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'''【ざいこかんり (inventory control)】''' 在庫とは, 倉庫や生産ライン中に存在する原材料, 部品, 製品などを指し, 特に生産ライン中にあるものを「中間在庫」と呼び, 経済的価値が蓄積されていることを意味する. この「在庫」を, 適正な量に維持することを「在庫管理」と呼ぶ. 古典的な在庫管理手法としては「統計的在庫管理方式」があり, これは不確定な需要の平均や分散をもとに, 発注間隔や発注量を決定するものである. '''在庫の種類''' 一般に, 在庫には以下のような種類のものがある. ;'''ロットサイズ在庫 (lot size inventories) ''': 生産をまとめて行うと段取りが一回で済んだり, まとめて輸送を行えば製品1個あたりの運送費用が安くなるなど, コストにおけるメリットが生まれる. その反面, 在庫を多く持たざるをえない. このように, まとめて生産や輸送, 購買などを行うことに起因する在庫のこと. ;'''安全在庫 (safety stock)''': 需要変動に対応するための在庫. ;'''見越し在庫 (anticipation stock)''': 需要変動が予測され, 生産能力がそれに追い付かない場合に対処するための在庫. 予測される需要に先行して, 生産を平準化する. 「季節在庫」とも呼ばれる. '''在庫量に関連する概念''' 「在庫量」を議論する上で, 以下のよう概念が用いられる. ;'''手持ち在庫 (stock on hand)''' :実際に手元に存在する在庫のことであり, 需要に即応できる. ;'''発注残 (stock on order)''' :発注済みだが未入荷の量で, 後に入荷することが分かっている. ;'''受注残・バックオーダー (backorder)''' :受注済だが未納の量. ;'''有効在庫量 (available stock)''' :手持ち在庫量 <math>+\, </math> 発注残 <math>-\, </math> 受注残 ;'''調達期間・リードタイム(lead time)''' :発注してから納入されるまでの時間. '''在庫管理モデルの分類''' 在庫管理のモデルは, 以下のような切口から分類することが可能である [2] [6]. ;'''需要''' :需要の大きさが既知である確定的モデルと, 不確定な需要を考慮する確率的モデルに分類できる. 確定的モデルには, 需要量が一定の静的モデルと, 需要量が既知だが一定とは限らない動的モデルがあり, 静的モデルの例としては[[経済発注量モデル]]が, 動的モデルの例としては[[動的ロットサイズ決定問題]]が有名である. [[(s,S)方策|<math>(s, S)\, </math>方策]] は確率モデルに対する発注方策の一つである. ;'''計画期間''' :有限期間モデルと無限期間モデルがあり, 前者はさらに1期間モデルと多期間モデルに分類できる. ほとんどのモデルは多期間モデルもしくは無限期間モデルであるが, [[新聞売り子問題]]のように1期のみを考慮するモデルもある. ;'''費用''' :平均的な費用で議論する場合と, 価値の割引を考慮する場合がある. ;'''品切れ''' :許さない場合と許す場合に分けられる. 品切れを許す場合, 品切れになった際に, <math>{i)}\, </math>その需要が失われる, すなわちロストセールス (lost-sales) と, <math>{ii)}\, </math>バックオーダー (backorder) になる場合に分けられる. ;'''リードタイム''' :即納を想定して考慮しない場合と考慮する場合があり, 考慮する場合は, リードタイムが既知で一定とするのが一般的であるが, リードタイムを確率変数とする場合もある. ;'''在庫品の変化''' :一般に貯えられている在庫品の変化は考慮しないことが多いが, 陳腐化(コンピュータ)や品質の劣化・低下(血液), 腐敗(生鮮食料品)などのように寿命を考慮する必要がある場合もある. ;'''在庫の調査間隔''' :在庫の調査間隔の観点からは, 在庫量を常時観測する連続在庫調査(continuous review)と, 一定の間隔で観測する定期的在庫調査(periodic review)に分類できる. ;'''発注間隔と発注量''' :一般に, 在庫問題では, 発注間隔あるいは発注量を決めれば在庫管理の政策が決定する. しかし, 両者を同時に制御対象とすると問題が複雑になるので, 片方を一定量として問題を単純化する. その際に, どちらを一定量として扱うかによって, 発注間隔を一定にする[[定期発注方策|定期発注方式]]と, 発注量を一定にする定量発注方式に分類できる. '''在庫モデルの分析方法''' 在庫モデルを分析する方法としては, 以下のようなアプローチがある. ;'''解析的方法''' :各種要素の関係を数式によって表現し, 解析的に最適な解を求める. 経済発注量モデルに対する最適発注量(最適発注間隔)の求め方は, 解析的方法の典型である. ;'''数理計画・最適化''' :最適化問題として定式化し, 数理計画の技法を用いる. 動的ロットサイズ決定問題に対する動的計画法によるアプローチはこの例. ;'''待ち行列''' :分析対象のシステムを待ち行列モデルとしてとらえ, 待ち行列モデルに対する解析手法を用いて分析する. かんばん方式は, 待ち行列システムとして表現可能である. ;'''数値的方法''' :計算機上の数値計算によって在庫量の分布を求める. ;'''シミュレーション''' :シミュレーションによって分析する. '''生産管理方式と在庫管理''' [[MRP]]は, 需要の従属性, すなわち製造活動の下流側で必要とする製品を生産するのに要する部品の量や時間に着目し, 部品の補充計画を立案するものである. 具体的には, 生産指示から製品が完成するまではリードタイムだけの時間が必要であるが, 将来の需要を予測しリードタイムを考慮した上で各工程に対する生産指示を行う. 各工程で必要な部品は, この生産指示にしたがって必要なときに供給されるので, 需要の予測に誤差がなく生産指示に変更がない限り, 在庫量を極力低くすることができる. そして, 各工程は上流工程からのものの流れにちょうど間に合うように部品供給がされるため, 遅滞無く加工を行い下流工程にものを流すことができ, 上流側から下流側へものを押し流して行くため, [[押し出し型システム]]に分類することができる. 部品の供給量の決定には, 動的ロットサイズ決定問題に対する方法が用いられる. [[JIT]]の代表例であるかんばん方式は, 「平準化」という枠組を前提に在庫の削減を実現している. また, 需要に直接的に喚起された生産指示をものの流れと逆に伝え, 需要をあらかじめ予測することなく生産指示を下流側から上流側へ伝えていくため, 引っ張り型システムとみなすことができる. かんばん方式を想定した多段の生産在庫モデルで, 各段におけるかんばん枚数やコンテナサイズの影響の分析, 品切れ確率を分析するために, 待ち行列モデルを用いることが多い. ---- '''参考文献''' [1] W. J. Hopp and M. L. Spearman, ''Factory Physics: Foundations of Manufacturing Management'', Irwin, 1996. [2] H. L. Lee and S. Nahmias, "Single-Product, Single-Location Models," in ''Logistics of Production and Inventory'', S. C. Graves, A. H. G. Rinnooy Kan and P. H. Zipkin, eds., North-Holland, 1993. [3] E. A. Silver, D. F. Pyke and R. Peterson, ''Inventory Management and Production Planning and Scheduling'', Third Edition, John Wiley & Sons, 1998. [4] 圓川隆夫, 伊藤謙治,『生産マネジメントの手法』, 朝倉書店, 1996. [5] 黒田充, 田部勉, 圓川隆夫, 中根甚一郎, 『生産管理』, 朝倉書店, 1989. [6] 児玉正憲, 『生産・在庫管理システムの基礎』, 九州大学出版会, 1996. [7] 玉木欽也, 『戦略的生産システム』, 白桃書房, 1996. [8] 水野幸男, 『在庫管理入門』, 日科技連出版, 1974. [9] 日本生産管理学会編,『生産管理ハンドブック』, 日刊工業新聞社, 1999.
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