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'''【まーけてぃんぐりさーち (marketing research) 】''' マーケティング・リサーチとはマーケティング上の意志決定ないし活動評価のために組織的に情報を収集・分析し伝達する活動である. マーケティング・リサーチもマーケット・リサーチも市場調査と訳すので混同されがちであるが, マーケティングには市場創造ないし市場活性化という意味で "ing" がつき, 戦略志向・問題解決志向であるのに対して, 後者は市場の実態をサーベイすること, 即ち「商品の保有を知ることや消費者の声を聞くこと」が主たる目的になる. 関数<math>f:x\mapsto y \, </math>但し<math>x \, </math>はマーケティング活動と環境要因で<math>y \, </math>は市場反応(<math>x, y \, </math>は一般に多変数)とおくと, マーケット・リサーチの目的は<math>y \, </math>を知ることであり, マーケティング・リサーチの目的は関数<math>fを \,</math> 知ること, と理解すればよい. マーケティング・リサーチは目的も研究対象も広範にわたる. 調査主体は企業には限らず, 官庁や政党, 協会・団体, 教育機関のようなNPO(non-profit organization)が含まれるし, 研究対象としては消費者のみならず, 従業員, 地域住民, 製品やサービス, 産業財のユーザー企業も含まれる. 企業を対象とした調査はBusinessの頭文字をとって, B to Bリサーチと呼ばれる. さらには人間を対象としない調査や, 意見を求めない調査もマーケティング・リサーチには含まれる. その典型例は, 店舗における商品の販売価格や陳列数(facing)を観察記録するpantry checkであるし, 通行量カウント調査である. マーケティング・リサーチの課題領域は, マーケティングの全課題と一致する. 主要な課題をあげれば次の通りである. ポジショニング分析(positioning analysis), セグメンテーション分析(segmentation analysis), 新製品コンセプト開発(product concept generation), 製品テスト(product test), 市場性の予測(prediction of market potentiality), マーケティング・ミックス(marketing mix), 新製品反響調査(tracking after launch), 広告効果(advertising effectiveness), 販売促進(promotion)など. 次にマーケティング・リサーチの中で数理的なアプローチないしITが寄与する業務分野を列挙しよう. 調査の企画設計:調査企画のエキスパート・システム, questionnaire generatorを用いた調査票の作成. データ収集法:computer-assisted data collectionとも呼ばれるハイテク・リサーチが実用化されている. ピープル・メータを用いたテレビ視聴率調査や, POSパネルは調査員が介在しないデータ収集法の例である. CATI(computer-assisted telephone interviewing)はリアルタイム回答チェックが可能であるが, これは調査の本質にかかわる機能である. IR(internet research)はWEB調査とも呼ばれているが, 調査法としての妥当性が確認されないまま安易な適用がみられる. 調査データの統計処理:マーケティング・リサーチは個票単位で分析可能なクロスセクショナル・データを扱うことが多く, アグリゲート・データの2次分析や時系列解析が比較的少ないという特徴を持っている. しかも実験科学と異なり, 定量測定よりも職業区分, 愛用ブランドのようなカテゴリーの測定が中心であるため, 情報集約法としてクロス集計が多用されている. ユーザー対ノンユーザーとか地域比較のような集団間の比較のために比率の差の検定が利用されている. しかし, マーケティング・リサーチは無作為抽出にもとづく大標本の世論調査を先行例として発展してきた歴史的な経緯により, 小標本の検定は定着していない. 多変量解析では因子分析とコレスポンデンス分析及びクラスター分析の利用頻度が高い. カテゴリー・データを扱うために林の数量化理論が普及していることもマーケティング・リサーチの特徴といえる. これらの多変量解析は主として記述的な立場からなされ, 最尤法にもとづく推測的方法は十分定着していない. マーケティング・リサーチで扱うデータは標本誤差のみならず, 非標本誤差も大きいため精緻な統計解析を適用しても得るところが少ないという理由による. 人間の認知構造の計量的解析には標準的な統計手法だけではなく, MDS, コンジョイント分析, レパートリー・グリッド発展手法などが用いられている. 1990年代後半からインターネット及びパソコンが普及したことに伴い, 電子情報によるテキスト・データが容易に入手できるようになったことから, 定性情報の解析も重要な研究テーマとなっている. 情報システム:トランザクション・データを含めてデータ・ウェアハウスを構築し, データマイニングを行うことが重要になってきた. データ・マイニングではCHAID, CARTなどのデシジョン・ツリーや機械学習, ニューラルネットワークが用いられることが多い. クレジット産業では顧客の返済行動を分析して, 与信度を診断できるシステムを開発しているし, ダイレクト・マーケティング業界では過去の発注歴から反応(response)を予測して, ワン・トゥー・ワン・マーケティング(one-to-one marketing)を展開している. いずれも質問を伴わない「行動分析」である. 現代のマーケティング・リサーチは既にインタビューに限定されたものではなくなっている. レポーティング:ワンショット・レポートからオン・デマンドのレポートへ, プリントメディアから電子メディアへ, そしてリコメンデーションの自動生成へという変化が生じている. レポーティングに限らず調査の全作業がマーケティング情報システムへのビルトイン及びITの発展と切り離して論じることの出来ない時代になっている. ---- '''参考文献''' [1] 朝野煕彦編集, 『マーケティングリサーチ最前線』, 同友館, 1992. [2] 朝野煕彦,『マーケティング・シミュレーション(改訂版)』, 同友館, 1994. [3] 朝野煕彦, 『入門多変量解析の実際』, 講談社, 1996. [4] 二木宏二, 朝野煕彦, 『マーケティング・リサーチの計画と実際』, 日刊工業出版社, 1991.
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