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《協力ゲーム理論》
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'''【きょうりょくげーむりろん (cooperative game theory) 】''' 1 協力ゲーム理論 [[プレイヤー]]間で話し合いが行われ, 話し合いの結果到達した合意に拘束力がある状況を協力ゲームといい, このような状況を扱う理論を [[協力ゲーム理論]] (cooperative game theory) という. 協力ゲームは, プレイヤーの数が2人か3人以上かによって大きく状況が異なり, それぞれ別々に理論が発展してきている. 2 2人協力ゲーム プレイヤーが2人の場合には, 2人のプレイヤーが話し合いの結果協力して行動するかどうか, また, 協力した場合には, その結果得られる利得をどのように分配するかの交渉が問題になる. 従って, 2人協力ゲームを[[2人交渉問題]] と呼ぶこともある. 2人協力ゲームの主たる解は, ナッシュ (J. F. Nash) によって与えられたもので, [[ナッシュ解]] ないしはナッシュ交渉解と呼ばれている. ナッシュは, 公理論的なアプローチによりナッシュ解を導いた. まず, 2人のプレイヤーが協力して実現できる [[利得 (ゲームの)|利得]]の対の全体と, 交渉が決裂したときに2人のプレイヤーが得る利得を明らかにし, これによって2人のプレイヤーの交渉の場を定めた. 前者を実現可能集合, 後者を交渉の基準点という. ついで, 交渉の妥結点が満たすべき性質を4つあげ, その4つの性質をすべて満たす解は, 交渉の場の中の唯1つの利得の対に定まり, 交渉の基準点からの2人のプレイヤーの利得の増分の積を最大にする点で与えられることを示した. これがナッシュ解である. ナッシュは, 1つの交渉のプロセスとして, 2人のプレイヤーがそれぞれの獲得したい利得を同時に言い合う非協力ゲームを考え, そのナッシュ均衡によってナッシュ解を達成できないかと考えた. ナッシュのこの試みは, 協力ゲームの解を非協力ゲームの均衡点として分析しようとする[[ナッシュプログラム]] の始まりであった. 後に, ルビンシュタイン(A. Rubinstein) が, 2人のプレイヤーが交互に2人の取り分を提示しあい, 提示された方がそれに同意すればゲームは終了し, 同意しなければそのプレイヤーが新たな提示を行うという[[交互オファーゲーム]]を提案し, 将来の利得がそれほど割り引かれない場合には, その[[部分ゲーム完全均衡]] としてナッシュ解が達成されることを示した. ナッシュ解は, 労使の賃金交渉, 商品の売り手と買い手の交渉, 2国間の交渉など, 様々な交渉の分析に用いられている. 3 多人数協力ゲーム 3人以上の協力ゲームになると, 単に全員が協力するかどうかだけではなく, 部分的な協力関係を考える必要が生じ, 状況は2人協力ゲームに比べ複雑になる. 3人以上の協力ゲームは, 一般に<math>n\, </math>人協力ゲームと呼ばれる. 協力ゲームにおける関心は, プレイヤー間でどのような協力関係が結ばれ, その結果得られた利得をプレイヤー間でどのように分け合うか, ないしは分け合うべきかということである. フォンノイマン (J. von Neumann) とモルゲンシュテルン (O. Morgenstern) は, <math>n\, </math>人協力ゲームにおいて, 協力関係を結んだプレイヤーのグループを[[提携]] と呼び, 提携それぞれに対して, それが獲得できる利得を与える関数を [[特性関数 (ゲーム理論の)|特性関数]]と呼んだ. [6] 特性関数によって表現された<math>n\, </math>人協力ゲームを[[提携形ゲーム]]ないしは特性関数形ゲームという. 提携形ゲームでは, 特性関数の[[優加法性 (ゲーム理論における)|優加法性]]からプレイヤー全員の提携が形成されることは前提とし, 全員が協力したときに得られる利得をどのように分配すればよいかということがこれまでの主たる研究のテーマであった. 提携形ゲームにおける最初の解は, フォンノイマンとモルゲンシュテルンによるものであり, [[安定集合]]ないしはフォンノイマン・モルゲンシュテルン解と呼ばれている. 提携形ゲームにおいては, プレイヤー間の利得分配の基準をどのように与えるかによって, これ以外にも, [[コア]], [[交渉集合]], [[カーネル (ゲーム理論における)|カーネル]], [[仁]], [[シャープレイ値]]など, 様々な解が提案されてきている. 安定集合, コア, 交渉集合, カーネルは一般に集合として与えられる解であり, 仁, シャープレイ値は唯1点からなる解である. これらの解のうち, 適用例が多いのは, どの提携にも不満を持たせない利得の分配であって, その考え方が受け入れられやすいコア, および1点からなる解である仁, シャープレイ値である. コアは, 経済学において, 市場における取引の分析など様々な分野で用いられており, 経済学における1つの重要な解概念となっている. 仁, シャープレイ値は費用分担, 便益分配などの計画問題の解決案としてよく用いられている. よく知られた例としては, 水資源共同開発における費用分担, 大学内の電話料金の分担, 飛行場の滑走路補修費用の機種別分担などがある. また, シャープレイ値はプレイヤーの力関係を反映する解であるため, 議会における政党の影響力を評価するパワー指数としても用いられている. 4 協力ゲームの最近の発展 協力ゲームにおける最近の理論的発展の主たるものは, 提携形成の分析であろう. これまでの提携形ゲームの研究では, プレイヤーの交渉を通してどのような提携が形成されるかという問題はほとんど分析されてこなかったが, 最近になって, ようやく提携形成の研究が盛んに行われるようになってきている. 協力ゲームの様々な解を用いるもの, 非協力ゲームからのアプローチを試みるもの, など様々なアプローチがある. いま1つの研究の方向は, [[戦略形ゲーム]], [[展開形ゲーム]]を用いた協力行動の分析である. これまでの協力ゲームの分析は, 提携形ゲームを用いたものがほとんどであった. しかしながら, 戦略形ゲーム, 展開形ゲームにおいてプレイヤーが共同で戦略を選択することも考えられ, これによって, 協力行動を分析することもできる. このような分析はなにも新しいものではないが, 提携形では分析し得ないプレイヤー間の協力関係を分析する方法として重要なものとなるであろう. 以上の2つの方向の研究を進める上ではもちろんのこと, 今後, 協力ゲーム理論と[[非協力ゲーム理論]]の融合をはかることは, ゲーム理論の発展の上で非常に重要であると思われる. 5 協力ゲーム理論の文献 協力ゲーム理論を扱った日本語の文献としては [5], また, 最近のも のとしては [4], [3], [2] がある. 協力ゲームの解についてのこれまでの研究のサーベイは, [1] に詳しい. ---- '''参考文献''' [1] R. J. Aumann and S. Hart, eds., ''Handbook of Game Theory Volume I, Volume II'', North-Holland, 1992, 1994. [2] 中山幹夫, 『はじめてのゲーム理論』, 有斐閣, 1997. [3] 岡田章, 『ゲーム理論』, 有斐閣, 1996. [4] 鈴木光男, 『新ゲーム理論』, 勁草書房, 1994. [5] 鈴木光男, 武藤滋夫, 『協力ゲームの理論』, 東京大学出版会, 1985. [6] J. von Neumann and O. Morgenstern, ''Theory of Games and Economic Behavior, 3rd ed.'', Princeton University Press, 1953. [[category:ゲーム理論|きょうりょくげーむりろん]]
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