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'''【いしけっていしえんしすてむ (decision support system)】''' 経営組織におけるコンピュータの利用は, 1950年代の受注処理や給与計算といった, いわゆるトランザクション処理を行うEDP(電子データ処理)からはじまり, 1960年代には, 意思決定に必要な情報を定期的にマネージャに報告することを目的とする, MIS([[経営情報システム]])の考え方へと発展した. MISの基本的な考え方は, 意思決定者が情報を処理するものに意思決定に必要な情報がどのようなものであるかを伝えて報告を依頼し, 情報処理者はそれにしたがって, 定期的に報告を行うというものであった. しかし, 意思決定者は予めどのような情報が意思決定に必要であるかについて十分に知ってはおらず, また, 静的な情報よりもやりとりの中で動的に生み出される情報が重要であるということなどから, このような形式ではよりよい意思決定にはつながらないことが明らかになってきた. 問題を引き起こしているのは, 意思決定と情報処理の分離である. そこで, [[意思決定過程]](decision making process)において意思決定者が自ら情報処理を行って, 意思決定に必要な情報を動的に獲得するという考えが生まれた. これが[[意思決定支援システム]](DSS, decision support system)の始まりである. DSSは歴史的には, 1967年のスコットモートンによる博士論文とそれが基礎となった著書Management Decision Systems[1]に逆のぼることができるとされている. そこでは, "DSS"という用語ではなく, "MDS(Management Decision Systems)"という用語が用いられていた. MDSは, 「コンピュータを用いた対話的なシステムで, [[非構造化問題]]を解決するために, 意思決定者がデータやモデルを利用する手助けをするもの(interactive computer-based systems, which helpsdecision makers utilize data and models to solve unstructuredproblems)」と定義されている. この定義には, 後にDSSの際立った特徴となる, いくつかのキーワードが出てきている. それらは, 「対話的(interactive)」, 「データとモデルの利用」, そして, 「非構造化(unstructured)」という概念である. ここで, 「非構造化」問題とは, 変数を言葉でしか表現できず, 目標があいまいで, 解を求める手続きがはっきりしない問題のことを指している. スコットモートンがManagement Decision Systemsを出版したのと同じ1971年に, 彼はゴーリーと"A Framework for Management Information Systems"という論文を発表した. この論文の中で, 彼らは「[[構造化問題]]/[[非構造化問題]]」というサイモンに依拠する分類と, 「戦略的計画(strategic planning)/マネジメントコントロール(managementcontrol)/オペレーショナルコントロール(operational control)」という, アンソニーによる経営活動における管理階層にもとづく分類を結び付けて, DSSの概念を明らかにした. アンソニーの分類において, 「戦略的計画」とは, 「資源配分に関わる長期的な目標と政策についてのもの」であり, 「マネジメントコントロール」は, 「組織目標を達成するために資源を獲得し, 有効利用することについてのもの」であり, 「オペレーショナルコントロール」は, 「タスクを効率的で, しかも効果的に実施することに関するもの」であるとされている. <center><table><tr><td align=center>[[画像:0216-C-A-04-kiso-zu1.png|center|図1: アンソニーの管理階層]]</td></tr> <td align=center>図1: アンソニーの管理階層</td></table></center> ゴーリーとスコットモートンは, サイモンによる問題に対する2分類に, さらに中間的な問題として, 「半構造化(semi-structured)」問題も考え, 問題を3つに分類した. このような問題に対する分類を, アンソニーによる管理階層の3分類とは独立な軸であると考えると, 表1にある<math>3\times 3=9 \, </math>のセルができる. 表1において, ゴーリーとスコットモートンは, 半構造化問題, 非構造化問題に対しては, 従来のMISや経営科学的なアプローチは有効ではなく, 利用者を支援する情報システム, すなわちDSSが有用であると主張した. <center> <caption>表1: ゴーリーとスコットモートンによるDSSの枠組み</caption> <table width="700" border="1" cellspacing="2" cellpadding="0"> <tr> <td rowspan="2" colspan="2"><br></td> <td colspan="3" align="center" width="548">管理のタイプ</td> </tr> <tr> <td align="center" width="180">オペレーショナル<br> コントロール</td> <td align="center" width="180">マネジメント<br> コントロール</td> <td align="center" width="180">戦略的計画</td> </tr> <tr> <td rowspan="3" align="center">意<br>思<br>の<br>決<br>定<br>の<br>タ<br>イ<br>プ </td> <td align="center" width="100">構造的</td> <td align="center" width="180">会計<br> 売掛金処理<br> 受注処理</td> <td align="center" width="180">予算分析<br> 短期予測<br> 人事報告など </td> <td align="center" width="180">財務, 投資<br> 倉庫立地<br> 流通システム</td> </tr> <tr> <td align="center" width="100">半構造的</td> <td align="center" width="180">生産スケジューリング<br> 在庫管理<br> </td> <td align="center" width="180">信用評価, 予算編成<br> プラント配置, プロジェクト<br> スケジューリングなど</td> <td align="center" width="180">新プラントの設置<br> M&A, 新製品計画<br> QA計画など</td> </tr> <tr> <td align="center" width="100">非構造的</td> <td align="center" width="180">ソフトウェアの購入<br> 貸付承認など</td> <td align="center" width="180">交渉<br> ハードウェアの購入<br> 陳情活動など</td> <td align="center" width="180">R&D計画<br> 新技術開発など</td> </tr> </table></center> DSSの分類も様々な観点から行なわれている. オルターは, システムの出力と意思決定との結びつきの強さという観点から, 「データ指向のDSS」と「モデル指向のDSS」に分類している. また, ハッカソーンとキーンは, DSSの支援の対象とする利用者を基準として, 個人(personal), グループ(group), 組織(organization)の3つに分類している[2]. 一方, スプレーグとカールソンは, DSSに関わる技術レベルに関して, DSSを次の3つに分類している[3]. すなわち, 1) DSSツール:グラフィックス, 問合せシステム, 乱数発生器, スプレッドシート, プログラミング言語, データベースシステム, エディタなどの, DSSを構築するために必要とする基本的な機能単位を実現しているソフトウェア 2) DSSジェネレータ:IFPS(対話型財務計画支援システム)に代表される, ある問題についてのデータやモデルを登録すれば, DSSとして利用できるような, DSS構築環境. 表計算ソフトもこれに分類されると考えられる. 3) 特定DSS:ある特定の問題における[[意思決定支援]](decision support)を行うために, データやモデルがすでに登録されたDSS環境. である. DSSは, 図2にあるように, 次の3つの構成要素からなるとするのが一般的である[4]. <center><table><tr><td align=center>[[画像:0216-C-A-04-kiso-zu2.png|center|図2: DSSの構造]]</td></tr> <td align=center>図2: DSSの構造</td></table></center> 1) データ管理:状況に関連するデータを持ち, [[データベース管理]] (databasemanagement)システムと呼ばれるソフトウェアによって管理されるデータベースを含むもの 2) モデル管理:システムの分析機能を提供する, 財務, 統計, 経営科学などの定量的モデルを含むソフトウェアパッケージとそれに関するソフトウェアの管理を行なうもの. モデル管理は[[モデルベース管理]] (model-base management)システムにより行う. 3) コミュニケーション([[対話管理]]):利用者がDSSとコミュニケートし, 命令を与えるための, 利用者とシステムの間の仲介を行なうもの. 各々の管理システムには, 管理の対象となる, データやモデルの群があり, 各々データベース, モデルベースと読んでいる. 実現形態でいうと, これらは, 通常補助記憶装置内でファイル群として存在する. そこで, 図2では円柱で表示してある. 各々のサブシステムの詳細については, 文献[5] などを参照されたい. このような基本構造の下で, たとえば, シミュレーションモデルを用いて企業活動の予測を行ったり, 数理計画法のソルバーを用いて最適解を求めたり, 統計分析のソフトウェアを用いて, 平均値, 分散, 標準偏差, 共分散などの統計量を求めることができる. これらは, モデルベースにあるモデルを用いることによって実現される. また, 「what-if分析」, 「感度分析」, 「目標追求分析」は, 変数の値を様々にかえながら, シミュレーションを行うことによって実現される. これらの変数の値は, もちろんデータベースに貯えられている. 計算の結果を, 表やグラフによって表示するのは, 対話管理システムの役割である. この他にも, 利用者の意図をシステムに反映させることと, システムの出力を利用者の理解しやすい形式で提示することが, 対話管理システムに求められる機能である. DSS研究は, 1980年代はじめまでの概念についての議論やアーキテクチャの提案の時代を経て, 実装が進み, その後コンピュータ技術の発展に伴い, データウェアハウスと呼ばれる, データを格納し, 問合せに対応する中央集権化された構造を経て, OLAP(On-Line Analytical Processing, オンライン分析による処理)の発展につながっている. OLAPでは, データをさまざまな方向から“切り刻む”ことが可能である. たとえば, 多次元のデータの一部分を取り出すダイスや, ある側面を切り出すスライス, ある次元のデータをさらに細分化して次元を拡張するドリルダウンなどがある[6]. ---- '''参考文献''' [1] M.S. Scott-Morton, ''Management Decision Systems: Computer-Based Supportfor Decision Making'', Cambridge, Mass, Division of Research, HarvardUniv., 1971. [2] R.D. Hackarthorn and P.G.W. Keen, "Organizational Strategies forPersonal Computing in Decision Support Systems," ''MIS Quarterly'', September, 1981. [3] R.H. Sprague and E.D. Carlson, ''Building Effective Decision SupportSystems'', Englewood Cliffs, N.J., Prentice-Hall, 1982. [4] E. Turban, ''Decision Support and Expert Systems (2nd ed.),'' Macmillan, (1990). [5] 飯島淳一, 『意思決定支援システムとエキスパートシステム』, 日科技連出版社, 1993. [6] George Chang, Marcus J.Healey, James A.M.McHugh, Jason T.L.Wang, Mining the World Wide Web, Kluwer Academic Press, 2001, (武田善行, 梅村恭司, 藤井敦 訳, 『Webマイニング』, 共立出版, 2004.) [[category:システム分析・意思決定支援・特許|いしけっていしえんしすてむ]]
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