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《モダンポートフォリオ理論(概論)》
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'''【もだんぽーとふぉりおりろん (がいろん) (modern portfolio theory)】''' 金融資産をどのように組合せて自己に最も望ましいポートフォリオを選択するかの投資手法についての理論をポートフォリオ理論という. リスクを明示的に取扱うことを定量的に導入したマーコビィツ(H.M.Markowitz)以降の投資理論をそれ以前と区別してモダンポートフォリオ理論と呼んでいる. ポートフォリオ理論を平均分散モデルから説明しよう. ます資産$i(i=1,2,...,n)$への投資比率を$x_{i}$とする. $x_{i} < 0$は空売り(Short Sales)を表す. $x_{i}$を第$i$成分とするベクトル$x=(x_{1},x_{2},\dots ,x_{n})^{\top}$をポートフォリオと呼び, 制約条件 $\sum_{i=1}^{n}x_i=1$ を満足しなければならない. ここで$\top$ はベクトルの転置を表す. 資産$i$ の期待収益率を$\mu_{i}$, $\mu=(\mu_1, \mu_2, \cdots, \mu_n)^{\top}$, 資産$i$ での分散を$\sigma_{i}^{2}$, 資産$i$と$j$の共分散を$\sigma_{ij}$とする. このとき, ポートフォリオの期待収益率は$\mu_p =\sum_{i=1}^n \mu_i x_i$となり, ポートフォリオ収益率の分散は$\sigma_{p}^{2} = \sum_{i=1}^{n}x_{j}^{2}\sigma_{i}^{2} +\sum_{i \not= j}x_{i}x_{j}\sigma_{ij}$ となる. ベクトルと行列の記号を用いれば, ポートフォリオの期待収益率は$\mu_{p} = x^{\top}\mu$, 収益率の分散は$\sigma_{p}^{2} = x^{\top}Vx$ となる. $V$ は分散共分散行列で, 正定値行列である. すべての要素が1 である$n$次元ベクトルを{\bf 1} とすれば, ポートフォリオの制約条件は$x^{\top}{\bf 1} =1$ となる. 投資のリターンをポートフォリオの期待収益率で測定し, 投資のリスクをその収益率の分散で代替する投資家を想定する. このような投資家は, さまざまな期待収益率$\mu_{p}$ の下で最小の分散を与えるポートフォリオを選択する. この投資家のポートフォリオ$x$ の選択問題を定式化すれば次の最小化問題となる. \begin{equation} \mbox{min.} \frac{1}{2}x^{\top}Vx \end{equation} \begin{equation} \hspace*{1.5em} {\rm s.t. }\hspace{1em} x^{\top}\mu = \mu_{p} \end{equation} \begin{equation} \hspace{3em}\;x^{\top}{\bf 1} = 1 \end{equation} 行列$V$ は正定値であるから上記の最小化問題は, 線形制約条件の下での凸二次計画問題となっているので, 一意の最適解をもつ. 乗数 $\lambda_{1}, \lambda_{2}$をもつラグランジュ関数$L$を導入すれば, 次の1階の条件は$x$が最適解となるための必要かつ十分条件である. \frac{\partial L}{\partial x} = Vx - \lambda_{1}\mu - \lambda_{2}{\bf 1} = {\bf 0} \frac{\partial L}{\partial \lambda_{1}} = \mu_{p} - x^{\top}\mu = 0 \frac{\partial L}{\partial \lambda_{2}} = 1 - x^{\top}{\bf 1} = 0 正定値行列$V$ は逆行列をもつので, これらの式を連立して解けば, 最適解 \begin{eqnarray} x^{*} & = & V^{-1}(\lambda_{1}\mu + \lambda_{2}{\bf 1}) \nonumber \\ & = & V^{-1}(\mu,{\bf 1})\left[ \begin{array}{cc} {\lambda_{1}} \\ {\lambda_{2}} \end{array} \right] \nonumber \\ & = & V^{-1}(\mu,{\bf 1})A^{-1}\left[ \begin{array}{cc} {\mu_{p}} \\ {1} \end{array} \right] \end{eqnarray} を得る. ここで, 行列$A$ は \begin{equation} A \equiv \left( \begin{array}{cc} \mu^{\top}V^{-1}\mu & \mu^{\top}V^{-1}{\bf 1} \\ \mu^{\top}V^{-1}{\bf 1} & {\bf 1}^{\top}V^{-1}{\bf 1} \end{array} \right) \equiv \left( \begin{array}{cc} a & b \\ b & c \end{array} \right) \end{equation} で与えられる正定値行列で逆行列$A^{-1}$ をもつ. (詳しい導出は文献[1], [3]を参照)(4) 式はポートフォリオの期待収益率$\mu_{p}$ が与えられたときの分散を最小にするポートフォリオであるから, (4)式を(1)式に代入すれば, 最小分散ポートフォリオの分散は \sigma_{p}^{2} = (\mu_{p},{\bf 1})A^{-1}(\mu,1)^{\top}V^{-1}VV^{-1}(\mu,{\bf 1}) A^{-1}\left[ \begin{array}{cc} {\mu_{p}}\\{1} \end{array} \right] \begin{equation} = \frac{a-2b\mu_{p}+c\mu_{p}^{2}}{ac-b^{2}} \end{equation} %%%%%%%% ↑ (6)式 %%%%%%%%%%%%%%% となる. ここで, $a,b,c$は(5) 式の行列$A$ の各要素である. (6) 式を書き換えるために$d=ac-b^{2}$とおけば, \begin{equation} \frac{\sigma_{p}^{2}}{1/c} - \frac{(\mu_{p}-b/c)^{2}}{d/c^{2}} = 1 \end{equation} %%%%%%%%% ↑(7)式 %%%%%%%%%%%%%% を得る. (7)式を$(\sigma_{p},\mu_{p})$ 平面上に描けば, 図1の漸近線$\mu_{p} = b/c \pm \sqrt{d/c} \hspace{0.5em} \sigma_{p}$ をもつ双曲線である. %%%%%%%%%%%% 図1%%%%%%%%%%%%%%%%%%% \begin{figure}[ht] \begin{center} \vspace{-4mm} %%\includegraphics[scale=0.7]{0184-sawaki1.eps} \includegraphics[scale=0.7]{0184-sawaki1-ff.eps} %\epsfile{file=sawaki1.eps,width=5cm} %\blankfigure{4cm}{5cm} \vspace{-2mm} \caption{($\sigma_p , \mu_p $)平面上での効率的フロンティア}\label{c-g-01-zu1} \vspace{-2mm} \end{center} \end{figure} % 図1の双曲線に対応するポートフォリオをフロンティアポートフォリオと呼び, $\mu_{p} = b/c$ のとき最小の分散(すなわち標準偏差) を達成するポートフォリオを最小分散ポートフォリオという. この最小分散ポートフォリオの上側に位置するフロンティアポートフォリオを効率的ポートフォリオ (efficient portfolio) と呼ぶ. 投資対象である前述の資産(危険資産)に無危険資産$i=0$ を追加し, その収益率(確定値) を $\gamma_{0}$ とする. ポートフォリオの制約条件 $\sum_{i=0}^{n}x_i= 1$ は, $x_{0} = 1 - \sum_{i=1}^{n}x_{i}$ を代入することによって除去され, ポートフォリオの様々な期待収益率$\mu_{p}$の下で分散$\sigma_{p}^{2}$を最小にする二次計画問題は \hspace*{-2.5em} \mbox{min.}~~\sigma_{p}^{2} = \frac{1}{2}x^{\top}Vx \hspace*{2em} {\rm s.t.}[[利用者:122.26.167.76|122.26.167.76]] 2007年7月5日 (木) 11:22 (JST)(\mu - \gamma_{0}{\bf 1})^{\top}x = \mu_{p} - \gamma_{0} となる. このときの最適解は \begin{equation} x^{*} = V^{-1}(\mu - \gamma_{0}{\bf 1})\frac{\mu_{p} - \gamma_{0}}{f} \end{equation} %%%%%%%%%%%%%%% ↑ (8)式 %%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%%% \hspace*{-5.5em} x_{0}^{*} = 1 - {\bf 1}^{\top}x^{*} となる. ここで$f \equiv a - 2b\gamma_{0}+c \gamma_0^2 $である. このときの分散の最小値は \sigma_{p}^{2} = x^{*\top}Vx^{*} = ( \mu_{p} - \gamma_{0})^2/f となり, 書き換えれば \begin{equation} \mu_{p} - \gamma_{0} = \left\{ \begin{array}{rl} \sqrt{f}\sigma_{p} ,&\mu_{p} \geq \gamma_{0}のとき \\ -\sqrt{f} \sigma_{p}, & \mu_{p} < \gamma_{0}のとき \end{array}\right. \end{equation} となる. もし $\gamma_{0} < a/c$ ならば, 危険資産のみからなるポートフォリオと (9) 式で与えられる無危険資産を含むポートフォリオとは図1の効率的フロンティアとが接するような接点ポートフォリオが存在して, 図2を得る. %%%%%%%%%%%% 図 2 %%%%%%%%%%%%%%%%%%% \begin{figure}[ht] \begin{center} \vspace{-4mm} %%\includegraphics[scale=0.7]{0184-sawaki2.eps} \includegraphics[scale=0.7]{0184-sawaki2-ff.eps} %\epsfile{file=sawaki2.eps,width=5cm} %\blankfigure{4cm}{5cm} \vspace{-2mm} \caption{$n$危険資産と無危険資産のポートフォリオ}\label{c-g-01-zu2} \vspace{-2mm} \end{center} \end{figure} % この接点ポートフォリオの下では, (9) 式より, 資産$i$の超過収益率は \begin{equation} \mu_{i} - \gamma_{0} = \beta_{i}(\mu_{p} - \gamma_{0}) \end{equation} %%%%%%%%%%%%%%%%%%%% 式10 %%%%%%%%%%%%%%%%%% と書ける. ただし$\beta_{i} = {\rm cov}(R_{i},R_{p})/{\rm var}(R_{p})$ である. ここで$R_{i},R_{p}$は資産$i$とポートフォリオ$p$の収益率である. 市場のすべての投資家が資産の収益分布について同一の確率的信念を共有するならば, この平均分散モデルの下では全員の投資家は(8) 式で与えられる効率的ポートフォリオを保有することになり, この効率的ポートフォリオを市場ポートフォリオ(Market Portfolio) と呼び, その期待収益率を$\mu_{M}$, 標準偏差を$\sigma_{M}$とすれば, (10) 式は \begin{equation} \mu_i - \gamma_{0} = \beta_{i}(\mu_{M} - \gamma_{0}) \end{equation} となる. ただし, $\beta_{i} = \sigma_{iM}/\sigma_{M}^{2}$である. この(11) 式を[[CAPM]](資本資産評価モデル, Capital Asset Pricing Model)と呼び, 危険資産の平均超過収益率が満たすべき関係式である. $\beta_{i}$は危険資産$i$のベータ値と呼ばれるもので, 市場ポートフォリオのリスクで測定した資産$i$のリスク尺度と見なされる. CAPM は強い前提条件の下での平均分散モデルから導出された危険資産の平均超過収益率が満足すべき関係式であり, 実証研究をする上で理論的欠点を有している(Roll [5] を参照). ---- '''参考文献''' [1] 澤木勝茂,『ファイナンスの数理』, 朝倉書店, 1994. [2] 田畑吉雄,『数理ファイナンス論』, 牧野書店, 1993. [3] H. L. Elton and N. J. Grunber, ''Modern Portfolio Theory and Investment Analysis,'' John Wiley & Sons, New York, 1991. [4] H. Markowitz, ''it Portfolio Selection,'' Wiley, New York, 1959. [5] R. Roll, "A Critique of the Asset Pricing Theory's Tests," ''Journal of Financial Economics,'' '''4''' (1977), 129-176.
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