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'''【りあるおぷしょん (real options)】''' リアルオプションは,オプション価格理論を応用し,不確実性のもとでの意思決定問 題において企業が有する経営上の柔軟性をオプションになぞらえて分析する考え方,い わば「金融」(financial)に対する「実物」(real)の世界のオプシヨンを意味する。 たとえば,投資プロジエクトの意思決定を行おうとしている企業を考える。投資する と,企業はそれ以降ある期間にわたつてキャッシュフロー(経費差引後)を得ることを期 待する。この期待将来キャッシュフローの割引現在価値であるプロジェクト価値は経済 情勢などの影響のため刻々と変化していく一方,投資コストは一定とする。ここでこの 企業が投資プロジェクトの実行を将来に延期する柔軟性をもっているとすると,企業はプ ロジェクト価値が高いときに投資することで利得を大きくすることができる。プロジェ クト価値を原資産価格,投資コストを行使価格になぞらえると,このプロジェクトを実 行することは,投資コストを支払ってプロジェクト価値を獲得するという意味で,コー ルオプシヨンを行使して原資産を購入することと似ており,将来プロジエクトに投資で きる機会はオプションのアナロジーとして評価できる.同様に,将来の情勢変化に応じ て追加投資を行い業容を拡大したり,逆に設備を売却して事業を縮小あるいは撤退した りする柔軟性も,プロジェクトに内在するオプションとみることができる。 リアルオプションの考え方は,企業の投資意思決定問題において,NPV(Net Present Value, 正味現在価値)法への修正としてとらえられている。NPV法においては,将来の 期待プロジェクト価値は単一のシナリオに基づくという意味で決定論的であり,企業も 当初の意思決定を維持し続ける硬直的な存在であると仮定されている。しかし現実の企 業は,予期せぬ状況の変化に応じてその方針を柔軟に見直すことで,将来の上方ポテン シャルを伸ばし,下方リスクを避けようとする。そのような柔軟性にはリアルオプショ ンの価値が含まれている。これを考慮に入れたリアルオブション法のもとでは,投資機 会の価値はそのNPVにリアルオプションの価値を加えたものとなり,NPVが負のプロ ジェクトであっても,リアルオプション価値を加えた修正NPVが正であれば,適切な時 機到来を条件として採択すべき,との方針が導かれる.リアルオプションをもつ企業に とっては,将来の不確実性は排除すべき「敵」ではなく,利用すべき「味方」となるの である。 ■ 評価手法 上記のように, リアルオプションというよび方は金融オプションとのアナロジーから 名づけられたものであり,その評価手法は基本的には金融オプションと共通である.そ れは,市場におけるリスクの価格付けに基づく期待収益率の差という要素を除けば,従 来から企業の意思決定問題に用いられてきた動的計画法と酷似した評価式を導く. ▼ 連続時間モデル 一般的な金融オプションの評価モデルには,原資産の連続的な取引を前提とするもの やリスク中立測度のもとでの期待値をとるものなどがあるが,それらを含め多くの場合, 市場の完備性(あらゆる資産の価値過程が他の資産で複製できること)を前提に,オプ ション価値は保有者のリスク回避度に依存せず,無リスク金利を割引率として用いるこ とができる。リアルオプションの評価においても,この手法は基本的に有効である。 株式などの金融資産と違い,プロジェクトなどは一般的にあまり取引されないが,十 分な流動性を備えた原資産の市場が存在しないことは必ずしも評価上の支障にはならな い。たとえば,一定の投資コスト<math>I</math>に対して,プロジェクト価値<math>V</math>が <center> <math>\mbox{d} V = \alpha V \mbox{d} t + \sigma V \mbox{d} z \ \ \ (1)</math> </center> に従って変動していくものとする。ここで<math>\alpha</math>および<math>\sigma</math>は正の定数, <math>\mbox{d}z</math>は標準Brown運 動の増分とする。Dixit and Pindyck(1994)よのうにプロジェクト価値の複製資産を連続 的に取引するとの仮定をおいたり,あるいはSick(1995)のように消費CAPMなどの均 衡期待収益率モデルを用いたりすることで,プロジェクト価値<math>V</math>に依存するオプション 価値<math>F(V)</math>のみたすべき評価式を,保有者のリスク回避度に依存しない <center> <math>\frac{1}{2} \sigma^2 V^2 F_{VV} + F_t + (r- \delta)V F_V - r F = 0 \ \ \ (2) </math> </center> のような形で導くことができる。ここで下添字は偏微分を表し,<math>r</math>は無リスク金利,<math>\delta</math>は プロジェクトからのキャッシュフロー率(いわゆる収益率不足分)であり,<math>F(V)</math>は資本 市場で決定された<math>V</math>のリスク調整済み総収益率<math>\mu = \alpha + \delta </math>に依存しない。式(2)に適切な 境界条件を付することで,解析的ないし数値的に解が得られる. 金融オプシヨンと違い,少なからぬリアルオプションが明示的な行使時点の制限をも たない。このような場合,式(2)は<math>F_t = 0</math>とおき無限満期のアメリカンオプションとし て解くことができる。すなわち,原資産の配当率にあたる<math>\delta</math>があるため,満期がない場 合でもプロジェクト価値が十分高くなれば投資を行うことが最適となる.べき型の関数 形<math>F(V) = A V^{\theta} </math>を想定し,<math>F(0) = 0</math>,および投資が最適となるプロジェクト価値<math>V^{\star}</math>にお いて<math>F(V^{\star}) = V^{\star} -I </math>および<math>F'(V^{\star} )=1 </math>といった条件を付して <math>A,\theta</math>および<math>V^{\star}</math>を特定し,解 を求めることができる. 企業がもつ投資機会は企業によって異なるため,市場の完備性を前提とするモデルに 疑間を投げかける向きもある.しかし,他社にまねできない独自の投資機会があること は,そのキャッシュフローの複製可能性を必ずしも否定しない。すべての金融資産の価 値プロセスを複製するに十分な数の金融資産があれば,それらの適切な選択ないし組み 合わせで多くの実物資産やプロジェクトの価値も複製可能と考えるのはさほど乱暴な議 論ではない.また,多くの金融資産は何らかの意味で実物資産のキャッシュフローの一 部を切り取ったものであり,今日さらに多くの実物資産のキャッシュフローが証券化や 流動化の技術により金融資産として取引可能になってきている。 もし,上記にもかかわらず価値の複製が不可能なプロジェクトがあり,評価に際して リスク中立性を前提にできない場合でも,一般的な不確実性下での意思決定手法として の動的計画法を用い,最適停止問題として解くことができる。Dixit and Pindyck(1994) は,同じ式(1)をもととし,投資機会の価値<math>F</math>を,最適な投資時点<math>T</math>を選ぶことでその ペイオフの現在価値を最大化する問題 <center> <math>F(V_t) = \sup_{T}\mbox{E}_t [(V_T - I) e^{-\mu (T-t)}] , \ \ \ t \le T \ \ \ (3) </math> </center> として定式化している.ここでの<math>\mu</math>は,市場と関係ない任意のリスクプレミアムをもつ この投資機会のリスク調整済み割引率であり,<math>\delta</math>はこの<math>\mu</math>と<math>V</math>の期待上昇率<math>\alpha</math>との差と して定義される。<math>\mbox{E}[\mbox{d}F] = \mu F \mbox{d}t </math>であるから,この投資機会の価値は評価式 <center> <math>\frac{1}{2} \sigma^2 V^2 F_{VV} + F_t + F_V V (\mu -\delta) - \mu F = 0 </math> </center> をみたす。これは<math>\mu</math>と<math>r</math>差を除けば式(2)と同じであり,同様に解くことができる. ▼ 離散時間モデル 投資プロジェクトのような,リアルオプションで典型的な原資産の価値は,細かくみ てもせいぜい月単位程度でしか把握されないため,いわゆるBlack-Scholes式のような 連続時間モデルより,Copeland and Antikarov(2001)にみるような二項モデルのほうが使 い勝手がよく,うまく当てはまる例が多い。離散時間のもとで,時点<math>t</math>の初期値<math>V_t</math>から 1時点進むごとにプロジェクト価値が確率<math>\pi</math>でu倍に,確率<math>1-\pi</math>で<math>d = 1/u</math>倍になる格 子を描くと,時点<math>t + s</math>には<math>s +1 </math>個のノードができ,このうち上からたk番めのノードにあ るプロジエクト価値を<math>V_{t+s,k}</math>とする。終端時点<math>t + T</math>のペイオフ <math>F(V_{t +T , k}) = \mbox{max} \{ V_{t + T,k} - I , 0 \}</math>からリスク中立のもとで<math>V</math>が1時点後に増加する確率<math>\hat{\pi} = (1 + r -d - \delta)/(u -d)</math>を用 いて <center> <math>F(V_{t + s,k}) = \mbox{max} \Bigg\{ \frac{\hat{\pi} F(V_{t+s+1 ,k}) + (1-\hat{\pi}) F(V_{t+s+1 ,k+1})}{1+r} , V_{t +s} - I \Bigg\} \ \ \ (4)</math> </center> を時点<math>t +T - 1</math>から順次さかのぼっていくことで時点<math>t</math>での価値が得られる。 ▼ 不確実性のタイプ 多くのリアルオプションは,通常の金融オプションと同様,原資産価値を確率的に上 下させる市場の不確実性に直面するが,そのほかにも,リアルオプションに関係する不 確実性の源には,技術,制度,競争などさまざまなものが考えられる。 研究開発投資のように,多段階に分割され各段階での成否が次段階へ進めるかどうか に影響する場合,成否の確率は市場とは無関係にその技術で決まり,将来の期待プロジェ クト価値をその確率に応じて減らすがリスクプレミアムを増加させない。このような技 術上の不確実性は,一定時間内に失敗する確率をその期間に対応する配当率のような収 益率不足分と考えれば,原資産が配当を支払う場合と似た形でモデル化できる。 制度の変更による投資環境の変化は連続的というよりしばしばランプサム的であり, また市場における不確実性と直接にはリンクしていない。Dixit and Pindyck(1994)は, 投資優遇税制の導入による企業投資誘導効果の分析において,このような政策の不確実 性をPoissonジャンプとしてモデル化している。 Trigeorgis(1996)やGrenadier(2000)にみるように,競争に起因する不確実性はより複 雑である。多数の企業が競合する産業において,他社の市場参入の平均的なペースが判 明している場合については,新規参入による自社キャッシュフローの減少を配当のよう な原資産価値を一定割合で減らしていくパラメータとしてモデル化できる。複占や寡占 など企業数がより少なく,互いの行動の効果が相手方の意思決定に直接影響する場合に は,こうした取り扱いは不可能であり,ゲーム理論を用いたモデル化が必要となる。 ■ 種類 企業の有するさまざまな経営上の柔軟性が,リアルオプションとして評価されうる。 主なものを表に示した。 <table border> <tr> <td>種類</td> <td>状況</td> </tr> <tr> <td>延期オプション</td> <td>投資プロジェクトの実施を好ましいタイミングがくるまで延期できる場合</td> </tr> <tr> <td>撤退オプション</td> <td>業況回復の見込みがないとき、設備を廃棄して操業中のプロジェクトから撤退できる場合</td> </tr> <tr> <td>操業規模変更オプション</td> <td>操業中のプロジェクトについて、好ましい状況下で規模を拡大,および/または好ましくない状況下で縮小できる場合</td> </tr> <tr> <td>転換オプション</td> <td>操業中のプロジェクトについて、市況の変化に応じ原料,製品などを転換できる場合</td> </tr> <tr> <td>成長オプション</td> <td>現在の投資が将来拡大する可能性のある市場への参入機会をもたらすオプションとなっている場合</td> </tr> <tr> <td>逐次進行オプション</td> <td>一つのプロジェクトを複数の段階的投資に分け,個々の段階を次の投資のための複合オプションとみる場合</td> </tr> </table> 延期オプションは,前節で記したように,ある決まった投資プロジェクトの実施を縛 来に延期する柔軟性を意味する。投資コストに比べてプロジェクト価値が高いほど行使 した際のペイオフ(利得)も大きくなるので,コールオプションにあたる。 一方,撤退オプションは,プロジェクト価値が低下したときにそれを売却して事業か ら撤退する柔軟性を意味する。売却価格が行使価格にあたり,それに比べて原資産であ るプロジェクト価値が低いほどペイオフが大きくなるので,プットオプションにあたる。 操業規模変更オプションは,状況に応じて操業規模を拡大ないし縮小する柔軟性を意 味する。これはプロジェクトの一部についての延期(拡大の場合)ないし撤退(縮小の場 合)オプションとみることができる. 転換オプションは,複数の燃料で稼動するボイラーや容易に組み替えられる生産ライン のように,プロジェクトに必要な原料や作り出される製品などを,その市況に応じて 変更できる柔軟性を意味する。転換の選択肢の価値がそれぞれ確率的に変動する場合は, 複数の原資産を交換する交換オプションとしてモデル化される。 成長オプションは,いま投資を行うことが将来拡大が期待される市場への参入機会を もたらす場合にみられる。成長中の産業や技術進歩の著しい市場では,将来の投資機会 もまたその先の投資機会への参入の前提条件となっており,先行するオプションを行使 して後続のオプションを取得する複合オプションとみることができる。 逐次進行オプションもまた複合オプションであるが,複数の投資機会を扱う成長オプ ションと違い,一つのプロジェクトを複数の段階に分け,その各段階でプロジェクトを 進めるかどうかを選択する柔軟性をそれぞれリアルオプションとみる。 実はこれらのすべてが,何らかの意思決定を将来に延期する延期オプションの一種で あり,またTrigeorgis(1996)にみるにような,あるコスト負担のもとで操業モードを変吏 する「一般化されたリアルオプション」の特殊ケースにあたる. ■ 応用分野 リアルオプション理論が最もよく利用されるのは,投資プロジェクトの評価や意思決 定の分野であろう.不確実な環境下での大型投資プロジェクトの意思決定には,リアル オプション分析が特に有効である。石油開発や新薬開発などのプロジェクトでは,投資 額が巨額に上るうえ失敗しても転用は困難で,初期段階の技術的な不確実性がきわめて 高く, しかもキャッシュフローを生むまでの期間が長いが,いったんうまくいけば追加 投資の機会が開かれることもある。このようなプロジェクトは複数の段階に分け,状況 をみて途中でとりやめたり拡張,縮小したりする柔軟性を保つことが重要であり,複数 のリアルオプションを含むプロジェクトとして評価することが適切である。こうした分 析では,オプション価値計算の基礎になるプロジェクト価値やその過程,関連するパラ メータがあいまいにしかわからず,したがってリアルオプションの厳密な評価額が求め られない場合も多いが,それでも合理的な意思決定手法に従った分析結果をもたらすた め,NPV法などに比べてより適切な意思決定が可能となる。 経営上の柔軟性を保有者にもたらす資産や契約なども, リアルオプションとして評価 される。土地については,開発後の不動産価値を原資産,開発コストを行使価格とした コールオプションとして評価する研究がなされている。特許権,著作権などの知的財産 権,およびこれに類似したブランドなどの価値も,それ自体ではなくその後の投資から生 まれるキャッシュフローを価値の源泉としていることから,オプションとして評価する ほうが適切な場合が多い。中途変更や解約,期限延長などの柔軟性をもつ契約の価値も, 同様にリアルオプションを含んだものとして評価できる。これらの柔軟性の精緻な評価 手法は,金融工学の発展とともに資産その他の証券化商品の開発など具体的な成果を生 み出しつつある。また米pl-x社では,簡便なパッケージを利用して特許権をオプション として評価し,ITを使ってそれらを取引する市場をつくり出そうとしている. リアルオプションは金融オプションと違って法的な権利として確保されたものでない 場合が多いため,計算にとりかかる前にまずその対象にどのようなリアルオプション(柔 軟性)が存在するかを分析しなければならない.事業に内在するリアルオプションは,山 口(2002)にみるように,市場の状況や企業の能力などに対応して企業がとる経営戦略に 依存する。延期すればより高い利得を期待できる投資機会があっても競争相手がひしめ いていれば延期はできないし,コアコンピタンスのない事業領域で将来の成長性に賭け て多額の投資をすることは必ずしも賢明とはいえない。したがって,リアルオプション は独立した資産としてではなく,企業戦略の文脈の中で論じられるべきである。 意思決定に際し企業とその経営者の利害が常に一致するとは限らず,しばしば企業(株 主)を依頼人,その経営者を代理人とした依頼人=代理人ゲームが成立する。この領城 ではMaland(1999)などを除いてリアルオプションを意識した研究がまだ少なく,今後 ストックオプションなど経営者報酬に関する諸研究と融合した発展が期待される. ---- '''参考文献''' [1] 山口 浩(2002), リアルオプションと企業経営, エコノミスト社. [2] Copeland, T. and V.Antikarov (2001), Real Options: A Practitioner's Guide, TEXERE. [3] Dixit,A.K. and R.S Pindyck (1994), Investment Under Uncertainty, Princeton University Press. [4] Grenadier, S.R. ed. (2000), Game Choices: The Interaction of Real Options and Game Theory, Risk Books. [5] Maeland,I. (1999), "Valuation of irreversible investments and agency problems," Working Paper presented at the 3rd Annual Real Option Conference. [6] Sick,G. (1995), "Real Options," in Jarrow R.A., V.Maksimovic and W.T.Ziemba eds., Handbook in Operations Research and Management Science, Vol.9, Finance, chap.21, Elsevier. (今井潤一訳(1997),実物オプション,in 今野浩, 古川浩一監訳, ファイナンスハンドブック, 朝倉書店) [7] Trigeorgis,L. (1996), Real Options: Managerial Flexibility and Strategy in Resource Allocation, MIT Press. [[Category:ファイナンス|りあるおぷしょん]]
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