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'''【えーえいちぴーのしょもんだい (difficulties in AHP) 】''' AHP はその方法論としての理解のしやすさ, 使いやすさから多くのORワーカーに親しまれ, 数多くの多目的評価問題や多目的意思決定問題に適用されてきた. そのいくつかの特長を列挙するとつぎのようになる [1]. 1) 複数の代替案を評価するのに, 一度に全代替案を評価するのではなく, 2つの代替案に対する一対比較の繰り返しによる相対比較に基づいて行う. 2) 一対比較の情報は比較行列として与えられるが, この行列の最大固有値に対する固有ベクトルが統合評価値を与える. 固有ベクトルはスカラー倍が任意であることから, 成分の和が1となるように正規化される. 3) 評価項目が複数ある場合, 評価項目間の重要度を一対比較によって求め, 各評価項目に対する代替案の重要度を評価項目ごとの一対比較によって求め, 階層構造のもとで各代替案の統合評価を行う. いま, 代替案の数が<math>n\, </math>, 評価項目の数が<math>m\, </math>とすると, 一対比較の総数は <center><math>{}_n{\mbox{C}}_2\times m+{}_m{\mbox{C}}_2=mn(n-1)/2+m(m-1)/2\, </math></center> となり, AHP多数代替案評価問題と呼ばれる困難な問題に遭遇する. すなわち<math>n\, </math>や<math>m\, </math>の値が大きくなると, 一対比較の総数が<math>n\, </math>や<math>m\, </math>の2乗のオーダーで増加するために大変な手間がかかる. また, 代替案の一対比較あるいは評価項目の一対比較において, 一対比較のデータが全部そろっていなくて, ある対に対して欠落する場合がしばしば起こる. これをAHP不完全情報問題という. 不完全情報の場合に対して欠落部を補う方法としてHarker (Takeda)法 [2, 3] よび二段解法 [1] が開発されている. ここでは [1] に従ってHarker法 [2] の概略を示す. 不完全情報の一対比較行列が与えられたとする. このとき 1) 欠落した要素を0とおく. 2) 対角要素にはその行の欠落個所の個数に1を加えた値をおく. このようにして得られた行列の最大固有値に対する固有ベクトルを求めると, 欠落した<math>(i, j)\, </math>要素には<math>w_i / w_j\, </math>をおいた一対比較行列の最大固有値に対する固有ベクトルを求めた結果と等価になる. ただし, <math>w_i\, </math>は対象<math>i(i=1,2,\cdots,n\;\;{\mbox{or}}\;\;m)\, </math>の評価値 (ウェイト), すなわち固有ベクトルの第<math>i\, </math>要素を表す. 完全情報のデータを得るには大変な手間がかかる. そこで, むしろ不完全情報の解析を積極的に使おうという考えが起こる. このとき, 一対比較全体の中からどの対を選んで比較すれば効率的かがデザイン問題として議論されている [1]. AHPによって複数の代替案を評価し, さらにそこへ新たな代替案が付加されたり, すでに存在する代替案が削除されることによって他の代替案の選好度合が変化し, 場合によっては選好順位が逆転してしまう現象をAHP順位逆転現象という. SaatyのAHPでは, この現象に対する意味付けや理由付けができなかったために, 逆転現象はAHPの矛盾であるとみなされ, どのような場合にも逆転が起きないような工夫がなされてきた [4, 5] . しかし評価者あるいは意思決定者の選好構造の変化は実際の意思決定過程においても日常的なことと考え, 逆転現象を矛盾ととらえるのではなく, 非合理的な逆転現象は排除し, 合理的な逆転現象は適切に表現できるAHPが提案されている [6]. そこでは, それぞれの代替案の満足度を表現するものとしての選好特性, 意思決定者を取り巻く状況を評価する状況特性という2つの概念を導入し, 両者を統合することによって全体を評価している. Saaty のAHPにおいては, 一対比較によって求められた代替案の評価値(ウェイト)の和が1になるような正規化を行い, さらに評価項目間のウェイトの和が1となる正規化行い, これらを階層的に結合することが不合理な選好順位逆転現象の原因として指摘されていた. これを避ける方法として, [6] では各評価基準のもとでの希求水準を尋ね, すべての評価基準が希求水準にあるような仮想的代替案を代替案集合の中に加えて一対比較を行い, 希求水準における評価値(ウェイト)を1とする正規化によって評価値を求めている. これにより, 不合理な選好順位逆転現象を避けるとともに, 評価者の選好構造の変化を希求水準の変化によって表現することにより選好順位逆転現象の整合性を表現している. 最近 Barzilai [7] はAHPが効用関数(価値関数)の分解表現の一つとしては不適切であることを指摘し, 選好関数モデリング(Preference Function Modeling, PFM)の理論と方法を提案している. ---- '''参考文献''' [1] 高橋磐郎,「AHPからANPへの諸問題 I~VI」, 『オペレーションズ・リサーチ』, '''43''' (1998), No. 1~6. [2] P. T. Harker, "Incomplete Pairwise Comparisons in the Analytic Hierarchy Processes," ''Mathematical Modelling'', '''9''' (1987), 838-848. [3] 竹田英二,「不完全一対比較行列におけるAHPウェイトの計算法」,『オペレーションズ・リサーチ』, '''34''' (1989), 169-172. [4] V. Belton and T. Gear, "On a Shortcoming of Saaty's Method of Analytic Hierarchies," ''OMEGA The International Journal of Management Science'', '''11''' (1983), 228-236. [5] J. S. Dyer, "Remarks on the Analytic Hierarchy Process," ''Management Science'', '''36''' (1990), 249-258. [6] 田村坦之, 高橋 理, 鳩野逸生, 馬野元秀, 「階層化意思決定法(AHP)の記述的モデルの提案と選好順位逆転現象の整合的解釈」, ''Journal of the Operations Research Society of Japan'', '''41''' (1998), 214-228. [7] J. Barzilai, "On the Decomposition of Value Functions," ''Operations Research Letters'', '''22''' (1998), 159-170. [[category:AHP(階層的意思決定法)|えいえいちぴーのしょもんだい]]
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