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'''【きせつちょうせいほう (seasonal adjustment)】''' == 概要 == 季節調整法とは, 時系列データ(月次データ・四半期データ)の変動を趨勢循環変動, 季節変動, 不規則変動の3成分に分解・推計し, 季節変動成分を元の系列から除去した季節調整済系列(趨勢循環・不規則変動の推計値)を求める方法をいう. 経済時系列を例にとっていうと, 季節調整は, 天候や社会慣習などの影響により毎年季節的に繰り返される変動を経済データから除去することによって, 景気の転換点等経済の基調的な動向を的確に把握するために行われる. == 詳説 == [[季節調整法]]とは, 時系列データ(月次データ・四半期データ)の変動を趨勢循環変動, 季節変動, 不規則変動の3成分に分解し, 趨勢循環変動と不規則変動を表した季節調整済系列(以下, 「季調済系列」と略す)を推計する方法をいう [1]. 経済時系列を例にとっていうと, 季節調整は, 天候や社会慣習などの影響により毎年季節的に繰り返される変動をデータから除去することによって, 景気の転換点など経済の基調的な動向を的確に把握するために行われる. 実際の季節調整においては, 原系列(<math>Y_t\, </math>)と, 趨勢循環変動(<math>TC_t\, </math>), 季節変動(<math>S_t\, </math>), 不規則変動(<math>I_t\, </math>)の3要素の関係は, 次の乗法型か加法型が仮定される(<math>t\, </math>は時点をあらわす). :乗法型:<math>Y_{t}=TC_{t} \cdot S_{t} \cdot I_{t}, \, </math> 加法型:<math>Y_{t}=TC_{t}+ S_{t}+ I_{t}\, </math> 季節調整を上記モデルに沿って解釈すれば, 原系列<math>Y_t\, </math>から季節変動<math>S_t\, </math>を除去し, 乗法型であれば<math>TC_{t} \cdot I_{t},\, </math> 加法型であれば<math>TC_{t}+ I_{t}\, </math>を抽出推計する. 季節調整法の伝統的な手法としては, [[移動平均法]]と呼ばれるものがあり, その代表格が, 米国商務省が開発した[[センサス局法]]X-11である. X-11の計算アルゴリズムはかなり複雑であるが, そのベースは「原系列の一年分の移動平均をとれば, 一年周期の季節変動が除去される」という単純な移動平均の発想に基づいている. X-11は世界各国の統計機関で利用されるなど実用面での重みがある一方で, 批判もまた少なくない. 批判は, パフォーマンス面からの批判と統計理論面からの批判に大別される [2][3]. まず, パフォーマンス面からの批判としては, X-11による季節調整の不安定性の問題がある. これは, 新規データの追加により季調済系列が過去に遡って大幅に改定されることを指すが, 足元の景気の動きをみる際には, 直近部分の季調済系列が重要な判断材料となるだけに, 不安定性は重要な問題である. こうした不安定性の原因としては, 1) 時系列の末端部分では, 新規データの追加に伴い移動平均のフィルターが変化する(後方移動平均→中心移動平均), 2) 異常値や曜日変動などが原系列に混入している場合には, 移動平均によって季節変動を適切に抽出することが困難である, ことが挙げられる. 次に, 統計理論面からの批判としては, センサス局法が, 時系列の各変動成分に対して明確な確率モデルを仮定することなく, 単に移動平均を繰り返しているに過ぎないため, 得られた季調済系列の統計理論的な性質が不明瞭であるほか, 移動平均項数の設定も恣意的であるという問題が挙げられる. こうしたX-11の2つの問題を背景に, 新たな季節調整法が開発されている. X-11のパフォーマンス上の問題(季節調整の不安定性など)を改善するために, センサス局によって新たに開発されたのが, X-12-ARIMAである. また, 統計理論上の問題を解決するために, 移動平均法とは全く別のアプローチから, 多くの統計学者らによって開発されてきたのが, [[モデル型調整法]]である. センサス局法の最新バージョンX-12-ARIMAの特徴は, 季節調整の事前処理として, REGARIMAと呼ばれる時系列モデルの情報を用いることにある [4] [5]. その開発思想は, 前記のX-11による季節調整の不安定性の原因をREGARIMAによって取り除こうというものである. つまり, X-12-ARIMAでは, REGARIMAの事前調整によって, 原系列から異常値や曜日変動等を推計・除去するとともに, 原系列の予測値を推計した上で, この予測値と実際の原系列をつなげた系列に対して移動平均を行うことにより, 系列末端部分においても後方移動平均ではなく中心移動平均を用いた季節変動の推計を可能にした. 一方, モデル型調整法は, 現実のデータがどのような確率モデルから生成されているのかを明確に仮定することによって, 季節調整の手続きを透明にし, かつ推計される季調済系列の統計理論的な性質を明瞭にすることを目的としたものである. モデル型調整法は, 各変動成分の確率モデルの仮定次第で様々なバリエーションをとりうるが, 主な手法としては, シグナル抽出法 [6] [7] や状態空間モデルによる季節調整 [8] [9] などが挙げられる. 例えば, 状態空間モデルは, 時系列の各変動成分を確率差分方程式の形で捉えることによってモデル全体を状態空間表現で規定し, 各変動成分の形状やノイズ分布等について, 汎用性を持たせた季節調整法である. ノイズ分布に関しては, 一般的には, 正規分布(ガウス分布)を仮定することが多いが, 非ガウス分布を仮定して, 時系列の異常値や構造変化をうまく処理するような工夫も最近ではされている [10]. ---- '''参考文献''' [1] 日本オペレーションズ・リサーチ学会, 「特集 季節変動のマネージメント」, 『オペレーションズ・リサーチ』, '''43''' (1998), 420-441. [2] 統計数理研究所, 「特集 季節調整法」, 『統計数理』, '''45''' (1997), 167-357. [3] 木村武, 「季節調整法の評価に関する実証分析」, 『日本統計学会誌』, '''26''' (1996), 269-286. [4] 木村武, 「最新移動平均型季節調整法X-12-ARIMAについて」『金融研究』, '''15''' (1996), 95-150. [5] D. F. Findley, B. C. Monsell, W. R. Bell, M. C. Otto and B. Chen, "New Capabilities and Methods of the X-12-ARIMA Seasonal Adjustment Program," ''Journal of Business and Economic Statistics'', '''16''' (1998), 127-177. [6] W. R. Bell and S. C. Hillmer, "Issues Involved with the Seasonal Adjustment of Economic Time Series," ''Journal of Business and Economic Statistics'', '''2''' (1984), 291-320. [7] J. P. Burman, "Seasonal Adjustment by Signal Extraction," ''Journal of the Royal Statistical Society'', Series A, '''143''' (1980), 321-337. [8] 北川源四郎, 「時系列の分解-プログラムDECOMPの紹介」, 『統計数理』, '''34''' (1986), 255-271. [9] G. Kitagawa and W. Gersch, "A Smoothness Priors - State Space Modeling of Time Series with Trend and Seasonality," ''Journal of the American Statistical Association'', '''79''' (1984), 378-389. [10] G. Kitagawa, "Non-Gaussian State Space Modeling of Nonstationary Time Series," ''Journal of the American Statistical Association'', '''82''' (1987), 1032-1041. [[category:予測|きせつちょうせいほう]]
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