「《都市構造分析》」の版間の差分
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− | “都市構造”という用語は様々な面で用いられる. 都市を成り立たせる上で人間は主要な役割を担っており, 例えばどのような階層の人がどこに住んでいるかという点でも“構造”があるという言い方もされている. しかし, ここでの構造とは, 都市を形づくっている鉄道や道路, 建物等のフィジカルな構造をいうことにし, これを移動という面から分析する方法を以下に述べることにする. 大規模な建築や建築群は単なる建造物ではなく都市であるという言い方がされることが多い. 単に大規模であるという点についていえば, これは様々なものを収容できるという意味で面積が重要であろう. しかし都市とは単に人等が多いだけではなく, そこでは自由な活動の出現が保証されること, すなわちある地点から別な地点までの移動があまり抵抗なく行えることが重要である. そこでこの移動という観点から都市空間を見直すことにより, 人工物を都市として利用(移動)する上での空間の構造を分析しよう. まず最初に与えられた空間における距離の分布を求めることにする. これを言葉で表現するのは難しいが, これは与えられた空間のあらゆる2地点間の移動を前提とした距離の全体分布ということになる. 数式で表現すれば与えられた空間(建物群等)のすべての平面の任意の2地点を $ p_1,p_2 $ (ともにベクトル)とし, その距離を $ D(p_1,p_2) $ で表示すれば, 距離 $ r $ 以下の2地点のペアーの量 $ F(r) $ は | + | “都市構造”という用語は様々な面で用いられる. 都市を成り立たせる上で人間は主要な役割を担っており, 例えばどのような階層の人がどこに住んでいるかという点でも“構造”があるという言い方もされている. しかし, ここでの構造とは, 都市を形づくっている鉄道や道路, 建物等のフィジカルな構造をいうことにし, これを移動という面から分析する方法を以下に述べることにする. 大規模な建築や建築群は単なる建造物ではなく都市であるという言い方がされることが多い. 単に大規模であるという点についていえば, これは様々なものを収容できるという意味で面積が重要であろう. しかし都市とは単に人等が多いだけではなく, そこでは自由な活動の出現が保証されること, すなわちある地点から別な地点までの移動があまり抵抗なく行えることが重要である. そこでこの移動という観点から都市空間を見直すことにより, 人工物を都市として利用(移動)する上での空間の構造を分析しよう. まず最初に与えられた空間における距離の分布を求めることにする. これを言葉で表現するのは難しいが, これは与えられた空間のあらゆる2地点間の移動を前提とした距離の全体分布ということになる. 数式で表現すれば与えられた空間(建物群等)のすべての平面の任意の2地点を $ <math>p_1,p_2\, </math> $ (ともにベクトル)とし, その距離を $ <math>D(p_1,p_2)\, </math> $ で表示すれば, 距離 $ <math>r\, </math> $ 以下の2地点のペアーの量 $ <math>F(r)\, </math> $ は |
− | \begin{eqnarray} | + | <math>\begin{eqnarray} |
F(r)\ \ =\ \ \int \! \! \int_{D(p_1,p_2)<r}\mbox{d}p_1\mbox{d}p_2 | F(r)\ \ =\ \ \int \! \! \int_{D(p_1,p_2)<r}\mbox{d}p_1\mbox{d}p_2 | ||
\label{eqn:C-E-02+1} | \label{eqn:C-E-02+1} | ||
− | \end{eqnarray} | + | \end{eqnarray}\, </math> |
− | と表現できる. ここでいう「距離分布」とは上記 $ F(r) $ を $ r $ で微分した | + | と表現できる. ここでいう「距離分布」とは上記 $ <math>F(r)\, </math> $ を $ <math>r\, </math> $ で微分した |
− | \begin{eqnarray} | + | <math>\begin{eqnarray} |
f(r)\ \ =\ \ \frac{\mbox{d}F(r)}{\mbox{d}r} | f(r)\ \ =\ \ \frac{\mbox{d}F(r)}{\mbox{d}r} | ||
\label{eqn:C-E-02+2} | \label{eqn:C-E-02+2} | ||
− | \end{eqnarray} | + | \end{eqnarray}\, </math> |
− | をさすものとする. すなわちこれは距離が丁度 $ r $ の2地点ペアーの量を密度 (4次元量を距離で割ったもの)で表現したものということができる. 導出が簡単な半径 $ \alpha $ の円内でこの距離分布を求めると | + | をさすものとする. すなわちこれは距離が丁度 $ <math>r\, </math> $ の2地点ペアーの量を密度 (4次元量を距離で割ったもの)で表現したものということができる. 導出が簡単な半径 $ <math>\alpha\, </math> $ の円内でこの距離分布を求めると |
− | \begin{eqnarray} | + | <math>\begin{eqnarray} |
f(r) = 4\pi\alpha^2 r\arccos \frac{r}{2\alpha}-2\pi\alpha r^2\sqrt{1- | f(r) = 4\pi\alpha^2 r\arccos \frac{r}{2\alpha}-2\pi\alpha r^2\sqrt{1- | ||
(\frac{r}{2\alpha})^2} | (\frac{r}{2\alpha})^2} | ||
\label{eqn:C-E-02+3} | \label{eqn:C-E-02+3} | ||
− | \end{eqnarray} | + | \end{eqnarray}\, </math> |
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− | + | 0208-C-E-02+1-ff.gif | |
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− | \ | + | 図1: 距離分布 $ <math>f(r)\, </math> $ |
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+ | 今この距離分布 $ <math>f(r)\, </math> $ が求められ, これが図1のように表示されたとする. すると図で斜線で表された距離 $ <math>r\, </math> $ までの積分量が式(1)を示しており, これは距離 $ <math>r\, </math> $ 以内に移動できる2点のペアの累積量(平面 $ <math>\times\, </math> $ 平面の4次元量)となっている. 従ってこの距離分布 $ <math>f(r)\, </math> $ のグラフが左に寄っていればいるだけ, この空間は移動から見てコンパクトになっているということが分かるだろう. そして距離 $ <math>r\, </math> $ の最大値 $ <math>r_M\, </math> $ までの積分は, 与えられた空間のあらゆる2地点のペアの総量, すなわち総床面積の2乗に等しくなっている. 次にあらゆる2地点のペアの移動の重なりともいうべきものを考え, ここでは通過量分布と呼ぶことにするが, この量が多い地点では潜在的に実際の交通混雑も起こりやすいと考えられる. 数式で表現すれば任意の2点 $ <math>p_1,p_2\, </math> $ 間の平面上の移動(往復)を $ <math>P(p_1,p_2)\, </math> $ と表わすと, 地点 $ <math>x\, </math> $ を通る移動の総量は | ||
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− | + | <math>\begin{eqnarray} | |
− | \begin{eqnarray} | ||
G(x)\ \ =\ \ \int \! \! \int_{x\in P(p_1,p_2)}\mbox{d}p_1\mbox{d}p_2 | G(x)\ \ =\ \ \int \! \! \int_{x\in P(p_1,p_2)}\mbox{d}p_1\mbox{d}p_2 | ||
\label{eqn:C-E-02+4} | \label{eqn:C-E-02+4} | ||
− | \end{eqnarray} | + | \end{eqnarray}\, </math> |
− | と表わすことができ, これを「通過量分布」と呼ぶことにする. ただし, この式は $ p_1,p_2 $ が1次元上の点である場合で, これが二次元上の場合, $ G(x) $ は通過量の密度(3次元量)となる. これを式(3)と同じく半径 $ \alpha $ の円で求めると, 第2種の完全楕円積分 $ E $ を用いて厳密に | + | と表わすことができ, これを「通過量分布」と呼ぶことにする. ただし, この式は $ <math>p_1,p_2\, </math> $ が1次元上の点である場合で, これが二次元上の場合, $ <math>G(x) $\, </math> は通過量の密度(3次元量)となる. これを式(3)と同じく半径 $ <math>\alpha\, </math> $ の円で求めると, 第2種の完全楕円積分 $ <math>E\, </math> $ を用いて厳密に |
− | \begin{eqnarray} | + | <math>\begin{eqnarray} |
G(x)\ \ =\ \ 8\alpha(\alpha^2-h^2)E(h/\alpha) | G(x)\ \ =\ \ 8\alpha(\alpha^2-h^2)E(h/\alpha) | ||
\label{eqn:C-E-02+5} | \label{eqn:C-E-02+5} | ||
− | \end{eqnarray} | + | \end{eqnarray}\, </math> |
− | と表現され( $ h $ は中心からの距離)([2]), これを眺望すると図2のようになる. これら距離分布と通過量分布には関係があり, 距離の最大値を $ R $ , 対象領域を $ D $ とすると | + | と表現され( $ <math>h\, </math> $ は中心からの距離)([2]), これを眺望すると図2のようになる. これら距離分布と通過量分布には関係があり, 距離の最大値を $ <math>R\, </math> $ , 対象領域を $ <math>D\, </math> $ とすると |
− | \begin{eqnarray} | + | <math>\begin{eqnarray} |
\int_0 ^R rf(r) \mbox{d}r \ \ = \ \ \int_{x \in D} G(x) \mbox{d}x | \int_0 ^R rf(r) \mbox{d}r \ \ = \ \ \int_{x \in D} G(x) \mbox{d}x | ||
\label{eqn:basicrelation} | \label{eqn:basicrelation} | ||
− | \end{eqnarray} | + | \end{eqnarray}\, </math> |
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− | + | 0208-C-E-02+2.gif | |
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+ | 図2: 通過量分布 | ||
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2007年7月12日 (木) 18:45時点における版
【としこうぞうぶんせき (analysis of urban physical structure)】
“都市構造”という用語は様々な面で用いられる. 都市を成り立たせる上で人間は主要な役割を担っており, 例えばどのような階層の人がどこに住んでいるかという点でも“構造”があるという言い方もされている. しかし, ここでの構造とは, 都市を形づくっている鉄道や道路, 建物等のフィジカルな構造をいうことにし, これを移動という面から分析する方法を以下に述べることにする. 大規模な建築や建築群は単なる建造物ではなく都市であるという言い方がされることが多い. 単に大規模であるという点についていえば, これは様々なものを収容できるという意味で面積が重要であろう. しかし都市とは単に人等が多いだけではなく, そこでは自由な活動の出現が保証されること, すなわちある地点から別な地点までの移動があまり抵抗なく行えることが重要である. そこでこの移動という観点から都市空間を見直すことにより, 人工物を都市として利用(移動)する上での空間の構造を分析しよう. まず最初に与えられた空間における距離の分布を求めることにする. これを言葉で表現するのは難しいが, これは与えられた空間のあらゆる2地点間の移動を前提とした距離の全体分布ということになる. 数式で表現すれば与えられた空間(建物群等)のすべての平面の任意の2地点を $ $ (ともにベクトル)とし, その距離を $ $ で表示すれば, 距離 $ $ 以下の2地点のペアーの量 $ $ は
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{eqnarray}」): {\displaystyle \begin{eqnarray} F(r)\ \ =\ \ \int \! \! \int_{D(p_1,p_2)<r}\mbox{d}p_1\mbox{d}p_2 \label{eqn:C-E-02+1} \end{eqnarray}\, }
と表現できる. ここでいう「距離分布」とは上記 $ $ を $ $ で微分した
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{eqnarray}」): {\displaystyle \begin{eqnarray} f(r)\ \ =\ \ \frac{\mbox{d}F(r)}{\mbox{d}r} \label{eqn:C-E-02+2} \end{eqnarray}\, }
をさすものとする. すなわちこれは距離が丁度 $ $ の2地点ペアーの量を密度 (4次元量を距離で割ったもの)で表現したものということができる. 導出が簡単な半径 $ $ の円内でこの距離分布を求めると
構文解析に失敗 (MathML、ただし動作しない場合はSVGかPNGで代替(最新ブラウザーや補助ツールに推奨): サーバー「https://en.wikipedia.org/api/rest_v1/」から無効な応答 ("Math extension cannot connect to Restbase."):): {\displaystyle \begin{eqnarray} f(r) = 4\pi\alpha^2 r\arccos \frac{r}{2\alpha}-2\pi\alpha r^2\sqrt{1- (\frac{r}{2\alpha})^2} \label{eqn:C-E-02+3} \end{eqnarray}\, }
となり(例えば([1])), 半径を1としてこれを図示すると図1のようになる.
0208-C-E-02+1-ff.gif
図1: 距離分布 $ $
今この距離分布 $ $ が求められ, これが図1のように表示されたとする. すると図で斜線で表された距離 $ $ までの積分量が式(1)を示しており, これは距離 $ $ 以内に移動できる2点のペアの累積量(平面 $ $ 平面の4次元量)となっている. 従ってこの距離分布 $ $ のグラフが左に寄っていればいるだけ, この空間は移動から見てコンパクトになっているということが分かるだろう. そして距離 $ $ の最大値 $ $ までの積分は, 与えられた空間のあらゆる2地点のペアの総量, すなわち総床面積の2乗に等しくなっている. 次にあらゆる2地点のペアの移動の重なりともいうべきものを考え, ここでは通過量分布と呼ぶことにするが, この量が多い地点では潜在的に実際の交通混雑も起こりやすいと考えられる. 数式で表現すれば任意の2点 $ $ 間の平面上の移動(往復)を $ $ と表わすと, 地点 $ $ を通る移動の総量は
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{eqnarray}」): {\displaystyle \begin{eqnarray} G(x)\ \ =\ \ \int \! \! \int_{x\in P(p_1,p_2)}\mbox{d}p_1\mbox{d}p_2 \label{eqn:C-E-02+4} \end{eqnarray}\, }
と表わすことができ, これを「通過量分布」と呼ぶことにする. ただし, この式は $ $ が1次元上の点である場合で, これが二次元上の場合, $ は通過量の密度(3次元量)となる. これを式(3)と同じく半径 $ $ の円で求めると, 第2種の完全楕円積分 $ $ を用いて厳密に
構文解析に失敗 (不明な関数「\begin{eqnarray}」): {\displaystyle \begin{eqnarray} G(x)\ \ =\ \ 8\alpha(\alpha^2-h^2)E(h/\alpha) \label{eqn:C-E-02+5} \end{eqnarray}\, }
と表現され( $ $ は中心からの距離)([2]), これを眺望すると図2のようになる. これら距離分布と通過量分布には関係があり, 距離の最大値を $ $ , 対象領域を $ $ とすると
構文解析に失敗 (MathML、ただし動作しない場合はSVGかPNGで代替(最新ブラウザーや補助ツールに推奨): サーバー「https://en.wikipedia.org/api/rest_v1/」から無効な応答 ("Math extension cannot connect to Restbase."):): {\displaystyle \begin{eqnarray} \int_0 ^R rf(r) \mbox{d}r \ \ = \ \ \int_{x \in D} G(x) \mbox{d}x \label{eqn:basicrelation} \end{eqnarray}\, }
が成立している.
0208-C-E-02+2.gif
図2: 通過量分布
参考文献
[1] 谷村秀彦, 腰塚武志, 他, 『都市計画数理』, 朝倉書店, 1986.
[2] 大津晶, 腰塚武志, 「都市域の交通集中に関する数理的分析」, 日本都市計画学会学術研究論文集32号(1997), 133-138.