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'''【しさんうんようもでる (portfolio management model)】''' 資産運用とは, 設定した計画期間において, 運用方針や各種の規制などから生じる制約のもとで, 何らかの基準で評価された目的にたいして資金を最適に配分すること, あるいはその資金配分を制御することである. 資産運用モデルとは, 最適資金配分/最適投資戦略を決定するような数理計画問題と位置づけることができる. 極めて多岐にわたる運用モデルを一般的な枠組で説明するのは難しいが, 本稿では, もっとも広範に普及している平均分散モデルを中心に解説を行う. 従来の資産の収益のみに着目していた方法に対して, Markowitz[4]は収益に加えてリスクを考慮して資産選択を行う方法を提唱した. これは, 収益の指標としてポートフォリオの期待収益率, リスクの指標として収益率の分散(標準偏差)を用いることから, [[平均分散モデル]]と呼ばれる. このモデルは, リスク回避的な投資家は期待収益率が大きく, 分散の小さいモデルを選好するため, 以下のような2次計画問題として定式化される. <math>\begin{equation} \label{G-3+1} \begin{array}{|ll} \mbox{maximize } & \mu^{\top}x - \lambda x^{\top}Qx \\ \mbox{subject to } & x \in X \end{array}</math> ただし, $<math>x\in{\bf R}^n</math>$は$<math>n</math>$種の資産への配分比率を, $<math>\mu\in{\bf R}^n</math>$は$<math>n</math>$種の資産の期待収益率を表すベクトルであり, $<math>Q</math>$は$<math>n</math>$種の資産間の分散共分散行列である. $<math>X</math>$は投資制約を, $<math>\lambda>0</math>$はリスク回避度を表す. 平均分散モデルは現代投資理論の基礎として位置付けられ, さまざまなモデルがそこから生み出されてきた. 特に, [[リスク指標]]に対しては, 投資家の多様なリスク観を反映して, いくつかの改良モデルが存在する. :*モーメント型 絶対偏差[3], 下半モーメント, 線形-2次型 [2], などポートフォリオの収益率分布のモーメントに基づいたリスク指標である. 分散のみではとらえられないリスクの非対称性, 極値への感度などをモデルに取り込もうとするものであり, 凸計画問題へ定式化される. :*目標設定型 期末の収益に目標値を設定し, それからの乖離をリスクとみなす. 目標値としてインデックスやベンチマークポートフォリオが用いられると,目標追跡型の資産運用モデルとなる. さらに, 乖離の度合を測る関数によっていくつかの種類にわかれる([1], [7]など). :*確率評価型 期末の収益の目標値を下回る確率をリスク指標として用いる([6]). [[VaR]](value at risk)は,この型のリスク指標である. この場合は, 前2者と異なり, 資産の分布として多次元正規分布を仮定しない限り, 凸計画問題として定式化することは困難である. リスク指標を定めた上で, 収益指標とのトレードオフを考慮して最適な資産配分を行う手法を, 2つのパラメータを用いることから2パラメータアプローチと総称される. これに対して, 期待効用を目的関数とする手法がある. (たとえば[5]). 期待効用最大化原理と整合的である, 収益/リスク間のトレードオフを考慮する必要がない, などの利点がある半面, 効用関数を明示的に求めなければならない. 投資信託など複数の資金の拠出者がいる場合, 全員に妥当するような効用関数を設定するのは事実上不可能である. 平均分散モデルは計画期間中取引を1度だけ行う1期間モデルとして提案された. しかし, 資産価値の変動に応じて動的にポートフォリオの組換えを行うためには, 多期間の枠組が必要となる. [[ALM]](asset liabilitymodel)のように, 資産と負債を総合的に管理するようなモデルは典型的な多期間モデルの適用例である. 多期間モデルを一般的に表すと, <math>\begin{equation} \label{G-3+1} \begin{array}{|ll} \mbox{maximize } & \sum_{t=1}^T f_t(x_t) \\ \mbox{subject to } & (x_1,\ldots,x_T)\in X \end{array}</math> となる. ただし, $<math>T</math>$は計画期間数, $<math>x_t\in{\bf R}^n</math>$は$<math>t</math>$期の$<math>n</math>$種の資産への配分比率, $<math>f_t</math>$は$<math>t</math>$期の評価関数を表す. 多期間モデルは, 取引前後の資金の均衡制約を含むこと, $<math>t</math>$期の$<math>x_t</math>$の選択が, $<math>x_0,\ldots,x_{t-1}</math>$に依存すること, $<math>x_t</math>$の決定に利用できる情報があくまでも$<math>t-1</math>$期までの情報であること, などによって特徴づけられる. また, 取引が連続的にできると仮定すると, 連続型モデルとなる. 多期間モデルは, 1期間モデルと比較してより精密な資産管理が可能になるものの, 資産価値の変動のモデル化, そのパラメータの安定性, 最適解の効率的な導出方法, など1期間モデルに較べて解決すべき課題は多い. 特に, 動的にポートフォリオの組換えを行う場合, 取引費用をモデル中に取り込まなければ, 正確な収益の評価を行うことはできない. 取引費用は, 取引量に応じた非凸な関数であるが, モデル上で厳密に表現した場合, 非凸計画問題となってしまうため, 近似的に取引量に比例するものとして定式化する場合が多い. 対象とする資産によって資産運用モデルの性格も変化する. 例えば, 債券を対象とする場合は, 金利の期間構造を考慮することが必要となり, [[国際分散投資]]を行うならば, 為替リスクを適切にヘッジする必要があるだろう. このような資産クラス内の個別資産への資金配分に対して, 資産クラスそれ自身への配分を決定することを[[アセットアロケーション]]という. 資産運用モデルは, 従来の経験的な資産運用に対して, 定量的に操作可能なモデルを用いることによって, 有効なリスク管理の手段を与えてきたことは否定できない. しかしながら, 一連のリスク管理の技術が投機的な手段として機能することも事実である. [[ヘッジファンド]]に代表されるような機動的な投資家集団が, リスク管理技術と[[レバレッジ効果]]の組合せによって, 高い収益をあげているが, 一方で1990年代以降の金融市場の混乱の引金となったとの指摘もある. 今後の資産運用モデルの研究課題の一つとして, 市場全体の安定性を維持するような方策を開発することが挙げられるだろう. ---- '''参考文献''' [1] V. S. Bawa and E. B. Lindenberg, "Capital Market Equilibrium in a Mean Lower Partial Moment Framework," ''Journal of Financial Economics,'' '''5''' (1977), 189-200. [2] A. J. King, "Asymmetric Risk Measures and Tracking Models for Portfolio Optimization under Uncertainty," ''Annals of Operations Research,'' '''45''' (1993), 165-178. [3] H. Konno, "Piecewise Linear Risk Functions and Portfolio Optimization," ''Journal of the Operations Research Society of Japan,'' '''33''' (1950), 139-156. [4] H. M. Markowitz, ''Portfolio Selection: Efficient Diversification of Investments.'' John Wiley and Sons, Inc, 1959. [5] R. Merton, "Optimum Consumption and Portfolio Rules in Continuoustime Model," ''Journal of Economic Theory,'' '''3''' (1971), 373-413. [6] A. D. Roy, "Safety-first and the Holding Assets," ''Econometrica,'' '''20''' (1952), 431-449. [7] M. Schweizer, "Mean-variance Hedging for General Claims," ''Annals of Applied Probability,'' '''2''' (1992), 171-179. [8] S. A. Zenios(editor), ''Financial Optimization,'' Cambridge University Press, 1993.
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