとえば物資, 人, 情報, 財の移動あるいは流れといったものを2地域間の相互作用としてモデルを用いて分析する方法が古くから数多く提起されている. これらのモデルは, 空間的に位置する2地域間の相互作用を分析するということから, 地域間相互作用モデルあるいは空間相互作用モデルと総称される. これらのなかで代表的なのがグラビティーモデル(重力モデルとも呼ばれる)あるいはエントロピーモデルである. グラビティーモデルはニュートンの万有引力の法則, エントロピーモデルはエントロピー最大化法則というように, いずれも重要な物理法則に基づき, それらを理論的背景としている. このことは社会現象を説明するのに, 物理現象を説明する物理法則が適用できることを意味する.
ニュートンの万有引力の法則がグラビティーモデルとして社会現象の分析に最初に応用されたのは1940年代である. 2つの都市の人口を$$, $$, そしてそれらの都市間の距離を$$とするとき, これらの都市間の道路, 鉄道あるいは航空機等による人口の流動量$$が, $$を比例定数として, 次式で与えられることが実証的に示された.
構文解析に失敗 (不明な関数「\hspace」): {\displaystyle f = K \frac{p_{1}p_{2}}{d_{12}^{2}} \hspace{1cm} K : \mbox{比例定数} \hspace{1cm}\, }
(1)
このような動きがその後の数学モデルによる社会事象のモデル分析あるいは意思決定といった分野における理論的, そして実証的な分析の発展にも大きな影響を及ぼしてきたということができる.
$$個の地域の集合を$$とするとき, グラビティーモデルの一般形は以下のように書くことができる. 地域$$から地域$$への移動量を$$, 地域$i$を出発地とする移動総量を$$, 地域$j$を到着地とする移動総量を$$, $$, $$両地域間の距離を$$とするとき, $$から$$への移動量$$と移動総量$$, $$の間に次の関係が成り立つと仮定する.
構文解析に失敗 (不明な関数「\hspace」): {\displaystyle f_{ij} = K \frac{p_{i}^{a}q_{j}^{b}}{d_{ij}^{c}} \hspace{1cm} i \in N, j \in N \hspace{1cm}\, }
(2)
式(2)のパラメタ$ $の推定は, 式の両辺の自然対数をとり
: 誤差項 (3)
に基いてデータ$$を用いて回帰分析を行なうのが一般的である.
エントロピーの概念は, 熱力学の分野においてあいまいさあるいは無秩序さを表すものとして用いられ, 熱力学第2法則としてすべての熱力学系においてはエントロピーは増加するものであって, しかもその平衡状態においてはエントロピー極大の状態が達成されるということを前提とする. いま$$個の相互に排反な事象$$, $$,..., $$があり, これらの事象がそれぞれ確率$$, $$, $$, $$の割合で実現するものとしよう. このとき確率分布$$ $$, $$, ..., $$$$のエントロピー$$は, $$として
(4)
のように与えられる. したがって一般に確率分布$$ $$, $$, ..., $$ $$が未知のとき, 式(4)で与えられるエントロピー$$, $$, ..., $$を最大にする$$, $$, ..., $$は$ $となり, すべての事象の実現確率$$ が等しいときにエントロピーは最大となり, $$となる. 一般の事象の実現に関しては常に何らかの情報があると考えられることから, 事象の実現確率はもはや等しくならないので, あいまいさを表すエントロピーは$$と比較して減少することになる. たとえばコストという1つの因子を考える. すなわち互いに素な整数の比$$, $, ..., $$に対して
(5)
をできるだけ小さく, そして(4)で与えられるエントロピー$$, $$, ..., $$をできるだけ大きくする$$を求めると, 最適解は方程式
(6)
の正根を$$とするとき, 次式のように与えられる.
(7)
このような問題は1因子情報エントロピーモデルと呼ばれる. より一般的な, いくつかの制約条件の下でエントロピーを最大にするような分布を求めるモデルは多因子情報エントロピーモデルと呼ばれ, 解法として反復尺度法がある.
計量地理学の分野において, 流動現象を説明するモデルとして1950年代以降注目されたのがグラビティーモデルである. グラビティーモデルは, 人口移動モデル, 物資流動モデル, 情報流動モデル, 購買行動モデル, 職住通勤モデル, 銘柄選択モデル, 等の基本となった. グラビティーモデルに基づく研究は永年にわたって蓄積されたが, それによりグラビティーモデルの問題点もまた数多く指摘されるようになった.問題点の一つは, グラビティーモデルでは推定された流動量行列の行と列の合計値が実測値の行と列の合計値に等しくならないという点である. このためグラビティーモデルはシミュレーションなど予測に関しては十分な威力を発揮できないといわれる. 計量地理学におけるエントロピー最大化モデルは, グラビティーモデルのこの欠点を補うために, それぞれの地域の発生量, 到着量のいずれかまたはその両方に制約を設け, その制約条件の下でエントロピーを最大にすることにより得られたモデルであり, グラビティーモデルの一種の発展型といえる. ポアソンモデルもグラビティーモデルの一種の改良型である.
参考文献
[1] 石川義孝, 『空間的相互作用モデル -その系譜と体系-』, 他人書房, 1988.
[2] 国沢清典, 『エントロピーモデル』, ORライブラリー14, 日科技連出版, 1975.