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'''【げーむりろんのおうよう (applications of game theory to OR) 】''' [[ゲーム理論]]の応用分野は経済学・社会学・政治学・生物学と多岐にわたっているが, 現在もっとも応用が進んでいるのは経済学であると言ってよい. 多くの経済現象を個人の効用最大化に還元して説明しようとする現在の経済理論の方法論は, まさに非協力ゲームと共通している. このため経済学において, 寡占・独占の理論・情報経済学・環境経済学・国際経済学など多くの分野の基礎理論が[[非協力ゲーム理論]]によって説明されている. 社会・経済現象の描写や叙述などゲーム理論の説明的な面をゲーム理論の応用の中心と考える経済学に比して, 現実の問題をモデル化し意思決定者に対して問題解決のための有益な情報を提供することが目的であるオペレーションズリサーチでは, 「良い解を薦める」というゲーム理論の規範的な面も重視されている. したがって, 規範的な面を持つ[[協力ゲーム理論]]もORでは広く応用されている. 以下, 経済学よりもORの文献等でよく見られるゲーム理論の応用を中心として述べる. ゲーム理論の応用としてかなり早い時期に研究が進められたものに[[市場ゲーム]] (market game) がある. 市場ゲームとは各個人が初期財としていくつかの財を保有し, それぞれが財から得られる効用の最大化を求めて財の交換を行うという交換経済を表現した協力ゲームである. もっとも典型的な市場ゲームは細かく分けることのできる分割財の取引を扱う譲渡可能効用を持つ市場ゲームで, この時の[[特性関数 (ゲーム理論の)|特性関数]]の値は, 提携に属する各個人の利得の和が最大になるように財が配分されたときの利得の和の値である. (譲渡可能効用を持たない市場ゲームの特性関数は各提携において実現可能な財の配分の集合である. ) 効用関数における通常の仮定のもとで, このゲームには[[コア]]が存在する. 市場ゲームは財に対する価格を導入することで, 理論経済学における交換経済モデルとして表現できる. この時, 参加する個人を増加(正確には初期保有財など特性が同じである個人を2倍, 3倍, . . . と複製)させたときに, [[競争均衡]] (competitive equilibrium) の配分の集合に収束することが知られている. これを[[極限定理 (ゲームのコアの)|極限定理]] (limit theorem of core) と呼ぶ. 市場ゲームには家などのように分割できない非分割財を扱った非分割財の交換市場ゲームや, 売り手と買い手が分かれている[[割当て市場ゲーム]] (assignment game) などがある. 譲渡可能効用を持つ市場ゲームには[[線形生産ゲーム]] (linear production game) と呼ばれるものがある. [3] を参照. これは各プレイヤーを生産者と考え, 各提携は最大限それに属するプレイヤーの持つ財の合計まで利用できると考えて, 線形計画法の生産計画問題で得られる最適値をその提携の特性関数の値と考えた市場ゲームである. 線形生産ゲームでは全員提携に関する線形計画問題の双対問題の解がコアとなる. また線形生産ゲームでは, プレイヤーの有限の複製でコアは競争均衡の配分と一致する. 市場ゲームについて詳しくは [4] を参照. [[費用分担ゲーム]] (cost allocation game) は, 何人かのプレイヤーが共同事業を行う場合に, 各プレイヤーがどれだけの費用を分担すべきかを考えるゲームである. 各提携の特性関数の値を, 各提携が単独で事業を行った場合の費用と考える場合と, 各プレイヤーが単独で事業を行った場合の和と提携で行った場合との費用の差として考える場合(節約ゲーム)とがある. 水資源共同開発における費用分担, 大学内での電話料金の分担, 飛行場の滑走路補修費用の機種別分担などの問題を, 仁やシャープレイ値を用いて分析した例が知られている. 費用分担ゲームの中でも, 各プレイヤーがネットワーク上のグラフ上の点に存在し, グラフ上に費用最小木を張る時に, 各プレイヤーがいかに費用を配分するかの費用分担ゲームは最小木ゲームと呼ばれる. また同様に巡回セールスマン問題で各プレイヤーがグラフ上の点に位置すると考えたときに, 費用をいかに分担するかというゲームは巡回セールスマンゲームと呼ばれる. これらORで良く知られている最適化手法をゲームの状況に拡大した理論は多くあり, 他にも[[探索ゲーム]]や最少費用流ゲームなどが知られている. 線形生産ゲームもその1 つである. [[投票ゲーム]] (voting game) は, 議案の可決・否決や候補者の当選・落選など, 「2 つの結果に対する投票」を表現した協力ゲームである. プレイヤーの提携が, 結果を左右することができる場合にその提携を勝利提携と呼び, そうでないものを敗北提携と呼ぶ. 投票ゲームは, 勝利提携に1 , 敗北提携に0 を与えるような[[提携形ゲーム]]としても表現できる. 投票ゲームにおいて投票者の持つパワーを表現する指数を[[パワー指数]]と呼ぶ. シャープレイ・シュービック指数やバンザフ指数などの指数が考えられている. [2] を参照. [[仲裁ゲーム]] (arbitration game) は, 報酬契約などの2 人の交渉に仲裁者が存在しているゲームである. まず仲裁者が双方からどのような要求を出させ, どの場合にどのように仲裁するかを決める. 交渉する2人は要求を提出し, 決められたルールに従って利得の受け取り, 支払いを行う. [5] を参照. [[入札ゲーム]] (auction game) は, 各プレイヤーが入札対象に持つ事前価値について, その確率分布の情報が事前にプレイヤー間で共有されている状況で, 自分の事後の期待利益が最大になるように入札を行うような非協力ゲームである. プレイヤーの持つ価値がプレイヤーごとに独立で, かつ各プレイヤーはリスク中立である, という仮定をおいた場合には, 最も代表的な入札方法である最高の価格を付けたプレイヤーがその価格で落札するファーストプライス競売と, 最高の価格を付けたプレイヤーが2 番目に高い価格で落札するセカンドプライス競売が, 主催者にもたらす期待利益は等価であることが知られている. これを利潤等価定理という. [1] を参照. このようにゲーム理論の適用例は多岐にわたっているが, 最近では, スポーツへの適用も盛んになってきている. たとえば, サッカーのペナルティー・キックにおけるキッカーとゴールキーパーの実際の行動がゲーム理論の均衡概念による理論値ときわめて類似しているという興味ある結果も報告されている [1]. ゲーム理論の応用例については, 本稿中に挙げたもののほか, [2], [3], [4], [5], [6], [9] などを参照していただきたい. ---- '''参考文献''' [1] P. A. Chiappori, S. Levitt and T. Groseclose, "Testing Mixed-Strategy Equilibria When Playe.rs are Heterogeneous: The Case of Penalty Kicks in Soccer", ''American Economic Review'', '''92''' (2002), 1138-1151. [2] A. Dixit and B. Nalebuff, ''Thinking Strategically'', N. W. Norton, 1991. 菅野隆, 嶋津祐一, 『戦略的思考とは何か』, TBSブリタニカ, 1991. [3] 船木由喜彦, 『エコノミックゲームセオリー』, サイエンス社, 2001. [4] 今井晴雄, 岡田章, 『ゲーム理論の新展開』, 勁草書房, 2002. [5] 今井晴雄, 岡田章, 『ゲーム理論の応用』, 勁草書房, 2005. [6] 梶井厚志, 松井彰彦, 『ミクロ経済学 戦略的アプローチ』, 日本評論社, 2000. [7] P. Milgrom and R. J. Weber, "The Theory of Auctions and Competitive Bidding", ''Econometrica'', '''50''', (1982), 1089-1122. [8] 武藤滋夫, 小野理恵, 「投票システムのゲーム分析」, 日科技連出版社, 1998. [9] 中山幹夫, 武藤滋夫, 船木由喜彦, 『ゲーム理論で解く』, 有斐閣, 2000. [10] G. Owen, "On the Core of Linear Production Games", ''Mathematical Programming'', '''9''', (1975), 358-370. [11] 鈴木光男, 武藤滋夫, 『協力ゲームの理論』, 東京大学出版会, 1985. [12] D. -Z. Zeng, S. Nakamura and T. Ibaraki, "Double-offer Arbitration," ''Mathematical Social Sciences'', '''31''', (1996), 147-170. [[category:ゲーム理論|げーむりろんのおうよう]]
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